時系列はチャリティー番組の数日後です。
注意点ですが、今回のあとがきは長いです。
※2024年10月27日15:50 修正済み
Noside
ここは苺プロダクション。B小町の所属する芸能事務所であり、ある一件により存続の危機に陥っていた。
事の始まりは四宮グループ主催のチャリティー番組に出演した事。個人ではともかく、グループとしてはテレビの仕事であり、上手くいけば単純にギャラ以上の利益が見込める仕事だった。そんな中、事件が起こる。
本来なら事実上の主催者であり、総指揮を取っていた四宮颯真の代わりに受けた『推されザンデの水子供養のリポート』という仕事。その終了後に”積み石の破壊””石の持ち帰り””死者や遺族をバカにする言動”という最悪の対応をしたのだ。
センターであるアイ、社長の斉藤一護が住職と話し合いをしている中、「あの子だけ贔屓されていてズルい」という身勝手な動機で犯行を行った。犯人はカナンというメンバーであり、メンバー内で唯一他グループでのアイドル経験があった。その優越感からマウントを取っていたが、事務所はアイを贔屓していた。その理由は”アイはカナンより優秀だから”という真っ当な理由から。
この事実を知った四宮颯真は電話で謝罪後、番組終了後に土下座謝罪。ここに四宮雁庵からの謝罪まで受けた事で、『後日、四宮颯真が正式に取材し直す』という形で和解が成立した。
しかし、B小町の所属する苺プロは財閥に、現在最も影響力のある芸能界のエースに、事務所のスポンサーに土下座をさせたのだ。颯真の婚約者であるアイが所属していなければ一族郎党皆殺しの刑に処していたが、婚約者とその友人のために舌を嚙みちぎって許した。
ここまで3日と経っていないが、社長である斉藤一護は10kg近く体重が落ち、遺書を10枚以上書いていた程思い詰めていた。
さて、件のB小町に対して”お咎めなし”という訳にはいかなかった。
事件当日に自主的な謝罪をしたのがセンターのアイ。後日、1人のメンバーが謝罪しに行ったのがマカロンという芸名で活動していたメンバー。他のメンバーは謝罪すらしなかった。それでも、怒りを抑えた颯真によって『主犯のカナンは解雇+異次元の損害賠償請求』、アイとマカロン以外のメンバーは『放置』という最悪のクビ一歩手前処分。アイは『颯真の抱き枕の刑』にかけられ、マカロンは自責の念から脱退を相談したため『24歳で引退。その後、四宮グループ傘下の企業の内定』という褒美が与えれる事となった。
今回はこの事件によって、全く異なる道を辿る3人のメンバーの状況を見てみよう。
【ケース1 カナン】
「カナン。お前は解雇だ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! なんで私が解雇なの!?」
「いい加減にしろッ!!」
ドン、と
「お前が主催の意向に反して行った”積み石を故意に破壊する行為”は看過できん。主催の四宮が土下座までする事となり、一歩間違えば
「そんなおおげさ……」
「その程度の認識か。それなら独りで暴走してろ。俺は社員を守る義務があるからな」
警察や裁判所すら傀儡としている四宮家。その最高幹部に土下座までさせた事実はまともな人間からすれば遺書を書くか、着の身着のまま海外逃亡を図るかの二択だろう。
もっとも、後者の場合は逃亡中に”不幸な事故”が発生する可能性が高いが。
「お前には10億円の損害賠償を請求する」
「10億!?」
「社長! いくら何でも横暴だと」
「そうです! それならアイにも責任が……」
「せめて挽回のチャンスくらいあってもいいじゃないですか!」
10億円の損害賠償。これには他のメンバーもカナンを擁護し、様々な意見が飛び交う。
「お前がアイドルを続けられると思ってんのか? テメェは芸能界追放だよ」
そう言って斉藤が取り出したのは数枚の書類と写真。
「お前、堕胎したろ? しかも2回。他にも利害関係者との肉体関係、闇営業、ファンから金を直接受け取っている」
「うそ……」
「それは流石に……ねぇ」
「ち、違う! こんなのデタラメ!」
「何より、だ。――他のメンバーの個人情報を売ったよな?」
『『『っ!?』』』
メンバーの個人情報の売買。仲間を売る事は組織において最大のタブーだ。
「具体的にはアイの住所だ。あそこに入って来れると思わんが、情報を売ったのは事実だ。取引相手は見つけて”話し合い”が済んだ」
「済んだなら別に……」
「そういう話じゃねぇ。お前みたいな仲間の足を引っ張る奴はブラックリスト入りって言ってんだ。馬鹿なテメェに分かるように言ってやる。『10億の支払いと芸能界出禁で前科を付けないでやる。逆らったらお前に不都合な情報が流れる』……分かったら金払って出てけ」
斉藤の冷酷な発言に絶望するカナン。10代で10億円の損害賠償を支払うなど不可能だが、拒否すれば前科とファンを裏切ったとして社会的制裁……あるいは物理的にも制裁を受ける事となる。
――もっとも、弁護士に相談すれば自己破産で解決する可能性が高く、形だけの請求だと気づくだろうが。
【ケース2 マカロン】
「それで、辞めるって」
「はい。私にも責任があるので」
マカロン。今年で21歳になるB小町としては古参のアイドル。そんな彼女がここまで責任を感じているのは、彼女がメンバーの最年長である事が理由だろう。現在のメンバーでは唯一の成人であり、グループを見てきたという自負がある。
「あの時止められ……いえ、止めなかった私にも責任があります」
「それで? その次はあるのか?」
「つぎ?」
「お前の学歴は高校中退、つまり中卒だ。中卒で21歳の元アイドルの就職先なんて夜職くらいしかないぞ」
「それは……」
芸能界でで、学歴というモノは付加価値に過ぎない。しかし、一般社会において学歴は”スタートラインに立つ資格”であり、高卒以上でなければ仕事がない。正確には”仕事に就く権利”がない。
たしかに中卒で就ける仕事はある。しかし、一定の収入を得るためには学歴か資格が要る。そして、資格の勉強のために専門学校や短大に入るには”高卒以上の学歴””高卒認定試験の合格”のどちらかが必要だ。まともに勉強をせず、アイドル活動ばかりだったマカロンではどちらも手に入れるのは難しい。
「お前が反省している事は分かった。主催の四宮颯真からも許しが出ている以上、こちらが何かする気はない……お前はカナンとは違うからな」
「それなら、どうすれば……」
「とりあえず後3年やってみろ。その間に就職先を探しても良いし、役者やモデルの道に行ってもいい。3年もすればこの事務所もデカくなってるだろうし、スタッフとして雇う事もできる」
「……分かりました」
メンバーの中でマカロンだけが感じていた違和感。それでも、言語化できない彼女には斉藤の言葉に従うしかなかった。
――その後、違和感を感じながらアイドル活動を続けたマカロンは23歳の冬に引退発表。盛大な卒業ライブと、アイ以外では唯一の単独ライブを行い惜しまれながら引退した。そして、斉藤の紹介で四宮グループの企業に就職。初年度から年収1000万、30手前で課長職に就任するという出来過ぎな人生を歩む事となる。
【ケース3 ニノ】
B小町メンバー・ニノこと、新野冬子。かつてB小町のセンターであったが、アイの登場によりファンの99%を奪われる。現在は一定のファンが存在しており、彼女個人のファン数は5000人強。
今でこそ落ち着いているが、ファンが離れて行った当時は荒れていた。それ以外の事情もあるが、アイ自身への暴言などもあり、衣装にペンキをかけた事すらある。現在は『アイよりニノちゃんの方が可愛い!』『ニノの歌が一番。むしろニノ以外要らない!』などの自尊心を満たしてくれるファンのおかげで安定している。
「すみません。B小町のニノさんですよね?」
そんな彼女に声を掛ける人物がいた。彼女からすれば「またファンの出待ちか~」程度の認識だった。
「申し訳ないですが、今はプライベートなので」
「いえいえ。別に迷惑をかけるつもりはないですよ」
そう答える人物をファンではないと判断する。ファンにしては落ち着いており、握手会やライブで自分を推しているファンとは明らかに違うからだ。
「B小町について知っていた方が良いと思いまして……”真実”に興味ないですか?」
「はぁ?」
「そんな訳ない! あんたのデタラメよ!!」
あの後、男から聞かされた情報は彼女にとって到底受け入れられない事であった。いや、当事者なら誰もが理解したくない真実だろう。
先日の一件により、結成当時からの仲間であり姉貴分のマカロン引退。カナンの解雇と損害賠償請求による一家離散。他のメンバーもアイ以外は放置され、事務所はアイのみに注力し始めた。そのアイも、体調不良を理由に1年間の休止を発表。しばらくは撮り溜めていた動画の配信やSNSへの投稿のみとなる。
事務所からは「これを機会に他のレッスンを受けてみないか?」「勉強して大学に入ったり、セカンドキャリアについて考えると良い」「自分探しの旅でもすれば?」と言われている。メンバー7人中3人が解雇・引退決定・休止という事への休暇だと思っていた。だが、男の話が事実なら前提条件が違う。
「君もしばらく暇になるんだろ? それならここに行くと良いよ。嘘じゃないって分かるから」
そう男が取り出した1枚の紙。そこには1つの病院――宮崎総合病院の地図が書かれていた。
各メンバーの処分について解説します。
カナンの損害賠償請求1億円はポーズであり、自己破産によって問題なく解決できます。重要なのは『事務所は厳しい処分を下した』という事実です。後は芸能界に戻れない脅迫材料をチラつかせただけです。
マカロンは颯真に”アイの友人で仲が良い”と思われている事、謝罪しに行った事、アイが抱き枕になった事で許されました。むしろ、四宮グループによって”素晴らしい人生”が与えられる予定です。
アイは颯真の抱き枕になり、プライベートの殆んどを一緒に過ごす事になりました。風呂もトイレも一緒でした。
他メンバーの『放置』はある意味一番重い処分です。事務所はプロデュース業務を放棄したので、これ以上の成長が見込めません。また、会社で言えば”新卒3年目で早期退職・リストラ候補”なので、いつでも解雇できる状態になっています。次に問題起こせば解雇です。
颯真の謝罪ですが、財閥の次期トップであり現最高幹部。その人物に土下座謝罪をさせた訳で、本来なら事務所ごと天国行きです。しかし”アイが所属している””メンバーの一人が自主的に謝罪をしに行った”という理由で許されました。なお、本心では「手足切り落として知り合いの”赤ちゃん工場”に売ってやろうか……ッ!」とキレています。
〇人物紹介
・カナン:B小町のメンバー。他のアイドルグループ解散後、B小町に加入。自身を”特別な存在”と思っており、アイへの劣等感が隠し切れない。10億円の損害賠償自体は自己破産出来たが、この件によって一家離散する。学歴・就職経験・人脈・資格などないため、生活のために風俗で働く事となる。
・マカロン:B小町メンバー。『一番星のスピカ』のエピローグの語り手。事件の後、唯一謝罪を行い、カナンの暴走を止めなかった責任を取って辞職を決意。斉藤の説得もあり24歳で引退する事が決定。以前、アイがインタビューで「一番仲が良いのはマカロンです」と答えていた事、自主的に謝罪を行った事で許された。颯真には「アイの唯一の友人であり、親友候補」と認識された事で「アイの友人料、アイの引き立て役としての出演料」として勝ち組の人生が用意された。名前・経歴など殆どオリキャラとなった人物。
・ニノ:B小町メンバー。元B小町のセンターであり、アイにファンの殆んどを奪われた過去がある。現在は5000人の自身のファンによって精神が安定している。だが、事件の影響と、男から聞かされたB小町の実態で不安定な状態になる。事務所からはカナンの連帯責任により、『放置』という処分が下された。