この話を番外編でしようと思ったけど、そうなるとアイ達が蚊帳の外になりすぎるので……次回は本当に原作1話に入ります。
side:アイ
私の名前は星野アイ。色々と普通じゃない16歳のアイドル。
「アイ。早く行くぞ」
「待ってよ、しゃちょ―」
「ったく。こんな遠くまで来るハメになるとはな」
「仕方ないじゃん。ここなら安全だって颯真が行ったんだムグッ」
「バカッ! その名前を他で言うなよ!? 自分の状況分かってないだろ!」
分かってるよ、それくらい。
私がいるのは宮崎県高千穂町。颯真曰く、「神話の町であり、外道の本拠地」らしい。割といい所だけど、あまり長居はしちゃいけない場所だとか。
「まさか、ここで出産するとはな」
そう言ってタバコを吸おうとして、私を――私のお腹を見て止めた社長。私のお腹を見れば分かると思うけど、私は妊娠している。誰かにレイプされた訳でも、性接待させられた訳でもない。
そして、この場所を選んだ理由は私と婚約者――颯真のせい。
私の職業はアイドルで、年齢は16歳。まあ妊娠出産なんて許されない訳だし、親は私を捨てたから頼れる親族はいない。強いて言うなら早坂奈央っていうお姉ちゃん的存在がいる。でも、あっちも今年に出産したばかりだから甘えられない。
颯真は頑張ってくれてるけど、多分戦力外。財閥の後継者筆頭と言われている人なんだけど、それだけに敵が多い。死刑同然で捨てられても、何故か生きていたところを伯父である四宮家当主に引き取られた。本当なら私とも別れさせられる予定だったらしいけど、交渉して解決したらしい。他の後継者候補は3人いて、うち1人とは面識がある。でも、他の2人は会った事もないし、私や子供の存在が知られると人質にされる可能性があるらしい。
「でもなー。まさか、お前の母親の出身地であり、アイツの生まれた場所が選ばれるとはな」
「なんか『ここら辺は神木家の管轄だし、切り札一枚と引き換えに安全が確約された』って、言ってたよ?」
「アイツの生家がある場所、か。なんとなくだけど切り札の内容が分かるな」
「そうだね。後は私への慰謝料もあるからって」
私への慰謝料とは”神木家嫡男が未成年アイドルに対して違法薬物を使った強姦未遂”の件。切り札は”本当の嫡男は四宮颯真である””自分の出生の秘密を明かさない””四宮颯真の婚約者への強姦未遂”……これらの1つか、まとめてだと思う。
神木家は病的なまでの”嫡男至上主義”であり、”四宮家の部下”らしい。だから、本当の嫡男である颯真に逆らえないし、上司の婚約者に手を出そうとしたって怯えているとか。
「神木家当主と颯真の交渉で”絶対に問題が起こらない環境”が整えられているそうだ。お前が自分からバラさない限り、不測の事態は発生しない筈」
「それは楽でいいね~」
「楽だが大変だぞ? お前が万が一にでも流産とか死産になったら、怒り狂ったアイツが手下集めて戦争仕掛けるだろうから」
「……笑えないね」
「笑えんよ。こっちはアイツに世話されてるから文句言えないし」
「そう言えばB小町から2人辞めるんだっけ?」
私の妊娠で忘れてたけど、メンバーが2人辞めるらしいんだよね。入れ替わりが激しいグループだからよく覚えていないけど、その2人に関しては覚えている。
1人は比較的仲が良くて、1人は生理的に受け付けない程嫌い。
「まだ1人しか辞めてねーよ。もう1人は戻れなくなる前に足を洗いたいんだと」
「まるで犯罪組織だね」
「間違っちゃいねーだろ。この間のチャリティー番組で分かった。
あの番組の一件は颯真が土下座で住職さんに謝りまくり、後日、別枠で颯真が取材し直す事で解決した。社長だって事務所ごと干されるかもって怯えていたし、鏑木Pも遺書を書いていた。颯真ですら「俺が出資している以上、奴らの問題行動は俺の責任だから」と6時間くらい私をぬいぐるみみたいに抱きしめて、自分に言い聞かせてたもん。
それでも1人は自分で謝りに行ったらけど、その時に自分の異常さに気が付いたらしい。反省したのならいいだろう……という颯真の判断で主犯格の解雇。しかも損害賠償請求で法律の限界まで搾り取ったらしい。それでも「親の貯金と実家、後は裏で”パパ”や”特別なファン”から巻き上げた金を取り上げただけ」ってだけ、マシなのかな?
ちなみに、他のメンバーはお咎めなしという名の”見捨てる”という罰になった。謝りに行った1人は辞めようとしているけど、この先の人生を考えたら辞めたくても辞められない。だから24歳までアイドルをやり切ったら颯真の斡旋する仕事――四宮グループ傘下の一流企業の事務職の内定が決まったらしい。具体的には”完全週休2日””年収1000万””30歳で課長職”という社長が羨ましがっていた好条件。
「マカロンは上手くやったな。いや、あれが普通なんだが」
「普通?」
「元々颯真から言われてたんだよ。『アイドルなんてセカンドキャリアがない仕事やらせんだ。次の就職先は用意する』ってな」
「さっすが颯真! 優しいね☆」
「でもな。今回の事で結構イラついてたみたいだぞ」
それは……そうだね。怒らない方がおかしい。
「だから、本当に頑張ってくれ。これで子供が無事じゃなかったら……」
「ちょっ、止めてよ! 私の方が怖いんだけど!」
「厄払いも込めて病院行く前にお参りしてくか。たしか荒立神社もあった筈だし」
「社長、この辺詳しいの?」
「荒立神社は有名なんだよ。芸能の神とか言われてるしな。芸能人もよくお参りに来るとか」
「あそこって有名だったんだね~」
「あ~。そういやアイは何度か行った事あるんだったか」
「正確には分社だったけどね」
「おかげで神社仏閣がスポンサーに就くという異常事態が発生してんだよな~」
潰れかけの事務所に国内最大の財閥と神社仏閣がスポンサーに就く。業界を巻き込んだドッキリと思われていて、今でもドッキリ説が流れてるもんね~。神社にB小町のポスターが張られ、フィギュアがお寺に飾られる。巫女さんがB小町の『サインはB』を踊ってみた動画がアップされた時は夢でも見てるのかと思ったけど……。きっとマダオが黒幕だね。
「とにかく神社へのお参りが先だな。しばらくここに居るんだし、神様への挨拶くらいしないと」
神社にはタクシーで移動しようと思ったら、近くに運転手が止まっていたらしい。
「神木家から派遣されました。宮野とお呼びください」
神木家から派遣された宮野さん。見た感じだと35歳くらいの男の人だけど……異常に丁寧な雰囲気だね。車も見ただけで分かる高級車だし、名乗らないだけで後ろに何人も居る。
「宮野さん、ですか。神木家からの派遣とは?」
「アイ様は星愛様――いえ、颯真様の婚約者です。当家の嫡男であり、正当な後継者である颯真様のお子を宿している以上、神木家が全面的に協力するのは当然でしょう」
「あの~。颯真は神木家と関係ないんじゃ?」
すると宮野さんや後ろに居た人達の雰囲気が変わる。
「……それは愚かな現当主と四宮家の主張です。正当な嫡男を追い出し、くだらん愚物を後継にするなど愚の骨頂。神木家の伝統を蔑ろにする連中の事は気にしないでいただきたい」
……怖い。一般人の私には分からないけど、これがお金持ちの家なの?
「暇でしょうから運転中にお話でもしましょう。こちらへ」
「いや、俺達はタクシーでも――」
「申し訳ありませんが、それは出来ません。アイ様のお腹には男子が宿っていると聞いています。嫡男である颯真様の嫡男――それは神木家の正統後継者を意味します」
「ど、どこでそれを……」
「この高千穂は神木家の本拠地。それに颯真様から事情は全て聞いています」
「……そうか。それで”安全”って事かよ……」
「どういう事?」
「神木家は嫡男主義。つまり本当の嫡男であり、実力も実績もある颯真を後継にしたい勢力が一定存在する。そいつらからすれば、アイの腹にいる息子は颯真の
「その通り。未来の当主を危険にさらす事だけは出来ません」
「ちょ、ちょっと待って! 颯真は当主になんて――」
颯真は家族に捨てられたのに……それを今更ッ!!
「アイ、従っとけ」
「社長!」
「こいつらはアイや子供に危害を加えない。いや、加えられない。颯真から聞いた儀式の内容が正しいなら、双子のもう1人や母親は生きていないと困るからだ」
「我々が信用できない事は理解しています。同時に、今回に限っては信用していただけるとも確信しています」
言いたい事は分かる。『自分達の利益になる駒だから守る』……それがどれだけ信用できるかは理解してるけど!
「それでは今度こそこちらへ」
そう言われて乗り込んだ車はとんでもなく座り心地が良くて――車内にいる人間からの目線で居心地が悪い。
「色々誤解があるようなので訂正させていただきますが、神木家の当主になる方法は2つあります。1つ目は本家の当主と分家の当主全員に推薦される事。2つ目は実力で認めさせる事」
「それって嫡男じゃなくても良いって事か?」
社長が驚いたように言う。これには私も同意だ。だって、ここまで嫡男嫡男言ってたのに、それを否定するみたいな感じじゃん。
「我々は嫡男至上主義です。単純に長い間教育が出来るなら、余程の愚物でない限り”一定の実力者”が当主になるという考えからです。事実、歴代嫡男は例外なく優秀であったとか」
「言いたい事は理解できるが……それなら愛人の子や女でも同じじゃないか?」
「それなりに歴史がある家で愛人の子など存在すら隠されます。女は歴史的に冷遇されてきた時代が長いですから」
「なら、『実力で認めさせる』ってのはどういう意味だ。矛盾しねえか?」
「”優秀な嫡男より優秀な後継者”なら誰でも認めますよ。ただ、神木家の歴史上1名しか居ませんし、そこ方も男性でしたけどね」
やっぱり殆ど嫡男嫡男言ってるだけじゃん。
「0と1には大きな差があります。ですから最初はあの愚物も認められていましたが……結果はご存じの通りですがね。やはり嫡男に勝てる者はそうそういません」
「今でも、颯真を後継者にするつもりですか?」
「当然です。そもそも、颯真様を追放したのは我々より上の前時代の人間ですからね」
前時代? 社長の方を見てもよく分からないような顔をしてる。
「先ほどの話の通り、当主になるには『当主達に認められる』か『無理矢理認めさせる』の2択です。嫡男至上主義である神木家では、嫡男である颯真様は生まれながらに認められています。そして、後者の条件も満たしている」
「それって颯真が活躍してるからですか?」
颯真の活躍は止まる所を知らない。芸能界で絶対の地位を確立してるし、邪魔な大御所も引退させている。
「それもあります。龍珠組の拡大、”人間換金所”などの経営、国内外の財閥や有力者の傀儡化――これらだけでも十分すぎます」
「そう考えると化け物だよな。いや、良い意味で」
それはそう。あれに勝てるのは神様くらいだと思う。
「ですが、颯真様はそれ以前から下の人間に認められていました。私もその現場に居ましたから」
「現場?」
「ええ。ただ、この件は颯真様より『アイとその関係者には教えるな』と言われているのでお伝え出来ません」
気になるけど、颯真がそこまで言うなら”知ってはいけない事”なんだよね……。
「まぁ、簡潔に言えば『颯真様が四宮家を継いでも、その子供が神木家を継げば良い』という話です。四宮家の分家になるでしょうが、家が潰れるよりは未来がありますからね」
「その辺の話は俺らに関係ねーだろ。俺らは颯真の傘下の人間であり、責任者はアイツだ」
「その通り。ですので気にする必要はございません。颯真様が当主になっていただければ、その子供には関係ありませんから」
その後は神社でお参りをしてから病院に向かった。色々と嫌な話を聞かされたけど、颯真ならなんとかしてくれる。そう思うしかなかった。
side:???
「あそこか」
「はい。情報統制はしてあるので問題ないかと」
「内部への侵入経路は?」
「こちらに」スッ
そう言って手渡された紙に書かれた計画書には――星野アイが入院する病院内部や周辺の地図が書かれていた。
「これなら侵入は容易だな。作戦決行は明日の4時だ。それまでに必要な備品は用意しておけ」
「既に用意は済ませてあります。ただ……」
「なんだ?」
「1人、障害になりそうな者がいます」
「名前は?」
「――雨宮吾郎。産科医です」
・宮野:神木家に仕える家の1つ、宮野家の人間。颯真かその嫡男を神木家当主にしようと活動している”保守派”。
・神木家:元4大財閥の1つだった家。現在は2つの派閥(保守派・改革派)に分かれている。本来の本拠地は高千穂町のため、アイの入院に関して全面協力をする事となった。
・改革派:神木家当主をトップにする派閥。分家当主を筆頭に、上の世代が所属している。最終目的は『神木家が日本を支配する』。
・保守派:颯真をトップにするために活動する派閥。下の世代の者が多く所属する。最終目的は『神木家の再興』。