怨敵と巫女   作:大紫蝶

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 評価ありがとうございます。こんなに早く色が付くとは思っていませんでした。
 これからもよろしくお願いします。

 この話は「星野アイが夜見颯真に部屋から連れ出せれた後の2週間」の話です。


真相

side:アイ

 

『私は誰にも愛されていない』

 

 このことに気づいたのはいつだったんだろう。最初からの気もするし、最近まで愛されていたとも思う。

 

 父親は私を妊娠したお母さんを捨てたって聞いた。そもそも、誰が父親か分からなかったらしい。お母さんは男癖の悪い人で、殴られて蹴られて放置されるのが日常だった。ご飯は買ってきた物で、お母さんの手料理は炊いた白米くらいだった。それにも砂が入っていたり、ガラスが入っていたこともあったけど。

 

 学校で友達なんていなかったし、そもそも人の名前が覚えられなかった。それでも友達を必死に作ろうとしたけどダメだった。イジメられて、先生やお母さんが連れて来る男の人には変な目で見られた。怖くて震えていたら『お前があの人を誘惑した』『お前は存在そのものが害悪だ』『金食い虫が』『お前が居なければあの人に捨てられることもなかった』とか言われて叩かれた。

 

 お母さんは役立たずの私のご飯を用意してくれたし、一緒に公園で遊んだこともある。愛していたから私と一緒にいてくれたんだ。そう思って過ごしていた。

 

 そんな時、お母さんも窃盗で捕まり施設に入った。施設でも嫌な事はあったけど、颯真くんと会えたことはよかった。

 

 颯真くんは嫌いだったし怖かったけど、私を見て守ってくれていた。マダオを紹介してくれて、少しずつみんなと仲良くなった。友達もできて、美味しいモノを食べられるようになった。

 

 

 

 夏祭りに行った時は「寄食こそ人類の英知!」と叫んでいた人を見かけた。あの屋台で食べたサボテンフライとか美味しくて時々食べたくなる。

 

 颯真くんの誕生日には駄菓子ケーキを作ったら喜んでくれて、私も嬉しくなった。

 

 生まれて初めて誕生日を祝われた時は嬉しくて泣いちゃった。

 

 クリスマスに颯真くんがサンタの恰好でプレゼントを置きに来た時は笑ってからかった。

 

 初詣に行って、マダオにお年玉をねだりに行った時はワクワクが止まらなかった。結局、ゲームを買って皆で遊んだ。

 

 

 

 『寺系美少女巫女』をやっていた時は本当に楽しかった。私の踊りで皆が笑顔になって、その笑顔で私も嬉しくなる。お金を稼げて()()()()()()()()()()()()なら、()()()()()()()()()ならお母さんも喜んでくれる!昔みたいに楽しく暮らせるようになるって思った。

 

 施設に来てから楽しい思い出しかない。颯真くんから「人生の幸福と不幸は同量という。お前は不運ばっかりだったから、これからは幸せな事ばかりのはずだ」と言われたし、きっとお母さんとも幸せに暮らせると思った。

 

「もうすぐお母さんが迎えに来るんだよ」

「良かったな。子供に会えて母親も嬉しいだろ」

「新しい服とか着た方がいいかな!?」

「そうだな。その方がいいだろうな」

「えへへー、プレゼントは何にしようかな~」

「何でもいいだろ。最悪『肩たたき券』でいいだろ」

「久々だし、何から話せばいいかな?」

「『寺系美少女巫女』でいいんじゃないか?」

「楽しい事しか考えられないよ♪」

「お前の幸せを祈っているよ」

 

 

 結論から言うと、お母さんは迎えに来なかった。

 

 最初の一週間までは気にしてなかった。颯真くんが「手続きがあるから」と言ってたし。二週間くらいから遅い遅いって文句が出た。一ヶ月で「もしかして」と思った。二ヵ月もすればバカな私でも理解してしまう。誰にも会いたくなくて、部屋に閉じこもってしまう。

 

 結局、私はお母さんに愛されてなかったんだ。おかしいと思ったことは何度もある。

 

 学校の子達が家族とご飯を食べに行ったり、家族で料理を作って食べていると聞いた。私は一度もそんな経験してなかったのに。私のご飯は変な臭いのするお弁当だったのに。

 

 お母さんと一緒に遊んでいる時、お母さんの姿が見えなくなることが多かった。でも、数時間もすればお母さんと一緒に家に帰ったから気にしなかった。その時のお母さんからは()()()()()()()がした。

 

 もしかして、私は何か勘違いしてたんじゃないか。お母さんは私を愛してなくて、あのお弁当も捨てられる物だったんじゃないか。お母さんが公園からいなくなったのは、誰かと会いに行ってたんじゃないか。私は家から追い出されていたんじゃないか。

 

「アイ、また飯食わなかったんだな。冷めた飯を独りで食べるのは嫌だもんな。俺の部屋ならいつでも温かい飯を用意するから」

 

 また颯真くんの声が聞こえる。彼はいつも私の部屋の前に居て、夜に見たらドアの前で寝ていた。お母さん(好きな人)は会いに来ないのに、颯真くん(嫌な人)は私の傍にずっといる。

 

 

 お母さんが迎えに来なくて三ヶ月、私はご飯が食べられなくなった。生きていることが嫌になり、このまま死にたいと思った。そんな時に颯真くんが部屋に入ってきた。颯真くんに何か言った気がするし、颯真くんが何か言った気もする。でも、重要なのはそこじゃない。

 

 

 

 

 

 あのバカは、私にいきなりキスしたんだよ!!しかも何十回とね!!!さらに、全裸にされて全身をまさぐられたし……本当に信じらんない!!その後ベッドに連れ込まれたのに……あの男は手を一切出して来なかった……!!そんなに私には魅力が無いのか!!!

 

 その後もご飯は施設の皆の前であーんされるわ、お風呂はあの変態の目の前でやらされるわ、寝る時は一緒のベッドで抱き着かれている。皆から「付き合ってんだ!」とか揶揄われるし、マダオはニヤついていたし(ムカつくか殴った)……正直、お母さんが迎えに来なかったことなんて忘れたよ。今はあの怨敵に復讐することが目標だ。

 

「絶対にぎゃふんと言わせてやる!」

 

 

 眠れない。喉が渇いた。

 

 ベッドから起きると颯真くんがいなかった。いつもベッドに連れ込まれて抱き着かれていたから、颯真くんを引き離すのに苦労していたけど……もしかして、もう朝!?そう思って時計を見ると2時だ。早起きにしても早すぎるし、何か飲んでもう一度寝よう。

 

 私は扉を開けて居間の冷蔵庫にある麦茶を飲んだ。颯真くんの冷蔵庫は変な飲み物かトラップばかりだから興味もない。前なんて麦茶のペットボトルにめんつゆ入れてたし。

 

 麦茶をコップに入れて居間で休んでいると声が聞こえてきた。この時間に子供が起きてる訳ないし、職員さんかな?一応声をかけておこうと声のする方に行くと、颯真くんが職員の人と話していた。颯真くんは頭良いし、子供達のまとめ役だから何か相談されてるのかな?

 

「それで、いつ星野さんに話すの?彼女の発達障害について」

「発達障害じゃなくて、その傾向があるだけだ!でも、こういうセンシティブな事を嫌われている俺から言うのはダメだろ?だからあんたら職員から説明して欲しいって言ってんだ」

「そうは言ってもね。私達も分からなかったし、彼女の両親も教師も分からなかったんだよ?夜見君から言われて気付いたくらいだったからね」

「だから!あいつは精々人の名前が覚えにくいくらいだ。対処法だって考えたんだから、それを適当に言ってくれれば済む話だろうが」

 

 発達障害?名前が覚えられない?

 

 何を言っているの?そんなの私がバカなだけで…私がおかしいだけで。

 

「あいつはバカじゃないし、おかしくもない。それを伝えないとアイは自分の事を誤解したままだ」

「だからね。それを伝えるのは半年かけて調べて、対処法まで考えた君の役目でしょ?」

 

 今なんて言った?誤解?半年かけて?そんな訳ない。そんなこと、あっていいはずがない。

 

「星野さんと一緒にいて分かったんでしょ?」

「一ヶ月も一緒に入れば大体わかるわ!分からなかった奴の方に驚くぞ」

 

 私が施設に来るまでの約9年、お母さんはそんなこと一言も言ってなかった。

 

「星野さんが寂しくならないように、わざと怒らせていたんでしょ?」

「……そうしないとアイは閉じこもったままだろ。好きな女には幸せになって欲しいから」

「呆れた。それで嫌われたら意味ないでしょ」

「意味ならある。アイが幸せになれるならそれでいいだろ。隣にいるのが俺…俺じゃなくテモ」

「無理しないの」

 

なんでそんな事が言えるの。私は母親からの捨てられた人間なのに。自分じゃ何もできない役立たずなのに……。

 

「あいつは自分に自信がないだけだ。価値がないから愛されない。だから親からも捨てられた。その意思を変えないと」

「そのために君がいるんでしょ」

「だって、絶対嫌われてる……天敵とか言われてるし。仲良くなろうと頑張っても意味なかったし……」

 

えっ、何かしてたの?

 

「何かしてたの?」

「たしかに、俺はアイに嫌われている。ここから仲良くなるには普通の方法じゃダメだ。評価を変える方法はウルトラロマンティックな告白しかないと考えた訳だよ」

「まぁ、女の子はそういうの好きだと思うけど。でも、仲良くなる=告白はヤバいでしょ

「こう……アイの机に毎日花を添えていたんだ。月曜日はアガパンサス、火曜はイチゴの花、水曜はシャクヤク、木曜はテッポウユリ、金曜はルピナス。そして、その頭文字をつなげると『ア・イ・シ・テ・ル』になる!」

「気色悪い。知らない人が毎日毎日自分の机に花を置いて行くのよ?好きでもない人にそれをやられたら普通に気色悪いわ。後なんで謎解き要素入れたの?気付かなかったからどうするの?」

 

 あれ、颯真くんだったんだ。イジメられてるかと思って怖かったんだけど。

 

「そのせいで怖がれたんじゃないの?」

「もう少しマイルドな方が良かったか!」

「…参考にそっちも聞かせて」

 

 私も気になる。

 

「昔聞いたんだが、女に自分のアルバムを見せれば心を開く、と」

「そうね。あると思うわ」

「だから、こう……アイに俺のアルバムをプレゼントして」

「早速ホラーなんだけど」

「最後のページにメッセージを添えてな。『これからのアルバムは君と一緒に作っていきたい……』って」

「気色悪い」

「どうだ!」

「気色悪いって言ってるでしょ!」

 

 どこがマイルドなんだろう。そんなの渡されたら発狂する自信がある。

 

「君はもっと実直に、誰もが振り向く良い男を目指す方がいいわね」

「良い男か……抽象的すぎるな。良い男の定義を提示してください」

「そういう事言う男じゃないのは間違いないわね」

 

 私も同感。少なくとも、颯真くんじゃない。

 

「女性は様々な力に惹かれるの。頭が良いとかね」

 

私も同感。他の人に聞いても同じだと思うけど。

 

「だが、俺は全国模試一位だ。知力はあるな」

「あんな気持ち悪いこと考えて、女の子に話しかけることもできないヘタレは知力-100よ」

「……身体能力にも自信あるぞ。小5で身長170cm弱でこの筋肉だ。体力テストは常に満点だし、イノシシくらいなら殴り倒せる」

「そこまでの筋肉はマイナスよ。そもそもムキムキの男は女子に人気ないし」

「何故だ!?生物学的に考えたら、屈強で家庭を守れる男の方が女にとって魅力的に見える筈だろ!?」

「いつの話よ。昔ならともかく、今は物理的に強くても役に立たないでしょ。それよりお金稼げる方がモテるわよ。細マッチョくらいが丁度いいの」

「財力にも自信あるぞ。小5で億単位の資産持っている男は少ないだろ」

「そんなの秀知院学園に沢山いるでしょ。後、どこでそんなに稼いでいるの?」

「龍珠さん*1から依頼だな。あの人は金払いがいいからな!」

「私は何も聞いてないからね。怖い名前なんて聞いてないからね」

「人脈も宗教関係から裏社会まで幅広いからコミュ力もある。容姿も性格も良いだろ」

 

 嘘だ。少なくとも詐欺師の性格がいいなんてありえない。私を無理矢理部屋に連れ込み、服を脱がせて、ベッドに連れ込んでいる人は変態だ。

 

「こう考えると、俺は良い男の理想じゃないか?」

 

 信じたくないけど、要素だけなら良い男かもしれない。でも、全体的に見るとダメ人間だと思う。

 

「分かった。良い男の定義に”女性を無理矢理部屋に連れ込み、服を脱がせて、ベッドに連れ込んでいる人じゃないこと”を追加するべきね」

「……まさか、俺はダメなのか?」

「世間的には性犯罪者予備軍ね」

「何でだ!?」

 

 二人が話している内容はよく分からなかった。でも、一つだけ分かった。

 

「颯真くんって、性犯罪者だったんだ~」

*1
広域暴力団・龍珠組組長




〇キャラ紹介

・夜見 颯真(やみ そうま):主人公(オリ主)。現在小5。金髪碧眼。できる事より、できない事の方が少ない(三日で大体の事はできる)。苦手な事は恋愛。星野アイへの行いを客観的に見ると性犯罪者。裏社会とのつながりがある。目標は星野アイを幸せにすること。

・星野 アイ:現在小4。未来の『完璧で究極のアイドル様』、現在は『寺系美少女巫女』という詐欺師。嫌いなものは嘘を吐くこと(苦手ではない)、裏切り。母親に捨てられたが、夜見颯真への怒りにより精神的には落ち着いている。夜見颯真を性犯罪者と認識する。目標は夜見颯真にぎゃふんと言わせること。

・マダオ:本名不明。破戒僧というより、「戒律を破ると興奮する!」という理由で僧をしている。

・屋台の店主:寄食ハンター。ある目的のために寄食屋台を行っている。

・施設職員:四宮グループ系の養護施設職員。夜見颯真の相談相手。
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