個人的には悪いと思いませんが、これが最終回前となると……色々複雑な気持ちですね。二次創作のネタになりそうですが、『推しの子2』とかスピンオフやって欲しい。
今回から例のロリコンが出てきます。
side:雨宮
俺の名前は雨宮吾郎。宮崎総合病院で産科医をしている男だ。
「雨宮君。君に担当してもらいたい患者様がいる」
「はぁ。まぁ、業務命令ならやりますが……アイの活動休止のせいで傷ついたメンタルケアのために1年程有休消化した後で良いですか?」
「ダメに決まってるだろ! 大体、1年も有休が使えるか!」
「チッ。これだから医者はブラックなんだ」
「普段から病室でアイドルDVD鑑賞をしながらサボっている男の発言じゃないな」
何が悪いんだ。アイの歌やダンスを見れば患者も元気になる筈だ。
ってか、院長がなんで俺を態々呼び出したんだか。他の部長連中も雁首揃えて暇なのか? アイのDVDでも貸してやろうか? ん?
「その顔はなんだ! ……いいか、今回の患者様は田沼先生から直々に頼まれている方だ」
「た、田沼先生ですって!?」
田沼先生と言えば、小児心臓バイパス手術の第一人者として知られるゴッドハンド。俺の尊敬する先生から! 直々に! この俺に頼まれたのか!
「やります! やらせてください!」
「そうか。それなら良かった」
「分かっていると思うが、田沼先生は四宮家お抱えの医師となった」
「つまり、今回の患者様も四宮家に関係する方と聞いている」
「それだけじゃない。神木家やいくつかの宗教関係者からも『よろしく』と言われている」
「っ! そ、そんな方が……。でも、俺は産科医ですよ? たかが妊婦とかの面倒を見るのに大げさじゃないですか? 皇族じゃないんだから」
あれっ? ズンッと空気が重くなった気がする。
「とにかく。患者様のサポートをしてくれ。獄寺教授も全面的に協力を約束してくれた」
「いやいや。獄寺教授って脳神経外科医でしょ? 俺だけでも――」
「ここに獄寺教授の書いた『我が命に代えても元気なお子様を誕生させ、患者様も無事に退院させます』という”血判状”がある」
「けけけ血判状!?」
「彼は家族に別れを告げ、病院で寝泊まりするためにテントや寝袋、携帯トイレなどを用意した」
「やり過ぎでしょ……。あそっか、田沼先生の同期でしたっけ? だからここまで大げさに」
「今は防刃・防弾ベストを着た上で、日本刀を研いでいる」
「戦争でもあるんですかッ!?」
や、ヤバイ。シェルターに避難しないと!
「その戦争を起こさないために『担当する患者様を母子共に無事に出産させろ』と言っているのだ」
「失敗は許されない。そして、君意外に担当できる人間はいないとの判断だ」
「担当が変わる=人生終了と覚悟したまえ」
い、いやだ……そんなさいあくのかんじゃ……みたくない……。
院長達から
「雨宮君、遺書は書いてきたかな?」
「獄寺教授、死にたくありません」
「そうか。まあ心配するな」
「きょ、教授……」
「我ら生まれた日は違えど、死すときは同じ日同じ時だ」
「桃園の誓いじゃないですか!」
なんで三国志の話になるんだよ。
「いいかね? この件で君が推薦されたのは田沼君や君の大学の先輩、そして君のせいでドルオタになり婚期を逃しかけている先輩さんのおかげだ」
「先輩のせいですよね? 田沼先生オマケですよね?」
ようやく俺が指名された理由が分かった。先輩が結婚できない腹いせだろ。
「当院の上層部で話し合った結果、君しかいないと判断した」
「そんなに嫌われてんっスか?」
「大好きさ。君ほど(人柱として)”信頼”されている人間はいない」
「何か入ってますよね? ”信頼”の前に、俺にとって良くない言葉が」
「……君の担当する患者様は近くの神社に参拝してから来院する。それまで遺書でも書いていなさい。まぁ、アイドルのDVDでもいいけど」
バ……バカなッ!? 仕事中のDVD鑑賞が正式に許可された……だとっ!?
「それで、罪の告白でもするんですか? 私は美幼女シスターじゃないですよ」
「なんで幼女なんだよ。ロリコンじゃねえからな?」
獄寺教授から最後の晩餐的な事を許された俺は、病院の屋上で仲の良い同僚看護師にグチを聞いてもらう……筈だった。なんかロリコン扱いされてるけど。
「そもそもなんだが、なんで俺がロリコン扱いされなきゃならんのだ」
「そんなの雨宮ロリコンが16歳のアイドルを性的な目で見ているからでは? しかも患者さんの病室で」
「見てねぇよッ!! シャレにならん冗談は止めろ! 後、誰が雨宮ロリコンだ! そしてDVD鑑賞はこの病院の医療行為だ!」
「うちの病院の公式見解にしないでくださいね」
「それなら言わせてもらうけどな……っ! 君も四宮颯真の追っかけでしょ?」
「男の子は年上の女性を好きになりやすいでしょ? それなら問題ありませんよ」
いや、ヤバいと思うけど。成人女性と未成年の少年とか闇深すぎだろ。
「いいか? 俺がアイを応援しているのは深い
医者ってのは転勤の多い仕事だ。そんな中、研修医の頃から地元の同じ病院で働いている俺は結構レアな医師でもある。
産科医っていう人手不足な職業、俺の罪……そして、初めて出会った患者の少女との約束が可能とした奇跡なんだ。
「で……! この子がめいめい! ダンスが良いの!」
「ふーん」
彼女の名前は天童寺さりな。
「歌はありぴょんときゅんぱんが良いんだけど。やっぱ私の推しは……アイ一択でしょ!」
彼女が好きだったアイドル――『B小町』のアイ。彼女の存在がさりなちゃんの人生を変えた。
「私と同い年なのに大人っぽくて、歌もダンスも上手いの! 何より顔が良い……。生まれ変わったらこの顔が良い……」
「何が生まれ変わりだよ。馬鹿な事言ってんなよ」
「夢がないね、せんせ」
当時の俺に夢なんてなかった。いや、罪人である俺が夢なんて持って言い訳ない。俺の人生は、
「もし芸能人の子供に生まれていたらって、考えた事はない? 容姿やコネクションを生まれた時から持ち合わせていたらって」
「な……いや、金持ちの子供ならあったわ」
「それだよ!」
「金持ちの子供になって働かずに生きていたかった。医者なんてブラックな仕事に就かず、一生、酒・女・ギャンブルだけする人生を歩みたかった」
「クズだね」
本当の理由は違う。
金持ちの子供なら、母親も、父親も居る人生だったんだろうか。
金持ちの子供なら、両親から愛される”普通の人間”だったんだろうか。
金持ちの子供なら、祖父母とも仲良くなれたんだろうか。
そんな事ばかり考えていた。多分、物心ついた時から。
「でもまぁ、さりなちゃんも可愛いじゃん? 生まれ変わる必要なんてないよ」
「そうかな~」
「そうさ。退院したらアイドルにでもなればいい」
「私、巫女さんになりたいんだけど?」
「この流れはアイドルだろ!?」
「乙女心は複雑なんだよ? ま、正確には『アイドル巫女』だけどね♪」
「余計に分からん……。だが、ファン一号くらいにはなってやるよ」
「ほんと?」
「本当だ」
「せんせ好き! 結婚して!」
「社会的に死んじゃうから勘弁して」
成人男性が小学生と結婚とか警察が動くから。
「このモラリストー」
「残念だったな。16歳になったら考えてやるよ」
「……16かぁ」
その時のさりなちゃんの顔をよく覚えている。――全てに絶望した顔だ。
「せんせ、いじわるだね」
「現実的なプランだろ」
「まだ12歳だったのに……彼女は亡くなった」
それからだった。ただ漠然と生きていた人生に意味を持てたのは。
「彼女と約束したんだ。彼女の事を決して忘れないと」
「……」
「彼女が生きていたらアイと同じ16歳。彼女が好きだったアイドルと、さりなちゃんを重ねてみてるんだろうな。彼女が夢見た道を歩く……その姿を見届けたいだけなんだよ」
「……なるほど」
分かってくれたか。
目を瞑り祈る様にしている彼女にも、この気持ちが伝わったのだろう。
「結果ロリコンって事ですね」
「話聞いてた!? 結構感動的なエピソードだったよね!?」
「なんか……そのハマりっぷりが生々しい。そのさりなちゃんを大義名分にして自分の欲望を解放しているだけなんじゃ?」
「バカ言え。さりなちゃんの名に懸けてめちゃピュアな気持ちで推しとるわ!」
「でも――そのアイって子が『付き合って』って言って来たら付き合うんでしょ?」
「…………さて、そろそろ患者さんが来る時間だ。仕事に戻るぞ」
「どうなんです先生? さりなちゃんの名に懸けてどうなんです?」
診察室に向かう道中、なんとなく患者のプロフィールを眺めてみるが、よく分からん。ってか本名”日本花子”は偽名だろ。備考欄に「会えば分かる」「会ってから知れ」……なんだ、俺は実験動物の出産でもさせられんのかよ。
ただでさえ推しが活動休止、上司からの脅し、同僚からロリコン扱いの三重苦なんだよ。
「はい、お待たせしましたっと」
患者の待っている診察室に入ると、そこには金髪のチンピラと変装している女性がいた。反社が孕ませた? なら闇医者にでも掛かってろよ。
「えっと、日本さん……本名ですか?」
「いえ、偽名です」
だろうな。
「貴方は親御さん?」
「まぁ、戸籍上は……」
「そうですか」
「彼女は施設育ちなもので。実質後見人というか、身元引受人というか」
「なるほど~」
手元にある患者のカルテを見る。年齢は16で施設育ち。かなり闇の深そうな事態だ。
にしても、どっかで聞いた事があるような話だな。まぁ、どうせただの出産だ。普通にしてれば問題ないだろ。
「えっと……実はお腹の子の父親から『まぁ、雨宮吾郎なら大丈夫だろ』っと言われまして……」
「父親から? 私の知り合いですか?」
「……一応」
もしかして大学の友人だったりする? でも四宮家からの紹介ならありえんよな。俺の友人で一番凄い奴でも、親が中小企業の社長だった奴だけだし。
そんな事を考えていると日本花子(偽名)が変装を解きだした。
――なんか綺麗な長髪だな。腰まであって、この美しい髪は女優やアイドルだけだろ。
――おいおい、顔小さすぎる。しかも毛穴の”け”の字も見えないくらいなんだが。
――目も綺麗だ。特に星の様なハイライトが……
「は?」
「あの、この子『B小町』って事務所でアイドルやってる”星野アイ”って言うんですよ。先生なら詳しいと思いますが……」
「は?」
「よろしくおねがいしまーす☆」
「…………とりあえず検査してみましょう。準備がありますのでお待ちください」ガチャ…
「理解したか」
診察室を出ると、獄寺教授が俺を待ち構えていた。
「いや、全く分からないんですけど」
「それじゃあ、お前に本当のカルテを出そう」
そう言われて渡されたのは”星野アイ”のカルテと数行の説明が書かれた紙だった。
・星野アイが妊娠したため、その出産を手伝う事
・子供の父親は星野アイの婚約者である四宮家四男”四宮颯真”である
・2人の発案であり、自主的な妊活の末授かった双子であるため、堕胎などは許されない
・必要な資金、物品、人材があれば四宮家・神木家が用意する
「『なお、万が一、億が一、兆が一、星野アイや子供に問題が発生した場合――”高千穂”とその関係者は例外なく抹消する』……って、なんですかこれ!?」
「その通りだ。ちなみに、私の妻と娘達は少し前から不思議なチケットで海外にいる、らしい」
「らしい?」
「院長達の家族も神木家の用意した世界一周旅行や、四宮家がスポンサーに就いて海外留学をしている、らしい」
「絶対人質ですよねッ!? すぐに警察に――」
「ちなみに警察から『誠実な人には良い事がありますよ~』と言われている」
買収されてる――ッ! 警察買収されてんじゃん!
「いいか」
「ブフォッ!」
俺の口は獄寺教授の黒くて、ぶっとくて、硬くて、長い――オモチャに見えない銃らしきものに塞がれた。
「俺達も後がないんだ。お前も地元が地図から消されたくないだろ? 叶えたい夢だってあるだろ? だから、な?」
――こうして俺の、俺達の未来を守る戦いが始まった……。
いや無理だ! 自分を誤魔化せない!!
side:???
ここが対象の部屋か。
個室なのは良いが、少々殺風景すぎないか? これでは隠れる場所もないではないか。
「まぁ、田舎の病院じゃ仕方ないか。とにかく設置作業を済ませなければ」
清掃員が出て10分。次は患者が入室する時……いや、スタッフが準備のために入って来るまでが勝負か。
「こういうのは諜報員の仕事だろ。早坂家が動かせない以上、こちらが動かざる負えないのは重々承知しているが……」
最低限の盗聴器と監視カメラがノルマか。可能なら連れ去りたいところだが、流石にそれは不可能。いざって時は監視のために入院中の人間に任せるか。
「次は屋上か。現地に残る部隊のために”道具”は残していかないと」
・雨宮吾郎:宮崎総合病院所属のドルオタ兼産科医。同僚からのあだ名は『ロリコン』。亡くなった少女の影響で残念イケメンとなり、先輩が結婚できない状態にしたアラフォー。四宮家などから『失敗したら故郷ごと抹殺する』と脅迫を受けた末、推しのアイドル(16歳)の出産を担当する事になった。
・同僚看護師:宮崎総合病院所属の看護師。四宮颯真のファンであり、彼の奇食を食べさせられている姿から「こいつ雨宮先生と同じ残念な人だな~」と思っている。
・獄寺教授:宮崎総合病院所属の脳神経外科医。娘の移植手術のためにハリウッドスター並みの演技、警察の買収、拳銃の調達などを行っている男。同僚の家族を不自然な旅行や留学に勧誘した実行犯。