side:颯真
俺の名前は四宮颯真。
「だからこの子は私の子だと言っているだろうがッ!!」
「雁庵様! 絶対嘘ですよ!」
「そうです! あの女は夜職なんですよ!?」
弟妹が増えるか否かという状況に立たされた男だ。
俺の所属している四宮家というのは国内最大の財閥。その影響力から『国家の心臓』とまで言われている。つまり、それだけ面倒事も引き寄せてしまうのだ。
「それで、実際の所どうなの?」
「知るか」
俺が話しかけたのは雲鷹さん。以前に精神病院にぶち込まれていたが、知らない内に出所していた。今では『BSSで精神崩壊した男』としてネットのオモチャになっている。
「そもそもだが、あの女誰なんだ?」
「
「夜職って……どうもただの夜職に見えんが。そもそも、あの容姿と知性あるなら金に困らんだろ」
「意外だな。彼女に惚れこんで、盲目状態のお前がそこまで評価するとは」
いや、これでも女の容姿や品性を見る目はあるからな。その……風俗の斡旋もしてるから。
だが、名夜竹とか言う女はどう見ても一流だ。そこらのアイドルや女優以上の美貌、財閥の本家に乗り込んだ上で平然としている度胸や知性、なにより所作の一つ一つから見て取れる品のある……ぶっちゃけ、アイや愛梨といった芸能界のニセモノとは違う”本物”だ。
「あの女はVIP嬢らしい」
「あぁ、それでか」
「しかも、一晩酒を注いで貰うだけで100万は軽く飛ぶんだと」
「……それで俺が知らないとは、世界は広いな」
「なんだ、マジで知らなかったのかよ」
「俺にだって知らない事はある。だが、それなら余計に分からん」
詳しくは分からんが、VIP嬢の給料は想像以上に高い。億の金を受け取っている女すら存在する。これに客からの援助を含めれば数十億を超える者も結構居る。しかも、現役時代の人脈と資金で同じ様な店を開業しても、別の会社を立ち上げる事も可能だ。
彼女もその手の人間だろうな。既に残りの人生遊んで暮らせる資金を稼いでいるに違いない。それで遊び惚ける程愚かな人種ではないだろうし……まぁ、資産運用くらいはしてるだろう。
「仮に1億円を年5%のリターンなら年収にして500万円。普通に暮らしていける程度には――」
「バカが。お前も理解してんだろ? あの手の女は客から神のお告げ並みの情報を得ている。10億ブッコんで、それを何倍にもする
「なら余計に分からん。ここで財閥にケンカ売る真似するか? 下手すりゃ表でも裏でも生きていけなくなるぞ」
「それが分からん。それだけ勝算のあるケンカって事だろうがな」
たかりにしても度が過ぎている。確かに資産家と関係を持った女にはよくある話だ。「貴方の子供です」「この家の子にしてあげてください」なんてな。……酷い奴だと無関係でも言って来る。
俺も「貴方の子供を妊娠しました」と言われた事が10回程ある。アイ以外に関係を持った女なんていないし、普通に裁判して相手を詐欺やら名誉棄損なんかでムショにぶち込み、二度と表社会で生きていけない様にしてある。出所日が楽しみだよ……”食材”やら”家具”を探している方々が待ってんだから。
「ちょっと調べてみるわ。なんとなく気になる」
「こっちでも手伝ってやるから情報くれよ」
「りょーかい」
「ってな訳で調べたぞ~」
「早いな! 頼んで一日しか経ってないんだが」
「ある程度だから。詳細は後日だが……言ってきた理由が分かった」
翌日、俺は雲鷹さんとその部下、早坂家などの俺の派閥の代表、そして中立――長男・次男派閥からの足抜けを狙っている奴らを集めた。議題は『清水名夜竹について』だ。
「配った資料を見れば分かると思うが、簡単に説明する」
清水名夜竹。年齢は24歳。公式上京都の生まれだが、生後間もなく施設に捨てられていたため詳細は不明。高卒ではあるが全国模試で1位を何度も取っている程度には頭が良い。金銭的な事情から大学進学を断念。夜職として働きだしてすぐにVIP嬢となる。
「現在までの確認できただけでも国内外の富裕層からかな~り貢がれている。総額にして31億8900万円」
「スゲェ~」
「普通に金持ちと言えますよね?」
「そうだな。税金で半分取られたとしても……」
「もっと金が欲しくなったとか?」
「普通に働けばいいだけだろ。複数の男から貢がせた方がよっぽど金になる」
「その通り。店でも開けばスポンサーに名乗りを上げる男が無限に出て来る」
俺の説明を聞いて、それぞれの感想が溢れかえる。この四宮グループ幹部からして31億は大金であり、24歳の女が個人で稼げる金額ではない。裏社会でも容易に稼げる金額ではなく、彼女の”優秀さ”がよく分かる話だ。
「ちょっと待て。ならあの女は……なんでここに来たんだ?」
「その理由だが――彼女は余命僅かだと分かった。田沼医師」
「はい」
そう言って入ってきたのは田沼医師。彼を呼んだのは、雁庵さんから”色々と詳しい話”を聞いていると考えたからだ。
「彼女は先天的な心臓病を患っています。一度、雁庵様の接客中に彼女が発作を起こした事がありました」
「その時に『俺の心臓を移植しても良い! 彼女を治せ!』って四宮雁庵が
『『『はぁぁあああ!?』』』
国内最大、世界屈指の財閥のトップがそこまで入れ込んでいる。これは冗談じゃ済まない。
「ちょっと待て。確かに親父が入れ込んでんのは分かる。だったら、さっさと移植でも何でもすればいいだろ」
「雲鷹さんの言う通りだ。雁庵さんなら心臓移植くらい簡単に用意できるし、法律を無理矢理変える事だってするだろう。だが、それが出来ない事情がある」
「事情? 金なら問題ないし、適合する心臓だって手に入るだろ?」
雲鷹さんの発言にこの場の全員が頷く。まぁ、四宮グループ内でも臓器売買を仕事にしている派閥もあるし、俺だって小学生の頃からやってる。
「次のページを見ろ。そこに答えはある」
そう言って全員が資料を読み進めると、誰もが絶句した。
「彼女はO型のRH null型だ」
「嘘だろ!? 黄金の血液!?」
「あれって1億人に1人以下って確立じゃないのか!?」
「なんでよりにもよってっ!!!」
そう清水名夜竹が心臓移植を出来ない理由。それは彼女が『黄金の血液』と呼ばれる希少な存在だからだ。
「知っていると思うが――血液型の話だ。普通の奴はA、B、O、ABのどれかの血液型を持っている。ただ、これとは別に『RH型』ってのがある」
「RHって、+とか-とか言うやつだよな?」
「そうだ、それ。日本人だと99.5%くらいの人間はRH+で、残りの殆んどがRH-だ。RH-の確立が200人に1人だから、これでも十分珍しい」
ここにいる人間ならこの程度常識だ。……だからこそ現実逃避したいんだよ。
「だが、もっと特殊な『RH null型』ってのがあるわけだ。この血液型は世界でもたった数十人しかいねぇ。この特徴はRH因子がゼロって事だ」
「確か、『RH因子を構成する抗原がすべて欠損していると特殊な型』だったよな?」
「そのとーり。O型は他の血液型の人間に輸血できるが、RH-の人間にRH+は輸血できない。だが、O型のRH null型なら誰にでも輸血可能。その事から『黄金の血液』とも言われる」
「……この血液は献血や研究に協力していただければ最高です。ですが――」
「
そう。これが『黄金の血液』がクソ外れ扱いされる理由でもある。誰にでも輸血できても、”誰からも輸血してもらえない”という重すぎる十字架を背負わされるんだ。
「臓器移植で重要となる適合条件の1つが『血液型の一致』だ。O型のRH null型に移植可能な臓器はO型のRH null型だけ。世界に数十人しかいない人間を探し出し、その心臓を持って来なければならない」
ズーンッと重くなる室内。その気持ちはよく分かるよ。不可能だもんね! だって公表されている黄金の血液持ちって、世界に数人だもんね。希少性の高さから
「いや……そういや、日本にもう1人だけ居たような……」
何か戯言を言ってる雲鷹さん。ビクビクしながら俺の方を見ている早坂家の面々。そして、遺書の続きを書いている田沼医師。
そうだね。無事に明日を迎えたいなら黙っていようね。雄弁は銀沈黙は金って諺があるくらいだもんね! 俺に殺されたくないもんね!!
「この件は俺で預かる。指示があるまで動かない様に」
この件だけは俺が動かざる負えない。何故なら――日本に居る2人目のO型のRH null型を持つ女が、俺の婚約者である星野アイなのだから。
「それで……どうすんだよ……」
「どうするも何も、あのまま清水さんが死ぬだけだ」
「無理だろ! 絶対親父が星野を狙うぞ!」
「そのために護衛の神木家と手を組んだんだ。肉盾にはなる」
そもそも清水さんが死ぬと決まった訳じゃない。
「奇跡が起きてカラスが移植に必要な心臓を運んできてくれるかもしれないだろ?」
「ありえるか! コウノトリじゃねぇんだぞ!?」
なんて夢も希望もない大人なんだ。こんな大人にはなりたくないものだ。
「お前、今、メチャクチャ失礼な事考えてるだろ」
「そんな事ないぞ」
「にしても……マジでどうすんだ?」
「一応、四宮グループ幹部やその家族の近くに”ダイナマイトぐるぐる巻き状態の奴隷”は配備した」
「今すぐ止めろ!!!」
「だって現実的に無理だろ。今から3人目の黄金の血液見つけて来いって? しかもそいつに『死んでくれ』って頼むんだろ? 無理だって」
それなら
「最後まで探してみるが……世界中の裏組織が協力してもキツイからな~」
この話から一か月後、事態は急変した。
「やっぱ神様っているんだな!!」
「……どんな邪神を召喚したんだ……」
「颯真よくやった! お前は命の恩人だ!!!」
俺達の目の前には1億人に1人と言われる『黄金の血液』を持つ人間――そのドナーが3人横たわっている。
あれは亡くなった兄貴分の墓参りをしていた時のことだ。
「兄貴の墓参りをしていた俺の頭上に100を超えるカラスが3人の居場所と写真を送ってくれてな。そこに行ったら――」
1人は人身売買組織のトップ。
1人は有名な宗教の神を冒涜する事を生きがいにしているバカ。
1人は国家転覆のために人口100万に都市で生物兵器を散布しようとしていたクズ。
「俺が普段から
兄貴が神様に直談判したのかもしれない。兄貴は殺された舎弟の敵討ちで敵対事務所に突撃する様な人格者だったからな。子供を身籠っている余命僅かな女性のために神様にお礼参りでもしたのだろう。
「俺は兄貴に感謝を伝えるためにもう一度墓参りをしてくる。それじゃ!」
side:???
はぁ~。最悪だ。
神様から「世界の危機だ!」と言われて詳細を聞けば、「四宮雁庵と四宮颯真が殺し合いをする未来がッ!」という吉報が入ってきた。これに全国の神々が泣いて喜んだのに……四宮颯真が全国の神々を取り込み『史上最強の邪神』になろうとしていると聞いて目の前が真っ暗になったよ。
おかげで神総出で、『黄金の血液』持ちであり死んで良い人間を探すハメになった。
私が伝える役目を押し付けられたけど……こんなの信じてくれる訳がない。逆の立場だったら絶対信じない。
それでもお仕事をしないと神様に滅されるから逆らえないのが辛いところだ。
やけくそでカラス達に詳細な情報持たせて突撃させたら――どうも『死んだ兄貴分が俺のために神様にお願いしてくれた』『”徳”を積んでいる自分のために神様がご褒美をくれたんだ!』と勘違いして信じてくれたよ! そこは「こんな非科学的な事ありえない」とか言って信じるなよ! いや、信じてくれないと困るけど!!
「これで『四宮颯真邪神化計画』は阻止された……筈。後は『四宮颯真悪鬼羅刹化計画』阻止のために魂を準備しないと……」
星野アイのお腹に居る魂の無い双子――死産予定の双子に入れる魂。この内1つは確保した。私の”推しの子”の魂があったけど、もう片方の分がない。
「魂の条件は『四宮颯真の
神様から「無理は嘘つきの言葉だ」「できなきゃテメェの魂を抜き取って入れるからな?」と脅されている身としては死活問題だ。そもそもだけどね? アレと同等の執着を持っている魂1つ確保しただけでもスゴイ! って褒められるべきじゃないかな!?
『???。また四宮颯真が悪霊化or邪神化しようとしているから阻止してくれ。どうやら”星野アイと会えない禁断症状”で壊れかけているらしい。頼んだぞ』
またか! ってか、神ならちょっとは協力しろよ!
・四宮颯真:自分に戸籍上の弟妹、血縁上の従妹が出来た男。星野アイを四宮雁庵の魔の手から救い出すために、清水名夜竹を助ける事になった。兄貴分の墓参りをしていたらカラスがドナー情報を運んでくれたので軽く神に感謝している。
・星野アイ:話の都合で血液型が決められた女。
・清水名夜竹:『かぐや様は告らせたい』の原作キャラ。原作と違い『黄金の血液』持ちとなった。原作と違い命が助かる事が神によって決まった。
・四宮雁庵:『かぐや様は告らせたい』の原作キャラ。原作と違い”寿命”と”やる気”にバフがかかった。後2週間遅ければ、移植のために星野アイの心臓を奪うつもりだった。
・???:一番の被害者である名無し。颯真が”恋人に会えない事による思考力低下”のデバフによってカラス作戦が成功した。星野アイの双子の魂を片方見つけている。ブラック企業の上司と化した神によって魂を握られている。