side:正人
~出張7日目~
私達にとって重要なのは”四宮家・四宮グループの利益”であり、そのために活動している。
「尾行されてるな」
「! 確かですか?」
だが、それは他の組織も同じだ。当然、最前線で活動する我々は狙われる。
「どれだけ変装しようが声を変えようが……骨格・身振り手振り・歩き方・気配・喉仏の動き・瞬きの頻度など見るべきところは幾らでもある」
「……申し訳ございません……」
「この程度は出来ないと護衛失格だ。死にたくなきゃ覚えろ」
「捕えますか?」
「いや、泳がせとけ。反応があるって事は探られたくない”ナニカ”があるんだ。向こうが次の反応を見せるまでほっとけ」
「ハッ」
さすがの洞察力。恋人と離れてしばらく経つが、颯真さんの眼に曇りなどない。彼にさえついて行けば何も問題ないと確信してしまう。
~出張14日目~
「さあ今日も仕事だ。朝食がホテルのモーニングばかりで気が滅入るかもしれないが」
「いえ、妻と娘のためですから」
「よく言った。食べ終えたら現地の企業と会議が――え?」
颯真さんからあり得ない程マヌケな声が出た。何かあったか?
「アイ!? なんでここに……あ、ちがった……ただのナスか……」
「アイ!? い、いや……ただのカラスか……」
「アイ!? な、なんだ漆器か……」
「はは……どうかしてるな。アイは入院している筈なのに……」
だいぶ曇ってきた。
~出張21日目~
「それでは根本的解決にはならないだろッ!」
本日は傘下の企業と交渉。珍しく荒々しくなる事態になってしまった。
「しかし、これ以上社員を甘やかせば利益が……それに点検など必要ないでしょう?」
「何を言っている!! 社員は会社にとって宝だ。その宝を大切にする事以上に大切なことがあるのか!?」
「社員など壊れれば補充すれば良いだけの事……それなのに休日や賞与を与えるなんて無駄です!」
「我々は”大企業”、人材など勝手に集まって」
「違うっ! その優秀な人材を効果的に働かせるためにも”対価”が必要なんだ! 十分な休養と働きに対する正当な評価、そして賞与があってこそ彼らも――」
颯真さんは寛容だが信念の人。避けられない衝突も多い。それでも、自分達のために戦ってくれる彼になら、この命を捧げられる。
「――ちゃんと話し合おうよ。ねえ聞いてって」
「……え!? なにそれ!? そう言う話じゃなくない!? ねぇ!?」
「もう……わかんないょ……アイのことがわかんないよォ!!!」
その夜、抱き枕と言い争う颯真さんを見たが…………見なかった事にする。
~出張28日目~
本日はイタリアで鬼頭会長と共にテレビの撮影。無事に撮影が終わると奇妙な行列を発見した。
「すまない、これは何の行列なのだ?」
「あぁ、この教会の神父様が、僕達に悪魔がついていないかを鑑定してくれるんだよ」
「ほう……悪魔鑑定会か。カトリックの国ならではだな」
「胡散臭いですね」
「でも番組的には美味しいですよ」
「せっかくだから、皆で見てもらおうか」
地元で行われる悪魔鑑定会。テレビとしても面白いし、単純に興味がある。さっそく取材交渉をしてみると、「多くの人に参加してもらいたいので是非お願いします」と快諾してくれた。
「神父もサービス業と考えれば、お布施はサービス代だ。それに、彼らの言葉で救われる人が居るならカウンセラーの様なものだ。胡散臭いとか、視聴率稼ぎに利用してはならない」
「その通り。我々は神の考えなど分からぬが、『皆を救いたい』という人の心は分かる。あそこで救いを求める人々に寄り添う神父達の心を疑うなど言語道断だ!」
『『『……』』』
取材陣と私は何も言えなかった。
色々言われているが、宗教とは人々を救うモノ。こういう人達を見ると、宗教や思想に偏見を持ってはいけないと実感する。
「最近俺もついてない事が多いからな。占いがてら見てもらうっていうのも悪くない!」
「無料との事だが、何かの形で協力したいな。協会に寄付でもして行くか」
私達が並んでいると、前に居た人々がこの悪魔鑑定について教えてくれました。
イタリアには今でも300人程のエクソシストが居て、定期的に悪魔診断をしているらしい。時々悪魔につかれている人も居て、その場で悪魔祓いをしてくれるとの事。その現場を見てた人も一定数いる事からカウンセリングではなく、本当に悪魔祓いをメインにしているらしい。
「ただ、神父様の様子がおかしんだよ」
「おかしい? 体調不良という事か?」
「ああ。いつもより顔色も悪そうだし……」
「まあ距離があるから見間違いの可能性もある。本当に体調が悪いならスポーツドリンクでも差し入れるか」
何故か嫌な予感がします。
「それでは鑑定を始めます」
そう思っていると私達の番が回ってきました。妻や娘の事を考えると緊張しますね。
「んん……ご安心を。悪魔は憑いていません」
「そうですか。ありがとうございます」
どうやら私に悪魔は憑いていなかったようです。他のスタッフや鬼頭さんも問題なく終わりました。専門家からお墨付きを貰えると気分が良いですね。
「……さて、覚悟を決めるか」
ただ、神父の様子が気になりました。まるで死地に向かう兵士の様であり、絶対に勝てない敵と戦う事になった戦士の様でもある。
「次の存在、どうぞ」
「はーい」
存在?
「あなたに悪魔が憑くことは未来永劫ありえないので安心してください……そして二度と現れないでください」
対応違くない? それに神父がファイティングポーズ取っているのは気のせい?
「あの、いくら無料とは言えもう少し真面目に――」
颯真さんが半歩神父に近づき抗議しようとした瞬間、神父は豹変した。
「悪魔よ!! 立ち去れぇえええ!!!」
「はっ?」
「主よ! 汝のみ備わる慈悲と許し、天与の哀れみで汝のしもべを救いたまえ!!」
「いや、テレビとは言え視聴率に貢献しようとしなくても……」
「ならば清めの聖水だ。悪魔よ立ち去れい!」
「ちょっと、落ち着いてください」
豹変した神父に誰もが動けないでいると、颯真さんが彼の肩を軽く叩いた。
ドサッ
すると神父が気を失ったのか、膝から崩れ落ちる。
「これはダメだな。きっと疲れていたんだろう。誰か病院まで案内してくれないか?」
「そ、それなら俺が……」
「それじゃあ俺が連れてくよ。……テレビだからはしゃいじゃったのかな」
そう言って神父を連れて行く颯真さん。その後ろ姿は良い人そうな気がする。
――ただ、神父の持っていた十字架が粉々に砕け散っているのは落としたからなんだろうか。
~出張42日目~
限界が近い。私も、颯真さんも。
「アイ……アイなし……アイ……アイなし……」
昨日の晩から付近の森に入り、花占いみたいに恋人の名前を呼んでいる。千切られた花の残骸が山の様になっている。
「……アイって男と四六時中いるんだよな? これ浮気だよな?」
どうやら入院患者や医療従事者を”恋人に近くにいる”というだけで浮気相手と決めつけ始めたようだ。
「……人の女に手ェ出すとは仁義の欠片もねぇ……これは一族郎党みなご――」
勝手な妄想で犯罪に手を出そうとしている。どうにか止めなければ。
「おい、かーくん4号。第1部隊を率いて宮崎総合病院にいる男共の眼玉をくりぬいてこい」
『カァァ!』
なんかカラスを鉄砲玉に仕立て上げている気がするが……怖いから見なかった事にする。
~出張49日目~
最近、颯真さんは言語能力を消失したらしい。
「♯◇▼☆●◆○△◎□▲★」
「颯真さん、ここは地球です」
「♯★◆□◎◇▲」
よく分からない言葉を話すようになった。
今は四宮に逆らう・邪魔になる存在の排除をさせています。先日の『害虫早食い大会』で眉一つ動かさずにバケツ一杯のミミズ・ヤスデ・ゴキブリを犬食いで平らげていた……しかも生きている奴を。
この映像を確認した四宮家によりタレント活動の休止を発表。今は裏仕事で
本部に(生きて)帰りたいと連絡したが、誰も颯真さんと関わりたくないらしく拒否された。
~出張52日目~
カルテル側から「お前ら人間じゃねぇ!」と追い出された。
~出張60日目~
颯真さんの顔が3つになり、手が6本に増えた悪夢を見た気がする。
~出張70日目~
「という訳で、『四宮颯真捕獲作戦』の囮役になって欲しいのです」
『『『お願いします!』』』
「待って。状況が呑み込めない」
颯真さんが失踪した事で四宮家は厳戒態勢を取る事になった。自衛隊や知り合いの軍隊、霊能力者などに呼び掛けた本気の作戦だ。
この作戦成功のために、囮役を星野アイさんにお願いしているところです。入院中の彼女には酷ですが、人類に余裕なんてないんです。
「既に標的の失踪位置からこの病院の直線上に居る動植物が食い荒らされ、捕獲に向かった軍艦3隻が沈められています」
「現在はアイさんの使用済み○○や私物を撒く事で進行ルートを逸らす事で精一杯です」
「到着予想時間は12時間後。ただ、標的は海中を移動しているので対処が難しいのです」
「上陸予想地点にて星野アイを設置。姿を現したと同時に捕獲する予定です」
生態系への影響を考えれば彼女の私物やプライバシーなど安いもの。絶句している彼女には悪いですが、恋人として責任を取ってもらいたい。
~四宮颯真捕獲作戦当日~
アイさんの安全性を考慮し、囮役は
「正人さん、既に奴の気配に当てられてこちらの6割が壊滅しています。他も戦意を失っており、残った人間の中で無事なのは囮と我々だけかと」
どうやら化け物への耐性が出来てしまった私が指揮を執る事になりました。生きて帰れる自信がありません。
「来ました! ホラー映画でも見ない闇を纏ったナニカが接近してします!」
「「んんんっ!!(助けてくれ!!)」」
「囮役も大声で誘導している。早めに秘策を実行する!」
side:四宮颯真だったモノ
ドコダ……オレノ……アイ……。
『颯真~』
アイ?
『聞こえてる?』
アイノコエダ。イッタイドコカラ……。
『颯真、皆に迷惑かけてるって? ダメだよ、パパになるのに』
パパ……。
『よく分からないけどビデオレター送るから我慢してね、後数日で一緒に暮らせるからさ~』
……!!
『皆に迷惑かける人、私嫌いだからね? 大人しく子供の名前考えながら、ベビー用品準備して待っててね~』
side:正人
「対象の鎮静化に成功しました!」
「確保だ!!」
アイさんに土下座して撮影してもらったビデオレターにより『四宮颯真だったモノ』は沈静化に成功したようだ。無事に捕獲できたし、これ以上の問題は起きないだろう。
「この後どうしましょう……一応お札とか色々用意してありますが……」
「……スキャンダルとか言っていられないからな。アイさんの病室に放り込んでください。彼女の近くに居れば暴走化は治まるでしょう」
よく考えたら原因は半年も恋人と会えなかった事によるストレスなのだ。日本には人身御供という考えが昔からあるのだから、アイさんが居れば暴れなくなるだろう。
今回の件により、四宮家は星野アイへの援助について全面的に協力する事になった。彼女が居なくなれば『四宮颯真だったモノ』が再び出現し、止める手段が無くなってしまう。そのため、とりあえず『颯真手当』として年3億円を支払う事が決定した。
後日、今回の功績を認められ私の早坂家入りが正式に決定。また、『颯真係』の役職を与えられる事となった。
・星野アイ:今回の被害者。四宮家公認の人身御供。四宮家が正式なスポンサーとなった。
・早坂正人:今回のMVP。『四宮颯真だったモノ』の捕獲により婿入りが認められた。作戦成功の報酬として、四宮家より白紙の小切手を10枚ほど渡されている。『颯真係』という役職持ち。
・四宮颯真だったモノ:詳しい生態は不明だが、星野アイに強い執着心を持つ存在。物理攻撃無効・変身能力持ち。