怨敵と巫女   作:大紫蝶

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 まさか『すしのこ』コラボして発売以来初のパッケージ変更するとは……しかも最新話で『すしのこ』ネタ満載でしたし。重曹ちゃんのあだ名に『すしのこちゃん』でも増えますかね?


夏祭り

side:アイ

 

「ねーマダオ。私って発達障害なの?」

「夜見の奴、やっと言ったのか」

「まーねー」

 

 嘘だ。颯真くんが言ったんじゃない。話していた所を盗み聞いただけだ。

 

「あいつが気づいたのは会って三ヶ月の時だったらしい。そもそも最初の一ヶ月は星野に興味すらなかったらしいしな」

「そっかー」

 

 ならさっさと言えよ。そうすれば多少は仲良くなったかもしれないのに。

 

「これでお前も少しは楽になるかもな。お前の母親の件も聞いたんだろ?」

「そーだよー」

「話を聞く限り、お前の母親って愛情ないタイプだし」

「どういうこと?」

「夜見を見てみろ。好きな奴のために必死に考えて、好きな奴に嫌われてでも助けようとする。『ウザい』『嫌い』って言われたら、大抵の人間は離れるんだよ。もしくは攻撃的になる」

 

 それってお母さんのことじゃ…。

 

「だが夜見は違う。お前に文句を言われても、お前が性格の悪いと知っても隣にいたろ?」

「…そうだね」

 

 私が引きこもっている時だって、ずっと部屋の前に居てくれたし。

 

「そんなことできる奴は中々いない。そもそもの話、殆どの人間は他人を尊重するフリして突き放し、そいつの顔を立ててやったと誤魔化している。本当は面倒なだけなのに、な」

 

 それは分かる。「大丈夫」「辛かったね」「できることがあれば何でも言ってね」なんて言葉は飽きる程聞いた。でも、私を助けてくれたのは颯真くんだけだった。彼だけは強引にでも関わろうとしてくれていた。

 

「何より怖いんだよ。手貸してやろうとしても、他人に嫌われることは珍しくない。相手の意図を図り違えて憎まれることだってある。相手が結局上手くいかずに、壊れた人間を見た時は後悔尽きない。過去の自分を呪ったことは10や20じゃない。そのうち建前を覚えて、全部から手放すのが一番いいと考えてるようになる」

「……それって大人も?大人が子供を助けるのは普通じゃないの?親が子供を守るのは当然じゃないの?」

「そうだな。それが正しい。でもな、社会は正しくない事が多くて、正しくない奴らが成功する。俺が優秀だって評価されていることから分かるだろ」

 

 じゃあ、何を信じればいいんだろう。血のつながった親すら守ってくれないのなら、周りの大人が助けてくれないなら……私はどうすればいいの?

 

「だが、夜見は違う。賢く生きる方法を知っているし、より効率的な生き方を知っている。その上で好きな女のために賢くない生き方をしている」

「それが”愛”なの?」

「”愛”の一種だな。もっとキレイな愛もあるし、ドス黒く醜い愛もある。あいつは出自の割にキレイな方だが」

「キレイでも醜い愛でも”愛”って言えるの?」

 

 私が問いかけると、マダオは少し間を置いてから「ああ」と小さく頷いた。

 

「愛ってのは、形が何千もある。あいつの愛はお前を守るためなら汚れることも厭わない。それが夜見の持つ愛の形だ」

 

 その言葉を聞いて、心の中で何かが響いた。颯真くんは私を守るために汚れてもいいと思ってくれているのだろうか。そんな人が本当にこの世界に存在するのだろうか。私にはまるで信じられなかった。

 

「颯真くんは、私が嫌いなわけじゃないんだよね?」

 

 突然の質問に、マダオは驚いたように私を見た。

 

「当たり前だろう。お前に対してどれだけ時間を割いてると思ってるんだ?奴なりにお前が好きだってことを示してるんだよ」

 

 好き。その一言が私の心に大きな波を起こした。颯真くんが私を好きだという事実が、どうしても受け入れられな い。でも、マダオの言葉は嘘ではない。颯真くんが私のためにしてくれたことを思い返せば、そのすべてが愛情の証なのかもしれない。

 

 でも、それは本当に”愛”なのだろうか。私はずっとお母さんからの愛を求めてきた。だけど、お母さんは私を捨てた。その痛みは今もなお私の中で癒えずにいる。

 

「マダオ…愛って何?」

 

 私の問いに、マダオは少し考え込むように黙り込んだ。やがてゆっくりと口を開いた。

 

「愛ってのはな、お前が今、颯真に感じているようなものかもしれない。その人のために何かをしたいと思う心。その人が幸せなら自分も幸せ。それが愛だと思うぞ」

「そうかもしれないね。でも、私が颯真くんをどう思ってるかはまだよくわからないんだ」

 

 マダオはふっと笑った。

 

「そう急くこともないさ。時間が解決してくれる。お前も夜見もまだ子供だ。気持ちが変わることだってある。大事なのは、今、この瞬間を大切にすることだ」

 

 その夜、私はなかなか眠れなかった。颯真くんのこと、マダオの言葉、そして”愛”とは何かについて深く考え込んでしまった。

 

「いや、私を抱いてるコレに愛されてると言われてもな~」

 

 大切にされている気はするが、だからといって好きになれない。今までの事を土下座で謝って、しっかり告白してからなら考えてあげても良いけど……こそこそしてる人は嫌いだし。

 

「さっさと寝よ」

 

 

 翌朝、私はいつも通り颯真くんと朝ごはんを食べて勉強を見てもらった。颯真くんはいつものように冷静で、算数の問題を手際よく解説してくれる。彼の隣で勉強するこの時間が、私にとってどれほど貴重なものかようやく気づいた。私の裸を見たことを差し引いて30点くらいの価値だ。

 

「アイ。ここの計算はこうするんだよ」

 

 彼の声はいつも通りだけど、昨日のマダオとの会話が頭から離れない。颯真くんが私をどう思っているのか、それがただの好意なのか、それとももっと深いものなのか。それに対して自分がどう応えるべきなのか。

 

「颯真くん」

 

 思わず声が漏れた。彼は手を止めて私を見る。

 

「ん?どうした?」

 

 その瞬間、私は何を言いたかったのか忘れてしまった。ただ、彼の瞳に見つめられると心が落ち着いていくのがわかる。私が迷っているのはきっと”愛”が何かわからないから。でも、この安心感は間違いなく大切にしたいもの。

 

「なんでもない」

 

 そっと目を逸らして、また問題に目を落とす。颯真くんも少し戸惑いながら解説を再開した。私達の間に流れる空気は少し変わった気がする。私の心の中にある颯真くんへの想いは……やっぱり嫌な人だ。冷静に考えても颯真くんは犯罪者としか思えない。私の裸を見て触って何も反応しなかったことが許せない!土下座で謝るまで許さない。

 

「アイ、今度一緒に夏祭りに行かないか?」

 

 私は驚いて彼を見返す。彼の提案は突然だったけれど、その瞳には確かな意志が宿っている。これってデートのお誘いだよね!?

 

「え、どうして?」

「いや、去年と同じ様に夏祭り行こうと言っただけだが」

 

 そこはデートしたいからって言いなさいよ!私の事好きなんでしょ!?

 

「アイも落ち着いてきたし、たまには遊びつくそうと思って」

「…………いいよ。行こうよ」

 

 もういい。人の事弄びやがって……施設に来てから私を怒らせ続けた事、みんなの前で恥をかかせた事、私の唇を奪った事、私の裸を見て触っった事、私を毎晩抱き枕にしている事……このバカに裁きの鉄槌を与えてやる!!!

 

 

 

 

 

「マダオ!とびっきり可愛い浴衣貸して!!!」

 

 颯真くんを悩殺してやる!!!

 

 

side:夜見

 

「なぁ、止めないか?恥ずかしいだろ、それ」

「は、恥ずかしくない///」

「いや、その超ミニ浴衣。胸元はだけてるし」

 

 夏祭り当日。俺はアイと公園で待ち合わせをしていた。一緒に施設から行けばいいと思うが「ごめん待った?」「俺も今来たよ」っていうやり取りは憧れていた。相手が片思い中のアイだから余計に嬉しい……が、服装が問題だった。流石にパンチラ+胸チラはダメだ。俺以外に見せたくない。

 

「着替えてから行くぞ」

 

 

 

 

 

 アイを着替えさせてから、俺達は夏祭りに向かった。この夏祭りは7月7日に行われる『七夕祭り』と言われるモノだ。俺の誕生日も7月7日なので、施設の誰からも祝われない。この祭りに全て持っていかれていた。

 

「そういえば、短冊になんて書いたの?」

「アイこそなんて書いたんだ?」

「私は『ヘタレが治りますように』って!」

「お前ヘタレだっけ?俺は『巨乳美女ハーレム』って、アイ止めろ。脛蹴るな。痛いから」

 

 本当は『好きな人と付き合えますように』だったが、好きな人(アイ)の前で言えるわけがない。

 

「それにしても、こんなに人が多いとは思わなかったな。やっぱり去年のアイのせいか?」

「でも今年はやらないよ?」

 

 俺達は七夕祭りのメインストリートを歩いていた。道の両側には屋台がずらりと並び、焼きそばやたこ焼きの香りが空気を満たしている。人波は絶え間なく時折肩がぶつかり合うほどだ。アイの手を引きながら人混みを縫うように進む。本当は恋人の様に手を繋ぎたかったが、アイが嫌がるかもしれないと思い躊躇してしまった。

 

 ここまで人が多い理由は去年行ったアイの神楽舞だろう。俺ですら見惚れてしまい、芸能事務所からスカウトが来た程だった。どうにか断ったが、あの神に愛された神楽舞を見てしまったら魅了されるのも納得だ。

 

「あっ、金魚すくいやってる!やってみたい!」

 

 アイの目がキラキラと輝く。純粋な喜びが彼女の顔に溢れていた。

 

「いいぞ。好きなだけやれ」

 

 俺はアイの背中を押し、金魚すくいの屋台へ向かった。アイは真剣な顔でポイを水面に近づけ、小さな金魚を追いかける。何度も挑戦するがなかなかうまくいかない。それでもアイは諦めずに挑戦を続けた。そんなアイが可愛くて仕方がない。

 

「もう、ダメだぁ……」

 

 結局、アイは一匹もすくえなかったが、屋台のおじさんは優しく笑って「頑張ったね」と言いながら、小さな金魚を一匹プレゼントしてくれた。

 

「ありがとう!」

 

 アイの笑顔が一層輝いた。俺も心の中でおじさんに感謝した。この屋台の金魚を全て捕まえてやろうと思ったが、今回は見逃してやる。

 

「次は何をしようか?」

「うーん。花火を見るまで時間があるし……射的はどうだ?」

「いいね!今度は私の腕前を見せてあげるよ!」

 

 射的屋台に着くと、アイは早速ライフルを手に取り的を狙い始めた。集中力を高める彼女の表情が何とも言えず美しい。俺もライフルを手にし隣で狙いを定める。俺は二発でうさぎのぬいぐるみを射止めることができた。

 

「わぁ!すごい!」

 

 アイが輝くような笑顔で俺を見る。その瞬間、俺の心が高鳴った。

 

「これ、アイにあげる」

「え、いいの?ありがとう♪」

 

 ぬいぐるみを受け取ったアイは嬉しそうにそれを抱きしめた。萌え死ぬかと思った。

 

「颯真くんは、何が欲しいの?」

「俺が欲しいのは……」

 

 言葉を濁しながら、俺はアイの顔をじっと見つめた。本当は「アイが欲しい」と言いたい。でもそんな勇気はない。

 

「いや、今は何もいらないかな。アイが楽しんでくれてるならそれでいい」

「颯真くん……」

 

 アイの表情が一瞬だけ柔らかくなる。その表情が俺の心を締め付けた。

 

「それって私の事バカにしてる?私だって落とせるし」

 

 アイの表情が一瞬で笑顔になる。その手が俺の首を締め付けた。

 

「違う。ここに欲しい商品がなかっただけだ」

「それじゃあどこにあるの?」

 

 目の前にある。何なら景品(アイ)に捕まれている。

 

「まぁいいよ。そのうち地獄見せるから」

「大丈夫じゃないだろ」

 

 結局、アイは景品を一つも落とせなかった。何ならかすりもしなかった。それでも「アイちゃんに特別プレゼントだ」とおもちゃのネックレスが貰えた。この祭りにはロリコンが多いのだろうか。

 

 

 あれから色々な屋台を楽しんだが、どこに行ってもサービスされた。やはりロリコン祭りに改名して方がいいだろう。

 

「久しぶりだな、夜見颯真!今年も素晴らしい寄食を用意したぞ!!」

「颯真くん、呼んでるよ?」

「行きたくねぇ」

 

 遠くから俺を補足しやがったのは寄食ハンター・鬼頭丈二さんだ。世界的にも有名なグループ企業の会長をしているらしい。趣味で世界中の寄食を食べており、国内の祭りに現れては人々に寄食を食わせている。

 

「でも、鬼頭さんの寄食って美味しいよね」

「そりゃそうだろ。食料品会社の会長だし、寄食って言っても『珍しい物』ってだけだし」

 

 俺も何度か食べたことがあるが結構美味い。少なくともゴミを漁っていた時に比べれば美味かった。

 

「君達は素晴らしい。寄食とは人類が生き残るために選んだ最後の食。それを知ろうともしないものが多くて困る」

「お腹がすいた時は雑草とかご馳走に見えるもんね」

「止めろ。虐待児の言葉は重みがありすぎる」

 

 俺も似た様な境遇だが、やはり虐待されていた者からの言葉は聞きたくない。

 

「今回はカレーと唐揚げだ」

「普通だね」

「普通だな」

「案ずるな。羊の脳みそカレーとロッキー・マウンテン・オイスターだ!」

 

 ヤバい単語が聞こえた。脳みそ?

 

「これがそうだ。見ての通り具は羊の脳みそだ」

「原型くらい崩してくれ。溶けてなくなるまで」

「でも美味しいよ?」

「アイ!?何速攻で喰ってやがる!?」

「普通のカレーとは違うスパイス、それに負けない白子の様な脳みそは非常に上品な料理なのだ」

 

 軽く食べたが美味しかった。だが、脳みそを貪る小学生は世間的に大丈夫だろうか?

 

「次はロッキー・マウンテン・オイスターだ!」

「直訳すれば『ロッキー山脈の牡蠣』だよな。淡水の牡蠣とか珍しいキノコのことか?」

「違うね。これはそんな上品なタマじゃない。こいつは牛の睾丸だ!」

「こうがん??」

 

 アイは分からないようだがそれでいい。つまり牛のキ〇タマの唐揚げか!何故か唐揚げからドス黒いオーラが見えていたのはそのせいか。

 

「是非食べてくれ。味はフグの白子の唐揚げに近いぞ」

「いただきまーす!」

「喰うな!」

 

 流石に女子小学生にキ〇タマを食わせるわけにはいかない。その事実を知ったアイが卒倒するかもしれない……ならば!

 

「俺が全て喰らい尽くしてくれるわ!!!」

「流石だ!」

「私も食べたいよ……」

 

 俺は屋台にあった全てのキ〇タマを喰った。味は良いがキ〇タマを喰らっているという事実に泣けてくる。俺は男としての禁忌を犯してしまった。

 

「夜見、今年も見事だった。来年も楽しみにしてくれ!」

「モウイラナイ」

「マスター、来年は私にもこうがん?の唐揚げね!」

「ニドトダスナ」

 

 ヤバイ。目がチカチカする。頭がやられたか。早く帰って寝よう。

 

 こうして俺達の夏祭りは終わった。良い思い出だったが、最後のキ〇タマに関しては忘れよう。

 

 

 

 

 

 

 

「流石は夜見だ。奴なら我が野望を叶えられるかもしれん」




・夜見颯真:7月7日生まれ。施設に来る前は路上生活をしていた。キ〇タマの唐揚げを食べ尽くしたことで鬼頭丈二に目を付けられる。後日、アイが睾丸の意味を知り「男の子のアレを食べ尽くすって……」と引かれる。

・星野アイ:夜見からの好意は自覚した。彼との思い出や裸にされ抱き枕にされているため答える気はない。だが今までの事を土下座で謝罪し、身も心も故郷すら捧げるなら考えてあげても良い。

・鬼頭丈二:元ネタはヒューマンバグ大学・バグアカデミア。目的のために日本各地で屋台を開いていたが、ついに標的を発見した。
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