side:ルビー
私の名前は星野ルビー。最高のアイドル兼女神である星野アイの娘だ。
私には前世がある。と言ってもロクな前世じゃないし、精々死ぬ数年前まで地獄だった。
退形成性星細胞腫という病気によって12歳で亡くなったし、そもそも4歳の時に発病してから入院生活。学校にも行った事ないし、まともに”生きる”って事をした記憶がない――例外を除いて。
『さりなちゃんって言うんだね! この水を飲めばきっと良くなるよ☆』
10歳くらいだったかな。その頃、入院していた病院の近くに幼い……私くらいの巫女さんがやって来た。その子の踊りを見て、その子から貰った水を飲んだ時、私の体は軽くなった。その時だけは
その子が出ているテレビを見て、その子の動画を見て、その子がアイドルになったと知って……私は「あの子みたいになりたい」って思ったの。――例え、いつ死んでもおかしくない命であっても。
その子の名前が星野アイ。そのアイドル活動は眩しくて、皆に知ってもらいたいと思った。そんな時に出会ったのが雨宮吾郎先生。私の初恋の人で、初めてできた”本当の自分”を見せることが出来た人。そして、私を看取ってくれた人。
せんせに見守られながら楽になれてよかったと思う。お母さんは仕事で忙しくて、殆ど会えなかったから。せんせが傍に居てくれたから、寂しいと思わずに死ねた。
「ルビー、ご飯美味しい?」
「あい!」
まぁ、そんな感じで目を覚ましたらアイの娘として生まれていた! この時だけは神に感謝したね!
前世はあれだったけど、今世は推しの子として生まれ、最高の人生が送れると思っていた……最初の1ヶ月までは。
(父親が自宅でストーカー生活。それもぬいぐるみに入った状態でとか、どんな変態よ)
母親が居るという事は父親も当然ながら存在する。ただ、私は父親の事が好きになれない。ストーカー行為とか、ぬいぐるみに入っている変態とかも思うんだけどね。結婚もしていないクセに16歳のアイドルを孕ませるってヤバくない? という至極当然の理由だからだ。あっ、アイの裸を堪能しやがった事も追加で!!
「俺も思うところはあるが、割といい父親じゃないか? ATMとして」
「そりゃATMとしては優秀だと思うけどさ。色々ヤバくない??」
以前、アイの姉的存在である早坂奈央さんに連れられて行った先で知った事。生まれてすぐに腹減ったから生肉を貪り、コンピューターウイルスを使って詐欺を働くという外道っぷり。絶対転生者だと思うし、違ったら逆に怖い。
「それでも俺の出産祝いでパソコン貰えたのはデカいだろ。有名どころのサブスクに全部入った状態だし、クレジットカードの登録もしてある」
「たしかにママのライブとか動画見放題なのは良いよ? アニメとかドラマも見放題とか嬉しいけど……普通赤ん坊に与える?」
「そんなのお前が言える事じゃないだろ。
「うぅ……ゴメンって……」
そう。私達がまだ0歳でパソコンを使っても不審がられない理由、それは私のやらかしにある。
あれはある日の夜の事だった。私は日課となったママのスマホで別アカウントを使い、ママのアンチとレスバしていた。ママは仕事や子育てで忙しく、夜は一度寝ると朝まで絶対に起きない。一度アクアに見つかった事があったけど、アクアも気持ち悪いオタクだし、事情を知っているから問題なかった。
「る、るびぃ……?」
ヤバイ。
頭の中に氷を入れられたような感覚。後ろから聞こえた声は良く知るはずなのに、世界一安心できる声のはずなのに――
「それ……私のスマホ、だよね? なんで……使える、の……」
化け物を見るかの様な目を向けられた時、”終わった”と思った。
当然だ。常識的に考えて「0歳児の赤ん坊が親のスマホでレスバをしている」なんてありえない。そんな奴が居れば、私だって”気持ち悪い”って思う。
傍で見ていたアクアもまるで判決を言い渡される寸前の被告人みたいな顔をしていた。私もそんな顔をしていただろう。
こうして、私の2度目の人生は幕を閉じた――
「えっ、普通じゃね?」
「まぁ、颯真さんの子供ならありえるのでは?」
『颯真の子供ならおかしくないだろ。むしろ、未だに喋れない・犯罪行為を犯さない・生肉も食わない方がおかしいだろ』
なんか父親のお陰で助かったぁあああ!!!
私達の父親が異常過ぎて”問題なし”となった。むしろ「成長が遅いのか?」と心配され、そこそこ喋ったり、普通のご飯を食べても良くなった。
「あの時ばかりは親父に感謝だ」
「まさか素で頭がおかしいとは……」
「ストーカー生活中に大体気づいていたらしいし」
そうなのだ。あの父親は信じられない事に、ストーカー生活中に私達が転生者である事以外は全て知っていたらしい。その事をアイに問い詰められた時は
『いや、俺と違って自重してるのかな〜って。それにかぐやも成長早いし、”血”かなと』
などと宣っていた。これによりアイは「そ、そうなの?」と若干納得してない様子だったけど、子供の個性という形で受け入れてくれた。
「本当に良かったよ。俺だって2度目の人生がこんなマヌケのせいで終わるなんて御免だからな」
「申し訳ございませんでした!」
私もアクアのせいでママに捨てられたら刺し違えてでも殺すし、死体に蹴りの1万発は入れるだろうから当然の考えだ。これに関しては言い訳の余地すらない。
「ま、今はパソコンを堂々と使っていても問題ないから結果オーライだ」
「それもそっか。……ちょっとアクア、このサイトに入れないんだけど」
「当たり前にエロサイトに入ろうとするなバカ」
「いいじゃん! どうせアクアだって見てんでしょ!」
父親から貰ったパソコンなのだが問題がある。設定のせいなのか、見たいサイトが見れない事が多い。
「流石に赤ん坊がアクセスできるサイトは制限してんだろ。言ってみればR-12か? 小学生までの内容は許可されている様だが、それ以外は信じられない程厳重だよ」
初めて聞いたよR-12なんて。私の前世の年齢と同じなのが腹立つし!
「俺からすれば楽な生活だがな。自由に過ごせる、そこまで赤ん坊のフリをしなくていい、アイの子供、父親が金持ち……正直、転生の中でも勝ち組の部類だろ」
「それならチート能力の1つくらい欲しいんだけど?」
こういう転生ものってチート能力くらいあるはずでしょ?
「『巨大財閥の後継者の子供』ってだけで、十分なチートだろ……」
「そうじゃなくて! 魔法とか!」
「はぁ……。常識的に考えろよ……」
「転生だって常識的じゃないもん! そもそも父親の時点で常識的じゃないもん!」
「それはそうだが」
アクアはリアリスト過ぎるよ。きっと前世は社畜だったに違いない。それでアイに救いを求めた結果、アイのおっぱいを貪る変態になったのだろう……キッショ。
「前世も今世も男のあんたが16歳アイドルのおっぱい貪るって犯罪よね。法律で取り締まれないだけで」
「法で取り締まれないなら犯罪じゃねーよ。後、生々しい言い方をするな!」
「……アイの大きくて柔らかいおっぱいを揉みしだき、先端の桜色のちく――」
「余計に生々しくすんじゃねえよッ!!」
そう言いながら今ではミルクを飲まずにアイの母乳ばかり飲んでいる事を知っている。間違いなくロリコンの変態だろう。
「それで、チート能力だっけ? そんなのあっても困るだろ」
「でもさでもさ! 必殺技の1つでも使えたらって思ったことあるでしょ!?」
「そんな訳ないだろ」
「じゃあやらなかったの!? 家族に隠れてか〇はめ波の練習を! 修学旅行で買った木刀で天翔〇閃や牙突〇式を!」
「それは反則だろ!? 全男子の夢だぞ!?」
よかった。まだ人としての心は残ってたらしい。
「そう考えると必殺技の1つくらいできて当然だよな! よしっ、今こそ――」
なぁんて思ってたらアクアが自分の世界に入りだした。今はよく分からないポーズをしている。コイツ、中二病か?
「そういえばアイ。復帰はどうするんだ?」
「ん?」
あれからアクアが必殺技習得のために特訓をしていたが、正直望み薄だと思っている。暇だったので「ステータスオープン!」とかテンプレは一通り試したけど無駄だった。強いて言うならアイの手作りハンバーグを食べられた事と、夜目が効く事くらい。
それでも諦めないアクアを横目に、ママの復帰について話し合う大人? 組。私もそれは気になる。
「うーん。普通にライブとか、バラエティ??」
「何でも良いんだがな……ちょっとB小町が荒れててな」
B小町が荒れている?
「どうもB小町の噂というか、パワーバランスというか、な……」
斉藤社長が苦々しく語った内容はファンからすれば当然の内容だった。
要は「B小町の人気の9割以上がアイであり、アイの居ないグループだと今まで通りの活動が出来ない」というもの。これはテレビでもライブでも同じらしい。
一応、B小町のメンバーは一定の固定ファンが居るには居る。でもそれはあくまで”一定”であり、それ以上ではない。アイの居ないグループなら1000人程度の箱を埋める事が限界らしい。これは数万人規模の箱でも人気過ぎて高倍率になっているB小町としては異常事態だ。
そんな訳でメンバーの雰囲気は最悪! アイへの逆恨みの気持ちが強くなりすぎ、芸能界の大御所やスポンサー、プロデューサーへ枕営業を持ちかけたメンバーまで出たらしい。当然そいつらは即刻解雇だけど、その直後にアイが復帰するから「アイのせいだ!」と残ったメンバーが逆恨みをしていると。
「私関係なくない??」
「そりゃそうなんだがな……正直、とっとと追い出したいくらいだ」
「契約の関係上無理だろ。それに芸能界で甘い蜜を吸っている女共からすれば辞める理由がない。……ファン食いのニノがマシな部類だからな」
「あ~、ニノファン食いしてたんだ~。なんか距離が近い人が居たからまさかと思ってたけど」
私の推しているアイドルグループが乱れ過ぎている! もっとアイドルとしての自覚を持ちなさいよ! ……いや、一番酷いのは子持ちのママか。
「ま、メンバーに関してはその内どうにかするさ。どうせアイさえ居れば事務所はどうとでもなる。颯真さんの『ネットタレントのマネジメントに切り替えろ』ってアドバイスに従うつもりだしな」
「えっ? わたし、すてられる? また?」
ママが壊れたオモチャみたいになってる!? 信じていた人に裏切られた目をしてんですけど!?
「アイは残すさ。マルチタレント・女優・ママタレントでも好きにしてろ」
「子持ち公表ありなの?」
「文句がある奴は『財閥のお力と”不幸な事故”で対処する』ってさ。見た事もないくらいの笑顔で言われたよ……」
どうやら我が父は正常な思考をしているらしい。社長が父親に向ける目つきが少しだけ変だけど。
「問題の他メンバーは引退。今は配信活動に向けて、優秀な人材や見込みのありそうな奴らを口説いている。既に5人は引き込めた」
マジで切り捨てるんだ……。芸能界って怖い。
「そのためにもアイは単独で活動する事も多くなるだろう。その第一歩が復帰ライブになる」
「今は難しいこと考えずに仕事をすればいい。どうせ後5年一緒にいるかどうかの関係だ。その前に解散するかもしれないし」
「なら良いけど……もっと仲良くなりたかったなぁ」
「ってか、ライブは大丈夫なのか? 出産後って体型変わったりでキツいんじゃ」
「そっちは問題なし! なんなら今すぐ証明しても良いよ!」
んん?? 今すぐ証明??
「それならやってもらおうか。隣の配信部屋なら問題ないだろ。斉藤、衣装とかってあるっけ?」
「ああ、事務所の奴以外だと初期衣装くらい? 後は結局使わなかった衣装しか」
「それでいいよ! 私の実力を見せてあげる!!」
嘘!? 初期衣装にシークレット衣装!!? それの上、生でライブだとぉおお!!!
「「ママ! ママ!!」」
「アクアとルビーもママのお仕事見たいの?」
「「あい!!!!」」
もはやなりふり構っていられん。アクアも同じ気持ちなのか必死にアピールしている。
「良いだろ別に。どうせなら観客いた方が楽しいし、小さめのサイリウムでも持たせれば『特別ライブ』みたいでアクアもルビーも面白いだろ」
「「!!」」
ママが! 推しが! 私のためだけに開いてくれるライブ!!
「それじゃあ2人とも楽しんでね。つまんなかったら寝ちゃってもいいから」
寝る訳ない。一生他のファンにマウント取ってやる!
結果から言うと最高だった。興奮しすぎてオタ芸披露からの一緒に踊った。最後はママと一緒に『サインはB』を踊って、記念撮影までしちゃったよ!
なによりママの「ルビーは将来、ママを超えるアイドルになれるよ!」って褒められたのが嬉しかった!
小説の表現はどちらが良いでしょうか。4章では試験的に「〇〇〇(コクコク)」表記を試そうかと思っています。
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「〇〇〇」コクコク
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「〇〇〇(コクコク)」