怨敵と巫女   作:大紫蝶

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 投稿再開です。


ドラマと監督

side:アクア

 

 俺の名前は星野アクア。

 

「何故だ……何故ッ!!」

「言ってるでしょ。ついて来ないで」

 

 生まれて初めて両親の夫婦喧嘩を目撃している転生者だ。

 


 

 俺達が転生してから1年。あれから色々な事が起きた。

 

 まずアイと親父の結婚だが、しばらく延期になった。四宮雁庵の指示もそうだが、どうやら結婚した方が危険との事だ。意味分かんねえ。

 

 俺の生活はあまり変わらず……というか、まだ1歳なのでどこかに出かけることが無い。強いて言うなら四宮別邸でかぐやと愛のオモチャになるか、星野家にやって来た2人のオモチャになるくらいだ。……ただ、2人は成長が早いらしく、ままごとや着せ替え遊びをしてくる。体格差のせいで反撃できず、されるがままの生活を送ってるよ……。

 

「ママァ! ママァ! よしよししてぇ!」

 

 ルビーの方はアイドルをママ呼ばわりして甘えるヤバイファンを見事に体現してるよ。

 

「いいよ~。ルビーは甘えんぼさんだね~」

 

 アイの方も手慣れた様子だ。クソ親父も良く甘えているし、アイが親父に甘えている姿もよく見るので当たり前と思っているのだろう。……一見すると母親に甘える娘という微笑ましいシーンだ。

 

「は~極楽浄土~♡」

 

 だが奴も転生者だ。つまり、中身はガチの激ヤバオタクである。

 

「極楽浄土なんて難しい言葉知ってるね~。やっぱり遺伝かな? ママもパパも天才だし」

 

 例の事件による親父の異常性、アイの能天気さによって我が家は成り立っている。ルビーの迂闊な発言もスルーされ、俺達がパソコンを使ってアイのライブ映像を見ていても無視されている。

 

 一番驚いたのはマンションのワンフロア貸し切りって事もあり、アイがフロア内なら好きに過ごして良いって許可してくれた事だ。アイのお宝部屋にも出入り自由だし、親父が遊び部屋まで作ってくれたから普通に楽しい。ルビーなんてトランポリンとかで跳ねまわり、疲れて日向ぼっこすることが多い。

 

「それでアイさん。明日の仕事なんですが」

「聞いてるよ~。ドラマの撮影でしょ?」

 

 いつものようにやってきたミヤコさん。ついでに親父も帰って来て俺を抱っこしやがる。

 

 最近分かったが親父とアイの教育方針は真逆だ。アイは放任主義で楽観的だが、親父は過保護で心配性。逆の時もあるが基本的に「子供は自由に遊ぶのが一番!」と言っているアイに対して、「子供が怪我でもしたらどうすんだ!」と親父は俺達を放したがらない。俺達にパソコンを与えたりしているのも「偽りの自由で相手を操る」という汚い考えが透けて見えるぜ。

 

「ようやく颯真さんの力抜きで勝ち取った仕事ですからね。一護も気合い入れてますし」

「でも大丈夫なの? 社長って適当なところあるけど」

「……流石に大丈夫ですよ。『B小町』は本格的にたたむ事になったので」

 

 は? B小町をたたむ?

 

「B小町の他メンバーはもう手遅れです。私も芸能界の闇を見てきましたけど、彼女達は”あっち側”に入りました。一護だけじゃなく、颯真さんすら手遅れだと匙を投げてます」

「そうだな~。あれは風俗嬢でもブラックリストに入るタイプだよ。『患者を殺す医者』って例えればいいか? 危なくて裏社会でもお断り物件だな」

 

 それは……どうしようもないか。人を治す医者なのに殺すとか本末転倒だ。そのレベルならどうしようもない。

 

「ただ直ぐに切ると逆恨みやバカが騒ぎ出す可能性がある。数年は適当に遊ばせて隔離する。アイは基本的にソロで扱うし、B小町の活動は縮小する。今後は基本的に”レッスンのみ”とする」

 

 レッスンのみ……言ってみれば追い出し部屋送りか。

 

「でもさ、本当にどうしようもないの?」

「どういうことだ?」

「だってさ、まだ若いし、こーせいのチャンスもあって良いんじゃない!? もう一度考えたけど、どうしてもそこまでの事――」

「優しいな、アイは(ナデナデ)」

 

 そう言って優しくアイの頭を撫でる親父。ただ、アイの言う事も当然だ。いくら黒い噂があるからって――

 

「奴らは既に”堕胎”を何度かしている奴も居る。適当な男――ファンや同業者、スポンサーとやって出来た子だ。邪魔だから堕胎したんだ」

 

 いま……なんつった……?

 

「アイと同時期に妊娠して堕胎した奴も居る。堕胎なんて言っているが、その行為は殺人と同じだ。これが強姦によって出来たならまだしも、遊んでいたら出来たから殺した、なんて同情すらできん」

「……これに関しては颯真さんの言う通りです。同じ女性として軽蔑しますし、アイさん達を見ていれば余計に殺意が湧きます」

「――っ」

「奴らは違法薬物の使用、クライアントへの加害行為、事務所の信頼失墜行為、男遊び、そして堕胎だ。アイドルとして、人としての自覚がないんだよ」

 

 これは親父が正しい。元産科医の立場からすれば望んでも子供が産めなかった女性を大勢見てきた。あの人達の事を思えば、そのメンバー達の行為は決して許されることじゃない。

 

「――暗い話はここまでだ! それよりドラマの仕事だろ?」

「……そうだね。ミヤコさん、明日の仕事について教えて!」

「明日はドラマの『ちょい役』ですね。放送されるシーンは数十秒程度かと」

「えっ、主演じゃないのか?」

「「(コクコク)」」

 

 俺とルビーは親父に同意した。

 

「流石にそれは……」

「ま、仕方ないか。それで俺は?」

「は?」

「いや、俺のシーンはどんな感じだ? 台本すら渡されてないから困ってんだけど」

 

 こいつは何を言ってんだ? 今はアイの話だろ??

 

「えーっと……颯真さんは当日『命を推せ!』という新ドラマの撮影があると聞いてますが……」

「そっちは知ってるよ。俺が聞いてるのはアイの出る方だよ」

「……まさか颯真……私のドラマに出るつもりだったの?」

「当然だろ?」

 

 キョトンとした顔で言ってる親父。だが、そんなの出来る訳ないだろ。

 

「颯真さんが出られる訳ないじゃないですか!! 貴方へのギャラだけで予算吹き飛びますよ!?」

「バカな!? 俺のギャラなんて『アイとの共演』でチャラだろ!?」

「颯真……もうパパなんだからバカ言わないで」

「アイにバカって言われた!?」

 

 なんか落ち込んでるけど当然だろ。こんなんでも国内トップクラスのマルチタレントだぞ。ギャラだけで億単位の要求されそうだし。

 


 

「やっぱり納得いかない」

「まだ言ってんの?」

 

 親父はかなりしつこい。撮影当日になっても文句言ってる。

 

「これって言ってみればアイの処女だろ!? その婚約者の処女を他の奴に奪われるなんて――」

「ほら皆行こうね~。あのバカは放置していいからねぇ~」

「待ってぇ!!」

 

 親父はアイに捨てられた。

 


 

「ママの初ドラマ楽しみだねぇ」

「ちょい役だけどね」

「いや、それより親父が「アクア?」楽しみです!」

 

 色々あったがアイの撮影当日。俺達はミヤコさんの運転で撮影現場に向かっていた。

 

「いいですか二人とも。現場でアイさんの事をママなんて呼ばないで下さいよ」

 

 俺とルビーは「あんな父親と一緒にいたら教育に悪い」というアイの判断で一緒にいる。流石に親父が可哀そうになってきた。

 

「現場では私の子供という設定を忘れないで下さい」

「はいはいママママなでなでしてー」

「私もしてママー」

「ママお小遣いちょうだいー」

「くっ……」

 

 アイまで便乗してるよ。まぁ、書類上はミヤコさんが母親らしいけど。

 


 

「苺プロのアイです。本日はよろしくお願いします(ペコリ)」

 

 ジィィィィ……

 

「どうかしましたか監督?」

「いや別に」

 

 なんかおっさんがアイを凝視している。なんだか犯罪臭が凄い。

 

「なんか怖いね」

「顔がな。後、目つきもイヤらしい」

 

 ルビーもおっさんが気に食わない様だ。

 

 俺達が転生してから家を出た事は何度かあるが、その全てが四宮別邸だった。そこに居る人達とアイの関係者位しか会った事なかったから親父の事を変態と思っていたが……親父って紳士的な方だったんだな。このおっさんが凄い変態に見える。

 

「おい。この子供は?」

「あっ、この子達は私の子で」

「マネージャーが子連れで現場にねぇ(ギロ……)」

 

 ミスった!?

 

「働き方改革ってやつか? 時代だなぁ」

「ま、まぁそんな感じで……」

「まぁ現場に犬連れて来る人も居るしなぁ」

 

 ど、どうやら問題なかった様だ?

 


 

「ダメだ……体がもたねえ……」

 

 あのおっさん監督と別れた後、俺とルビーは控室で待機する事になった。なったのだが……

 

『『『双子ちゃん!! カワイイ!!』』』

 

 俺達はもみくちゃにされた。

 

 今回のドラマは若い女性が多いらしく、アイの共演者も若い女性が多かった。グラビアモデルやアイドル、女優と美人でスタイルの良い人が多くて、そんな人達に可愛がられて心臓が持たなかった……。

 

 想像して欲しい。アラサー独身の男が美人の集まりである芸能界でも”美人”と言われる人達に熱烈なボディタッチを受けるのだ。それも何人もの人にされたら理性が持たない。

 

『ばぶぅばぶぅ』

 

 なお、ルビーはかわい子ぶって堪能していた。……絶対前世男だよ……プレイボーイだよ……。

 

 

 

「ん? マネージャーのガキじゃねえか」

 

 か、監督!?

 

「居るのは構わねえが、泣き出して収録止めたら締め出すからな(ギロッ)」

「あっいえ我々赤ん坊ですがそのような粗相はしないよう努めますので!」

 

 ここで俺が監督の機嫌を損ねればアイの信用失墜につながるかもしれん!!!

 

「現場の進行を妨げないのは最低限のルールと認識しております。弊社のアイを今後とも何卒ご贔屓に……(ペコペコ)」

「メチャクチャ喋るなこの赤子! どこで覚えたそんな言葉!」

「ユーチューブで少々……」

「すげぇなユーチューブって!! 時代だなぁ!!」

 

 しまった。家だと普通だったが、ここまで喋れる赤子なんて普通居ねえよな……。

 

「早熟な子役は結構見るが、ここまでのは初めて見た。お前も演技とかするのか?」

「いや……演技とかそういうのは……」

 

 普段からアラサー男が赤子のフリしてます。今もマネージャーの子供のフリしてますなんて言えん。

 

「画面としておもしれぇな。なんかに使いたい」

 

 いい加減抱っこやめて欲しい。おっさんに抱っこされる趣味ねえよ。

 

「これは俺の名刺だ。どっかの事務所に入ったら電話しろ」

「いえ……仕事を振るなら俺じゃなくてアイの方に……」

「あー例のアイドルな」

「例の?」

 

 そんなに有名なのか?

 

「ここ最近、芸能界でありえない事件が起きている。有名タレントの不祥事、大御所が反社と関係を持っていた、アイドルの堕胎記録などなど……」

「それは――」

「誰が見ても黒幕がいる。そんでその正体は『四宮颯真』以外ありえねぇ」

「そんな事言っても良いんですか?」

「皆分かってることだ。奴の能力は凄いし、後ろ盾も凄まじいが――早過ぎる」

 

 それは俺も思っていた。下積み無しでこの成長はありえない。なぜなら”壁”が存在するから。

 

「芸能界には多くの壁がある。最大の壁が”他タレント”であり、大手事務所が死守している利権は崩す事が難しい。だが、その大手事務所の没落が激し過ぎる。四宮がわざと潰しているとしか思えない」

「えっと……アイって有名なの??」

「話題の逸らし方が露骨過ぎだ。本当に早熟だな……」

 

 その黒幕の息子なので知りたくないです。共謀罪とかになりそうだし。

 

「B小町は業界じゃ評判が悪い。一部の男共は別だがな」

 

 それはB小町の男遊びとかが原因かな?

 

「その中でアイだけは別だ。事務所のお気に入りであり、実力もグループ内じゃ頭1つどころか、人間一人分ずば抜けてる」

「それなら主演にしたらいいんじゃない?」

「はぁ~。これだから素人は……」

 

 腹立つな、このおっさん。

 

「いいか? 役者には3つある」

 

 監督が教えてくれた役者は『看板役者』『実力派』『新人役者』の違いだった。

 

 看板役者は集客が仕事であり、広告塔の役割もあるからギャラも良い。

 実力派は作品の質を担保する役割であり、レーベルのブランドを保つ事が仕事。

 新人役者は次のスターを生み出すための投資商品。

 

「新人役者なんて言ってるが、実情は素人だ。客か現場に選ばれなければお払い箱の消耗品だよ」

「それじゃあ、四宮颯真は?」

「あれは例外。業界じゃ『天災役者』と言われる化け物だ」

「そこまでですか?」

「共演者の心を折って屈服させ、大手事務所を破産させ、大御所でも闇に葬る……目を付けられたら死んでも逃げられないと噂だ」

 

 そんな奴に目を付けられたB小町って凄くないか?

 

「ま、そんな闇のフィクサーの同期であり、同じ事務所出身の女だから有名なんだよ。業界だと『光のアイドル』『四宮颯真の対義語』などの異名持ちだ」

「どこのバトル漫画?」

 

 その後もぐだぐだ解説されたがよく覚えてない。「新人の中から一人でも生き残れたら大成功」と言われても、『闇のフィクサー』と『光のアイドル』のインパクトの方が強すぎて話が入って来ねえよ。その間に生まれた俺の人生どーすんだよ。

 

「この世界で生き残るのは何かしらの一流だけだ」

「じゃあ平気だね。アイはアイドルとして一流だから」

「そうだな。闇のフィクサーと対抗できるアイドルなんて最強だろ」

「そうじゃないよ」

 

 

 

 そこからの撮影は圧巻だった。エキストラでしかないアイに誰もが目を奪われいく。カメラマンだけでなく、共演者すら。

 

「演技は硬いが……いやに目を引く」

「さっき言ってたよ。『ステージだと何千何万というファンに可愛くしないといけないけど、ここではたった一人に可愛く思ってもらえればいい』って。MVと同じ感覚なんだよ」

「MV撮影とか……時代だな~」

「めちゃくちゃ出来良いから絶対見た方が良いよ! 布教用に10セットあげる!」

 


 

 撮影から一か月後、ついにオンエアーとなった。

 

「ついに放送開始か! 俺からアイの”初めて”を奪ったドラマが!!」

「パパ。その言い方止めて」

「そうだよ颯真。私の初めては全部颯真にあげた後だし」

 

 そういえば丁度いい生命保険を見つけたんだった。闇のフィクサーなんていなくなった方が皆のためだよな??

 

「あっこのシーンだ!」

「「「……」」」

「あっ、ママだ!」

「もっと大きく写せ!!」

「むしろそれ以外いらん!!!」

 

 その後、アイの出演は1秒で終わった。

 

「えっ、これだけ!?」

「ワンシーンちょぴっとじゃん!!」

「落とし前案件だな」

「私えんぎヘタだったのかなぁ……」

「「「そんなことないから大丈夫!!」」」

 

 こうなったら監督に抗議だ。闇のフィクサーを敵に回すとどうなるか教えてやる。

 

「親父、カチコミの準備」

「当然だ。こうなりゃ戦争しかねえ……っ!」

 

 うちのアイを不快にした罪は命で償うしかねえよな!?

小説の表現はどちらが良いでしょうか。4章では試験的に「〇〇〇(コクコク)」表記を試そうかと思っています。

  • 「〇〇〇」コクコク
  • 「〇〇〇(コクコク)」
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