side:颯真
「そろそろ機嫌直してくれません?
「なんでこんなクソみたいな仕事のために……」
アイがドラマ撮影で家を出て行った直後、奈央さんが迎えに来やがった。これで正人の方ならサンドバックに出来たが女の奈央さんにはできん。つーか、姉をイジメたとアイに軽蔑されそうで怖い。
「言ってますよね? このドラマは色々と問題が豊富だから――」
「そもそも原作からかなり改変したんだから知ってるよ。……まさか原作者から改変を頼まれるとは思わなかったが」
今回撮影する『命を推せ!』というドラマはよくある医療ドラマであり、正直二番煎じ感が強い作品だ。だが、決定的に違う点が”主人公が空気過ぎる”という点だろう。小説からコミックスなった事で行った人気投票では主人公が圏外。最下位争いする羽目になり、原作者の露骨なプッシュでも注射器に負けた存在である。
勘違いしないで欲しいが作品人気は高い。原作者が現役の医師であり、60歳くらいから連載開始。周囲の同僚や患者、知り合いの医療従事者に取材をしながら書いた小説は爆発的な人気となった。情報の正確さは学会が保証しており、一定以上の規模の病院にならどこにでも置かれている程の作品だ。
「それ程の作品ですが、原作者が高齢かつ現役の医師であるという事が災いし、魅力的な主人公が作れなかった」
「そもそもオムニバス形式に近い作品だから主人公が出ない事も多い。他の医療系作品もそうだが、話の中心は患者やその関係者になりがちだ。主人公なんてバラエティの司会と大差ないだろ」
「そのせいでこれと言った個性がなく、半年出てなくても違和感なかったと作者が泣きましたからね~」
なお、主人公は作者が元ネタらしい。作者的には「お前なんか居なくても良い」と言われた気がして不貞腐れたとか。
「血迷って『主人公を不思議の国の妖精と契約した魔法青年にして病気の悪魔と相打ちで殺そう』とした時は編集が羽交い絞めにして、最終的に鎮静剤打ったらしいですよ……」
「だから作品名まで変えて個性しかない俺が主演やらされるわけだろ」
「言っておきますけど私は反対ですよ。好きな作品という事もありますが、主人公のキャラとかストーリー改変が激し過ぎます!」
「7徹の時に考えたネタだったのに……原作者が気に入ったから仕方ねえだろ……」
「「はぁ……」」
俺達からして気が重いんだ。あの四宮雁庵をして「止めとけ」と言わせた改変内容なんだから。
「本日はよろしくお願いします!」
「どうも……」
やってきたドラマの撮影現場。恐ろしい事に原作者が偉いお医者様という事で病院側がスポンサー? についてくれやがったよチクショウ!
「いや~こんな仕事初めてですよ」
「まさか原作改変を前提にするドラマとは……」
「胃が痛い」
スタッフも可哀想に。しばらく原作勢から叩かれる恐怖で眠れなくなるだろう。
「あらっ、颯真君。久しぶりね♡」
「愛梨さん」
ちっ、面倒なのに会ったな。
姫川愛梨。俺のストーカーであり、元4大財閥・神木家を滅ぼせる爆弾だ。こいつの後ろでガキを抱いている男が姫川愛梨の夫であり、ガキの方が二人の間に出来た子供――という事になっている。本当は神木輝という中学生との間に出来た子供――要はこの女がショタコンという事だ。
「お互い大変な役を受けてしまったわね」
「そうですね。愛梨さんは『入院患者の母親役』でしたか?」
「そうよ。同じ母親として選ばれたのだけど、心苦しい役よね」
よく言う。あんたは実子を捨てて、俺と不倫しようとしてるくせによ。
「颯真さん。そろそろ」
「もうかよ……」
「あなたのスケジュールが殆どないのが問題ですからね」
「そ、それは学生だし……」
奈央さんの目が冷たい。仕事も忙しい、学校は独り生徒会だし、育児やアイの面倒を見る必要もある。他にも忙しくて秒単位のスケジュールを管理してもらっている奈央さん達には頭が上がらないけど……俺は3年だから自由登校期間になれば大丈夫の筈。それまでの辛抱だ。
「本日の撮影はこれで終了です! お疲れ様でした~!」
「お疲れ様でした」
「颯真君、お疲れ様。この後食事にでも行かない?」
「おいおい、旦那の前で浮気かよ?」
「あらっ、これから仕事をする上での挨拶よ」
必要ないから帰らせてくれ。
「申し訳ありませんが、颯真さんはこの後にも撮影が控えているので」
「えっ?」
「それならその後は? 別の日でも構わないけど?」
「……確認しましたが向こう3ヶ月は秒単位で予定が決まっており、半年は分単位の予定が入っていますね」
「冗談ですよね?」
俺の予定ってそこまで過酷なの??
「それでは行きますよ。次は『パラシュートなしでスカイダイビングをするとどうなるのか』の撮影ですね」
「そんなものは投身自殺って言うんだ! どっかのYouTube動画みたいに言っても分かるぞ! それはただの処刑だ!!」
「問題ありません。最強生物なら生きている筈です」
「嫌だぁあああ!!!」
「という地獄を味わった撮影の裏で頑張ったアイの努力の成果が見れると楽しみにしていたんだ。それがくだらん利権絡みで潰され、この俺を不快にさせた。その妻であるアイを悲しませ、子供たちも悲しませるという大罪を犯した」
アイの処女作は俺とのダブル主人公で、純愛物の超大作にする予定だった。その初めてを譲ってまで出演したドラマがあの程度だったとは……アイや子供達の悲しみは想像を絶する。その罪を償わさせることは難しい。
「という訳で切腹しろ。介錯はしてやる」
「助けてくれ!!!」
「黙れマダオ2号。貴様を殺しても意味はないが、少しは気が晴れる可能性が0.1%あるからな」
「俺の命が軽すぎる!」
とりあえず仕事を持ってきたマダオ2号こと、斉藤社長は切腹してもらう。日本男児らしく死ねて本望だろう。
「もういいよ、颯真。子供の教育に悪いし」
「教育!? 犯罪だからではなく!?」
「ママ、切腹させた方がいいよ」
「アイ、親父の言う通り殺そう」
「ガキ共は殺意高いし!」
そりゃ俺の子供だし。ママ大好きっ子でもおかしくないだろ。
「会社は妻のミヤコさんが運営すればいいだろ。どーせB小町は解散するし、アイは女優かマルチタレントかお嫁さんに転職だ。苺プロも四宮グループ傘下に入れば仕事には困らないし、心配はない。むしろ、給料が上がったと嬉しい悲鳴を上げるだろう」
「私欲しいバッグがあったんですよ。生命保険でまとまった金額が入るので嬉しいですね」
「ミヤコも旦那を換金しようとするな!」
死すら他人を笑顔に出来る人生なんてそうそうないんだ。喜んでいいと思うが。
「その辺にしてください。今はアイさんが出演するドラマについてです」
「しかしだな奈央さん、こいつを生かす価値なんて「アイと子供たちと過ごせる時間を増やせます」斉藤の給料を1000万アップだ」
なんて素晴らしい人材だ。世界を滅ぼす大魔王に命を狙われても助けてやろう。
「それで、そのドラマってなんだ? 『命を推せ!』のヒロインか?」
「違います。正確には映画ですが、五反田泰志という男が監督を務める作品です」
「聞いたことが無いな。しかしアクアを引き換えにアイを出演させる……こんなバーター聞いたことが無いぞ。キャスティング権を持つならかなりの大物のはずだ」
まさか俺の知らない速度で超新星監督が現れたとはな。
「いえ、超低予算でやっている小規模映画の監督ですね」
「そいつは舐めているのか?」
「アイの出演費はかなり低いですね。それこそ子供のお小遣いレベルかと」
「ということは100万程か。たしかに低いな」
「な訳ないでしょ。どこの世界に子供に100万を小遣いで与える親がいるんですか。四宮家でも10万でしたよ」
えっ? アクアとルビーにそれぞれ与えているけど? むしろ少ないかと思ってるくらいなんだが。
「そんな作品で大丈夫なのか? 俺はアイと共演できるから1円でも構わないけど」
「あなたの出番はありません」
「バカな!?」
「バカはあなたです。たかが数百万もない予算の映画で国内トップ、世界屈指のタレントを起用できるはずないでしょ……」
「友情出演!」
「なんで捻じ込まれたアイドルの友情出演で世界レベルのタレントが出演するんですか?」
すっごいバカにされている気がする。奈央さんの絶対零度の視線が痛い。
「別にそっちがその気なら仕方ない。俺も最終手段を取ろう」
『『『最終手段!?』』』
「アイと共演できないなら、俺は今ここで……! 床に寝っ転がって駄々をこねるッ……!!!」
side:アクア
「本日世話になる四宮颯真だ。よろしく頼む」
「命だけは助けてください!」
「大丈夫だ。セリフは覚えたし、『気味の悪い病院の医師』の代役は任せてくれ」
情けない親父の必殺技から数日後、俺達は不思議な光景を見ていた。
「あれって何なの?」
「映画の監督と俳優ですよ……一応……」
「違うよね? 何がとは言わないけど、違うよね?」
黒いスーツを着た親父の背後に強面のダークスーツを着た男達――ぶっちゃけ反社にしか見えない男達が30人程いた。かなり鍛えられていると分かる体格にも拘らず、親父が飛び抜けてデカイ。
「パパって大きいんだね」
「ルビー、ここでパパはダメだ」
「バレたら消すだけなので問題ないですよ」
奈央さんが消すとか言ってるよぉ。やっぱり財閥になんか関わりたくないよぉ。
「でも、なんであんなに居るの?」
「――颯真さんの必殺技が、本当に必殺技だったんです」
親父の駄々をこねる。こんなの最初はバカにしていたんだが、目の前で2mを超える巨漢の大男が泣きながら駄々をこねられると心に来るものがあった。
「教育に悪いから別邸に連れ帰り、東京に来ていた雁庵様達に交渉してもらったのですが……あまりのみっともなさに見ている方が罪悪感から『愛する彼女と一緒にいたいという願いくらい、叶えるべきでは?』という結論に至りました」
血の凍った外道と呼ばれる四宮家にも要求通せるとか、本当に必殺技だな!
「流石に不可能なので、今度は龍珠組本家に連れて行って、説得してもらったのですが……」
『いやだいやだ! アイとアクアと一緒に共演するんだ!』
『いや、ギャラも払えないだろ? 今回は諦めような?』
『いやだ! ギャラなんていらないから一緒にいたよぉおお!!!』
『わがまま言うんじゃありません!』
『びええええん!!!』
『……組長、ダメですか?』
『正直、颯真の坊主には世話になっているのですが……』
『金なら出しますよ?』
『颯真は親父と親子盃を交わし、俺達と兄弟杯を交わしたんです』
『弟が泣いているのに見捨てるなんて、任侠者のする事じゃないですよ!』
『親父、お願いします!』
『『『お願いします!!!』』』
「などという龍珠組構成員による嘆願、龍珠組組長の妻からも『夫が愛する妻と子供と一緒にいたいと願う。これを邪魔できる人間なんていないだろうが!!!』と薙刀突き付けて脅された組長さんの協力もあり、この地獄のキャストが完成したんですよ」
何それ怖い。
「どうやら構成員の妻達からも好かれていて、組長の妻を本当の母親の様に慕っていたらしいんですよね。組長のことも父親だと思って、寝込んだ時は学校を休んで看病をしていたそうですし。『手のかかる子ほど可愛い』というのか、皆から可愛がられていたそうで……」
「なんかほっこりする話だね」
「今じゃ龍珠組相談役の地位にいる大幹部の1人なので、誰も逆らえないんですよ。殆どの構成員が颯真さんから事業資金とか生活費で借金してますし、仕事を斡旋してもらっている。衣服や住む場所も用意してもらって、『金が無くても飯だけは食わせてやる!』などと世話になっているそうなので」
「「「それでいいのか龍珠組!!」」」
ルビーとアイも一緒にツッコんだよ。ってか、アイは知らないのか?
「担保も利息も無しで、ある時払いの催促なしにも拘らず、本家も下の組織も合わせて500億円も金を借りている人間からすれば逆らえなかったらしく……」
「500億!? どうやったらそこまで稼いだの!?」
「しかも、これ以外にもお小遣いとか、見舞金を渡したり……お祝い事の度に――」
そりゃ逆らえないな!
「ど、どうやったらそんな大金を……颯真は私にそこまで稼いでいるとは……」
「恐らく、アイに伝えていた金額は『自分が自由に使える金』であって、アイとの生活費や龍珠組への資金は別計算でしょうね。それを含めると、既に財閥レベルかと」
もう怖いよ!
「そして、そんな颯真さんの妻や子供に危害を加える人間がいないか調べ、発見次第始末するためにいるのが”龍珠組武闘派”である彼らです」
「さ、流石に心配し過ぎじゃ?」
「アイ達にセクハラやパワハラしたら殺すつもりで用意したそうです。困った事があったら言ってください。服役覚悟の人員なので、刺し違えてでも守ってくれますよ」
これ、映画の撮影だよね? ドッキリとかだよね? 怖くて泣いちゃうよ??
小説の表現はどちらが良いでしょうか。4章では試験的に「〇〇〇(コクコク)」表記を試そうかと思っています。
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「〇〇〇」コクコク
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「〇〇〇(コクコク)」