side:颯真
「で、どうすんの?」
「ご、ごめんなさい」
今日はアイと付き合って1週間m初デートに行く予定の日だ。アイも楽しそうに計画を立てており、俺も必要な準備を整えていた。これからデート三昧になる……はずだった。
「なんで収録入ってんの?」
「夜見、その辺にしておけ」
「黙れ諸悪の根源。貴様にアイを預けたことが間違いだった」
この1週間、アイはマダオの手伝いで心霊番組の衆力に参加していた。そのせいで『霊能力者見習い』と思われ、『寺系美少女巫女』の件も合わさり『美少女巫女』として業界で注目されているらしい。
「既に金は受け取ったし、このままバックレるわけにはいかない」
「そうだよ!抹茶フラペチーノ奢ってもらったし!」
「このアホは後で教育するが、マダオも保護者としての自覚は無いのか」
「……女優やアイドルとホテルで過ごしてる間に、な?」
「その間に契約進んでいた訳か。使えんゴミめ」
やはりマダオはマダオだ。こうなればマダオは使い物にならんし、俺が動くしかない。
「その収録に俺も行く。どうせ霊なんて出ないし、変態共を殴ってブタ箱にぶち込むだけだしな」
「いいんじゃないか?初デートが心霊デートも思い出には残るだろ」
「えっ嫌だよ。初デートはちゃんとしたレストランで」
「なら打ち上げはレストランな。俺の見た目なら大人って言ってもギリ大丈夫だろ」
俺をこのアホ共と同じだと思うなよ。霊なんかより、生きている人間の方が怖いってことを教えてやる。
アホ共が言うには、収録は「リポーターが心霊スポットに行くパート」「スタジオで心霊写真や怖い話を見たり聞いたりするパート」の2つに分かれているらしい。前者はこれと言った面白みもなく終わっており、今日は後半を収録するとの事だ。ディレクターも視聴率のために後半に予算をつぎ込んでいるとのことだ。
仕事は想像より大変だった。霊能力者役のマダオが台本読んで感想を言うだけのはずが、実際には次から次へと仕事を持ってこられた。今まで局が封印していた”本物の心霊写真”まで持ってきたようで「問題が起きても良いから視聴率を!」とのことだった。アイが呼ばれた理由も視聴率稼ぎの為か。
通されたビル内の撮影スペースで段ボール3箱に詰められた心霊写真(笑)を選別する作業が始まった。全国から募った心霊写真の山を一枚一枚確認しては三種類に分別する。偽物、無害な本物、放送できない有害な本物に分別する。これが心霊番組の裏側とは呆れるな。
「くだらん。視聴率のためなら何でもするべきだ」
「待てよ夜見。何する気だ」
「いいか、この心霊写真(仮)を幾つか集めて1つの写真に幽霊を切り貼りして悍ましい写真にする」
「確かにこれならインパクトあるな!」
「例の局秘蔵の”本物の心霊写真”とやらも使えば面白い写真が量産できる」
「で、でも……呪われるんじゃ?」
ディレクターは喜んでいるが、スタッフの一人が不安そうにしている。それに同意する様に出演者の何人かが止めるように言って来る。
「いいか?霊なんかいない。居たとすれば捕まえて永久機関作成のために材料になる。どっちにしても俺達に損はないぞ」
「永久機関作成!幽霊の捕獲!なんて視聴率が取れそうな言葉……っ!」
「見ろ、ディレクターは喜んでいる。お前達だって新しい仕事につながるかもしれないぞ?心霊スポットで面白いシーンが撮れなかった以上、このパートで視聴率稼がないとな」
「その通りだ!面白くないならテレビじゃない。視聴率こそ正義だ!」
ディレクターは興奮して喜んでいる。上が許可したい以上、このまま進行するしかない。
「君、名前は!?」
「夜見颯真です」
「夜見君、このような写真の作成を続けてくれ。私は他の写真を持ってくる!」
「待ってください。どうやら今回のゲストには俳優や女優が多いそうで。彼らを使って心霊話の再現ドラマを作っては?」
「それは面白そうだが時間も予算も足りないぞ?」
「安心してください。必要な脚本も用意していますし、金もかけずにできます。このお祓い前の呪物を置いておけばそれっぽくなるでしょう」
俺が持ってきたのは、マダオが引き取った呪物。どうせ後で壊すものだし、除霊(物理)シーンを放送してもいいだろう。
「なんて素晴らしいんだ!皆、夜見君の指示に従ってくれ!」
「夜見、それはダメだ。下手すれば「お前の風俗ツアー、愛人ハーレムをばらすぞ」ディレクター!私も視聴率のために命かけます!!」
「マダオは合成写真以外の心霊写真に『この霊は先祖が守ってくれている』とか視聴率が取れそうなコメントを書け」
「そういえば、神社にお祓いを断られた写真があるとの話を聞いたことが」
「どんなものだ?」
「どうやら神様に嫁いだ女性の心霊写真との事です。あれも持ってきた方が良いでしょうか?」
「今すぐ持ってくるように。なんならお祓いしてやる」
「今すぐ田中に連絡しろ!辞めてから家に閉じ篭っているはずだから助けてやると言えば来るはずだ!」
俺達3人以外は震えているが問題ない。スポンサーも視聴率さえ取れば文句など言わないだろう。
しかしこの大量の写真、俺達で処分しなくちゃならないんだよな。頼まれた時にマダオが美女に良いとこ見せようと処分まで引き受けてしまった。処分費はきっちり貰ったから仕事としてやるが、こんなの燃やすだけだ。ついでだし燃やすシーンも放送するか。
アイとの初デートを犠牲にした番組だ。歴代視聴率1位を目指すぞ!
合成写真を使った収録も終わった。出演者もスタッフも青ざめていたから本物感が出ていたし、途中でライトが割れたり変な声が聞こえたが「視聴率が稼げる!」というディレクターの言葉で無視された。
田中と言う男が撮影中に慌てて入ってきた時なんて全員の顔が真っ青になっていた。確かに白無垢を着た一般人が撮影現場に入って来て「父様と母様は…息災かしら?」と言ったら驚くだろうが……普通に控室で待ってもらっている。詳しい話は後で聞くと言い、アイが案内したら大人しくしているそうだ。
それよりも撮影だ。適当に処分予定の寄木細工の箱で『ハッカイ』と言うらしい。どっかの爺さんが怖くて押し付けてきたそうだ。他にも立体パズルの『リンフォン』、持ち主が殺人鬼になる妖刀、お祓いをした住職も殺したと言われる『金色仏像』など、適当に置いておけば怖くなるだろう。どうせ処分予定だし。
「マダオは演出だ。普段から心霊スポット作成をしている専門家だ。幸せそうなカップルを破局させるために磨いた技術を存分に振るってくれ」
「世のカップルは全て破局させてやる」
「ディレクターはセットの準備をしてくれ。適当にでっち上げた脚本だから好きに改変してくれて構わない。本物の呪物が画角に入っていれば十分怖いだろう」
「出世のために命を懸けよう」
「とりあえず主人公は姫川愛梨、他は適当に決めてくれ。呪物破壊は俺がやる。やる気がない奴は帰れ」
「やるので命だけは助けてください……」ガクガク
素晴らしい意気込みだ。撮影前から青ざめた顔でいるとはプロは違うな。誰一人文句を言わず動いている。
「夜見、お前はあの女性の面倒を見てくれ」
「必要か?今は番組成功が最重要事項だろ」
「最重要事項は一般人を無事に帰すことだ。そうすれば数倍良いものが撮れる」
そう言われては仕方がない。アイ一人に任せるのも限界だし、さっさと帰すか。
「では、健闘を祈る」
「アイ、その女性について分かったか?」
「ぜーんぜん。ずっとお父さんとお母さんについて聞いてるよ」
スタジオを出た俺は、アイと白無垢を着た女性が待つ控室に来ていた。一応事情を聞くように言ったが、見た目通り小学生のアイには話さなかったか。
「それで、父親と母親についてでしたね?」
「父様と母様は…息災かしら?」
「そのご両親の特徴をお聞きしたいのですが」
「父様と母様は…息災かしら?」
「だめだこりゃ」
「どうするの?」
「多分精神病患者だろう。結婚式の直前に両親を亡くしたとかじゃないのか?」
「すっごく可哀そうだよぉ」
それは同意するが、次に進むためには辛い現実でも断言した方が良いんだよ。
その後も女性や両親についての情報を聞いてみるが「父様と母様は…息災かしら?」しか言わない。こうなれば強硬手段しかない。
「父様と母様は…息災かしら?」
「あなたのご両親はずいぶん前に亡くなられています。しかし、今でもあなたの事を思って守護していますよ」
嘘である。こんな面倒な奴は追い出すに限る。
「そうなのですか?」
「えぇ。私が言うのだから間違いありません」
「…あなたほどの人が言うのなら、それが正しいのでしょうね」
失礼しますと言って女性は帰って行った。玄関まで見送ったが、その背中は寂しそうに見えた。
「あれで良かったのかな?」
「良いんだよ。あそこまで受け答えが出来ていない以上、あの女性は精神が壊れている。両親の安否を知っているが受け入れられなかっただけだろ」
「あなたほどの人が言うのならってのは?」
「俺を霊能力者と勘違いしたんだろ。あの場で仕切ってたし、見た目だけなら成人していると思われても仕方がない」
違うよ?アイとの初デート邪魔された腹いせじゃないよ?俺なりの考えた対応だよ?
「ストレス発散できたし戻ろうぜ。この雑で短い脚本ならすぐ撮り終わるだろ」
「そんなに簡単なの?」
「だってスタジオで呪物紹介していたら主人公以外の人間が狂っていくってだけの台本だし」
「雑過ぎるでしょ…」
「それでも一応寺に持ち込まれた呪物だぞ?リアリティは大丈夫だろ」
スタジオに戻ると撮影は終了していたらしい。ついでに呪物や心霊写真の破壊以外の撮影が終わっていたらしい。本当に動きが早いな……やはりプロは違うな。
「それでは”破壊シーン”お願いします!」
「本当に破壊するだけなんだが…」
そう言って写真の一部は破りその他と一緒にドラム缶の中に入れる。その後、サラダ油をかけてライターで火を付ければ終わりだ。呪物のいつも通り殴った瞬間壊れたのでゴミの分別をして終了。
「いや、これで終わりですよ?」
「その~、お経を呼んだりとかは?」
「しない」
「何か特別な供養をしたりとか」
「しない」
「……視聴率取れそうな事は?」
「ないぞ」
最後は微妙な雰囲気だったが撮影は無事に終わった。何故か白無垢の女性について全員が確認してきたが「普通に帰ったぞ」と言ったら安心していた。やはり一般人と問題を起こすと不祥事となるのだろうか。後、田中と呼ばれていた男は泣いて喜んでいた。俺の事を拝んで来たので本当に迷惑だった。
「マダオ、この後予定あるか?」
「先帰ってろ。俺は打ち上げに行くから」
「そうか。アイ、俺らはどっかで飯食って帰るぞ」
「えっ打ち上げ行かないの?」
こいつはレストランをねだったことを事を忘れたのかよ。
「打ち上げって酒飲むんだぞ?未成年の俺らが行ったら問題だろ」
「「「「「未成年!?」」」」」
「そうだぞ。小学5年生だ」
失礼な奴らだ。精神年齢はともかく、肉体年齢は騙してないぞ。
「行くぞアイ。ちゃんとした飯食って領収書はマダオ宛てにするぞ」
「おー!」
こうして俺達の初デートを犠牲にした番組収録は終わった。今回の放送の視聴率は日本テレビ史上歴代5位となる63.9%を記録した。ディレクターはここから心霊専門として業界での立場を確立し、マダオは霊能力者界隈での影響力をさらに強めたらしい。どうせなら視聴率70%くらい突破しないと割に合わないんだけど。俺達の初デート犠牲にしてたった63.9%かよ。
なお、「これって初デートでは?」と思ったアイとのレストランはアイの「お子様ランチ食べたい」という言葉により中止になった。泣きたくなったが彼女に上目遣いでお願いされれば断れなかった。俺はやけ食いでメニューを片っ端から食っていたが、アイも俺の飯を横から掻っ攫っていた。その上デザートまで食べて満腹になってから爆睡しやがった。
会計を済ませて愛を背負って施設まで帰る途中、例の白無垢の女性が困った様子だったので「田中さんなら打ち上げに行ってますよ。この先の店です」と教えておいた。普通に綺麗な女性だと思ったが、俺と話す時だけ顔をしかめるのは何故だろう。そして、寝ているはずのアイが俺の首を絞めているのも不思議だ。
田中が持ってきた心霊写真については「神霊写真」でYouTubeで検索すると元ネタ動画が見つかると思います。普通に検索すると見つかりにくいと思います。
このディレクターは良い結果が出せなかったが、今回の事をきっかけに業界のスターになりました。このディレクターは今後も出てきます。
後日、田中さんはマダオを通して颯真に白無垢の女性の除霊を頼みました。そして颯真とこれ以上関わりたくなかった女性は二度と姿を見せることがなかった。