怨敵と巫女   作:大紫蝶

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星野アイ引退

side:夜見

 

「よし、これからの方針を決めよう」

 

 あの番組収録からしばらく経ち、本格的に考えなくてはいけない事が出てきた。

 

「これから俺達はそれぞれの目標のために動く。そのために必要なことはなんだ」

「はい!颯真が私のお婿さんになる!」

「違う。今やるべきなのは犯罪の隠蔽だ」

「俺達は(バレる様な)犯罪なんてしてねぇぞ」

「黙れマダオ。このままだと本格的にまずい」

 

 全ての始まりはアイの神楽舞だ。どうやらあれには本当に効果があったらしい。

 

 アイの神楽舞は適当だし、天鈿女命(アメノウズメノミコト)の神社の神楽舞をそのまま踊ったり、今風にアレンジしたモノだ。それなのに見た人は元気になったらしい。しかも具体的な話も聞こえて来た。

 

『彼女の舞を見てから演技が上達したよ!おかげで主演の仕事も入ったし』

『離婚寸前の夫婦が彼女の舞を見てから夫婦円満になったんですよ!』

『片思いだった彼と付き合えたんです!』

 

 などの声が凄い。俺が知っているだけでも100人は効果があると言っている。

 

「最初はさー、勘違いだと思ったんだよー、たまたまだってー。それを誇張して広めたら止まれなくなってー、全国からオファー来てるしー」

「まだ小さいからいいが、確かにまずいな」

「特にこの間の姫川愛梨がヤバいだろ。あの後月9やら映画の主演が決まったとかで吹聴しやがったからな」

「普通に本人の実力だろ?それか事務所の営業が上手かったか」

「アイとの共演?や神楽舞を見たってことで勝利の巫女やら幸運の巫女とか業界内で言ってるらしいし」

 

 歴代視聴率5位となった番組でドラマの主演(適当な再現ドラマだが)をした女優からの言葉で興味を持った人間が出ている。さらにあのディレクター……マダオが言うには鏑木とか言うらしいが、あの人も業界内で影響力を強めたらしく「星野アイの名前を広めておくね!」と無駄な気遣いをしやがった。

 

「まさか視聴率60%超えることが凄い事だったなんて……テレビ見ないから知らなかった」

「お前も天才霊能力者で有名になっていたぞ。お前ら二人への出演依頼が山の様に来てるし、スカウトも同じく」

「……アイ、芸能界に興味あるか?」

「颯真は?」

「興味ない。そんな暇があるならアイとデートしてる」

「なら私も颯真とデートする!」

「ウザいな、このバカップル」

 

 諸悪の根源はマダオだろ。本当に面倒になった。

 

「おかげでアイの巫女活動に取材が来るとは……」

「流石に地上波で詐欺の手口が公表されたらムショに入れられるよな……」

「こうなると真面目に宗教活動とか、人々の幸せのために~って言ってやるはめになるぞ」

「でも、問題なくない?それで皆が幸せになるならさ」

「「ダメだ!俺達の過去の犯罪がバレる!それに、他人に情けかけるなら卵かけごはんにでもかけるわ!」」

「どうしようもないなー」

 

 アイはまだいいが、俺達の過去の呪物破壊やお祓いなどの詐欺がバレる訳にはいかない。テレビで注目された事から余計にまずい。やはりテレビ出演なんて百害あって一利なしだ。

 

「こんなことなら幸運のツボなんて売るんじゃなかった」

「アイの水とか売り上げ良かったのに……!」

「そろそろ真面目に生きたら?颯真なら私が更生させるし、マダオは刑務所で更生できるでしょ?」

「「誰が更生なんてするか!!!」」

 

 こんな楽に金が稼げるんだ。もう少し稼いでからでも遅くない。

 

「だが、俺の野望のためにはできるだけキレイな状態でいたい」

「颯真の野望って?」

「爆乳美女ハーレムを作る事だ。……アイ、頭を齧るな。冗談だから」

「男なら一度は憧れる夢だな」

「ともかく金と権力が欲しい。とりあえず大学卒業したら起業するつもりだ。アイ、首絞めるな」

「夢を持つのは結構だが、このアイブームを収めるのはのは大変だぞ?俺に各地の神社仏閣から依頼が入っているし」

「何故神社仏閣がコンサート依頼を出すのか理解したくないが、ブームを収めるのは簡単だろ。アイは小学生だし、学業優先と言えば終わる話だ」

 

 アイが俺を攻撃してるが無視だ。今はこのアイブームを収めて、過去の詐欺行為を隠蔽しなくては。

 幸い俺達は小学生で学業優先という建前がある。アイだって学友と過ごしたいだろうし、このまま巫女巫女詐欺を続けるわけにはいかない。丁度いいタイミングだろう。

 

「今年中に巫女巫女詐欺を終わらす。最低限の依頼だけこなして、後は地元の祭りでたまにやるくらいで十分だ」

「だったら長野県の鈿女神社、宮崎県の荒立神社、滋賀県の千代神社だな。それ以外は全て断って俺は隠蔽工作に全力を注ぐ」

「よし決まりだ。ここからは作戦『世間体大事に』で行くぞ。後、アイは何クネクネしてんだ」

「どう?私の悩殺セクシーポーズ!」

「ハッ!」

「鼻で笑った!?」

「そのぺちゃぱいで何がセクシーだよ」

「その言い方酷くないか?」

「これにセクシーと感じるなら、大根の方がセクシーだろ」

「酷い!?いつも一緒にお風呂入って、一緒に寝てるのに!」

「それで手を出されていないことがセクシーじゃない証明だろ」

 

 そろそろ俺から離れて欲しい。理性が持ちそうにないし。襲いたくなるのを必死に我慢してんだからさ。

 

「とにかく!この巫女巫女詐欺を終わらせ、俺達は新たなステージに進むぞ!」

 

 

 巫女巫女詐欺を終わらすために俺達は必死に動いた。そのおかげで『寺系美少女巫女』の星野アイは終わった。

 

 宮崎の病院にいた少女の笑顔は眩し過ぎて罪悪感が凄かった。とりあえず三人で作った特性水(寺の湧き水に”気持ち良くなる魔法の薬”を混ぜた物)を渡しておいた。少しは現実の辛さを忘れられるだろう。

 

「という訳でアイを世間のゴミ共から隔離することに成功したわけだ」

「独占欲の塊だな、おい」

「なんで彼女を人前に晒さないといけないんだよ」

「お前監禁とかしそうだよな。本当に危ない奴だし」

「ふざけるな!監禁なんてする訳ないだろ!!」

「そ、そうだよな。いくらお前でも「監禁するくらいなら手をつなぐ」は?」

 

 こいつは本当にバカだ。

 

「監禁なんて抜け出そうとすれば抜け出せる。相手を本気で捕まえるなら手を握っている方が確実だ」

「怪我とかじゃなくて脱走防止かよ。マジで危ない奴だな」

「怪我もそうだし、自由を奪ってアイを不幸にしたくないから」

「じゃあ星野が幸せになるためと言って他の男と浮気したら?」

「心中するに決まっているだろ」

「浮気相手殺さないのか」

「そっちは死など生温い。本当の地獄を見せてやる」

「そうか……」

 

 マダオが遠い目をしているがよく分からん。浮気前提の交際などする気ないし許す気もない。

 

「それじゃあこれからどうするんだ?急なアイの引退で混乱が起きてんだが。ずっと神社仏閣からの連絡が止まないんだよ」

「無視しろ無視。学生の本分は勉強だ。まあアイが高校か大学卒業して俺と結婚し、子供が生まれて子供が結婚した後に暇なら復帰させても良いんじゃないか?」

「復帰させるつもりねえだろ。どうせ孫が成人するまでとか言って復帰させないだろ。つーか、自由奪いたくないって言ったよな?最初から自由にさせる気ないよな??」

「……分かった。結婚して子育て落ち着いてからなら」

「その”落ち着く”の定義を言え」

「黙秘権を行使する」

「お前ってこんなに依存体質だったのか?病み過ぎておかしくなってんぞ。IQ200の天才様の威厳ねぇぞ」

 

 なんだよ。そもそもお互い親兄弟に親戚にまで見捨てられたんだぞ?やっと手に入れた家族を手放したくないのは当然だろ?

 

「言っとくが家族じゃないからな?お前ら結婚まで最低でも7年は必要だからな。それまでは他人だぞ」

「そんな軽い気持ちで付き合ってないから」

「交際=結婚とか気持ちわりーな」

「それは愛人囲って責任取らないてめぇの事だろ!」

 

 こっちは本気だぞ。相手を幸せにするためならどんな試練だって乗り越えられる。

 

「ところで今度アイの誕生日だろ?」

「そうだな。去年と同じで二人で祝うんだろ」

「そうなんだが、少しこの寺を使わせて欲しい」

「寺を?どうせ俺は年末年始の風俗巡りするからいいけど」

「サプライズでやりたいことがあってな。ちょっと部屋に収まりきらなくて…」

「彼女の誕生日祝いにサプライズか……ロマンチストだね~」

 

 マダオはニヤついているが恥ずかしい事なんかない。愛している彼女のためなら頑張るのが当然だ。

 

「数日前から使わせてくれ。ケーキも作りたいから」

「だが前日のイブにもクリスマスケーキ食べんだろ?だったらケーキはいらないんじゃ」

「誕生日にケーキは必要だろ。それにイブだって『寒いから鍋が良い!』とか言ってケーキなんて食わねえよ」

 

 そもそも自分から言った初デートを忘れ、予約していたレストランよりファミレスを選ぶ女だ。何を言って来るか分からん。

 

「愛を知らない女に対抗するには愛で殴り続けることが最適だ」

「流石初デート×7を実行した漢だ。俺もこき使われたな~」

「マダオの犠牲でアイと俺が幸せになったのなら本望だろ」

 

 楽しかった初デートだった。映画館で爆睡とかしてキレそうだったが楽しかった。ゴメンと涙ながらに謝るアイは可愛かったな~。

 

「と・に・か・く!アイの誕生日は盛大に祝うんだから協力してくれよ?」

「まあやるけどよ。その代わり、掃除はしろよ?バレると檀家や上からクレーム来るから」

「了解了解」

 

side:アイ

 

「それでは、アイの『寺系美少女巫女』引退を祝って焼肉だ!」

「スイーツが良かった」モグモグ

「文句言いながら食べない」

 

 今日は颯真と二人で引退祝いの焼肉に来ている。普通なら小学生が保護者なしで来るのは厳しいけど、見た目大人の颯真と一緒に行くと問題ない。

 

「私のヘタレ彼氏兼アホ兄兼ポンコツ弟兼バカ犬の颯真は便利だよね~」

「俺一人何役だよ。どれ一つまともな肩書ないし」

「なんか悪い人じゃないけど良い人でもないよね。結果的にバカアホポンコツヘタレだし」

「酷くないか?」

 

 なんとなく愛されていることは分かる。付き合ってから作って貰っている料理は前より美味しいし、お風呂の時も神の手入れが必要とか言って髪質改善トリートメント?をしてくれる。私が悲しいときは私より悲しんでいるし、私が喜んでいる時は私より喜んでいる。困ったことがあると解決してくれる。

 

「でもリアクションが過剰だよ」

「どこがだ。大好きな彼女に対する行動として一般的な範囲だろ」

「私がキスお願いしたらドキドキし過ぎて倒れて、『颯真くん大好き!』って抱き着きながら言ったら倒れて、『颯真くん嫌い!』って言ったら血を吐きながら倒れたよね?それで救急車で運ばれてお医者さんが病気とか調べた結果覚えてる?」

「……『恋の病』だったかな?」

「職員さんも私も恥ずかし過ぎてあの病院行けなくなったんだからね!?なんならうちの施設の人は恋愛幼稚園児レベルって噂されてんだよ!?」

 

 付き合ってからそれほどの時間が経っていないのに運ばれる事3回。その全てが『恋の病』と診断された時は恥ずかしかった。颯真が死んじゃうんじゃないかと思って泣いていたのに……ヘタレすぎて別の涙が出てきたよ。

 

「それで”くん付け”止めて呼び捨てにしたらまた倒れたし。お医者さんも呆れていたよ」

「今までで計7回運ばれたからな。毎回同じ先生のせいであの人『恋の病専門医』って言われていたな」

 

 可哀そうな人だよ。17歳で女の子妊娠させたって聞いた時は軽蔑したけど。

 

「颯真ってなんなの?私を裸にしたり、無理矢理キスしたり、ベッドに連れ込んだのにヘタレって」

「……あれらは医療行為と言うか……人工呼吸とかの類だったから出来ていたので……」

「じゃあヘタレで良いんじゃん」

「……おっしゃる通りです」

「すみませーん。メニューの一番高い奴10人前くださーい」

「待って!ここ食べ放題じゃないから!いつもと違う店だから!」

「私のお祝いだからいくら食べてもいいでしょ?」

「そうだねお祝いだね。でもその注文の仕方だと……」

 

 その後やけ食いしまくったら割と良い値段だったらしく、颯真は頭を抱えていた。それでも「コンニャク*1持ってきてて良かった…」って冗談言ってたし、2万円くらいだったのかな?

*1
100万円の隠語




・夜見颯真:アイとの恋人らしい行為にドキドキして倒れる→救急車で病院へ→とある若手医師に「恋の病で倒れました」と診断される→心臓に穴が開いているはずだから調べてくれ→「健康な心臓です」というやり取りを7回繰り返した。彼女のアイを独り占めするために引退させた男。彼女を独占、彼女に病院で恥をかかせるなど罰として、アイの引退祝いで100万円近い金額を使った。

・星野アイ:付き合っている中で彼氏がバカアホポンコツヘタレだと判明。彼氏の陰謀で仕事を辞めさせられるが引退祝いで「私また何かやっちゃいました?」のノリで制裁を加えていた。恋の病のくだりで恥をかくが、将来的にはこれ以上の恥をかくことが決まっている。

・姫川愛梨:颯真の影響で原作より早く売れている女優。再現ドラマの影響もあり、周囲からは「視聴率60%超え番組の主役」と評価されている。この評価の背景には、颯真が「俺やアイの評価を下げないとデートできない」という理由でマダオや鏑木を通して業界やスポンサーにアピールしたからである。夜見颯真を狙っている。
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