TS転生傾城妃は諦めた   作:青すぎる空は目が痛い

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18 好奇心は猫猫を……?

 

 

 

 

 寵妃が一人、中級妃魅音(ミオン)は自室の窓辺に手を添えて青々とした空を眺めていた。

 入内を果たした昨年の夏のような気候にはまだ少し早い今日この頃、お天気はご機嫌なのだが魅音の気分は曇り模様だった。

 

(ままならないなぁ)

 

 昨年末に公主が、その二、三か月後に東宮が誕生なさった。母子ともに無事で安心したものだ。

 騒動の原因になる予定の鉛白の白粉を排除したし、梨花(リファ)妃のお産の前に来た隊商(キャラバン)も中級妃という特権を利用して誰よりも早く天幕を巡り一通りの商品を確かめた。怪しいものはなかったかのように思える。

 

 ただし、上級妃の場合は直接宮に隊商が赴くので、そこに持ち込まれた品物に関しては魅音はあずかり知らない。

 主上に巻き込まれて事前に確認した商品目録(カタログ)はいたって健全ではあったが、鉄砲玉のように命を投げ出す人間がいるのだから秘かに危険物を持ち込む輩がいてもおかしくはない。

 

 なぜ今、魅音が隊商を疑っているのか。それは後宮に住む者にとっては誰にでもわかることだった。

 

「公主さまも東宮さまも大丈夫なのかな……」

 

「呪いだって話でしょ?怖いなぁ」

 

 最近侍女として雇い直した元下女三人娘のうち二人が、噂話をしながら魅音のいる部屋の前を通り過ぎて行った。

 

 公主と東宮が呪われたとのことだった。

 魅音は毒白粉の憂いを取り除くという一石を投じたわけだが、結局原作と同じように衰弱していっているらしい。

 それは同じように衰弱して亡くなった主上の東宮時代の男児と、後宮が出来てから亡くなった二人の公主を連想させるようで、後宮は悲壮感に包まれていた。

 

(そんな気はしていたさ。毒白粉は計画そのものではなく手段の一つに過ぎないってことは)

 

 後宮に悪意の塊が潜んでいることは明らかだ。

 正義感に駆られた魅音はその尻尾を掴んでやろうと躍起になっていたが、足掛かりを得ることすらできなかった。どうも毒白粉を禁止させた時点で探っている者がいると察知されてしまったようなのだ。

 警戒した鼠を見つけるというのは誰の手も借りずに己の足だけで探さねばならないというのも相まって困難を極めた。

 

(もし原作をしっかりと覚えていたなら……)

 

 下手人が分かっているなら適当にでっち上げた柵で囲ってあぶりだしてしまえばいい。

 結果だけを求めるならそれが手っ取り早い。

 だがそれはもう不可能なことである。忘却の彼方へ追いやられ、深海に沈み、大水圧で原型を無くした記憶を引き揚げ(サルベージ)られるわけがない。

 

(まぁそんなことはどうでもいい)

 

 まずは赤子の命だ。

 

 ふと魅音は中々宿らない空っぽな下腹部を撫でた。

 これまでで授かることは無かったが、魅音側に問題が無い限り時間が解決してしまうだろう。

 ただ、常に男児だったらどうしようという恐れがあった。国母となる気がさらさら無いのだ。

 だから特に東宮には生き残ってもらわねば困るのだが……。

 

(ただなぁ……水晶宮はなぁ)

 

 水晶宮の侍女は若く未熟なお嬢様揃いだ。

 赤子は七つまで天の子と呼び、何時命を落としてもおかしくないとされているが、それを抜きにしても将来の皇帝を守り切れるとは思えない。

 

 とはいえそれはそれである。

 まずは呪いの正体を突き止めねば。

 

(しかし困ったなぁ)

 

 どうせ毒だろうという予想はある。

 しかし、その形がわからない。

 毒試しの授業で色々学んだが、重要視されたのは飲み込まないことである。

 症状などから毒を特定できるほど見識が深ければいいのだが。

 

「あ、そうだ」

 

 何かを思いついた魅音は手の平に拳をのせる動作をして扉の方に体を向けた。

 

「誰かいる?」

 

「お呼びでしょうか」

 

一声かけるときぃという音と共に戸が開き、(ジン)が現れる。

 

「集中したいから暫く誰も部屋に入らないようにお願いできる?」

 

「かしこまりました」

 

 人除けの済んだ途端に魅音は動き出す。

 上等な衣を脱ぎ捨てて薄着一枚になった後に手早く薄化粧を落とした。

 

 身軽になった魅音はおもむろに執務机風の机の一番下の引き出しを開けた。

 雑多に物が詰め込まれている。

 上から一つ一つ取り除いていき空っぽになったところで底板を外す。

 そこには化粧道具と紙に包まれた服が隠されていた。

 

 これらの存在は誰にも知られてはいけなかった。この引き出しの仕掛けはその為にこっそり仕込んだものである。

 

「丁度毒に造詣の深い人物がいるじゃないか」

 

 私は薬屋ですと非難の声が聞こえた気がするが無視だ。

 

 魅音は隠してあったものと手鏡を机の上に広げると、楽しそうに支度を始めた。

 

 

* * *

 

 

 

「未来が見える天女さまが現世に降りてきているんだって! それも後宮にいるらしいよ」

 

「ふぅん」

 

 猫猫(マオマオ)は数少ない友人である小蘭(シャオラン)と共に昼餉をとっていた。

 話下手な猫猫はおしゃべりな小蘭の聞き手になることが多い。今日も今日とて小蘭の話を聞いていたが、興味の無いことにはどうしてもあっさりとした反応になってしまう。

 

(おおかた口のうまい女がいたんだろ)

 

 わざと様々な意味に捉えられる言葉選びをする。そうすれば客が勝手に都合のいいように解釈する。占い師がよくやる手法だ。

 盛り上がる小蘭に反して猫猫は冷めた考えをしていた。

 未来視みたいな超自然(オカルト)には殆どの場合説明できる理由がある。そうでなかったとしてもそれはまだ未知なだけだ、いづれ既知になる。

 

「王母さまの生まれ変わりかもっていう話もあるんだよ。まーおーまーおー。聞いてる?」

 

「聞いてるよ。生まれ変わりの話は置いておいて、王母さまに未来視が出来たなんて聞いたことないよ」

 

「あれ? そうだっけ?」

 

 王母とはこの国の成り立ちに関わる人物だ。

 遠い地から訪れた王母はこの地に根を張り交わり、子を成した。そしてその天の子が初代皇帝だ。

 王母は仙人であったとも伝えられており、その瞳には暗闇を見通す暗視能力があったという。

 

女華(ジョカ)小姐(ねぇちゃん)に教え込まれたなぁ)

 

 女華は緑青館の三姫と呼ばれる最上級の妓女だ。

 幼少期の猫猫は三姫に育てられており、三姫の一人である女華も猫猫の育ての親である。

 妓女の身でありながら四書五経を諳んじることができるという才媛である彼女は事あるごとに猫猫に学をつけようと面倒を見てきた。

 残念ながら薬以外に対する興味が薄く、熱心に教えられても女華が満足するほど覚えられなかったのだが。

 

 王母の伝承は誰もが聴いたことのある昔話だ。猫猫も幼い頃に読み聞かせられた。

 猫猫としては王母といえば暗視能力であり未来視ではないのだが、まぁ伝説の人物だ、脚色されたり同じ眼にまつわる能力として結びつけるのも理解できないわけではない。

 

「噂の天女さまが誰かってわかってる?」

 

「ううん。この人だ! っていう人はいないみたい」

 

「えぇ? じゃあ噂話の出所はどこなのさ」

 

 興味本位だった。

 自分に箔を付けるためにとんでもない嘘をつく女はいる。この噂もそれだと思って聞いてみたのだが該当者がいないと来た。そうなるとどこから広がった話なのか気になる。もしかしたら自然に噂になるほど予想が上手い、つまり目を見張るほどの教養のある女性が本当にいるかもしれない。

 そうだとしたら猫猫も少し興味があった。

 

「又聞きになるんだけど、話を聞いた宦官は確か軍部で流行ってるって言ってたかな?」

 

「……そ」

 

 聞かなきゃよかったと少し後悔した。

 

「猫猫大丈夫? 凄い顔だけど」

 

「ごめん、大丈夫」

 

 意識していなかったがそういえば後宮は花街よりもずっと軍部のある外廷に近かった。

 猫猫が心底毛嫌いをするあの片眼鏡(モノクル)おっさん(軍師)が女の園に入れるわけがないので安全そのものなのだが、今までより近い距離にいると思うと顔が歪む。

 

「あーあ。天女さまがいるなら呪いを払ってくれないかなぁ」

 

 小蘭は机にべったりとくっつきながらそういった。

 

「呪い?」

 

「猫猫知らないの? お世継ぎの連続死の噂! 絶対呪いだよぉ」

 

 小蘭がこのように頭を下げていたのは呪いに対する恐れからだったらしい。

 話を聞くに東宮と公主のどちらもが弱っていっているとか。

 それだけにとどまらず梨花妃の体調も良くないと来た。

 腹痛と吐き気、これだけでは分からないが猫猫にはいくつか心当たりがある。

 

(呪いねぇ)

 

 正直くだらないと思った。

 天女の噂もそうだが理解の出来ないことは超常現象(オカルト)のせいにされがちだ。猫猫にはあまり理解できないことであった。

 にしても小蘭のこの怯えようは気になる所である。

 

「だって呪いをかけていてもおかしくない人がいるんだもん」

 

「誰?」

 

「ほら、前猫猫にも話した」

 

 そう言われて思い出した。

 二人で洗い物をしているときに周囲がざわついたことがあった。

 その騒動の中心は通りがかった綺麗なお妃様だった。長い黒髪に豊かな体が特徴だったのをよく覚えている。

 猫猫はその妃に少し苦手意識があった。初めてみたその時に目が合ったのだ。扇で口元はわからなかったが確かに猫猫を見ていた。

 

(怖かったなぁ。目を付けられたかと思った)

 

 猫猫の何がその妃の琴線に触れたのかわからないが、ねっとりとした視線には命の危険を感じた。

 その時に後宮では有名な妃なのだと小蘭に聞いた。

 

「確か名前は──」

 

「魅音妃」

 

 猫猫でも小蘭でもない女の声だ。

 いつの間にか椅子に座る猫猫の横に立っていて、そのまま続けた。

 

玉葉(ギョクヨウ)妃、梨花(リファ)妃と三つ巴を形成する寵妃の一人。

 高慢ちきでいけ好かない悪女。

 帝を堕落させる傾国の阿婆擦れ。

 上級妃二人が孕んでいる間最も寵を授かったにも関わらず実を結ばない石女(うまずめ)

 いやはや、口さがない者どもは言いたい放題だよね」

 

 唐突に話に混じって長々と喋る女官を誰だ、という風に猫猫は顔を上げて見た。

 

(結構背が高いな)

 

 着ているものから推察するに猫猫と同じ尚服の下女であるその女官はおおよそ五尺(153㎝)と小柄な猫猫よりも頭半分くらい大きい。五尺六寸(170㎝)ないくらいだろうか。

 体型は細身でも豊満でもなく中肉だ。

 

「私は玲玲(リンリン)。いきなりこんなに喋ってごめんね。私噂話が好きでさぁ二人が興味深い話してたから居ても立ってもいられなくて。相席いいかな?」

 

「どうぞ」

 

 猫猫が返事をするとその女官、玲玲は猫猫の隣に座った。

 動作と共にふわりと品の良い香りがした。高値の香ではないが下女でこれを纏っているのは珍しい。どこかの妃の部屋付きだろうか。

 

 猫猫は玲玲の顔をまじまじと観察する。

 この顔つきは北の方の生まれか。垂れ目がちで大きな目は柔和な印象を受ける。

 

(綺麗な目だな)

 

 赤っぽい琥珀色の瞳はあまり見ない。それもころころと色が変わる。

 暗い所では黒っぽく、明るい所では赤色が目立つ。

 

(なんか違和感があるな)

 

 顔の部品(パーツ)の一つ一つは一級品であるのに、没個性な印象を受ける。

 再び目を凝らしてみてみるとその理由が分かった。

 

 わざと相貌をくすませる化粧を施しているのだ。

 花街育ちで化粧に詳しい猫猫だから気づいたのだろう。

 

 おかしな話だと思う。

 例え下女だとしても、類稀な美貌があれば帝に見初められ出世もあり得るのが後宮という場所だ。

 この化粧を落とした玲玲なら可能性は大いにありそうなのだが。

 

(私が言えた話ではないか)

 

 上昇志向が無いのなら美貌なんてあっても邪魔なだけだ。女が集まる場所はどうしても陰湿な本性が出てくる。それに巻き込まれないように穏やかに過ごしたいという気持ちはよくわかる。

 猫猫だって雀斑(そばかす)を入れている。

 

(まぁ持っているものが違うけど)

 

 猫猫は己を卑下する。猫猫だって雀斑を消して化粧をすれば見違えるというのに。妓楼で育ち三姫をはじめとした美女を見慣れているから自己評価が低いのかもしれない。

 

(似合う化粧をしてやれば一廉の美女になるだろうに……は?)

 

 目立ちたくないのだろうという意図をくみ取りつつも、勿体ないと頭の中で玲玲を着飾らせた猫猫だが総毛立つような感覚に襲われる。

 その優しそうな目尻に紅を差して目元に力強さを与えてやると以前目の合った噂の魅音妃にそっくりではないか。

 

(いやいやそんなわけが)

 

 妃、それも寵妃が供もつけずに小汚い服を着てこんなところにいるわけがない。

 猫猫は思いついたことを全力で否定した。

 それに玲玲の手を見てやれば違うことはわかる。

 

 綺麗な手をしているが、立派な筆だこがある。蝶よ花よと育てられるお嬢様には似つかわしくない。

 しかし下女としても変である。ここまで年季の入った筆だこなら読み書きができないわけがないし、それどころか相当な教養があるに違いない。

 下女なんてせずに侍女、いや、外廷で官女として働いているべきだろう。

 

(ま、人それぞれか)

 

 皆様々な理由を抱えているものだ。どうして下女をやっているのかわからない奇妙な女でも、実は妃です、なんていうよりは現実的である。

 

「私の顔に何かついてる?」

 

 じっと見つめすぎたようだ。

 玲玲は困ったように眉を下げていた。

 

「いや、見ない顔だなぁって思って」

 

 咄嗟にそれっぽいことを言う。

 

「あぁそっか、初対面だもんね。名前教えてもらってもいいかな」

 

「はい! 私小蘭。そっちは猫猫。玲玲よろしくね」

 

「小蘭に猫猫ね。よろしく」

 

 互いに自己紹介を済ます。

 親しみのしやすさはやはり妃っぽくはない。猫猫の思い違いだったのだ。

 

「ちょっと前から話は聞かせてもらってたんだけどさ、猫猫は呪いを信じてないの?」

 

「まぁ、うん」

 

 呪いなんてものは後付けなことが多い。

 知らず知らずに毒を食んでいたとか、咳が止まらないと主張した者の家の床下には(かび)がびっしりと繁茂していたりだとか。

 そういう気づかなかった、知らなかったことに対する不安から逃れるために敵をでっち上げて攻撃しようとするのだ。それが呪いの正体なのだと思う。

 

 噂と呪いと現実の話で盛り上がった。

 

「猫猫は物知りだねぇ」

 

 感心する小蘭の声を遮るようにごぉんと時の鐘が鳴った。正午の知らせだ。

 小蘭の背筋が伸びる。

 

「もうこんな時間! 私いかなきゃ」

 

 おしゃべりに夢中で随分と時が過ぎてしまっていたようだ。

 小蘭は食べきれなかった分を小さな口に掻き込むと机に両手を叩きつけるように立ち上がる。

 

「猫猫またね! 玲玲も今度ゆっくりはなそ!」

 

「うん、また明日」

 

「お仕事頑張ってね」

 

 無邪気に大手を振って去る小蘭を見送った。

 猫猫は隣に座る玲玲に目をやる。

 

(二人きりになってしまった)

 

 小さく手を振る玲玲は様になっている。

 品というものは隠しきれるものではない。

 

 改めて普通じゃないと思った。

 だが猫猫は関わらないことに決めた。

 興味本位で正体を暴いて蛇が出てきたら困る。猫猫は何事もなく過ごしたいのだ。

 養父から好奇心は猫を殺すということわざが西方にあると聞いたこともある。

 

「じゃあ私も仕事に戻ろうかな」

 

「あ、そっか。いってらっしゃい」

 

 猫猫も席を立った。

 心底名残惜しそうな玲玲と別れる。

 

(ほんと変な人だったなぁ)

 

 猫猫は奇妙な出会いを振り返る。

 

『猫猫は呪いを信じていないの?』

 

 玲玲が言った言葉だ。猫猫には玲玲こそ呪いを信じていないように思えた。

 噂話が好きと言っていたがその目は笑っていなかった。猫猫と同じように現実主義なのだろう。

 

(呪いでないなら毒か、病か)

 

 興味を惹かれてしまった。猫猫は推理を始める。

 腹痛と吐き気と衰弱、女の園に混入しそうなのは鉛白入りの白粉だろうか。

 しかし全く情報が足りなかった。

 

(気になってしまうじゃないか)

 

 猫猫は水晶宮の方角へと足先を向けた。

 この目で確かめるほかない。

 推理に夢中になって自分の世界に入る猫猫には後をつける女に気づけなかった。

 

 

 

 * * *

 

 

 その日の晩、魅音は真っ黒な外套を羽織って己の棟を抜け出していた。

 月明かりすらない真っ暗闇だ。深夜で人の通りは無く、巡回する宦官にさえ見つからなければいい。

 

 魅音は目的地である水晶宮に着く。そしてその庭に侵入した。

 

石楠花(シャクナゲ)の枝に警告の書かれた布、これだな)

 

 石楠花の花言葉は「危険」。猫猫のささやかな正義感は手で払われて土を被っていた。

 

 魅音は食堂で猫猫を見送った後のことを思い出す。

 人一倍好奇心の強い猫猫だ。案の定水晶宮へ向かい玉葉妃と梨花妃の衝突に鉢合わせた。

 

 尾行していた魅音は顎に指を置く猫猫にこっそりと近づいた。

 猫猫は集中すると周りが見えなくなってしまうらしい。小さな声で考えていることを零しつつ、それが聞こえる範囲にいる魅音に気づくことは無かった。

 

(まさかまた化粧だとは思ってなかったな……)

 

 毒はまたもや化粧だったらしい。

 痩せこけ以前の美貌は姿もなく、精神が不安定になった梨花妃の肌には部分的にある白粉が塗られていた。独特な光沢がその特徴なのだという。

 また同じような光沢をもつ紅も毒であった。

 煌めくような口紅だったが、その唇は荒れに荒れていた。

 

 魅音は石楠花の枝を拾い上げた。

 気位の高い水晶宮の侍女たちの事だ。貧相な布を見て中を確かめもせず払ったのだろう。

 いや、読んだとて戯言と捨ておいたかもしれない。

 

(ま、傲慢な若い子たちを動かすなら脅すしかないよねぇ)

 

 魅音は悪い表情を浮かべて胸元から十数枚の紙を取り出すと、次々と括り付けていく。

 魅音は第一容疑者だ。疑いの目が寄せられており梨花妃の前に顔を出すことなんてできなかった。直接警告するなんてもってのほかだ。

 だから猫猫のとった方法に倣うことにした。タダ乗りともいう。

 木の枝や欄干の手すり、窓の格子など目につきそうなところに取り付けた。

 

 これだけ用意すれば翌朝誰かしらの目に留まるだろう。悲鳴を添えて。

 

 その様子を想像する魅音は満足げだ。

 

(今まで散々うちの子たちをいびってくれたからねぇ)

 

 多少意趣返しの意図があることは否定しない。

 

 目的を完遂した魅音は再び闇夜に紛れる。

 

 びゅうと強い風が吹いて結ばれていた紙のうち一つがほどけて飛ばされる。

 

『化粧品を一新せよ。さもなくば更なる呪いが降りかかるだろう』

 

 多少と言っていたが魅音の恨みは深そうだった……。




当初の予定通りにいかなったので短編とは違う展開になってしまいました。
ですのであらすじの
【同作者名でハーメルンに投稿した短編『ここはきっと特等席』に繋がるお話です。】
の部分を削除しました。
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