TS転生傾城妃は諦めた   作:青すぎる空は目が痛い

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03 聖地巡礼!?一生恨みますお父様

 周商会は考えていた以上に大規模な組織だったらしい。領主が所有する鉱山から出土する宝石、貴金属を買い取る許可が直接下されており、それをお抱えの職人の手で装飾品(アクセサリー)に加工し茘国の幅広い地域で売りさばいているのだ。

 

 どうりで裕福なわけだ、三歳の元旦の贈り物(プレゼント)に特大の翡翠の腕輪など正気かと思っていたが自前の物だったのならば理解できる。もっとも、今でも幼児に贈るものではないだろうと思う。娘の喜ぶ姿を想像していた父に当時の俺は蛞蝓でも見るような眼を返してしまったらしく、それ以降は加減を覚えてくれたのだが、この出来事は父にとって相当な心の傷(トラウマ)になったようで時折魘されてるとか無いとか。全く父親とは可哀そうな生き物である。

 

 話を戻そう。あの日から四年、十になった美玲(メイリン)は父の期待を大きく超えて知識を蓄え、過去の売買記録に触ることも許されるようになるなど順調に階段を上っていた。

 その頃から美玲は父の遠征に見習いとしてついていくようになる。頭角を現し始めていた美玲は商会でも注目されており、その空気は長たる父でも無視できるものではなくなっていた、その上ダメ押しの娘のおねだりが炸裂された。最後まで渋っていたものの子煩悩な父親に勝算などあるわけがなかった。

 

 * * *

 

 まさに東奔西走。美玲は西は西都、南は都まで頻繁に移動しまた一層忙しくしているのだった。

 最初こそ酷く揺れる牛車や慣れぬ長旅に弱音を吐いたものだが一度目的地についてみれば疲れなど吹き飛ぶのだ。今まで書物の文字としてしか知らなかった外の世界の空気、各地気候に合わせた建築や服装に現地の人々との交流(コミュニケーション)。そのすべてが美玲の脳を刺激し、ますます研鑽に打ち込むようになる。

 経験が彼女の一線を越えさせたのだろう。己の世界を広げた美玲は羽化する蝶のようにあっという間に変貌し、いつでも羽ばたかんと成長していた。

 

 

 春、ガタゴトとゆられながら都と向かっている牛車の車箱には十三歳になった美玲が座っていた。

 十三と侮ることなかれ。元より早熟だった彼女は既に華と称されるような女性(にょしょう)に両足を突っ込んでいた。軽く紅など添えてやれば幼さの残る美貌も反転し、男を誘う甘い芳香の薔薇(ソウビ)にだってなるだろう。その姿になると実年齢を当てられる者などいなかった。

 そんな美玲はこれまでになく真剣な顔をしていた。いつもの彼女ならば小窓を覗きながら鼻歌でも囀っていただろう。

 それには理由があった。美玲は片目で隣に座す父を覗きながら出立の直前に交わした会話を思い出す。

 

 いつもの執務室。しかし都への遠征が計画されているがゆえに父娘共に忙しくしていた。その様子を見てだろう、父の補佐役が茶を用意してくれた。この一連の流れはお決まりとなっており、仕事中でもその時だけ親子に戻る。大体他愛のない話でひと時の団欒を楽しみまた仕事に帰る。その空気が美玲は好きだったのだがその日は少しばかり雰囲気が違っていた。

 

 美玲の瞳と仕事人としての父の瞳がガチリと合い、父がゆっくりと口を開く。

 

 「美玲、お前にはいつも驚かされる。幼かったあの時、厳しいことを言ったかと思ったがそれ以上の傑物となってくれた」

 

 湯呑をとり喉を濡らして続ける。

 

 「知ってるか?お前の背中を見て育った(ヤン)も本の虫だ。姉のようになりたいのだといっていたぞ」

 

 「商売にも興味があるらしくてな、少し見てやっているが確かな才能がある。そのなんだ、もう後継者に悩むこともなくなった。後顧の憂いが絶たれたのだ。それにお前はよく頑張ってくれた、すでに私の右腕だよ。だから、お前の自由を認めようと思う」

 

 長年待った言葉だった。思わず抱き着こうとするが父は手を上げ静止を促す。

 

 「しかし!最後に試練を与える。いいな?」

 

 二つ返事だった。断るわけがない。

 

 「はい、どんな苦難だとしてもこの美玲乗り越えて見せましょう!」

 

* * *

 

 ―で、その試練が今回の遠征の商談で決して商人の仮面を外すな、ですか。

 

 随分と温い試練だ。そんなことはとっくに習熟している。おそらくこれは区切りとしての形だけの試練なのだろう。そんな不器用なところに親心を感じて胸が温かくなる。

 そうだ、聞き損ねていたことがあったのだった。

 

 「ところでお父様。今回の相手はどちらでしょう?」

 

 「おっと、言って無かったか。緑青館だ。花街の娼館だから美玲は初めての顔のはずだ」

 

 そこの婆がなかなかの曲者でなぁと続けているが美玲の耳にはもう入っていない。

 

 

 (緑青館だって!?嘘だろよりによってこのタイミングで聖地!?)

 

 簡単なはずだった試練はその時(美玲にとってのみ)月狂いの難易度(ルナティックモード)となり果てたのだった。

 

* * *

 

 七日七晩かけて都に到着し一泊する。

 

 ―朝

 

 昨日の今日で息つく間もなく緑青館での商談なのだという。

 ふうと息をはきながら己の纏う衣と疲れのせいで重い体を引きずりながら目的地へと向かう馬車に乗り込む。

 美玲は貴重な朝の一刻(二時間)を使い美しく着飾っていた。淡い桃色の大袖を着こなし、瞳と同じ色の紅宝石(ルビー)の目立つ簪を挿す。これは美玲が同行するようになってからよく使う手法だった。己の美貌を使って商品(アクセ)を売り込むのだ。

 

 薄く化粧をしているため実際にはしないのだが、パンパンと両頬をはたく姿を想像して気合を入れる。

 

 「さあ、この先は戦場だ」

 

* * *

 

 その決意は容易く崩れ去ろうとしていた。

 

 手を引かれ馬車を降りると化粧と香と女の匂いとともに緑青館の立派な門が目に入ったのだ。彼女が彼だった時、小説を読みながら想像し、アニメで見たまんまの建物がそこにあった。

 

 乱れる歩法を誤魔化しながら父と門をくぐるとそこには禿がいた。

 

 「周さまですね、お待ちしておりました。客間までご案内いたします」

 

 禿に導かれ戸を跨ぐ。そこはまるで別世界だった。むせ返る性の空気に()てられた生娘である彼女は、いや前世合わせて純粋な美玲は頬を赤く染めないよう自分を律することに必死だった。もう余裕などなく聖地を楽しむなんて発想はない。

 

 「こちらでございます」

 

 禿の手によって扉が開けられるとそこには良く見知った顔のやり手婆がいた。

 

 そこから語ることはあまりない。商談は主に父が行うし、美玲の役割は人形(マネキン)だ。あえて挙げるとすればやり手婆にやたらと見られたことだろうか。凡そ妓女として見定められているのだろう。もっともこの場であのやり手婆が失礼なことを言う訳がないので想定の範疇である。彼女の精神は何とか持っていた。

 

 お互い満足のいく話し合いができたのだろう。ほくほくとした雰囲気でこのままお開きになると思ったのだがその時父が脈絡もなく切り出す。

 

 「そういえば前回こちらで買った軟膏。とても良かったんですよ。またいただいても?」

 

 「そういうと思ってましたよ。おい!猫猫を呼んできな」

 

 は?

 

 背に一筋冷たい汗が流れる。

 

 (ま、まずい。心を強く持たないと!)

 

 すこししてコンコンと扉をたたく音がしてガチャリと開く。

 

 「(ばあ)さん、急に呼び出してなんなんだよ」

 

 ぶっきらぼうだが紛れもなく猫猫の声だった。そばかすこそないがその大きな瞳と痩躯、左腕に巻かれた包帯は本物だった。

 

 ―いて!婆叩くなよ! ふん、言葉使いがなってないからさ。ほれ薬屋の客だ相手しな

 

 父と猫猫の会話を遠巻きに眺める、もう限界だった。

 

 「あ」

 

 猫猫の視線が前で組む美玲の手に注がれる。するとすたすたと近づいてきて猫猫の両手で美玲の手が持ち上げられる。

 

 「長旅の疲れでしょうね、少しささくれがあります。この羅門(ルォメン)印の軟膏はいかがでしょう。良く効きますよ」

 

 至近距離で猫猫の笑顔(ビジネススマイル)を受けた美玲にその後の記憶はない。気が付けば馬車に乗っており宿屋への帰り道だった。失格とされてないので粗相は無かったのだろう。

 試練が無事終わったことに安堵するも美玲の心には黒いもやが燻っていた。

 よりによってこうでなければ純粋に聖地を楽しめたというのに。

 気持ちの収まらない美玲は大人げない八つ当たりをすることに決めた。

 

 「そういえばお父様。詳しかったですけれども緑青館にはたびたびお通いで?」

 

 「え゛!?」

 

 父が百面相をしながら何度も弁解するが美玲は聞く耳を持たない。

 

 全く、理不尽である。

 

_______________________________

 

 猫猫はやり手婆とともに先ほどの二人組の見送りをしていた。

 

 金持ちで中年の醜男に美人な愛人ねぇ、ここじゃ珍しくないけど不釣り合いだな。

 

 _ごつ

 

 「いったいな、なんだよもう」

 

 「おまえさんがまた失礼なことを言うからだろ」

 

 どうやら声に出てしまっていたらしい

 

 「それにあれは愛人じゃないよ、十三になったばかりの娘なんだとさ」

 

 「十三〜!?嘘だろ、私の一つ下だってのか」

 

 猫猫は目線を下げ己の痩せた身体を見る。あの娘の豊かさとは天と地の差である。

 別に気にしているわけではないがついため息が出る。

 

 「この世ってやつは理不尽だなぁ」




最初の邂逅は苦い思い出に

お気に入り登録、感想、評価ありがとうございます。本作は自己満と特殊趣味を満たすために書き始めたものなので、たとえ誰の目に止まらなかったとしても良かったのですが、私が思っていた以上に同士がいるようで嬉しく思います。

数え年の概念をすっかり忘れており、致命的な矛盾が発生してたのでその場しのぎの修正をしました(24/3/8 23:42
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