TS転生傾城妃は諦めた   作:青すぎる空は目が痛い

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改稿版です(24/3/23)


05 脅しって良くないと思う

 四隅の蝋燭の暖かな灯りに頼った薄暗くて小さな小屋。それの内部は爽やかな香りの蒸気に満たさており、熱々で肩まで浸かれるほどにたっぷりの湯が溜められた箱風呂が鎮座している。

 

 「あああああ」

 

 女に夢を見る者が聞いたら耳を疑うようなおっさん臭い声を漏らす人影、美玲(メイリン)は只人には真似できない贅沢を謳歌していた。

 

 「私のためだけの一人っきりのお風呂。幸せだなぁ、あの日の疲れを忘れそう」

 

 とろけた表情の美玲は、桃色に染まった手で湯船に浮かぶ柑橘類の皮を弄びながらそう独りごちる。

 

 * * *

 

 体が温まってくると、つい考え事をしてしまう。

 

 結局、美玲は忘れるつもりだった先日の領主館での出来事を思い返していた。

 

 「後宮の妃になるってことは皇帝の、男のモノになるってことだよな」

 

 (後宮は絶対無いとして、私もいつか結婚するのだろうか……男と)

 

 彼女には二十年間彼として生きた記憶が先にあるわけで、性的対象は女性だと言えるだろう。実際何処か後ろめたくて大衆浴場が苦手だった。

 しかし、彼女には彼女として生きた十三年の記憶もあるのだ。男だった時の半分以上の年月、商人として己の美貌を最大限活用してきた。当然、常に男の眼に晒されたし、女性として扱われ続けていた。

 もう既に男としての意識と女としての意識の境界線は曖昧だ、どちらに傾くか自分では分からない。

 

 「まだ男よりだとは思うけど……」

 

 美玲は顔を上げ天井を仰ぎながら、そっと腹に手を添える。

 とっくに月の道は始まっている。女性として成長し続ける肉体は継続的に女を意識させてくるし、なんなら結婚のその先すら嫌でも想像させられる。

 

 試しに稚児(やや)を抱く自分の姿を思い浮かべてみるが、どうにもしっくりこない。

 美玲はふるふると頭を横に振ってその想像(イメージ)を振り払う。

 

 「今考えても仕方ないか。どうせこの先男だった時の何倍も生きるんだ。未来の私に任せよう」

 

 こちとら晩婚化社会からの転生者なのだ、たとえ行き遅れと言われるようになったとしても気にしない。

 猫猫と壬氏の行く末を近くで見守る。己の人生はその夢が叶ってからでいい。

 

 後回しにする形だとしても、悩み事が一つ整理された美玲は安心したのだろう。

 うつらうつらと船を漕ぎ、その心地よさに身を任せ微睡みの中へと落ちていった。

 

 その後、なかなか上がらない美玲を心配に思って見に来た母が、青い顔で湯船の縁にもたれかかる娘を発見して悲鳴を上げる。

 案の定風邪を引いた。当然の摂理である。

 

 * * *

 

 「健康な体って素晴らしい」

 

 美玲はんー!と長く横になっていたせいで凝り固まった体を伸ばしながら、今回得た一つの真理を口にする。

 

 「まさか完治に十日もかかるなんて。皆には心配かけちゃったな」

 

 そう、美玲は十日間も病床に伏せていた。たかが夏風邪、一日二日で治ると高をくくっていたのだが不運なことに悪化に悪化を重ねてしまったのだ。

 発熱による発汗と脱水、炎症を起こした喉は狭まり食べ物を通すのも一苦労。もし、栄養状態のよい健康的な肉体の持ち主である美玲でなければ一体全体どうなっていたことやら。

 

 闘病中に感じた死の気配を思い出したのだろう。気の進まない様子で机の上に置かれた薬包を手に取り目の高さまで持ち上げる。そのまま暫く動きがなかったが深呼吸を繰り返しているうちに覚悟が決まったようだ。

 片手で鼻をつまみ、大きく口を開けて舌の奥にその薬包の中身を全部乗せ、同じところにおいてあった茶で一気に流し込む。

 

 「うっ」

 

 えずく美玲は青い顔をして吐き出さないようにと両手で口を塞ぐ。

 

 かなり痩せてしまって体力の落ちた美玲を慮って用意された滋養強壮効果のある漢方薬(高級品)は、効果こそ確かなのだが想像を絶する不味さなのだ。

 

 「良薬口に苦しも限度があるでしょ……茶のおかわり貰いにいかないと」

 

 いつまでも残りそうな不快感に耐えかねて厨房へと向かう美玲であった。

 

 

 * * *

 

 口直しも済んだ彼女は、憑き物が落ちたかのように晴れやかな顔をして庭を目指して歩いていた。ずっと引きこもっていたのだ、陽の光が恋しくなったのだろう。

 歩き慣れた廊下を渡る。この仕切りを超えれば周家の居住区域ではなく従業員がせわしなく働く商館の玄関口の広場(エントランスホール)だ。

 人の前で気の抜けた顔はできない。左右の指を交互に組み、手のひらを天に向けて体を伸ばす。その形のまま左に右に傾けると病床で伏せていて固まっていた体がポキポキと小気味の良い音を鳴らす。

 よし、と瞑っていた眼を開けた美玲の顔はいつものように微笑を装備している。

 準備のできた美玲は商館に一歩足を踏み出す。

 そこまでくれば目的の庭まではすぐそこなのだが、どうも若い従業員の男が美玲の事を待っていたようで声をかけられた。

 

 「あ、お嬢様おはようございます。お元気になられたようで何よりです。病み上がりで申し訳ないのですがこの手紙が届いておりまして」

 

 やけに困った様子の彼はそういって手渡してくる。

 それを見た途端にあの胡散臭い男の顔を思い出して美玲の眉間にしわが寄った。

 真っ白で上等な紙に印付きだ。先日同じような手紙を見たところなので送り主が非常にわかりやすい。

 となると美玲も勝手に読んでいいものではない。

 

 「私の手には余るものだと思いますけれど、お父様は……」

 

 そこまで言って美玲は思い出す。

 

 (西方に向かったばかりじゃないか!どうしよう二月(ふたつき)は帰ってこない)

 

 「仕方ないわ、不在のお詫び状をしたためます。早馬の準備をしてくれる?」

 

 父と共に飛び回っていた美玲自身が対応することは少なかったがこういうことはよくある。

 仕事仕様に気分を切り替えた美玲は端的に指示をして己は物を書きに執務室に向かおうとするのだが、またしてもその彼に引き留められる。

 

 「あの、それ宛先がお嬢様なんです」

 

 「え?」

 

 美玲は驚きで間抜けな声を漏らしながら書簡を裏返す。

 そこには間違いなく(シュー)小龍(シャオロン)という領主の名と自分の名前が並んでいた。

 

 全身が粟立つような悪寒に襲われた美玲は病み上がりだったこともあってふらりと気を失った。

 

* * *

 

 ──まだ一月もたってないのにまたここにきてしまった。

 

 美玲は物の少ない応接室で領主を座って待っていた。

 

 いづれ家を出る彼女は、周商会にとって最大重要事項である領主との取引は一切関わらせてもらえなかった。そのため先日の定例報告が十三年生きてきて初めての領主館の訪問であり、もう二度と訪れることは無いと思っていた。

 

 呼ばれた理由は正直一つしか思いつかない。

 

 (まさか諦めていなかっただなんて)

 

 どうすれば角が立たずに断れるだろうか、そもそも断ることなんてできるのだろうか。

 前世含めて今が一番胃がきりきりと痛む。

 それに父が不在中に召喚するなんて、狙ったのだろうか。ねちっこい性格が行動一つ一つに出てるな……。

 

 不安を誤魔化すように心の中で領主の悪口を並べていると戸の向こうから足音が聞こえた。

 美玲は立ち上がり拱手をしてその男の到着を待つ。

 

 「やあやあ先日ぶりだね、楽にしてよ」

 

 長身痩躯に狐目の胡散臭い男、領主(シュー)小龍(シャオロン)その人だ。

 男は挨拶も適当にさっさと長椅子に座り持ち込んだ書類を裏面にして脇に置くと、机を挟んでもう一つある長椅子に座るよう美玲に促した。

 

 「さて、君を呼んだ理由は……その不安そうな顔を見ればわかっているようだね」

 

 細い眼をさらに細くしてにやにやと笑う。

 

 「あの!養女になるという話はどうか……」

 

 つい焦って断りの言葉を言おうとするが小龍に片手で制される。

 美玲はやってしまったと顔を青くしたが彼は気にしない様子で話し始める。

 

 「君の考えている通り、私は君を養女にすることが諦められなくてね。でも雲嵐のあの拒絶っぷりを覚えているかい?私に逆らうなんてありえないのに、あんなふうに言い返したんだ。正気な覚悟じゃない。無理矢理私の物にしようものなら血が流れていたよ」

 

 やれやれというようにため息をするが、言っていることは恐ろしい。

 血が流れるのは片方だけだろう、どっちが?なんて考えるまでもない。

 

 「私としては強制するのは好ましくない。そこでちょっとした条件をつけよう。私がこれからする話を聞いてくれたのならば断わることを赦そう。本来は命令もできるんだ、このくらいの遊戯はいいだろう?」

 

 男には余裕があふれている。自信があるのだ、どれだけ性格の悪い策なのか想像がつかない。

 この狐のように狡猾な男に私が敵うのだろうか、美玲にはこの先が奈落に思えて仕方が無かったが彼の話に乗らない選択肢は用意されていなかった。

 

 「わかりました。お話しください」

 

 

* * *

 

 「まずはこれに名前(サイン)と血印をもらえるかな。これから話すことは門外不出でね、基本的に私しか知らないことだ。漏れると大変まずい」

 

 そういって一枚の紙と剃刀を美玲の前に置く。

 こんなものを書かされるほどの厄ネタだとは思ってなかった美玲の胃がまた一層縮こまる。

 早くも後悔するが、書かねば問答無用で養女行きなのだから酷い。 

 

 

 躊躇いながら契約を果たした美玲を見て小龍(シャオロン)は満足そうに眼鏡の位置を片手で正して話し始める。

 

 「長くなるけど気になることがあれば何時でも止めていいからね」

 

 少し声色が低くなった。

 なんとなく雰囲気が変わった気がして自然と背筋が伸びる。

 

 「ここ、北峰(ホクホウ)州は未曾有の危機に晒されている。いくら試算してもうちだけでは乗り越えられそうになくてね、中央に協力を要請したいが(うち)には敵が多くて(まつりごと)の発言権が無いに等しい。で、手っ取り早い方法が寵妃の父という称号だよ。計画(プラン)の一つに過ぎないけど君ならあり得ると思うんだよね」

 

 さぁ質問をどうぞと促されるが、あまりの情報量に美玲の脳は沸騰寸前である。

 とりあえず頭から聞いていくことにした。

 

 「その、未曾有の危機とやらは何なのでしょうか?」

 

 小龍は持ち込んでいた書類を美玲に手渡す。

 なかなか年季の入った物だ。

 

 「美玲君これを読んでもらえるかい?」

 

 渡されたのは禁の印が押された書だった。

 ぺらりと一頁捲るとそこにはアラビア数字が並んでいる。

 

 「あぁ、それはうんと西方から導入した数字でね。法則は端に書いてあるからそれを使ってくれ」

 

 今生で初めて見たアラビア数字にも驚きだが、その内容に思わず口が開いてしまう。

 

 大体三十年分の気温の記録だった。

 聞けば領主直々に記録しているものらしい。

 それには年々平均気温が下がっていることが記されていた。これは十三年しか生きていない美玲にも体感していたことなので信憑性がありそうだ。

 美玲はもう一頁捲る。そこにはこう書かれていた。

 

 「大寒波……?」

 

 待っていましたと言わんばかりに小龍が説明を始める。

 

 「150年前に北峰州全域を襲ったと言われる大雪のことだよ。住んでる人が少なかった上に殆どが生き残ることができなかったみたいでね。記憶はもちろん記録も僅かにしか残っていない」

 

 この気温記録と大寒波の情報、そして転生者としての知識が話を繋げる。

 

 「まさか、それがまた起こるというのですか」

 

 「近い内に、私はそう睨んでいるよ。その150年前も徐々に気温が下がっていたみたいだしね。荒唐無稽な話だが政敵に漏れると不味いからおいそれと他人には話せないんだ」

 

 君は私と同じく危機感を覚えてくれるみたいで助かるよ。

 

 まるで同類だと言わんばかりの言葉に鳥肌が立った。

 つい領主の前で左腕を摩ってしまう。

 

 「それで、大寒波が北峰州を襲った場合、具体的にどうなるのですか」

 

 美玲は真剣な面持ちで聞く。家族にも関係する話だ。

 

 「最悪の場合を言おうか、端的に言うと食料と燃料の奪い合いで秩序が崩壊する。すべての道は数ヶ月にわたって雪で封鎖されて領民だけでは開通など不可能だろうね」

 

 あまりにも絶望的な予測だ。

 北峰州は食料自給率がそれほど高くない、それに彫金の燃料用に周囲の木々を伐採している。

 もし、急激に需要が高まりなどすれば経済が泡のように弾けるのは想像に容易い。

 そこで美玲はある噂を思い出した。

 

 「溜め込み領主という異名の理由はその対策の為ですか」

 

 「ん?あぁ、噂では私腹を肥やして民に還元しない領主なんて言われているんだっけ。君の言う通りもしもの時に備えての備蓄だね。もっとも幾ら貯めても1年分にすら届きそうにないけど。お陰で経済が滞りがちで困るよ」

 

 いつも美玲に見せる人を馬鹿にしたような軽薄な雰囲気に反して、心の底から領民の為に身を削って働くこの男がますますわからなくなる。

 それはそれとして美玲は小龍から向けられる期待の大きさを理解する。数万の命を背負えということだ。だからこそ言いたいことがある。

 

 「そんな大事なことを、私が帝の寵妃になるなんて天変地異が起きてもあり得ないことに託すなんて頭を打ちましたか」

 

 あまりにも希望的観測に塗れて杜撰な計画だ。

 

 「私もそんな都合よく行くとは思ってないよ。でも僅かだとしても可能性がある。それは一割にも満たないだろうが北峰州が救われる未来を秘めている。それが君の価値だ」

 

 眩い美貌に成長途中にもかかわらず豊かな肢体。これだけでお釣りが来るが、傲慢さも野心もない為小龍としては扱いやすい。魑魅魍魎が跋扈する後宮を生き抜く教育が必要だが頭もいい、短期間で習得できるだろう。これ以上無い人材だった。

 

 美玲は一割足らず……?と複雑な気持ちだった。

 たかがその程度の期待値で私は人生を強制されるのかという感情的な自分と、私一人ですべてが解決するならば賭けない理由がない勝率だと自己をかなぐり捨てて客観的に受け入れる自分がせめぎ合う。

 しかし、胡散臭い男に無理矢理手渡された、掌の上の家族を含む万を超える命を見なかったことにして拳を握ることなど美玲にはできなかった。

 

 やはりこの男は卑怯でクズだ。小龍のしていることは家族を、沢山の人の命を使っての脅しだ。

 あまりにもずるい。

 だが小龍は美玲の事を計画の一つといった。他にも解決策があるということだろう。

 それ次第で美玲は不必要なのではないか、少し期待して質問する。

 

 「大寒波の書類を読む限り危険性に気づいたのは十五年前ですよね?そこから今までは何をしていたのですか?目途が立っているのでは?」

 

 無礼にも棘のある言い方をする。憎たらしいほどに上機嫌な男に対する嫌がらせだ。しかし、気にならないほどいいらしく嫌味を無視される。

  

 「もちろん、動いてるとも。私はここを離れられないから、私が選別した優秀な男を官として送り出しているよ。だがとにかく妨害が酷い、近年は落ち着きつつあるけれどそれでも間に合うかどうか……」

 

 「あの、よくわかりません。どうしてそれほど嫌われているのですか?」

 

 小龍にとっては頭の痛い話のようで、目頭を押さえながら天を仰ぐ。

 珍しく少し考え込んだ後重々しく語り始めた。

 

 「今から話すことは徐家の恥部だ、口外無用だよ」

 

 その異質な気配にたじろぎ、美玲は反射で頷いてしまった。

 

 「三十年前の徐家は保有する鉱山から生み出される富を用いて中央でかなりの影響力を持って居た。だが我が物顔で幅を利かすその姿は褒められたものではなくてね、今の嫌がらせの殆どはこれが理由だ」

 

 北峰州に金でどうにでもできたという過去があったとは信じられない。想像できないくらい鉱物が湧いて出ていたのか、それとも貴重価値が今よりもずっと高かったのか。

 

 「大量の奴隷を使っていたんだよ。劣悪な環境で使い捨ての労働力だ、今とは比べ物にならない効率で採掘がおこなわれたのさ」

 

 予想とはかけ離れた非道だった。

 あまりに非人道的な行為である。

 美玲には受け入れられないことだったがこの国では奴隷の存在は認められている。

 己の価値だけ働くなり年季が明けるなりで臣民に戻れる制度だが、小龍の言い方だと坑道でどれほどの地獄が広がっていたか想像もつかない。

 

 「やりすぎた徐家は女帝に目をつけられてしまったんだよ。未遂で済んだけど汚職にすらも手を染めようとしていたし、いつ反逆罪を取られて滅されるかわからなかった。だけどそうはならなかった出来事が起こるんだ」

 

 「今から二十五年前、私が元服を果たした年の一族の集まりでそれは起こった。私の父をはじめとした一族の高官全てが遅効性(・・・)の毒を呷ってくたばったのさ。そして奇跡的に生き残った私が家督を継ぎ、田舎に引きこもって政に不干渉な姿勢を示し続けたことで見逃されたんだよ」

 

 悪事が実行されていたら今は無かったからね、何年も生きた心地がしなかったよ。

 はははと軽やかな声を上げて笑う小龍であるが、思い出したくもないことだったのだろう汗が滲んでいる。

 

 美玲はそんな過去は知らなかった。実家にも三十年前の金の動きが記録になかったことから、北峰州では徹底的にもみ消したのだろう。

 

 「そういうわけで、昔の徐を知ってるお偉いさんたちにとにかく警戒されていてね。特に女帝の懐刀、子の古狸に睨まれていて動きにくいったらありゃしない」

 

 とはいえ時の流れによる忘却と今上陛下の御世になったことによる勢力図の変化によってここ三年は順調なのだという。

 

 小龍の昔話が終わる。もう結末は分かっているが美玲は改めて聞く。

 

 「……領主さまの計画が実るのはいつごろでしょうか」

 

 「極限まで犠牲者を減らそうとすれば最低でも十年はかかるだろうね」

 

 北峰州全域を救おうとすれば途方もない金と人が必要だ。十年というのも嘘ではないだろうし何なら倍の時間が必要な可能性もある。

 

 「もし……私なら?」

 

 「最短で三年だ」

 

 今までで最も嫌悪感を感じる、悪意のない笑顔だった。

 

 「持ち帰らせてください……」

 

* * *

 

 外はもう傾き始めている。帰るころには陽が沈むだろう。

 

 馬車に揺られる美玲の夕日に照らされた横顔は無表情だった。




大寒波やら150年やらはこう、なんとなーくで流してください


《Tips》
徐家の保有する鉱山が喉から手が出るほど欲しい輩は掃いて捨てるほどいる。
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