ダミアン君は詰んでいる 作:ちゃっぱ
ダミーと名乗った子供から聞こえてきた声にアーニャは内心で首を傾けた。
『ヨル・フォージャーは俺をターゲットにしないと思うが、いや……ガーデンの任務次第によっては俺が殺される可能性があるな。ロイド・フォージャーは論外。あの人のターゲットこそ俺の父親だし』
(ちちのたーげっと?)
母たるヨル・フォージャーと世間話のように仲良く喋るダミーと名乗った少年は、大人顔負けに賢そうだった。
実は彼の名前はダミーではなくダミアン・デズモンドであり、現時点で父の任務対象たるドノバン・デズモンドの次男ということ。今はロイドに会いたくはないけど、いつかは会うから覚悟を決めなきゃいけないこと。
そういう声が聞こえてきたのだ。
アーニャではなくロイドがこの心の声を聞いていたのなら、彼ならきっと「なぜそれを知っている? まさか情報が漏れたのか?」とかいろいろ疑念に感じ警戒するだろう。
しかしアーニャは根が素直な子だ。ダミアン・デズモンドが言った言葉をそのまま受け取り、警戒もなく近づくことにしたのだ。父の任務のため。
(こいつとなかよくすれば、せかいがへいわになる!)
「アーニャ。おまえとなかよくしたい!」
「ああ、いいぜ」
両手を上げてそう言うと彼は微笑む。
ただその心の中は苦笑のような感情でいっぱいだったが。その意味が分からないためアーニャは彼の感情を受け流す。
「さっそくお友達が出来ましたね、アーニャさん!」
「うぃ」
『アーニャと二人っきりで話した方がいいか……いや、まだいいか……』
(こいつアーニャにはなしたがってる……)
「あの、もしもよろしければ娘さんとお話をしてもいいですか? この先同級生になるのなら仲良くしたいですし……」
「私は構いませんが、アーニャさんは……」
「はなしてやってもいい!」
『可愛いけどちょっと偉そうだな。上司か?』
ちょっとムッとする場面があったが、まあせっかくだからと自宅に上がらせてもらうことになったらしい。
アーニャの部屋に連れていかれたダミアンは、キメラさんを紹介された。微笑ましそうに自己紹介はしてくれたがやっぱり内心で苦笑ばかり。『良い家族だな』という寂しそうな声も聞こえてきた。
そうしてヨルが「今デザート持ってきますね!」と言って離れた瞬間を狙っていたのだろう。ダミアンがさっそくとばかりにアーニャに向き合った。
「アーニャ」
「なに?」
「お前、俺の心が読めるだろ?」
「っ────!!」
何故それを知っているのかとアーニャは顔を青ざめる。それに慌てたダミアンが心の中で全ての考えをぶちまけてくれた。
曰く、自分は前世の記憶を持っていること。ぼんやりとだがお前たちの事を知っていること。アーニャの事が必要なんだと。
「アーニャがひつよう?」
「ああ、そうだ」
『お前を兵器にしたいわけじゃねえし、強制的に別の人の心を読めってわけでもない。ただ俺は俺の命を守るために動きたい。お前だってそうだろ? デズモンド家を攻略したらロイド・フォージャーの任務は終わる。つまりフォージャー家はそれで解散になるかもしれねえんだ』
「っ……」
「俺はドノバン・デズモンドの息子だけど、家族として見られているわけじゃない。次男として受け入れられてるけどそれだけ。切り捨てられる可能性もあるんだ。だからある程度の立場を作りたい」
「うーん?」
「分からないならそれでいい。ただまあ……いわゆるあれだ。お前と一緒に暗躍しようぜってこと」
「あんにゃく?」
「あんやく。暗躍な。俺とスパイみたいなことしようぜって意味」
「すぱい!」
ニパッと笑った少女に優しく微笑んだダミアン。前世というからには精神年齢がかけ離れているせいだろうか。普通の女の子だったら初恋泥棒になっていただろうその顔にアーニャはときめかない。
なんせ彼が心の中で『おっしゃあ仲間ゲット後はロイド・フォージャーを攻略してミッションスタートだ!!』というまるで小躍りしているかのような声と、保護者かと思えるような優しい表情のギャップに思わず笑ってしまったから。
「とりあえず、よろしくな」
そう言った彼は、父のような嘘つきの気配がした。