ダミアン君は詰んでいる 作:ちゃっぱ
「……やるか」
これから本格的に『次男』として行動する。
しかし原作の次男としてでは駄目だ。
原作の次男は見るからにアーニャに惚れていた。
ツンデレ気質というべきか、友人ではないし仲良くしてるわけじゃないが切磋琢磨し、ある程度交流はしていて普通の人より近い距離にいたはず。
ダミーとして交流している俺がそんな『次男』を演じようものなら、かの黄昏に「いったいどうしたんだ? 喧嘩でもしたのか?」程度にしか思われないはずだ。
ハイリスクとなろうがダミーとしてアーニャと交流していたのは共犯者を作るため。
入学式初日にアーニャと話したらボロが出る可能性があったし、肝心のアーニャがまだ小学校入学前の幼女であることは確実なのだからあまり負担をかけたくなかったためである。
ダミーとして交流していたことを知られている以上、仲良し作戦がうまくいっていると思われてロイド・フォージャーにちょっかいを出される可能性がある。
それだけは確実に避けたい。
ロイド・フォージャーから時間を稼ぐために、俺は周りを遠ざける。
それで己の価値を高めて使える人間だと思わせ、そこから交流していけばいいんだ。
きっとその頃には父にも認められるはず。
「父上……」
まあ、そうなればいいんだけどな。
とにかく、生き残ることが大事だからな。頑張らなくては……!
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(おおー! これが……じなん! えんぎすごい!)
入学式で見たアーニャはまるでスパイが別人に変装しているときのような興奮を覚えた。
いつもであれば父たるロイドが変装しまくっているが、あちらは心の声が聞こえまくってるのでアーニャにとっては変装というよりものすごいコスプレした父という感じになっている。
もちろん黄昏としての変装能力がすごいことはアーニャもよく分かっているが、心の声のせいで演技してもバレるためアニメのような興奮を感じたことはない。
しかしダミアンはどうだろうか。
入学式からダミアンの心の声は二重に聞こえてきた。
────それは、ダミーとしてのこれからの作戦に対する心の声。
そして、演技している『次男』としての傲慢な声。
傲慢な声の方は、なんだか冷めているように感じた。
「だ、ダミアン様! 一緒にお話しでも────」
「……」
「ダミアン様ぁ! 首席で合格だなんて流石です! あの……ダミアンさま、僕たちとおはなし……」
「目障りだ。雑魚は消えろ」
────入学式でダミアンは誰ともつるまない。友達もいらないというような態度で接していた。
それを見ていたアーニャの隣にいたベッキーという子供が小さく鼻を鳴らす。
「なによアレ。クールに気取っちゃって」
「くーる」
ダミアンが突然冷たい眼をこちらへ向けた。
表面から見ると真顔の美人が近づいてくるような様子。妙な緊張感に包まれており、心の声も次男の方が強くなる。
(俺より格下ばかりか。つまらないな。女も無駄な話ばかり……)
「聞こえているぞ、ベッキー・ブラックベル」
「な、なによ」
「その軽々しい口を閉じろ。お前の家は立派だというのに子はガチョウのような鳴き声しかだせないのか?」
「はぁぁ!?」
キレたベッキーが勢いよく怒鳴り返そうとした時だった。
「喧しい。黙れ。鳴き声を出すな」
「っ────!」
一声でその場は支配されたようなもの。
命をも刈り取りそうな冷たい声に、ベッキーは泣き出す一歩手前だった。
先生はまだ気づいていないが、もし見ていたなら────その威圧感たるや、子供が出していいものではなかったと言うだろう。
アーニャを妹として甘やかすお兄ちゃんみたいな関係性となってるため、ダミアンが演技していることもわかってるアーニャ本人からすればそこまで怖くはないが。
(今だぞアーニャ。殴ってこい)
「うぃ」
傲慢な声が消えて、ダミーとしての素が聞こえた。
それに従いアーニャはベッキーより前に出てきてダミアンを殴ろうとする。
いや、本気で殴るつもりだった。そうしろとダミーが言ってくるものだから。
しかしそれはダミアンの片手で止められた。
アーニャの拳を振り払うダミアンが冷めた目で彼女自身を見つめる。
「何のつもりだ、アーニャ・フォージャー」
「な、ないてる子がいるならアーニャゆるさないます」
(棒読み……いやでもベッキーの様子を見る限り気づかれてないか)
「アーニャちゃん……!!」
(私のために……!?)
涙を溢れさせるベッキーがアーニャに飛び付き腕にギュッと抱きついている。
それをつまらなさそうに見たダミアンが小さく舌打ちをした。
「ヒーロー気取りか。くだらない」
そういって一人でいるダミアンに、周りがヒソヒソと囁き合う。
彼は怖い。近づかない方が身のためだと。