僕の曇らせアカデミア IF√ ギスギスヴィラン連合 ~道半ばで死んだ舞妓譲葉を生き返らせようとするAFO~ 作:ベー太
「ずいぶん遅かったじゃないか、バーから5キロ、30秒以上経っている……衰えたね」
「貴様こそなんだそのマスクは! 工業地帯みたいだぞ! 無理してるんじゃあないか!?」
後に『神野事変』と呼ばれることになる、一連の大事件。
その一幕として語り継がれる戦いが、今始まろうとしていた。
「5年前と同じ過ちは犯さん! 舞妓少年を取り戻す! そして貴様を
「それはやることが多いね、お互いに」
方や、史上最高のヒーロー、オールマイト。
雄英高校所属の教師でもあり、林間学校にて
方や、その往年の宿敵、
日本の希望を背負って立つヒーロー、オールマイトを挫かん為にこそ気炎を燃やし続けた諸悪の根源。かつて自分を死の淵にまで追い詰めた、因縁のヒーローを前に、彼はどこまでも歪で、どこまでも楽し気な笑みを浮かべた。
その直後、突如としてAFOはオールマイトに途轍もなく強力な一撃を放った。
オールマイトを吹き飛ばすことのみを目的とした、発生が早く範囲の広い一撃。
それを、オールマイトの後方広域の他人を巻き込む軌道で。
オールマイトは自ら受けざるを得ず、目論見通り一時的に戦場から離れたことを確認してから、死柄木弔が近づいてくる。
ここまでは、完全に手筈通りの動きであった。
「……さて、弔。これからの展開は理解しているね?」
「あぁ、譲葉を連れて行けってことだろ? わかってるって」
こうして分かりやすい隙を作り、舞妓を取り戻しに来たヒーローの卵達に舞妓を一時的に返還する、というのが当初の筋書きだったのだが。
「……ふむ。どうやら
「……チッ」
怖気づいてんじゃねぇぞクソガキ共、と誰にも聞こえないよう小声で毒づく死柄木。
AFOはそれに苦笑しつつも、前もって『彼』から用意されていたサブプランへとスムーズに移行する。
尚、イレギュラーの原因は、あからさま過ぎる隙を罠と訝った爆豪勝己が緑谷の突撃を止めたことであった。
AFOは、風の衣に包まれた少年を宙に浮かばせ、戦場からやや離れた自らの背後に高く掲げた。
それはあたかも、囚われの姫のように。あるいは、トロフィーのように。
「見たまえよ、オールマイト。君の求めているモノは、コレだろう?」
「そうやって少しでも私の集中力を削ごうという算段か?」
「酷いことを言うじゃないか。僕はただ、ヒーローと魔王の戦いはかくあるべしという、作法に則っているだけさ」
「減らず口を……」
そうした応酬と共に、再び戦意を高めていく。
その直後、二つの力と力がぶつかり合い、空が弾ける音が響き渡った。
(おっかしいなぁ~。もうそろそろ来ても良いはずなんだけど……。せっかく用意してあげた隙に来てくれないなんて、僕はそんな意気地なしに育てたつもりはないんだけどなぁ。その点ラスボス先生は立派だね。自分が求められている役割を心底理解してる。その上、不測の事態にも難なく対応して、アドリブまでバッチリとか。天才か? 師匠と呼ばせていただきたい。あ、お師匠様とかの方がいいかな? オールマイトリスペクトで)
亜音速で飛び回る二人の男の戦いは、刻一刻と激しさを増していった。
彼らの拳や蹴りの速度は時に音速の壁をも叩き、すさまじい余波を周囲にまき散らしていた。
そして、それらの戦いの合間に、予定されていた演目も次々に消化されていった。
一般人の生活を比較に出し、『嫌な上司の話を聞くようなもの』などと言って、会話に耳を傾けさせ。
囚われの少年の改造予定について語り揺さぶりをかけ。
瓦礫に挟まれた一般人を守らせた上でオールマイトを攻めたて、トゥルーフォームを暴き。
そして、死柄木弔の正体についてのネタバラシ。
『
(う~~~ん、これだとせっかくのドリンクが、食後のコーヒーに格下げになっちゃうなぁ。しょうがない、後でテコ入れでもしておくかな)
一方。
「かっちゃん! 助けに行くならもう今しかないよ!」
「だァから罠だっつっとんだろがクソデクが!」
「でも、オールマイトもゆずくんが気になって戦いに集中できてない! オールマイトの
「女男に注意が向いてるのはオールマイトだけじゃねェ。
「――ッ!?」
「何をどうやったらあんなに
「ぐっ……」
大正解である。
「これ見よがしに人質を晒して、助けに来た人員を狙うだなんて……卑劣にも程がありますわ」
「爆豪、どうにかアイツらの注意をユズから引き剥がせない? 陽動とかさ」
「そうそう! 私の『集光屈折』とかで注目を集めたりとか……」
「逆効果だろォな。陽動役が狙われるのも捕まるのも論外だ」
「畜生……せっかく目の前まで来たってのによォ……」
「落ち着け切島。俺の予想だが、もうじきアイツの救助にプロヒーローが動くはずだ。そいつらと鉢合わせるのも面倒だ。ここらが引き際だろ」
「元より、来ても何もできない可能性も考慮の上だったはずだ。そうだろ?」
「轟くん、飯田くん……」
英雄を待ち望む姫君の思惑とは裏腹に、ヒーロー科A組のはみ出し者たちは唇を噛み締めながら退却の準備を始めた。
ヒーローは、来ない。
「……なるほど、折れないか」
弱きものたちを囮に使い、過去を掘り起こし、卑劣な精神攻撃を行う巨悪。
しかし、駆け付けたヒーロー達や、助け出された民間人達の声援が、再び英雄の闘志を呼び起こしていく。
そうして、巨悪と英雄の最後の攻防が始まろうとした、その瞬間。
ビシッ……ズズズズズズ……
(……ん!?)
突如として不吉な物音が響き渡る。
舞妓譲葉が浮かんでいる座標、その近くのビルが突然舞妓の方に倒れ込んできたのだ。
舞妓に自分の強さを見せつけたかったのか、それとも単純に一瞬でも舞妓が他人に攫われるのを厭うたのか。
如何なる理由でか、巨悪が舞妓から付かず離れずの距離で戦い続けたツケであった。
音速を容易く踏み越える二人の戦いは、強大な余波を辺りにまき散らしていた。
その影響は、目に見えない範囲にまで及んでいた。
それこそ、ビルの支柱に至るまで。
そもそも彼らと同じ土俵で戦えるもの自体が少なく、故に双方が久方ぶりの全力戦闘であったために、戦闘の余波の考慮がおざなりになったこと。
そしてその戦闘の余波が、図らずも特定のビルに集中してしまったこと。
これらの不運が折り重なった結果、人質の少年に巨大なビルが覆い被さろうとしていた。
「譲葉!!」
「舞妓少年!!」
奇しくも似たような構えで、全パワーを右腕に集中させていた巨悪とヒーローの二人は、その歪な形態変化による重心の偏りと右腕の重さのせいで、救出の出だしが大きく遅れた。
「黒霧!!」
「クッ……ダメです! 間に合いません!」
死柄木弔は黒霧にワープゲートを用いた救出を指示したが、空間座標を制御する黒霧の個性は極めて繊細であり、咄嗟に手を伸ばすような感覚で制御できるものではなかった。
黒霧の奮闘も空しく、ワープゲートの展開は間に合わなかった。
「ゆずくん!!」
「譲葉!!」
自分たちにもうできることはないと見切りを付け、退却を開始していた緑谷と爆豪の二人は、そもそも間に合うような距離ではなく。
(あれ……コレ、ヤバくね?)
意識を失っている『ことになっている』少年が纏う風の衣は、巨大建造物を無傷で耐えられるほど強靭なものでもなかった。
もっとも、少年はその気にさえなれば拍手一つでその場を脱することもできたのだが。
(……ん? 待てよ。コレ……ここで僕が死ぬって言うのも、曇らせ的にはめちゃくちゃアリなのでは?)
――などと、ろくでもないことを考え始めていた。
そもそも、自分に万が一のことがあった時の『舞妓譲葉脳無化シナリオ』についても死柄木とAFOには共有済であり、舞妓譲葉としての肉体の死は、曇らせの道においては過程の一つとみなすこともできるのである。
(そもそも、フルコースが消化不良気味に終わったのも、形式に拘り過ぎたからかもしれないし。うん。ここらで僕も殻を破るとしますか。では、メインシナリオは破棄してβプランに移行……なんつって)
そして何より、今まさに眼前にある光景が。
ヒーローも
これが人生最後に見る景色だとしても、満足できるほどのものであったことが最大の決定打だったかもしれない。
「ユズーーーーーーーーーーーー!!!!」
――悲運の少年は、どこか満ち足りたような表情と共に、瓦礫の大波に飲み込まれていった。
――事態は阿鼻叫喚の様相を呈していた。
先ほどまで死闘を繰り広げていた英雄と巨悪の二人は、無我夢中でビルの倒壊現場に駆け付け、残りカスのような力を振り絞って瓦礫の撤去に勤しんでいた。
ヒーローと悪の頂点が、またそれに続く形でプロヒーローと
事態が事態だけに、ヒーローの卵達も救出活動に加わった。ヒーロー達は咎める時間も惜しいと渋面で了承した。
探索に長けた個性を持つ者として、耳郎響香も捜索に名乗りを上げ、瓦礫に埋まった少年の位置特定に貢献した――そこまでは良かったのだが。
「――嘘。嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘うそうそうそうそだ、うそだ――ッ!!」
「耳郎さん!? しっかりしてください!! 耳郎さん! 耳郎さん!!」
その個性の性質故に、少年の命脈に関する
個性の相性が良いため近くにいた八百万は、耳郎の様子から事態を半ば察しつつも、気絶した耳郎を揺り起こしにかかった。
最も、彼女の本音は『いっそ自分も気絶してしまいたかった』であったが。
そして、耳郎を起点に発生した狂気は、伝播する。
「――ゆずちゃん? 嘘だよね、そんなはずないよね、うん。大丈夫だから。待っててね、ゆずちゃん、大丈夫、ゆずちゃん大丈夫ゆずちゃん大丈夫ゆずちゃん」
「イヤァ――――ッ!!」
無限ループ再生を始める葉隠に、金切り声を上げるトガヒミコ。
それらを皮切りに、若く未熟な者から膝を折り始め。
正気を保っているヒーロー達も、どこか『確認』を取るための作業へと移行し始めた。
その場の空気がより深い暗闇に飲まれ続ける様を誰もが幻視した、その瞬間に一つの声が差し込んだ。
「全員退いてろ!! 位置さえ分かれば、俺がやれる!!」
「待ちたまえ! 死柄木弔! 君の個性では――」
「黙ってろ、オールマイト。全部分かってる。要はアイツの周りの瓦礫も崩れないようにすりゃ良いんだろ」
この場面、少年のどの部位がどの程度潰されているか分からない以上、全ての瓦礫を『伝播』する『崩壊』で撤去するのは悪手であった。
少年の体を巻き込まずに瓦礫のみを撤去できる場合であっても――その時点で既に神業とも言えるが――身体を圧迫し疑似的に止血している瓦礫を下手に取り除いた結果、大量出血するなどのケースも考えられたからだ。
しかし、事態は一刻を争う。一秒ごとに少年の命は手の届かないところへと向かっているのだ。見ただけで感知系の個性だと分かる耳の少女の取り乱し様がそれを如実に語っている。
故に――
「待ってろ、譲葉」
死柄木弔、一か八か、〇.二秒の『崩壊』全力解放!!
〇.二秒は死柄木弔が勘で設定した、舞妓譲葉とその周辺の瓦礫を巻き込まず、不要な瓦礫は最大限撤去できる『崩壊』の限界継続時間。
根拠はなく、〇.二秒の間に死柄木弔の周囲の瓦礫は、先ほど耳郎が指し示した一区画のみを浮島状に残して他は全て崩れ去った。
「ム、なんと……これは……」
オールマイトは驚嘆する。
限られた一区画のみを『崩壊』の範囲から外し、加えて残った瓦礫は自重で崩れも倒れもしない、豪快かつ繊細な個性コントロールは、もはや神業と言っても賞賛に不足する程の偉業であった。
――しかしながら、偉業が必ずしも祝福されるとは限らなかった。
「ゆず、りは……?」
風に巻かれて塵と化す、瓦礫の山の中心で、
腰から下が瓦礫で潰れ、眠るかのように穏やかな顔で息を引き取る、少年の骸であった。
舞妓「後は頼みます」
オールマイトはそんなヘマをしない、みたいなクレームは受け付けません。
なんかこう……ラスボス先生との戦いで手一杯やったんや!!
Q.ラスボス先生はチャージした一撃を放つ方向だけ変えてビルを吹き飛ばせばよかったんじゃない?
A.余波でどの道舞妓が死ぬゥ!!
こんな感じのシチュだったことにしてください。