僕の曇らせアカデミア IF√ ギスギスヴィラン連合 ~道半ばで死んだ舞妓譲葉を生き返らせようとするAFO~ 作:ベー太
※荼毘君周りの設定について、憶測の情報を多分に含みますのでご了承ください。
――暗く重たい沈黙に、
少年の亡骸を瓦礫の中心で発見した後。
ヒーロー及び警察に逮捕された者はおらず、欠員なし――否。
たった一人のかけがえのない『彼』を除いて、欠員はなかった。
AFOも含めた
ここは、拠点作成に携わった外部の者――当人たちには
逃走先としてここを選んだ理由は、ヒーローに捕捉される可能性を極限まで排除するため――だけではなかった。
その場にいる誰もが、今だけは『彼』との思い出から離れたいと望んだのが最大の理由だった。
最も、真新しい拠点に移っただけでは『彼』からは離れられなかったが。
何故なら、彼らの中心には、離れたいのに離れがたい『彼』の上半身が眠っているのだから。
腰から下は瓦礫に潰され、回収はもはや不可能だったために、上半身しか残っていない『彼』。
ここに『それ』がある理由は、逃走の瞬間に黒霧が機転を利かせて回収に成功したからである。
回収の瞬間のヒーロー達の――とりわけ、その卵達の恨み言は今でも耳に染みついている。
何が『返せ』だ。何が『お前達のモノじゃない』だ。
全て、こちらが言いたいことだった。
それを回収するだけの機転が利くなら、どうしてあの時『彼』を助けられなかったのか――などと、黒霧を責める者は居なかった。
誰もが皆、己自身を責め立てるので手一杯であった。
――暗く重たい沈黙に、皆が押し潰されていた。
「――これからの、話をしよう」
掠れた声を上げたのは、
「全ては、俺の責任だ――なんて、殊勝なことを言っても、アイツは帰って来ない」
開き直りとも取れる発言。
しかし、それを責める者はなかった。今の死柄木の顔を見て、責められる者など居なかった。
「『やりたいようにやる』のが俺たち
震える手、震える声、震える
しかしそこには、揺るがぬ『決意』があった。
「俺は、アイツとの――舞妓譲葉との『約束』を果たす」
力強い声と共に、死柄木は宣言する。
「確かに、アイツは――譲葉は死んでしまった。だが……俺たちの道程はまだ半ばだ。俺たちの望んだ、『ヒーロー社会の転覆』は、未だ成されちゃいない。だからこそ……アイツの遺志と共に俺たちは歩む!」
「――舞妓譲葉を素体とした、脳無を作ろう」
死柄木は語った。
生前の『彼』との約束を。
もし万が一、自分が道半ばで没することがあったなら、その肉体を素体に脳無を作って欲しいと。
そして、そうするためのプラン自体も既に自分と先生だけには共有済であったこと。
「勘違いするなよ。
そう言って、彼は
「それはお前達にとっては、ただアイツの死を受け入れること以上に辛いことかもしれない。俺にとっても、そうだ。だが、それでも。俺はアイツの遺志を……唯一無二の友の遺志を尊重したい」
死柄木の決意は固かった。
メンバー達一人ひとりの顔を死柄木の瞳が確認していく。
その中に反論の色がないことを確認し終えた死柄木は再び口を開いた。
脳無化の計画を話す上で、改造手術を行う存在として既に連合メンバー達に説明していた『ドクター』に向けて。
「そういうわけだ。聞いてたんだろう、ドクター? それじゃ――」
「待ちなよ、弔」
「……先生?」
驚いた声を上げる死柄木。無理もなかった。
何故なら、ここまで沈黙を貫いて来た『先生』――巨悪の筆頭、
「弔。君の提案は素晴らしいものだ。彼の望んだ未来に連れて行くという生前の約束。それを果たすというのは確かに筋が通っていると思うよ。だけどね、弔。ここにいる者たちは皆、彼の死を受け入れられてない。心の整理がついていない。だからこそ、今の状態で全てを決めてしまうのは性急過ぎると思うんだ」
一度相手の言っていることを認めて見せ、ワンクッション置いてから自らの意見を述べる。
優れた
「僕たちは
「……何が言いたい? この期に及んで反論なんかあるのかよ」
「ああ、ある。全ての前提を覆し、なおかつ全てが上手く回るとっておきの提案さ」
両手を大きく広げ、マスクの下で笑みを深めるAFO。
顔こそ見えなかったものの、死柄木にはその様がまるで『笑顔の鎧』を纏おうとしているように見えた。
そして、十分に溜めを作った上で、巨悪はその決定的な一言を放った。
「僕はね――舞妓譲葉の、完全な蘇生を提案する」
「――――は?」
その声を漏らしたのは、死柄木だったか、トガだったか。
あるいはそれ以外の誰かかもしれなかった。
そのあまりにも荒唐無稽な提案に誰もが面食らい、思考に空白を生んだ。
――そして、その空白を巨悪は見逃さなかった。
その空白にこそ、巨悪は自らの言葉を差し込むのだ。
「考えても見たまえよ。舞妓譲葉の最大の長所を。それは、初見殺しかつ対策不能な個性だろうか? 違う。綿密で緻密な計画を立て、それを実行できる悪辣な頭脳か? それも脅威だが、惜しくも違う。彼の最大の長所、それは……この僕にすら勝るとも劣らない、人心掌握術にある。そして、頭脳や個性は脳無となった彼でも代用可能かもしれないが、人心掌握術については脳無で代替可能とはとても言えない」
そう、それこそが、舞妓譲葉の死に伴う最大の痛手と言えた。
彼の人心掌握術を用いて、ヒーロー組織の中枢にまで潜り込むことこそが、彼の『プラン』で中核を担っていたと言っても過言ではなかった。
故にこそ、その損失を取りもどすことが、
巨悪の筆頭はそう語ったのだ。
「――加えて、今世間から見た
だからこそ、
そうなれば、『彼』の存在はこの上ない『偶像』として機能する。
それがAFOの主張であった。
「……先生の言いたいことは分かったよ。確かに脳無化では、アイツの損失は埋めきれない。……だが、まだ肝心なところを聞けてない。先生は、その『完全な蘇生』とやらが成功するという根拠をどれだけ提示できるんだ?」
先ほどAFOが用いた話術を的確に用い返し、そう問いを投げる死柄木。
それはあるいは、意趣返しのようでもあった。
「根拠か……そうだね。現時点で僕が提示できる根拠はただ一つ。僕が『オール・フォー・ワン』であるという……ただ一つだけだ。でもそれだけで信じるに値すると、そう確信してもいるよ」
その
「僕の個性は、あらゆる個性を奪い、また与えることのできる個性だ。『個性』とは、それ即ち『超常』でもある。この世に数多存在し、千差万別の超常を、手段を選ばず
実力と実績に裏打ちされた、強い自信を孕む言葉。十人並の人間ならば、容易く丸め込まれたであろう言葉に。
しかし死柄木弔は流されなかった。
「つまり、具体的な根拠は何一つ提示できないってことじゃないか。その『奇跡の生還』とやらに一体何年かけるつもりなんだ? 具体性に欠ける夢物語になんか縋っちゃいられないんだよ、こっちは。そんな姿を見せちまったら、アイツに笑われちまう」
そう言って自らの師匠の意見を一蹴してしまう死柄木に対し、巨悪は――
「君の浅い見識で、譲葉を語るな」
静かに、しかし激しく、そう激昂したのだった。
そしてその言葉は、死柄木弔をも激昂させるに余りあるものだった。
「……は? アンタ一体何を言ってんだ!! 見識が浅いのは先生の方だろ!! 譲葉は、徹底した
「いいや違うね!! 舞妓譲葉は
「『夢』だの『希望』だの、俺の大嫌いなクソヒーローどもが好きそうなお為ごかしばかりほざくなよ!! 大体これは生前のアイツが描いたプランだろうが!! 今更エッセンスが足りないとか言ってそれを否定するのか!!」
「生前のことを言うなら、彼は『裏切り』こそが手段でかつ目的だと語っていただろう!? 死体を弄ぶだけでは彼の言う真の裏切りを為しているとは思えない!! つまり、彼の遺志を全うしているとも言えないはずだ!! 彼が生きて、ヒーローを裏切ることに意味があるんだ!! そうだろう!?」
「――私は!! もう一度!!! 笑ってるゆずくんに会いたい!!!!」
「……トガ?」
とうとう怒鳴り合いの様相を呈してしまう二人の口論だったが。
そこに一つの声が割り込む。
「もう一度、抱きしめてくれなきゃやだよ!! 笑いかけてくれなきゃやだよ!! それができないなら……もう、生きてる意味なんて……ないよ…………」
ボロボロと涙を溢すトガヒミコ。
しかしそれは、指導者二人を除けば誰よりも早い、方針選択の一票でもあった。
そして、その流れは組織全体へと波及する。
「俺も……『蘇生』に賛成だ!!」『やっぱり
常にないほどけたたましく耳障りにふざけまくるトゥワイスの後半の声。
その『真逆』こそが彼の本音に最も近いことを、その場の全員が理解していた。
「死柄木、俺はあくまでお前に従う。『蘇生』でも、『脳無化』でもだ」
「私もスピナーに同じくですよ、死柄木弔」
「黒霧もか……」
「悪いけど俺ァ、賭け事に付き合うつもりはないんでね。まして『死者蘇生』なんていう分の悪い賭けに付き合うつもりはないよ」
「あなたは! ゆずくんにもう一度会いたいとか思わないんですか!!」
「黙れよ、トガヒミコ」
「アンタまでカッカしてんじゃないわよコンプレス。ああ、私はあくまでも中立を保たせてもらうわ。全体の方針が決まったならそれに従わせてもらうけど」
ここまでの情報をまとめると。
『蘇生派』:オール・フォー・ワン、トガ、トゥワイス。
『脳無化派』:死柄木、スピナー、黒霧、コンプレス。
『中立』:マグネ
となると残りは。
「まだ意見を表明してねえのはお前だけだな、荼毘」
「あぁ……そうだな。俺は……『蘇生派』につかせてもらう」
「意外だな。お前がそっちに行くとはな」
荼毘が人情に絆されるタイプとはあまり思えていなかった死柄木がそう言うと。
「ああ。俺はそこの『先生』とは別の視点で、『蘇生』が上手くいくかもっていう根拠を持ってるからな」
「……何だと!? それは、一体どういう……」
という爆弾発言を齎した。
当然それについて問い詰める周囲の人間に対して、荼毘はポツリポツリと語り始める。
「これはあんまり話したくねえ俺の事情なんだがな。
本当にまだ話したくない――あるいは話せない――部分をボカして自分のことを説明する荼毘。
「あん時の俺ァ、八割……いや、控えめに言っても九割は死んでるような状態だったはずだ。その状態からこうして命を保ってる『俺』って言う実例がある。そうだろ? 多分聞いてるんだよな、クソドクター? さっきの死柄木の話を聞いててピンと来たよ。俺を改造したの……アンタだろ」
ここまで一言も発しておらず、しかし話の内容を聞いていることだけは皆確信している『ドクター』に語りかけた。
『――情報を一部訂正しよう、荼毘よ。あの時のお前さんは、少なく見積もっても……九九%は死んでおったわ』
モニターから聞こえて来た音声に対し、色々な意味で驚愕する一同。
「そういうわけだ。とはいえ、今の体が快適とは言い難いのも事実だけどな。俺はクソドクターの施設から脱走してここに居る訳で、本来必要なはずの定期的なメンテも受けてねえからな。毎秒発狂しそうな程の苦痛に耐えながらここにいる」
――本来その程度でいられるはずがないんじゃが……というかなんで死んでないんじゃコイツ、という言葉を必死に呑み込むドクター。
それはさておき、荼毘は言葉を続けた。
「つー訳で、俺の存在は、舞妓の蘇生が上手くいく根拠であると同時に手がかりだ。九九%の死人と、一〇〇%の死人の蘇生っつー違いはあるけどな。だが少なくとも、俺の体からじゃねーと取れねーデータだってあるだろ」
『お前さんの協力が得られるなら研究がやりやすいのは間違いない。しかし、またお前さんに反発されて、貴重な研究設備を壊されたりしては堪らんからな。
「そうかよ。だが感謝はしねーでおくぜ。てめェが俺にやったことについてはそう簡単に水に流せるモンじゃねェ」
『肝に銘じておくわい』
「――さて、各々の意見もまとまったようだし。ここからは僕たちの活動方針だね」
そう言って場をまとめだす
「これからについてだが、期限を決めて別行動と行こうじゃないか。僕の意見に賛同してくれる者たちは、弔を説得できる材料を見つけるために行動するとしよう。そうだね……ざっくり三か月くらいを一つの区切りとして行動しようじゃないか」
「チッ……じゃあその間俺たちは並行して組織の拡大に努めるってところか」
「話が早くて助かるよ、弔」
幾分か落ち着きを取り戻した首脳二人によって、
かくして。
行き先が二つに分かれた連合の先行くところ、
「――ったく、冗談じゃないぜ」