転生王子の古代文明記〜古代の文明で魔法革命を手伝います〜 作:ゆっくり氷空の活動日誌
「この場を以って宣言する。私はユフィリア・マゼンタとの婚約を破棄すると!」
「はぁ...どうしてこうなった」
パレッティア王国には王族や貴族、将来有望な平民が通うパレッティア王立貴族学院という学院が存在する。
一応身分を問わずとお題目を掲げてはいるものの権力の差を見せつけたいのか、はたまた有力貴族に取り入るためか、実力での評価があっても身分という影響力は大きい。身分の低い者が身分の高い者に取り入るのに失敗して居場所を失うのは日常茶飯事だ。
そんな学院は今日、めでたき日を迎えていた。まもなく卒業を迎える卒業生達の最後の試験が終わり、その成績と今までの努力を称えるパーティーが開かれていた。
そんなパーティーで兄上、アルガルドが婚約者であったユフィリア嬢との婚約破棄を宣言した。
ユフィリア嬢はパレッティア王国の中でも有力貴族の筆頭と言われるマゼンタ公爵家の令嬢で、とても気品にあふれた美しい少女だ。
長く伸ばした髪に、ピンク色の瞳は強い意志を秘めているように感じるが、それが鋭利すぎる感じもする。だが、それは次期王妃としては必要でもある。
だが、この婚約破棄の騒動は今になって始まったわけではない。元々学院内ではユフィリア嬢と兄上との対立は有名な話だった。
そんな二人の仲違いの原因...とまでは行かないだろうが、鍵となる人物が一人。男爵令嬢レイニ・シアン。彼女が二人の間に入ってから二人の関係は冷めていった。
件の彼女はアルガルドの隣に支えられるようにして立っていた。
「......アルガルド様。なぜ、婚約の破棄を?」
ゆっくりと、決して言葉が震えぬようにとユフィリア嬢が問いを投げかける。固く握られた拳は今にも皮膚を裂いて血を流してしまいそうな程に力が込められている。
兄上は底冷えするような冷たい視線をユフィリアへと送り、問いに答えた。
「貴様は我が婚約者に相応しくないと判断した。貴様がレイニ・シアンへ行った非道の数々、よもや言い逃れはすまい!」
レイニは大人しそうな見た目をしていて、とても愛くるしい。艶を含んだ黒髪に、潤んだ灰色の目は庇護欲を駆り立てる。
今にも震えて崩れ落ちそうな彼女は、鋭く意志を貫かんとするユフィリア嬢とは対極と言えた。それこそがこの事態が巻き起こった発端とも言える。
元々、政略結婚であった兄上とユフィリア嬢の関係は国の為の義務という連帯感によって成り立っていたものであった。そして、二人は彼等の関係はそこまで止まっていて、その先に進むことはなかった。
そこに現れたユフィリア嬢と対極な魅力を放つレイニ。彼女は容易くアルガルドの心を射止めたらしい。兄上の他にも、レイニの射止めた男性がいて、彼女は学園では一際噂される存在だった。しかも、レイニは男爵の娘だ。どう考えてもアルガルドの地位に見合う者ではない。そうとなればユフィリア嬢も口を出さざるを得ない。それが元々、あまり進展していなかったユフィリア嬢と兄上の距離を更に開かせることとなった。
さらに、王家としては公衆の面前で婚約破棄をされたのもあまり好ましくないだろう。
誰からも理解されず、完全な孤独。それがユフィリア嬢を支配している。しかし、兄上達に悪意は感じない。
ユフィリア嬢は許しを求めて膝をつきそうになる。
ーーーーその時だった。
「ァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!???」
何者かが悲鳴と共に突っ込んできた。
窓が勢いよく粉砕され、勢いそのままにユフィリア嬢と兄上の間を転がっていった。
「いたたたた.....ちょっとよそ見しただけで制御失敗とか、まだまだ研究が足りないわね」
ガラスの破片を払いながら立ち上がるのはパレッティア王国の王族の証明とも言える白金色の髪をした少女。
「あれ、アルくん!お邪魔しちゃった?」
「姉上ェッ!!」
パレッティア王国きっての問題児、破天荒令嬢アニスフィア・ウィン・パレッティアその人である。
〝パレッティア王国史最強の問題児〟、〝王国一の変人奇人〟、〝パレッティア王族の煮詰めたアク〟、そんな様々な称号で呼ばれる王女。それがアニスフィア・ウィン・パレッティアだ。
そんなことから貴族達からは尊敬されてすらいない人だが、俺が一番尊敬している人である。
あ、あと別に彼女を言い表す言葉がある。
『誰よりも魔法を愛し、魔法に愛されなかった天才』と。
* * *
(――これは不味い状況なのでは?)
私、アニスフィア・ウィン・パレッティアは考える。
目の前には着飾った貴族の子息、子女と思わしき子達がいっぱいいる。私に向けられる視線は奇異の視線そのものだ。
これは久しぶりの大失態かもしれない。ちょっと飛行魔道具の夜間飛行のテストに出て、星が掴めそうなんてロマンチックな事を考えてたら窓に突っ込んだとか、それは許されないアレなんじゃないかな?
拾い上げた飛行用魔道具である〝魔女箒〟の調子を確かめて見るけれど、うん、壊れてはいない。これが壊れてたら泣きを見ていた所だった。
これならまだ私の評判以外に傷ついたものはない! よし、問題なし!
改めて会場を見てみると、弟のアルくんがいた。あの子、私の事を苦手にしてるから悪い事をしちゃったなぁ。
(あれ、でもなんでアルくん、私が知らない子を抱き締めてるのかしら?)
アルくんの婚約者の筈のご令嬢は、何故かアルくんが見下ろす位置にいるし。んん? これ、どういう状況?
「ちょっとアルくん、ユフィリア嬢がいるのに別の女性を侍らせてるの?」
「……ッ、貴方には関係ない!」
怒ってらっしゃる。いや、怒るだろうけどさ、そりゃ。でも、一歩後ろに引いて警戒するのは怯えてるようにも見えちゃう。
うん、昔に色々と巻き込んでトラウマになってるだろうし、それは仕方ない。でも、それとこれとは別の話でしょう。
私が〝王族として出来損ない〟なのは良いとして、次期国王ともあろうものが次期王妃の婚約者の傍にいないのはどういう事なのか。
「えぇと、ユフィリア嬢? これはどういう事? あれ、妾候補とか何か?」
アルくんから視線を移して呆気取られていたユフィリア嬢へと問いかけて見る。すると、途端に表情を翳らせて視線を落としてしまった。
「? どうしたの?」
「いえ、その……」
あれ、ユフィリア嬢までどうしたの? この子は大人にも物怖じせずに意見を言える強い子で、将来の王妃として立派だなぁ、って思ってたのに。
なのに今にも泣きそうというか、あれ、もしかして実際に泣いてた? そんなに私がいきなり窓をぶち破ってきたのが怖かった?
いや、なんか違う。この立ち位置と状況、なんか記憶がちりちりとするような……?
「あぁ、成る程。言いがかりでもつけられて婚約破棄でもされたの?」
「――ッ!?」
何故、と言うようにユフィリア嬢が視線を上げる。その瞳は驚きで揺れていて、普段は鉄仮面をつけたように変わらない表情が変化してしまっている。
(……えぇ? どうしてさ。〝前世〟ではそういう〝お話〟があったのは知ってたけど……)
婚約破棄って、現実でも起きるような事なの? 世界はいつだって奇妙だなぁ。私が言うのもなんだけど。
「状況を見る限り、なんかユフィリア嬢が孤立してる感じかな?」
「え、あの、なんで」
「うーん……よし、決めた!」
女の子、虐めるの良くない。
どっちに正義があるのかわからないけれど、とりあえず喧嘩は両成敗としよう。
それなら味方が見られないユフィリア嬢を庇っておこう。後でどっちが正しいのかわかるでしょ。
「ユフィリア嬢、行こう。私が攫ってあげる」
「……は?」
「ユフィリア嬢は私に攫われるので、なんの責任もなし! さぁ、行こう、すぐに行こう! という訳で、アルくん! この話は私が持ち帰らせて貰うわ! 後で家族会議ね!」
ユフィリア嬢に近づいて、肩に担ぐように抱える。ごめんね、本当は攫うならお姫様抱っこなんかが良いんだろうけど、今は片手が塞がれると私が何も出来なくなっちゃうからね!
「え、あの――」
「待て、姉上――」
「――あばよ、アルくぅん!」
気分は大怪盗。見せ付けるように笑みを浮かべて、ユフィリア嬢を抱えながら窓に向かって走る。
私がぶち破った窓から宙に身を投げ出せば、一気に体が重力に引かれて落ちていく。するとユフィリア嬢が元気に悲鳴を上げた。
「ぃ―――いやぁぁぁああああああああッッ!?!?」
「アッハッハッハッ! 楽しいノーバンジージャンプ! 空の旅へようこそ!」
片手に持った〝魔女箒〟に魔力を注いで、そのまま迫ってきた地を舐めるようにして上昇していく。
ユフィリア嬢は相変わらず悲鳴を上げているけれど、とりあえず今は無視! このまま父上のところに訪問と行きましょうか!
* * *
「はてさて、こりゃまた忙しくなりそうだ」
唖然としている学生達を置いて、俺は一人式場を後にした。
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