アリウスの王   作:大嶽丸

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ベアおば出落ち

 

 

 アリウス自治区。

 

 光の届かぬ、キヴォトスの地下に隠されたその場所にて、一つの戦いが終わろうとしていた。

 

「無様だな、ベアトリーチェ」

 

 地べたに這いつくばる赤肌の異形を、少女達は冷たく見下ろす。

 

 かつて、ダンテ=アリギエーリという詩人が神曲で描いた終生の理想とした女性と同じ名を持つその異形は、満身創痍で立つことすら儘ならない中、殺意と憎悪に満ちたその無数の眼で少女達を、その先頭に立つ黒髪の少女を睨み付ける。

 

「ッ……ぐぅ、よくも……駒の分際で……!」

 

「笑止。では、その駒相手に襤褸雑巾のように転がる貴様は何だ? 自惚れるなよ売女、我らは貴様風情に手懐けられるような安い駒ではない」

 

 そのドス黒い、常人ならば恐怖で硬直するであろうそれを一身に浴びても少女は涼しい顔で淡々と、冷徹に告げた。

 

 対する異形・ベアトリーチェはこれに何も言えず、恨めしげに歯を剥き出しにする。内乱に乗じてこのアリウス分校を乗っ取ろうとした侵略者である彼女はアリウスの子供らを取るに足らぬ搾取するだけの存在だと見下し、侮り、その結果が今こうして逆に見下されているという屈辱的な光景だった。

 

 これも全て、目の前のただ一人の少女のせい。どこからともなく、まるで降って湧いたように現れたイレギュラー。

 

 特大の神秘。穏健派を纏め上げ、内戦を終結させ、果てにはベアトリーチェの悪意を見抜いた。彼女さえ居なければ今頃アリウスなど容易く掌握していたというのに──。

 

「仲間に伝えておけ、次また我らを害するようであれば塵すら残さず、消し去ってやると」

 

 紅い瞳が煌めく。その眼差しは何よりも冷たく、そして慈悲深かった。

 

「ッッ! ふざけるな、救世主気取りが……! 覚えておきなさい。次は、次こそは必ず──」

 

「三下の捨て台詞だな」

 

 少女は一笑し、手を翳す。

 

 その瞬間、ベアトリーチェは言葉の途中で空間に生じた暗い穴の中へと吸い込まれ、やがて穴が閉じたことによってこの場から完全に消え失せる。

 

「さて、と……」

 

 少女は振り返り、集う同胞へと目を向ける。

 

 そこには先程までの何の感情も感じさせない暗く冷たい瞳は無く、慈愛に満ちたものへと変わっていた。

 

「今ここに、偽りの救世主を騙る、卑劣で残虐な侵略者は斃された。──諸君、我らの勝利だ」

 

 その誓言に、彼女達は様々な反応を見せる。歓声を挙げる者、胸を撫で下ろす者、実感が湧かずに困惑する者、緊張の糸が切れたように座り込む者、少女を称賛する者……共通するのは皆がこの戦いの勝利を祝福しているということだ。

 

 だが、少女と、他の聡明な者は分かっている。まだまだ問題は山積みであり、ここから正念場であることを。

 

「我らアリウスは変わらなければならん。より力を求め、強くなる必要がある。世界は広く、恐ろしく、しかし我らは己が身を己で守るしかない」

 

 高揚する中、少女は高らかに演説する。

 

 強大な力を有した侵略者であるベアトリーチェを撃退した、このアリウスにおいて誰よりも強く、偉大な存在の言葉を、彼女達は一言一句聞き逃さない。

 

「Vanitas vanitatum et omnia vanitas……全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ。既存する権力も、社会も、過去も、未来も、世界すらも、全てが等しく無意味で無価値である」

 

 徹底した虚無主義(ニヒリズム)

 

 それこそが、弾圧され、地下へと追いやられたアリウス分校が見出だした教義の一つ。

 

「けれど、だからこそ、それを知る我らは現状に絶望し、胡座を掻くことなど許されず、新しい意味と価値を創造しなければならないのだ」

 

 その教義を少女は良しとした。同時に、先人が見出した思想とは違うかもしれないが、それでも彼女は教義に対して能動性と積極性を取り入れた。

 

 何故ならばここは()()。教え、導き、学び、成長を促すべき場所なのだから──。

 

「この“失楽ニト”の名の下に宣言しよう。我らはここに結束し、世に蔓延る虚無を乗り越え、その先に在る誰もが望む真なる次元へと至らん」

 

 こうして、アリウスに“王”が君臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

やったぜ

 

 遂にアリウス統一を達成した。

 

 いやぁベアトリーチェは強敵でしたね(ガチ)。こちらを舐め腐ってくれていなかったら、もしかすると負けていたかもしれない。それくらいには厄介な化け物だった。

 

 やっとの思いで内乱を終結させたというのに、余所者のババアに台無しにされるなど笑い話にもならない。

 

 まあともかく今は“失楽ニト”と名乗っているこのオレは、名実共にアリウス分校のトップとなった。立場としては生徒会長だろうか。その辺の階級も整備しなければな。

 

 思い返してみると感慨深い。この地に流れ着き、名も身分すらも無かったホームレス以下だった者が、今やトップ……我ながらよくもまあ成り上がったものだ。

 

 しかし、非常に残念なことにこの戦いの終わりは、始まりに過ぎない。

 

 食糧難、資源不足、露骨な不平等、終わった治安、殆ど機能していない学校システム……これら負の遺産の数々を解決せねばまたかつての内乱ばかりの混沌に逆戻りしてしまう。

 

 戦力を充足させる必要もある。ベアトリーチェはまだ生きており、復讐の機会を虎視眈々と狙っているだろうし、外の脅威はあの女だけでないことは明白。アリウスが地下生活する羽目になった原因であるトリニティやらゲヘナやらの存在もあった。

 

 というか普通に怖い。だって下手するとベアトリーチェみたいなやべーのがゴロゴロ居るかもしれないんだぞ? こわ~。

 

 暫くは、これまで通り外部との干渉は絶ち、防護結界を張って所謂鎖国状態にするしかないな。一応密偵を送って情報は収集したいが……そこら辺もまずは軍備を整えてからだ。

 

 となると、アリウス分校のシステムを軍学校と似たものへと変えてしまうか。校章も髑髏マークでそれっぽくてかっこいいし。

 

 他にも農業や工業といった専門学科も作って兵士の適正の無い者はそこに移せば……ふむ、学校運営に関しては完全に素人なので何とも言えないが、これらはやっていく中で覚えていくしかないな。

 

 ううむ……やることが多い。子供のやることじゃないな、ほんと。いや自分が子供だとも思わないが。

 

 幸いにもオレには力がある。ベアトリーチェをぶちのめし、このアリウスを纏め上げられるだけの力が。良くも悪くも実力主義な風潮があるアリウスでは上手くやれるだろう。

 

 己に指導者の器があるとは思わない。暴君とか独裁者とかボロクソ言われるかもしれんが、このままだとアリウスは詰みだしやるしかあるまい。

 

 アリウス万歳! ヴァニタス万歳!

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