アリウスの王   作:大嶽丸

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主人公、出番無し


アリウス・スクワッド

 

 

 ブラックマーケット某所にある倉庫街。

 

 時刻は深夜。破落戸の蔓延るこの区域でも普段ならあまり人の立ち寄らないその場所で、多くの喧騒が銃声と共に響き渡っていた。

 

「クソッ……! 何者だテメェらッ!?」

 

 サングラスを掛けた黒服の女が叫ぶ。明らかに堅気ではない風貌をした集団が半ば狂乱状態になりながら銃撃戦を繰り広げている。

 

 彼らはブラックマーケットにおいても最大規模を誇る犯罪組織、所謂マフィアグループの下部組織であり、ここで武器の密輸を行っていた。

 

 ──そんな中、襲撃を受けた。

 

「……Vanitas Vanitatum」

 

「あ? 何を──」

 

 返答の代わりに鉛弾が放たれる。

 

 闇夜に紛れ、現れたのはマスクや仮面で顔を隠した少女達。たった()()にも拘わらずその強さは一騎当千であり、奇襲だったこともあり武闘派の構成員達が次々と倒れていく。

 

 気が付けばもう壊滅状態。彼らは誰かも分からぬ敵に対して訳も分からず、パニック状態に陥っていた。

 

「き、貴様ら……この“アランチーノ・ファミリー”を敵に回してただで済むとでも、がぁッ!?」

 

「……任務完了」

 

 たんたん、とリズム良く二発。少女は周囲を確認し、今しがた仕留めた相手が最後の一人であることを認識してぽつりと呟く。

 

「ご苦労です。流石ですね、こちらも滞りなく終わりました」

 

 一部始終を見ていた、ホログラム映像で構築されたビジネススーツを着こなす女が労いの言葉を掛ける。

 

 その背後では戦闘を行っていた四人の少女達とは別の一団がマフィアが密輸するはずだった武器やそれを支払う為の金銭を運び出していた。

 

「改めて感謝します。今回は失敗が許されない案件でして。念には念を入れよということで、“スクワッド”の力を借りさせてもらいました」

 

「……別に構わない。任務を全うしただけだ」

 

 礼を述べるスーツの女に対して少女──錠前サオリは淡々と答える。

 

「コイツらはどうする?」

 

「放置で構いません。我々の痕跡は完璧に消しますし、どうせ彼らの上層部によって落とし前を付けさせられますでしょうから」

 

 ブラックマーケットにおいてアリウスの隠れ蓑の一つである人材派遣会社“Empty sky”……そのCEOにして近隣の駐留部隊の指揮官を務めるその女はそう言って微笑を浮かべる。

 

 基本的に傭兵を派遣・支援するEmpty skyだが、その仕事に自治区のアリウスの生徒が加わることは珍しいことではなかった。

 

 その主な目的は、実戦経験を積ませること。内戦は既に過去のものであり、今の世代のアリウス生は訓練こそ積めど本当の戦闘を経験した者は限りなく少ないため定期的にこのようなことを行っている。

 

 それが今回、サオリ達スクワッドに割り振られたという訳である。

 

「そうか……では回収した武器は何に使うんだ? 売って金にするのか?」

 

「売却する場合もありますが、基本的には我が社の管理物品として傘下の傭兵に支給・貸与します。武器や弾薬の費用を補填することで彼らの手取りも多くなりますので」

 

「成程……よく出来たシステムだな」

 

「ええ。伊達に何年もブラックマーケットで潜伏していた訳ではないということです」

 

 そう述べるスーツの女に対してサオリは純粋に感心した様子を見せる。

 

「傭兵というキヴォトスにおいて地位の低く、軽視されがちな者達を食い物にするのではなく、援助・庇護することで彼らの力を最大限利用する……当然競合相手も居ませんでしたから市場を支配するのは容易でした。今では本来ライバル企業であるはずのPMCなども我が社の傭兵を雇い入れることもあるくらいです」

 

 通常、市場を独占などすれば他社から反感を買ってしまう。だが、そもそもEmpty skyはあくまでも人材派遣会社であり、その業務内容は一般的なPMC等とは違っており、とやかく言われる筋合いは無い。

 

 加えて、目障りだと排除しようにも気付いた時にはその規模は会社にして軍隊。衝突すれば戦争に発展し、それはとてもではないが、採算が取れぬ結果になるだろう。

 

 ただでさえ後ろ暗いビジネスなのもあって、ライバル企業はEmpty skyの急成長を止められないのが現状である。

 

「……それは、凄いな。この会社を創設したのはお前だと聞いた。駐留部隊の指揮官でありながら経営者としても優れているとは恐れ入った」

 

「おや、かのスクワッドのリーダーに誉められるとは光栄ですね。お世辞でも大変嬉しいですよ」

 

「謙遜するな。昔からお前は特に頭が良かった……」

 

 スーツの女は大人びているが、実際にはサオリと同級生であり、中等部の頃に一緒に訓練したこともあった。

 

 駐留部隊に志願して自治区を去ってからは会えていなかったが、まさか若くして指揮官にまで成り上がり、会社まで経営しているとは。酷く驚かされたものだ。

 

「ふふ。しかし、確かに創業者は私ですが、発案自体はニト会長によるものです。比較的安価であるからこそ需要のあった傭兵を支援し、付加価値を見出だすなどという発想は当時の我々にはありませんでしたから、その慧眼には非常に助かりました」

 

 これに対し、スーツの女は微笑みを崩さぬままそう訂正した。

 

「! 何と……流石は閣下だ。私では到底思い付かないことも当然のようにやってのける」

 

 一方、その事実にサオリは感動すら覚えていた。ヘルメット団も日雇いの傭兵達も言ってしまえば自分達アリウスのようにキヴォトスの社会から爪弾きにされた、謂わば社会的弱者という立位置である。

 

 それに対してニトが行ったのは正しく弱者救済であり、アリウスの隠れ蓑を作る過程で彼らに“Empty sky所属の傭兵”という確固たる地位を与え、ここまでの規模にまで発展させた。

 

 トリニティとの融和の件もそうだ。あの場で話を聞いていたサオリは快諾するニトとは対照的に聖園ミカの脳内お花畑としか思えない楽観的な計画に難色を示し、一時期はどうなるかと心配していたが、送り出したアズサは無事トリニティに受け入れられているし、ミカから送られる物資で生活はより豊かな物となった。

 

 反トリニティ派を筆頭としたトリニティへ反感を抱く者達の中にも天真爛漫で純朴なミカと交流していく内に絆され、その考えを改める者が出始めているという話も聞く。

 

 それらはサオリでは予想も付かなかった結果であり、しかしニトからすれば全て織り込み済みだったのだろう。

 

(恐らく閣下は私達よりもずっと先の未来を見据えている。私に出来るのは、あの方の手足として動くことのみ。その為にも努力しなければ──)

 

 故に、サオリのニトへの評価は常日頃から鰻上りであり、眼をキラキラと輝かせていた。

 

「ハァ……また閣下閣下……本当によく飽きないわね」

 

「……サッちゃんは閣下の事が大好きだから」

 

 そんなサオリの様子に溜め息混じりで呆れるのは戒野ミサキというマスクをした茶髪の少女。その隣でフォローするのは紫掛かった桜色の頭髪をした少女、秤アツコだが、機械的な仮面で顔を隠しているためその表情を窺い知ることは出来ない。

 

「え、えへへ……そりゃあ閣下は素晴らしい方ですから。たまにご飯も奢ってくれますし。わ、私なんかと違って……」

 

「……そういやアンタは閣下のお気に入りだったわね、ヒヨリ」

 

 卑屈に笑う槌永ヒヨリ。スクワッドの中で一番なことは勿論のこと、在校生の中でも特にニトと面識が多く、関わりの深い生徒が彼女だった。

 

 今の発言のように時折食事を共にする時点で普通のアリウス生からすれば尋常でないことである。ミサキとしてはヒヨリのどこに気に入る要素があったのか心底不思議でならない。

 

 無論、そんなことを言えば酷いとヒヨリは泣き出すので口には出さないが……。

 

「ミ、ミサキさんは閣下のことをどうお思いで?」

 

「……凄い人だってことは知ってる。あの人が居なきゃアリウスは滅んでいたかもしれないんだし」

 

 とはいえ実のところトップと謁見することなど滅多に無い。式典等で顔を見る機会こそあれど、それだけでその人となりが理解出来るはずもなし。

 

 そう言う意味では、ミサキは自分達の生徒会長である失楽ニトの多くを知らなかった。

 

 彼女が知るのは、その思想のみ。

 

(虚しいからこそ、今を生きなければならない。苦しくても、辛くても、死にたくても、いつか来る終わりまで進み続けなければならない)

 

 全ては虚しいが故に。

 

 かつてと比べて随分とポジティブ思考な物に変わったが、同時にある意味では残酷な教義だと感じた。それはつまり、逃げることを許さず、楽になってはいけないということなのだから。

 

 いきなり幸福になって良いのだと言われても、今までがそうでなかったのだからどうすれば良いかなど分かるはずもない。その思想を習う教育もあったが、結局のところ自己の判断や主体性が重んじられる。

 

 これが徹底した洗脳教育であれば、ミサキは瞬く間に今のアリウスに染まっていたのだろう。しかし、そうでない今、彼女は過去に引き摺られ、今の環境に完全には馴染めていない状態だった。

 

 故に、ニトに対して崇拝にも近い尊敬の念を抱いているサオリを冷ややかな眼で見てしまう。ミサキにとっても彼女は間違いなく恩人であるはずだというのに、そのような考えを抱く自分自身に嫌悪し、無性に腹が立つ。

 

「大丈夫? ミサキ」

 

 そんな心情を察したのかアツコが声をかける。

 

「……別に、平気。“姫”は実際のところ閣下のことどう思ってるの? 本当なら、生徒会長に就任するのは──」

 

「それについてはとっくの昔に解決しているし、何とも思っていないよ。所詮は血統だけ。今更主張しようと大多数が閣下を支持する」

 

 ──秤アツコは、アリウスの初代生徒会長の直系である。

 

 その血統は高貴にして()()であり、歴代の生徒会長の全てがそうである。つまり他の学校ではなかなか見ない、世襲制の生徒会長であったのだ。

 

 そして、その伝統を現生徒会長であるニトは知ってか知らずか打ち壊した。見方を変えれば本来生徒会長になるはずだったアツコからその座を纂奪したとも言えよう。

 

 尤も、それを知る者は少なく、アツコもまたその立場を主張して新たな生徒会長になるつもりはなかった。故に、サオリ達を含めた一部の者から“姫”と呼ばれ、持て囃されようとも他と何ら変わらないアリウスの一生徒として生活している。

 

「それに、私は今のアリウスが好きだから。むしろ閣下には感謝してもし切れない恩がある」

 

 アツコからしてみれば、生徒会長の地位も、己の身に流れる“貴き血統”とやらもどうでもよく、ただサオリ達と共に暮らせる方がよっぽど幸せだった。

 

「まあ、流石にサッちゃんみたいに崇拝するつもりはないけど」

 

「……そう」

 

 やはりアツコもニトを肯定し、支持している。与えられた物を考えればそれが当然であり、普通はミサキもそうあるべきなのだろう。 

 

「あ! そういえば閣下が仰られてました! 学校や生徒会に何か要望や不満はないかと! ミサキさんはどうですか?」

 

 するとヒヨリが唐突にそんなことを言う。

 

「は? 不満って……そんな大したことじゃない」

 

「ですが少しでも何かあれば頼むって言っていましたし。それに、閣下と話してみればその人となりが知れると思うんです。わ、私も最初は怖い人かなーってビクビクしてたんですが実際には優しい方で……いや、ちょっぴりビビる時もありますが」

 

 何を言っているのかとミサキは眉をはひそめるも、ヒヨリが本気で自分を心配し、気遣ってくれているのだと理解した。

 

 少なくともヒヨリはアツコと違い、他者の心の機敏に対して聡いという印象は無く、むしろ鈍感だとミサキは思っていたのに。

 

「……別にいいって。あんたと違って私はそんなに図太い神経してないから」

 

「えっ!? ひ、酷い……」

 

 涙目になるヒヨリ。つい冷たい反応をしてしまったミサキはばつが悪そうにしつつ、そっぽを向く。

 

 ニトや今のアリウスに対して不満などあるはずもなく、胸に渦巻くこの感情を言語化するほどミサキは頭の出来が良くなかった。

 

「何だ、また喧嘩しているのか? ヒヨリ、ミサキ」

 

 するとサオリが戻ってくる。

 

「あ、リーダー。話は終わったんですか?」

 

「ああ。次の仕事も武器の違法取引現場の襲撃らしい。準備しておけ」

 

「……また?」

 

「最近、こういう仕事が多いね……ブラックマーケットだけでなく、キヴォトス全体の治安が悪くなっている気がする」

 

「──それについてだが、どうにも連邦生徒会が機能停止しているらしい」

 

 サオリのその言葉に、一同が驚く。

 

 全行政を担い、学園都市の運営に従事する中央組織。それが機能停止しているとなれば治安が悪化するのは納得であるが、同時に下手するとキヴォトス自体が崩壊しかねない異常事態であると言えよう。

 

「何があったの?」

 

「分からん。ただ現段階では噂レベルだが……」

 

 そして、サオリは告げる。この前代未聞の異常事態に陥っている原因を。

 

「──連邦生徒会長が、失踪したそうだ」

 





ニト「うせやろ?」

スーツの女
 ブラックマーケット駐留部隊指揮官にして人材派遣会社Empty skyのCEOを務める。
 サオリと同期。

いよいよ原作スタートです。
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