アリウスの王   作:大嶽丸

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短め


連邦捜査部S.C.H.A.L.E

 

 

「……何?」

 

 アリウス自治区にて。

 

 いつものように会長室で実務をやりつつ、ミカ曰くティーパーティーで流行っているらしい紅茶の風味を楽しんでいたニトは副会長の報告に眉をひそめる。

 

「確かなのか? それは……」

 

「はい。内部の工作員からの情報であり、信憑性は高いかと。ここ最近の連邦生徒会の不審な動きに対する答え合わせでしょう」

 

 ──連邦生徒会長の失踪。

 

 学園都市運営の中枢を担っていたシステムの大部分が突如として機能停止し、ブラックマーケットへの武器の流出が先月の2000%を上回り、史上稀に見る急激な治安悪化が勃発しているキヴォトスにてまことしやかに囁かれている噂であるが、今回アリウスはそれが真実であったことを掴んだ。

 

 連邦生徒会上層部はこれを隠蔽していたが、内部までは限界があり、潜り込ませていた工作員に漏れ出たその情報を入手したのだ。

 

「原因は?」

 

「まだ不明ですが、探らせています。現在は七神リン首席行政官が代理を務めているようです」

 

 真っ先に脳裏に過ったのは暗殺謀殺の可能性。如何に連邦生徒会長がただでさえ人間離れしたキヴォトスの生徒の中においても“超人”と称される程に文武共に優れた人物だったとしても、その命を奪う手段が無い訳ではない。

 

 例えばそう、“ゲマトリア”の有するヘイローを破壊する技術……否、連邦生徒会は多方面から恨みを買っている。カイザーを筆頭とした悪徳企業、ブラックマーケットの反社組織、それだけでなく各学園の中にも連邦生徒会を目障りだと思っている存在は居るだろう。

 

 或いは、自ら姿を消したか。だとすればその意図が分からないが──。

 

「如何なさいますか? 我々アリウスとしては好機だと思えますが……」

 

「いや、むしろ由々しき事態と言えよう」

 

 副会長の言葉を、ニトは即座に否定する。

 

「確かにこの混乱に乗じて連邦生徒会を攻め落とすことも可能であるし、今回の治安悪化はEmpty skyの傭兵稼業にとっては稼ぎ時……一見するとメリットばかりだが、現在我らはトリニティとの和解に向けて動いている。それを反故にしてまでお飾りと化した連邦生徒会と戦争をし、その後トリニティやゲヘナ……最悪ミレニアムや他の学園も出張ってくるかもしれないな。今、それらと敵対するのはあまりにもリスクが大きいだろう」

 

 タイミングが良いのか悪いのか。聖園ミカがやって来る前ならば一考の余地もあったが、連邦生徒会を掌握などすればトリニティとの和解も最悪破談となる。

 

 利益ばかりを優先してしまえばそれはカイザーのような企業と何ら変わらないのだ。

 

「故に、連邦生徒会への攻撃は勿論のこと目立つ真似はなるべく避けなければならない。とりあえずは探りを入れつつ様子見すべきだな」

 

「……早計が過ぎました。申し訳ありません」

 

 これに副会長は己が短絡さを恥じると共に、大局を見据え、どこまでも冷静なままのニトに感銘を受ける。

 

(マジでぇ? うせやろ?)

 

 尚、内心ニトはおったまげていた。それはもう、腰が抜けてしまいそうなくらいには。

 

(エデン条約どうなんの? というか、それでこの有り様って……えぇ……?)

 

 トップの失踪。()()()()()()()で指揮系統が麻痺し、ここまで治安が悪化するなど組織体制からして終わっているとしか言い様が無く、ニトは心の底から驚愕する。

 

 一体個人にどれだけの権限が集中していたのか。そして、代理を立てても機能停止に等しい状況に陥っていることからその執務は超人と持て囃される連邦生徒会長クラスのスペックでなくては捌き切れないということ。

 

 それは正しくかつてニトが論外と断じたワンマン体制そのものであった。

 

「始皇帝から何を学んだ」

 

「はい?」

 

「ああ、何でもない……他に何か報告することは?」

 

「……これも連邦生徒会についてなのですが、どうやらSRT特殊学園を廃校にする予定らしく」

 

「……は?」

 

 耳を疑った。

 

「連邦生徒会長失踪に伴い、その活動に対して責任を負う存在が不在となってしまったことにより、宙ぶらりんとなったSRTの武力に危機感をもった連邦生徒会内での協議の末に、廃校が決定されてしまったとのことで」

 

「要するに、扱いきれなくなったから切り捨てると? あの防衛室長は止めなかったのか?」

 

「最後まで反対したようですが……多数決の末に」

 

 絶句する。大きな犯罪が増加している今こそSRTの武力で治安維持すべき時だろうに。

 

 責任など代理とやらが、或いは治安維持を担う防衛室長が背負えばいい。それすら出来ない程に彼らは連邦生徒会長に依存していたということなのか。

 

 つまり彼らは文字通り頭を失い、動くことさえ儘ならない手足。予想を遥かに上回るその有り様にニトは唖然としてしまう。

 

(まさか……ここまでとは……)

 

 連邦生徒会には、各学園から選び抜かれた優秀な者達が属していると聞いていたが、これもワンマン体制の弊害と言うべきか。能力だけが優秀でも主体性が失われ、トップが居なければ簡単に思考停止に陥ってしまう。

 

 そのトップが群を抜いて有能なら尚更。とはいえ仮にもキヴォトスのトップに立つ連邦生徒会長がそんな至極当然の法則を知らないとは思えないが……買い被り過ぎていただけだろうか。

 

「……SRT特殊学園の生徒はどうなる?」

 

「恐らくヴァルキューレに編入されるかと。中にはそれを拒んでいる者も居ますが……」

 

「ふむ……上手く引き込めないものか。彼らのカリキュラムを取り入れることが出来るならばそれが望ましい。その辺も調査してくれ」

 

 前々から欲していたSRT特殊学園のカリキュラムを入手出来る絶好の機会。このような状況でなければ手放しに喜べていたのだが……。

 

「了解です。交渉に優れている者をピックアップして派遣しましょう」

 

「頼んだ。その他の調査も迅速にな。場合によっては、今後の身の振り方を改める必要が出てくる」

 

 この調子だと連邦生徒会は自分達の手に余る要素から目を背け、切り捨てていき、正真正銘のお飾りと化すだろう。

 

 無論そのようなことをいくらやっても治安の悪化は止まるはずもない。学園や企業はますます図に乗るし、水面下で蔓延っていた悪意が一気に爆発するのは目に見えている。綱渡りで維持していた張りぼての秩序すら崩れ落ち、キヴォトスそのものが破綻しかねい。

 

 そうなってしまえば連邦生徒会長が戻って来ようと手遅れ……たった一人の失踪で起きた崖っぷち事態に気付いたニトは平静を装いながらもわりと焦っていた。

 

 今すぐにでもミカとも話し、最悪の未来に備えて準備する必要がある。キヴォトスが崩壊しようとどうでもいいが、共倒れすることだけは避けなければならないのだから。

 

 ──全ては、アリウスの為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 不思議なことが起こった。

 

 混沌を極めていた学園都市キヴォトス。その世紀末化した治安が突如として沈静化したのだ。

 

 キヴォトスという名の泥舟を乗り捨てることも視野に入れていたニトはまたしても予想外な出来事に困惑した。連邦生徒会長が戻ってきたのかと思えばそうではなく、外部より招かれたある人物の手によるものだと言う。

 

「“連邦捜査部S.C.H.A.L.E”……それに、“先生”だと?」

 

 神妙な面持ちでニトはアリウスの工作員が執筆した調査資料に目を通す。卒業生や年齢が成人に達している者を教員として雇い入れているアリウスを除き、キヴォトスは学園都市でありながら教職という立場の人間は()()()()()()()存在せず、時折講師を雇うことこそあれど基本的にBDを用いて学習している。

 

 そんな中、現れたのが“先生”と呼ばれる人物。

 

 曰く、連邦生徒会長自らが招いた大人であり、彼は配置されてすぐに現場に居た生徒達を指揮し、矯正局から脱獄した囚人が引き起こしたサンクトゥム・タワーで起きたテロは鎮圧したそうだ。

 

 そして、その“先生”が指揮する組織が連邦捜査部S.C.H.A.L.E……通称“シャーレ”である。

 

 その詳細を確認したニトは目を疑った。

 

 言ってしまえば超法規的組織。連邦生徒会に属しながら独自の予算と権限を有し、それはキヴォトス全土のあらゆる学園、企業、団体に対して行使が可能となっており、キヴォトスの構成員である生徒であるならその所属を問わずに加入する事が出来る。

 

 そして、指揮官である“先生”一人の裁量で無制限に人員を選抜し、いつでも、どこでも、誰にでも干渉・介入を行える組織なのだ。しかもこれでいて活動制限は存在せず、上位組織の承認を得る事も、有権者からの投票を募る事も、第三者からの監視を受ける事もない。

 

 ──異常であり、危険。

 

 連邦生徒会は頭がトチ狂ったのか。外部から来た人間に絶大な権力と予算、設備を与え、好きにさせる。それも連邦生徒会長の独断で選んだ相手に。

 

 これではまるでその“先生”とやらこそが、連邦生徒会長の後釜のようではないか。

 

(全く以て意味が分からん。連邦生徒会長が単なる狂人ではないとしたら、どのような目的があるのやら)

 

 この件から察するに少なくとも連邦生徒会長は自ら姿を消したか、自分が失踪することを予見していたのだろう。

 

 会ったことはないが、このキヴォトスの頂点に立ち、曲がりなりにもその秩序を維持してきた存在。それが失踪する直前に招き、破格の権限を与えた鬼札(ジョーカー)には重要な意味があると思いたかった。

 

 尤も、“先生”が連邦生徒会長失踪の黒幕であり、その権限を纂奪したという可能性も充分に考えられるが。ベアトリーチェの存在を知る以上、キヴォトスの外から来た大人という時点で警戒するに値する。

 

 現段階では、あまりにも情報が足りなかった。

 

「白洲辺りをシャーレに……いや、こればかりはオレ自身が直接見定めるべきか」

 

 今の今まで学生が運営していた都市。そこに入り込んだ“先生”という立場の大人。それはつまりこの歪な在り方のまま突き進んでいた世界に何らかの“変化”がもたらされようとしているということ──。

 

 異常さを感じながらも、それは良いことだとニトは思う。この世に永遠や不変などあるはずもなく、例外などあってはならない。

 

 唯一絶対の理。全ては時の流れと共に変わり、朽ちていく。それはあまりにも虚しく、無情で、だからこそ、()()()()()()()()()()()()を人は渇望するのだ。

 

 故にこそ、ニトは“先生”という存在がもたらす変化がどのようなものなのか、またどういった影響を及ぼすのか気になっていた。

 

(思い立ったが吉日。早速、“先生”とやらの動向を追ってみるとするか──)

 

 トップがわざわざ申請する必要は無いと副会長から言われ、常に携行している外出許可証を手に、ニトは腰を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 “先生”の動向はすぐに分かった。

 

 どうやらアビドス高校へ出張しているらしい。理由はまだ不明だが、あの高校が抱える問題を解決するつもりだとすればそれはニトとしても好ましく良い印象を抱く。この時点でただの連邦生徒会の一員ではないことが分かる。

 

 駐留部隊から報告を受け、アビドス自治区に赴いてニトは個人で先生の捜索していたのだが──。

 

「み、水……」

 

「エナジードリンクならあるけど」

 

 ──件の“先生”は、砂漠で遭難していた。

 

 たまたま通り掛かったアビドスの生徒……砂狼シロコに救助されていたが、一歩間違えれば干からびて木乃伊と化していたであろうその危機的状況に建物の陰から様子を窺うニトは酷く困惑していた。

 

 明らかに砂漠を踏破しに来たとは考えられない軽装で砂まみれになっているその姿からして、まさかアビドスが砂漠地帯だと知らなかったのだろうか。

 

(なんで?)

 

 この時、ニトはわりと本気でキヴォトスの行く末を心配してしまったと言う。





だから連邦生徒会長失踪より先にミカが接触する必要があったんですね
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