アリウスの王   作:大嶽丸

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エルデンリングDLCが楽し過ぎた。


暁のホルス

 

 

「……最低限の能力はあるようだな」

 

 捨て台詞を吐いて逃走していくカタカタヘルメット団を眺めながらニトは呟く。

 

 ファーストコンタクトが遭難している姿だったこともあり、一時期はどうなるかと心配していたが、シャーレの“先生”の指揮能力は彼女から見ても優秀な部類だった。

 

 アビドスの生徒達は少数ながら他校と比べてもトップクラスの実力を有しているとはいえ会って間もない彼女達に対する的確な指示と作戦立案し、弾薬と人員で圧倒的に上回っていたカタカタヘルメット団を見事撃退してみせた。

 

 “小鳥遊ホシノ”という規格外が居る以上、どう転ぼうとアビドス側の勝利は揺るがなかっただろうが、恐らく彼女も先生の実力を見極めようとしていたのだろう。本気を出すことはなく、戦闘を見る限りそれに依存していたようにも見えなかった。

 

(戦闘においては問題無し。いや、我々からすれば問題()()か。兵力さえ整えれば充分脅威に成り得るか……見たところベアトリーチェと違い、本人の戦闘能力は無さそうだが、結論付けるのはまだ早いな)

 

 実力は把握した。シャーレの超法規的な権限もあって現時点でも相当厄介である。

 

 次は先生自身の人格や行動方針について知りたいが、生憎と当人はアビドスの校舎へと入っていった。今頃8()()()()借金の返済について話し合っていることだろう。

 

 これ以上接近しては感付かれる可能性がある。そのリスクを考慮し、ニトは先生の観察を諦めた。

 

 故に──。

 

「うへぇ……()()来るなんて珍しいね。失楽ニト」

 

 背後から聴こえる、己の名を呼ぶ声。これにニトは眉一つ動かすことなく、ゆっくりと振り返った。

 

 今この瞬間にも一切の気配は無く、しかし確かな存在感を露にしながら彼女はそこに立っていた。

 

「……気付いていたか。流石だな、“小鳥遊ホシノ”」

 

「よく言う。わざとらしく気配を出してたくせに……シロコちゃん辺りに気付かれるかとヒヤヒヤしたよ」

 

 薄い桃色の頭髪に小柄な体格の少女。つい先程まで先生やアビドスの生徒に見せていた気だるげな姿とは打って変わり、その特徴的な右眼が黄色で左眼が青色のオッドアイを鋭くさせ、静かにニトを見据えていた。

 

 ──小鳥遊ホシノ

 

 アビドス高校三年生。かつて“暁のホルス”と呼ばれ、キヴォトスにおいても最高峰の“神秘”を有する人物……少なくともニトの知る限りでは“最強”に近い個人である。

 

「で、何の用かな? ショバ代はいつもの子からもう貰ってるけど」

 

「アビドスに用は無い。ここへ来たのは偶然だ」

 

「そ……つまり“先生”が目当てってこと?」

 

「その通りだ」

 

 あっさりと肯定するニトに対し、最大限の警戒をしつつホシノは内心安堵する。

 

 目の前の女はアビドスと秘密裏に繋がり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()正体不明の組織……その中でも相当な高い地位にあると思われる人物だ。

 

 その支援を打ち切られてしまえば借金返済は儘ならなくなってしまう。

 

「何者なの? あの大人は」

 

 過去の経験から大人にあまり良い感情を持っておらず、まだあの先生とやらを信用するに値していないホシノは問いかける。

 

「それを知る為にこうしている。連邦生徒会長により破格の地位と権限を与えられたフィクサー……あの男の行動次第でキヴォトスは大きく揺れるだろう」

 

「ふうん……ま、確かに今までの連邦生徒会の連中とは違うみたいだね」

 

 ニト達が如何なる組織で、どれだけの人員や戦力を有するかなどホシノが知るはずもないが、少なくとも数百万もの利息をポンと払えるくらいなのだから相当な規模だと思われる。

 

 そんな彼らも注目し、高い地位にあるはずの人物が直々に監視する程度にはシャーレの先生とやらは影響力があるようだ。

 

 尚、ホシノはニトが高い地位どころかトップであることを知らず、もし知ればそのフットワークの軽さに驚くだろう。

 

「けどコソコソするのは別に良いけど目立つのは避けてよね。元はと言えばそっちの要望で皆にバレないようにしているんだし……」

 

「勿論だとも。君には感謝しているよ、我らのような得体の知れぬ連中に土地を貸し与えてくれているのだからな」

 

「……自覚があるようで何より」

 

 こちらの嫌味に対して礼を述べられ、ホシノは微妙な表情を浮かべた。アビドス高校生徒会……今やその唯一のメンバーであるホシノとの密約により、ニト達は自治区内での活動・駐留は認可され、その存在も秘匿されている。

 

 加えて、彼女達が自治区で何をやっているかは未だに教えてもらえていない。ホシノからすれば実に胡散臭く、怪しさ満載であるが、“契約内容”については何度も話し合いを介して擦り合わせ、実際に“利用料”として破格にも等しい援助をしてもらっている……その徹底的な秘密主義とは対照的にニトの態度からはある種の真摯さすら感じていた。

 

 故に、密約を結んでからそれなりの月日が経つものの人一倍疑り深いその性格からホシノはニト達を信用し切れてはおらず、かといって彼女達の誠意もまた理解しているためどう評価し、接するべきなのか未だに分からなかった。

 

「──さて、いきなりですまないが、君に頼みがある」

 

 そして、そんなホシノの胸に渦巻く感情を知る由もないニトは唐突にそう告げる。

 

「頼み?」

 

「アビドス校内においては我らの目が届かない。なのでそこは君に頼みたいのだ」

 

「……成程ね。つまりスパイしろってこと」

 

 わざわざバレるように気配を出していたのは、これが理由だったようだ。

 

 アビドスの生徒であるホシノならば怪しまれることなく諜報活動に勤しめることができ、最適な人選と言えよう。

 

「そうなるな」

 

「うーん……君達の使い走りにまで成り下がった覚えはないんだけどなぁ……」

 

 じろりと睨む。

 

「なに、別に腹の中を探れなどとは言わんよ。シャーレの先生は君達の危機的状況を打開してくれるかもしれない存在……それを諜報するのは流石に忍びないだろう」

 

「……だと良いんだけどね」

 

 期待していないと言えば嘘になる。先生の存在によって現状が少しでも改善されるのなら、それはとても望ましいことなのだから。

 

 しかし、これまでにホシノはあまりにも()()()()()。今頃になって……、という感情もまた同時に存在しており、そんな己に自己嫌悪を抱いてしまう。

 

「じゃあ、何をさせたいのかな?」

 

「大したことではない。君から見聞したシャーレの先生の言動や人格を我らに教えてくれればいい」

 

「……それだけ?」

 

「ああ。それだけでも充分に価値ある情報だ」

 

 訝しげな視線を向けるホシノに対し、ニトは聡明な彼女の視点からの情報もあればより正確な評価を下せると考えている。最終的には己の眼と判断で見定めるつもりとはいえ視点は複数あった方が良い。

 

「ふうん……分かったよ。そのくらいのなら、別にいい」

 

 ホシノは承諾する。しかし、その表情は未だに怪訝なもののままであった。

 

「にしても、相変わらず分からないね。支援していることを盾にすれば、こっちは断れないのに」

 

 実際のところホシノはその態度とは裏腹に頼まれれば大切な密偵でも何でもやるつもりだった。

 

 それこそ後輩達の害になるようなことでもない限りは。ニト達から与えられている恩恵を顧みれば当然のことだろう。

 

「──それは前提が間違っているな。そもそも我らは君達を支援しているつもりはない」

 

 しかし、ニトはこれを否定する。

 

「君達に渡している金は相応で正当な報酬であり、その代価として我らはこの土地での活動を許されている。つまりは疑いようもなく、対等な関係なのだよ」

 

「……対等、ね」

 

 それは紛れも無く本心なのだと解る。ホシノは人一倍疑り深く、賢しいが故に。

 

 けれど、だからこそ、理解し難かった。

 

「随分と拘るけど……何で? そっちが有利な立場なのは明白なのにさ」

 

 ずっと前から疑問だった。明らかに怪しいというのに妙な律儀さがある。そもそもの話、この広大なアビドス砂漠でコソコソ隠れて何をしようが、ホシノ達が気付く可能性は無いに等しく、たとえバレてもたった五人ではどうすることもできない。

 

 にも拘わらずわざわざ接触し、己の存在を表明しながら契約という形で密約を結んだ。初めこそ恩を売るつもりだと思っていたが、その素振りは一向に無く挙げ句に否定された。

 

 ホシノには分からない。目の前の女の真意が。

 

「それが“当たり前”だからだ。我らは慈善団体などではなく、そして獣が如き略奪者でもない……その道理を履き違えてしまえば、何もかもが破綻する可能性さえある」

 

 対するニトは断言する。危機的状況にあるアビドスに対して同情的な感情が無いとは決して言わないが、それでもニトはあくまでも対等な契約によって結ばれた関係、便利屋68のようにビジネスパートナーとして見るように心掛けていた。

 

「……そっか。やっぱり()には分からないなぁ」

 

 一瞬呆気に取られたような表情を浮かべるも、すぐにそっぽを向いて誤魔化すホシノ。当たり前……そうだとして、それが罷り通るような世の中であれば、自分達はこうも苦労はしていないだろう。

 

 ただ、いずれにせよニトのその行動は間違っていないと言えよう。もし彼女達が恩着せがましい態度を取っていれば今まで出会った悪意に満ちた大人達のように敵視していたであろうから。

 

「ま、その言葉が本当であることを祈るよ。()()()()的に、君達とはケンカしたくないからさ」

 

 故に、ホシノから見たニト達アリウスは怪しく微妙な関係性であるものの、一定の信頼がそこにはあった。

 

「ああ。こちらとしても、キヴォトスにおいて指折りの強者である君を相手取るのは御免被りたい」

 

「どうだか。君、かなり強いでしょ? 仕草や佇まいで何となく分かるよ」

 

「……さて、どうだろうな」

 

 わざとらしく誤魔化すニト。対するホシノは彼女が自分に近しい、或いはそれ以上の実力者であると予想していた。ここまで警戒している理由の一つでもある。

 

 少なくとも今この瞬間にも戦いを忘れておらず、いつ如何なるタイミングでもスムーズに臨戦態勢に移れるだろう……言動も態度も雰囲気すらも全く違うというのに、どことなく()()()()()()を彷彿とさせるとホシノは冷静に分析する。

 

 無論、負ける気は更々無いとはいえ敵に回したら厄介極まりないのは間違いない。

 

「んじゃ、そろそろ帰るよ。あんまり遅いと皆に怪しまれちゃうかもしれないし」

 

 するとホシノはそう言い、背を向ける。

 

「……ああ。オレも今日のところは立ち去るとしよう」

 

 皆が待つ校舎へと戻っていくホシノ。それを見送りながらニトは気だるげに頭を掻く。

 

「当たり前、か……」

 

 どの口が言うと、ニトは自嘲気味に笑う。

 

 己は既に彼女に対して最大の不義理を働いているというのに。

 

「………………」

 

 少し離れた暗がりで、ガスマスクの少女が水色の頭髪を揺らしながら一部始終を静かにジッと眺めていた。

 

 その内にある表情は──。





因みに色々とリスクあるのにホシノに本名を教えてるのはニトちゃんなりの誠意
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