アリウスの王   作:大嶽丸

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ヒナが予想よりもずっと強かった……ヒナヒナのシナじゃない時はあんなに強いんやね。水着イベでは伝説のスケバンさんとかいうニトちゃんのライバル←!?登場して笑った。

というかニトちゃん、アビドス三章のフラグ完全にへし追っちゃってたのが判明。これが吉と出るか凶と出るかは……どうでしょうね?


邂逅

 

 

 あれから、先生は頻繁にアビドス高校を訪れており、彼が本気であの学校の問題解決に取り組まんとしているのは明らかだった。

 

 とはいえ8億にも膨れ上がった借金……それ自体は紛れも無い本物であり、いくら超法規的組織であるシャーレの権限を行使しても帳消し出来るとは考え辛く、良くて利息を軽減させるのが関の山だろう。

 

 或いは借金の大元であり、ヘルメット団をけしかけアビドスを潰さんとしているカイザー・コーポレーションを倒産に追い込むことが出来れば借金は消えるが……。

 

(それはそれで困るな……隠蔽と蜥蜴の尻尾切りが得意な連中のことだからしぶとく生き伸びるだろうが……)

 

 アリウスとしては、()()()()カイザーに消えてもらうのは都合が悪かった。ホシノには悪いが、ニトはあの傲慢にも皇帝を名乗る悪徳企業に対して利用価値を見出だしている。

 

 それはまだ準備段階。だからこそ、アビドス各地の土地を買収してまであの広大な砂漠の中で血眼になって何かを探している連中を看過しているのだ。

 

 かといってアビドスをみすみす廃校させるつもりなど毛頭無い。借金返済については少なくとも利息分はアリウスが負担しているし、定期的に関連施設等を事故に見せかけて破壊するなどして妨害工作をして現状を長引かせている。

 

 これに関してカイザーは今のところ気付いていない。違和感は薄々感じているかもしれないが、今回シャーレが介入したことで恐らくそちらに注意が向くことだろう。

 

「嬢ちゃん、何か悩み事かい?」

 

「ん?」

 

「あんまり食が進んでないように見えたからな。いつも食べるの早いのに」

 

 心配そうにこちらを呼び掛ける声により、思考が現実へと引き戻される。

 

 そこでニトは己が()()()につい物思いに耽てしまっていたことに気付く。

 

「いや……少し考え事をしていただけさ」

 

「そうかい? ま、麺が伸びない内に食ってくれよ。腹が減っては頭も回らないだろうしな」

 

「……そうだな」

 

 目の前にあるのは濃厚なスープとそれがよく絡んだ腰のある太麺に、厚切りのチャーシューに味玉二つ、山盛りのもやしがトッピングされた大変ボリューミーな拉麺……この店の看板メニューであり、これで税込600円以下という昨今の拉麺業界では珍しいお手頃価格である。

 

 当然、味に関しても少なくともキヴォトスにおいて五本の指に入る絶品だとニトは認識しており、一度麺を啜るなり箸を進める手が止まらず、勢い良くがっつき始めた。

 

 その食いっぷりを見てこの店、“柴関ラーメン”の店主である二足歩行の柴犬……通称“柴大将”は安心した様子で笑う。

 

「そうそう! 嬢ちゃんはそうでなくちゃな!」

 

「……相変わらず美味い。流石だ、大将」

 

 ニトは彼女が知る全ての拉麺店の中で一番自分好みの味の拉麺を提供してくれるため、アビドスやその近辺を通る機会がある時は毎回訪れるくらいにはこの店を気に入っていた。

 

 因みに本当にどうでもいい話だが、ヒヨリはもっと脂っこい物が好きなためNo.1拉麺は別の店らしく何度か論争を繰り広げていたりするらしい。

 

(そういえばこの区域の土地もカイザーが買収していたな……強制的に立ち退きさせていない辺り、そこまで重要視はしていないのだろうが……)

 

 この店が無くなるのはキヴォトスにおいてもトップクラスの損失だが、土地の買収に合意したのは他ならぬアビドスの先人達であり、言ってしまえば自業自得。一応は正規の手続きを踏んでいる以上、ニト達アリウスではどうこう出来る問題ではなかった。

 

 尤も、立ち退きさせられてもこの拉麺の味ならばどの自治区であろうとやっていけるだろう。むしろもっと繁盛するかもしれない。

 

「調子の方はどうだい? 連邦生徒会長さんが居なくなっちまって、一時期は大騒ぎだったが、そっちも色々と大変だったんじゃないか?」

 

 柴大将の問いかける。どうやら先程の物思いもそれに関連していると思われているようだ。実際、間違っていないが。

 

 彼の認識ではニトはたまに来る馴染みの客の一人に過ぎず、その素性については当然何も知らないが、目の前の少女の言動や立ち振舞いから人の上に立つような立場であることを察している。長年接客業を続けている経験が故の観察眼と言えよう。

 

「……ぼちぼち、といったところだな。こちらは然程影響は無かったが、かといって好転した訳でもない」

 

 曖昧ながら本当の事を言う。地上と切り離されているアリウスの方は連邦生徒会長失踪による治安悪化の影響は微塵も受けておらず、Empty skyの需要は鰻上りなので一見するとむしろ得をしていると言えよう。

 

 とはいえトリニティとの融和に関しては何かしら行動方針が変わるであろうから、影響自体は少なからずある。今後駐留部隊等がその煽りを受ける可能性も無きにしも在らず。

 

「大将の方は?」

 

「うちもあんまいつもと変わってないよ、言っちゃあなんだが辺鄙な土地だからな。あ、けどほらあれだ……あのヘルメットを被った連中、そいつらが最近ここいらで彷徨いてる」

 

「……ヘルメット団か」

 

 十中八九カイザーに雇われ、アビドスを襲撃しているカタカタヘルメット団だろう。先生の活躍により撃退されたが、恐らくまた性懲りもなく攻めてくる。

 

 良くも悪くも往生際が悪く、しつこい。それがヘルメット団の特徴であり、決して弱小だと侮るべきではないとニトは認識していた。

 

 尤も、優秀な指揮官が付けば、という話だが。

 

「そうそれだ。ちと物騒ではあるが……まあ、アビドスの生徒さん達が追い払ってくれるだろうさ。なぁ、セリカちゃん」

 

 すると柴大将は拉麺をテーブルへ運んでいるツインテールの店員の名を呼ぶ。

 

「ええ勿論です! あんな連中、何度だって返り討ちにしてやりますから!」

 

 胸を張ってそう答える少女……その胸元の名札には黒見セリカと記されていた。

 

 アビドス高校の一年生。店員として働き始めたのは最近なためニトとは今日が初対面であり、何気にホシノ以外の現アビドス生とコミュニケーションを取るのは初である。

 

「……それは頼もしいな」

 

「ふふん、この前だって返り討ちにしたんですよ! ……先生が居ないと危なかったけど」

 

 何故か最後の方だけぼそりと呟くも、ニトの耳にはしっかりと届く。

 

「ほう……先生、というのはもしや例のシャーレの先生かね?」

 

「はい。常連さんも知っているんですか?」

 

「噂程度にはな」

 

 常連、という程の頻度で来店している訳ではないが、柴大将との親しげな会話からそう判断したのだろう。これについてニトは特に訂正することなく、話を広げんとする。

 

 生徒の視点から先生に対する印象を知る良い機会だと思ったのだ。

 

「ふむ、ということは……連邦生徒会はまだアビドスを見捨てていなかった訳だ。良かったではないか」

 

「む……そ、それはそうだけど……」

 

「?」

 

 そう言えば僅かに顔をしかめ、ぎこちのないの返事をするセリカ。見たところあまり良く思っていない様子にニトは少し意外に思う。

 

「どうした、思う所がありげに見えるが」

 

「え、あっいやその……」

 

「ああ、踏み込まれたくない話だったら謝る。個人的に気になっただけに過ぎん」

 

 本来であればあまり深掘りするべきではないが、情報収集の為にニトは失礼を承知で掘り下げてみる。

 

「……実は、私はまだ認めていないんです。今まで見向きもしなかったくせに、今更大人に首を突っ込まれるなんて……どうしても納得が行かなくて」

 

 一瞬客にこんな愚痴みたいなことを言って良いのかと思うも、興味津々な様子のニトを見て世間話のような感覚でセリカは話し始める。

 

「確かに戦闘指揮は凄かったけど、それでも……」

 

「……成程な」

 

 要するに、急に現れた余所者の介入が気に食わないと。

 

「気持ちは分からんでもない。それに、警戒から入るのは良いことだ」

 

「え? そ、そう……ですか……?」

 

「そうだとも。元来、他者を信じるというのは難しいものだ。君はまだ先生という外様の人間が信用するに値するかどうか見定めている段階なのだろう? 最終的な判断を下すのは相手の行動次第……別に何も可笑しいところは無いさ」

 

 小鳥遊ホシノもまた同じである。セリカの場合はそこに年頃の少年少女の気難しい心情があるように見えたが、いずれにせよニトは彼女の胸に抱く思いをそう受け取り、全面的に肯定する。

 

「へ……? あっ、で、ですよね……! なのにみんなすぐに信用しちゃって……あはは……」

 

 これにセリカはぽかんとするも、すぐに取り繕うように笑い、小さく俯く。

 

 実際には見定めている、とまでは考えていなかった。ただ嫌だからと、また裏切られて失望したくないからと、短絡的な思考で拒絶していた。

 

 そして、それは単なる我儘。子供染みた独り善がりの癇癪に過ぎなかったのだと気付いてしまい、内心ばつが悪くなる。

 

「?」

 

 尚、そんなこと知る由も無いニトはその様子を見て不思議そうに首を傾げる。

 

 かける言葉を間違えたか? どうすべきかと思案していると、チャイムの音と共に店のドアが横にスライドする。

 

「いらっしゃいませ! 何名様で……なぁっ!?」

 

 いつものように接客スマイルで客を出迎えようとしたセリカはピシリと固まった。

 

「あの~☆ 五名なんですけど~!」

 

「あ、あはは……セリカちゃん、お疲れ……」

 

「お疲れ」

 

「み、みんな……どうしてここを……!?」

 

 ニトもまた驚く。何故なら来店してきたのはホシノらアビドスの生徒四人に加え──。

 

「先生までっ!?」

 

 つい先程まで話題にしていた、件の先生だったのだから。

 

(……噂をすれば何とやら)

 

 運が良いのか悪いのか。向こうから来てくれるのは本来であれば助かるのだが…….

 

「………………」

 

 こちらに気付いたホシノがすんと真顔になる。が、瞬時に普段見せている気だるげな笑顔に戻しつつ、素早く口を動かし始める。

 

(なんで居るの?)

 

(……普通に偶然だ)

 

(うへぇ最悪……とりあえず他人のフリしててよ)

 

(ああ。分かっているさ)

 

 そんなやり取りを口パクでする。ニトの気まずそうな表情と、彼女が柴関ラーメンが好きでよく通っているのは知っていたことから本当に偶然なのだろうと理解し、よりにもよってこのタイミングかとホシノは溜め息を吐く。

 

「アビドスの生徒さん達か。セリカちゃん、席へ案内してやってくれ」

 

「は、はい!」

 

 一方、何やらワーワー揉めていたセリカだったが、柴大将にそう言われ、接客へと向かう。話し相手が居なくなったニトはホシノに言われた通りに存在感を消し、彼らの会話に聞き耳を立てつつ黙々と食を進める。

 

 どちらの隣に座るのだとか、セリカを尾行してここがバイト先であることを突き止めただとか、制服のデザインがどうのとか……聞こえてくる内容は他愛も無い話ばかり。分かったことは先生が既にアビドスの生徒達と親交を深め、馴染んでいるということくらいだった。

 

(……長居しても仕方ないな)

 

 既に器の中はスープのみ。これを躊躇無く飲み干すとニトは席を立つ。塩分過多など知ったことではない。

 

「御馳走様。大将、会計だ」

 

「あいよ! また来てくれよな!」

 

 カウンターに代金を置き、店を後にしようとするその時だった。視線を感じたのは。

 

(──うん?)

 

 その主は、先生だった。

 

 どういう訳か、こちらをジッと見つめていた。まるで何かに驚いているような表情を浮かべながら。

 

「……どうかしたかね?」

 

 視線が交差する。特段怪しい行動はしていないはずだが、何か琴線に触れるようなことをしてしまったのだろうか。

 

「“あっ……いえ。何でもありません。……すみません、失礼しました”」

 

 問えば、すぐに先生は謝罪した。

 

「…………? そうか、ならいい」

 

 ──違和感。

 

 それが何なのかは分からず、内心本気で困惑しながらもニトは店を出る。

 

 ドアが閉り、立ち去る彼女の背中が完全に見えなくなるまで、先生の視線が離れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「御馳走様。大将、会計だ」

 

 生徒達と和気藹々とし、拉麺の味に舌鼓を打っている最中、その()()()()()()()()が聴こえるまで、“ソレ”に気付くことは出来なかった。

 

 空気が変わるのを感じる。焼け付くような、凍り付くような、しかしそれは自分だけであり、周りは微塵も気にも留めず、日常の中に居た。

 

 そして、次の瞬間に視界を塗り潰すように埋め尽くしたのは鮮烈な(あか)だった。

 

 ──“龍”? 

 

 それが第一印象。けれど、辛うじてそう見えるだけの、実際にはよく分からないディティールだらけの異形。手が二本で二足で歩く、人の形をしているはずだが、どうにも不明瞭で正確な姿形が捉えられない。

 

 そんな存在が大将と親しげに話し、会計を済ませているのは実に異様な光景である。

 

「……どうかしたかね?」

 

 自分の視線に気付いた彼、或いは彼女はこちらへ視線を向け、問いかける。恐らく眼であろう部分は水晶のように反射して自分の姿が映り込んでおり、それが確かにこちらを視認しているということを証明していた。

 

 ノイズの混じったその声は高低の判別が付かず、男にも女にも、老人にも幼子にも聴こえ、しかしどうしてだろうか。不思議と耳障りではなく、それが余計に不気味に感じる。

 

 呆気に取られながらも謝罪した。動物やロボットの姿をした者が当たり前のように街を練り歩き、それが受け入れられているのがこのキヴォトスという街なのだ。大将や生徒達が特に何の反応も示していないことからもこういった容姿の者も特段珍しいものではないのだろう。

 

 そう思うことに、した。

 

 キヴォトスには、ああいった住人も居るのだなと、自身の知識をアップデートしつつ、しかしどうしてもその姿から目が離せず、結局店から出るまで姿を追ってしまう。

 

「先生? どうしたの?」

 

 私の様子を不審に思ったのであろうシロコが問いかけてくる。

 

「“……何でもないよ、本当に”」

 

 今思えば、この時に彼女や大将に今の客について訊いておけば、()()はとうの昔に晴れていたのかもしれない。

 

 ただ一つ言えることはこれがファースト・コンタクト。思いがけぬ邂逅であり、互いが互いを認識し、言葉を交わした瞬間だった。

 

 ──そして、因縁の始まりでもある。





ニト(めっちゃ見てくるじゃん。こわ…)

あと感想でニトの年齢について言及されてましたので一応捕捉しておくとギリギリ成人に達しているかしてないくらい。プロフィールだと本人が自分の年齢に無頓着なのもあって年齢不明扱いされる。ってことは内戦時の年齢は……。

因みに原作だと十年前に終結した内戦ですが、この作品だと泥沼化して三年くらいずれ込んでたりします。アリウス生徒達が平和になりながらも若干ヴァニってるのはそのせい。
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