アリウスの王   作:大嶽丸

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ちょっとごちゃごちゃしてるかも

……ってかいつの間にか二か月経ってて草


アビドス高校襲撃作戦 後編

 

 

 ──えらいことになってるな、と。

 

 アビドス自治区にある雑居ビルにて。屋上の鉄柵に体を預け、ニトは他人事のように呟く。

 

 視線は数百mも先にあるアビドス高校へと向いており、そこの校庭で繰り広げられているアビドスと便利屋68の戦いを見下ろしていた。

 

 双眼鏡の類いは反射で気付かれる可能性があるため使わず裸眼で、しかしその紅く耀いた双眸は個人個人をはっきりと捉えている。

 

「にしても、随分と腕を上げたな……特に伊草の成長速度には目を見張るものがある」

 

 あれから数ある依頼をこなし、また自ら鍛練を重ねたのだろう。便利屋メンバー達の戦闘力はかつてニトと戦ったあの時よりも著しく向上していた。

 

 でなければ、あそこまで本気になった小鳥遊ホシノ相手にこうも善戦することは出来なかっただろう。

 

「ううむ、小鳥遊め……シャーレの先生の実力が見たかったというのに。便利屋に情報を渡したのは失敗だったか?」

 

 流石だと感心しつつ悩ましげに唸る。先生についての情報を敢えて除き、アビドスの戦力について隠すこと無く伝えたのだが、それで便利屋は生徒よりも校舎を狙う作戦を決行し、その結果ホシノが本気で彼女達を排除する気になってしまった。

 

 このままでは先生が実力を発揮する前にホシノが一人で便利屋を蹴散らす可能性が高い。尤も、便利屋もまだ隠し玉を有しているのだが、それはそれでニトにとっては二つ目の問題点でもある。

 

「“錠前と秤”は別動隊のようだが……機を窺っているのか、陸八魔の指示待ちか。いずれにせよ、こうなってはすぐにでも動くだろうな」

 

 どういう訳か便利屋に協力している、よく知る可愛い二人の部下の姿。駐留部隊から報告を受けた時は耳を疑ったものだ。

 

 スクワッドが経験を積む為にEmpty skyで傭兵活動をしていることは当然把握しており、顔を会わせる機会くらいはあるだろうと思っていたが、だからといってこの展開は予想出来るはずもない。

 

(仲良くしてくれるのは嬉しいのだがな……)

 

 ニトとしては複雑な思いだった。依頼内容を聞く前に引き受けたのは明らかなミスであったが、サオリ達が外との繋がりを持ち、しかもゲヘナの生徒相手に偏見無く接しているのは好ましいが故に。

 

 要するに、サオリと便利屋にはこれからも良好な関係を続けて行ってほしいのだ。

 

 隠蔽しているとはいえホシノらにサオリと自分達(アリウス)との関係性を気取られるリスクを理解しながらも便利屋への協力を止めさせなかったのは、そういった思惑もあった。

 

「まあいい……我らがスクワッドがどこまでやれるか確かめる良い機会だと思うとしよう。ヒヨリと戒野も参加してくれれば尚のこと良かったが」

 

 方針を切り換える。元より戦闘データを獲るにはまたとない機会。どう転ぼうとも今回の戦闘で獲られるモノは確かに存在し、決して無駄にはならないだろう。

 

 若干……というか、かなり無理矢理ではあるもののポジティブにそう判断し、観戦を続けることにした。

 

(最悪、オレが直接出るしかあるまい)

 

 アビドス高校と便利屋68。たとえどちらが勝とうともニト、延いてはアリウス分校は構わず、しかし起こり得る最悪の事態だけは避けなければならない。

 

 ありとあらゆる可能性を視野に入れ、いつでも動けるように準備しながらも視線の先で巻き起こる闘争に対して目が離せなかった。

 

 彼女にとって強者と強者のぶつかり合いというのは、どうしようもなく心を躍らせるが故に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 手負いの獣ほど怖いものはない。そんな格言があるが、小鳥遊ホシノは今回初めてそれを実感していた。

 

 端から見れば一方的な蹂躙。けれど、全身にスラッグ弾を浴び、何度も地面に転げ回りながらもこちらを睨み続け、殺気を絶やさぬその姿は正しく“獣”と言う他無く辟易とする。

 

 果たして()()()()()()()自分相手にこうも立っていられた存在がどれだけ居たのだろうか。

 

 実力では明らかにこちらを下回っている少女──伊草ハルカをホシノは高く評価すると共に強敵だと認識した。

 

(ま、そろそろ限界だとは思うけど)

 

 動きはどんどん鈍く散漫になってきている。スタミナ切れを起こし、力尽きるのも時間の問題だろう。

 

(でも面倒なのは──)

 

 思考を遮るように渇いた銃声が響く。これにホシノは澄ました顔で首を少し傾ける。それだけで背後から空気を切り裂きながら飛来した凶弾は獲物を屠ること無く通り過ぎていった。

 

 当たったとしても、大したダメージにはならないが。

 

「くっ……後ろに眼でも付いているの……!?」

 

「音で解るでしょ」

 

「音よりも速いのよ銃弾は!」

 

 ハルカを圧倒しながらこちらの援護射撃を悉く躱し、或いは盾で受け流すように防御するホシノに、陸八魔アルは悲鳴に近い声でツッコミを入れる。

 

 覚悟はしていた。

 

 理解もしていたつもりだった。

 

 けれど、目の当たりにして改めて思い知らされ、思わずには入られない。

 

(強過ぎでしょ──ッ!?)

 

 単純な身体スペックだけではなく、隔絶した戦闘センス。避けている辺り風紀委員長(空崎ヒナ)とは違い、ダメージ自体は通るのだろうが、なまじ効く分純粋に実力差があるのだと突き付けられているような感覚に陥った。

 

 小鳥遊ホシノ──その強さを、確かに心に刻んだ。

 

(ふうん……動揺しているように見えて適切に距離を保ち続けている。狙いも正確で速度もなかなか。狙撃手のくせに前線に出るだけはある)

 

 一方、ホシノはアルの内心とは裏腹に彼女のことも評価する。少なくとも今まで相手してきた有象無象とは比べるまでもない。

 

「甘く見られたモンだね。君達二人だけで、おじさんをどうにか出来るなんて思われちゃってる?」

 

 然りとて、その程度ではかの“暁のホルス”を倒すことはおろか足止めすら不可能。ハルカが限界に到達した瞬間、アルは即座に仕留められるだろう。

 

「ッ──ムツキ! カヨコ!」

 

「ごめーん! まだ援護は無理そう!」

 

「同じく。何とか持ち堪えて、社長──」

 

 当然、アルもそれは理解しており、しかし増援を呼ぼうにも傭兵を含めて仲間は足止めをくらっていた。

 

「ん、ホシノ先輩の邪魔はさせない」

 

 全体的にアビドス生の練度は高く、特にあの砂狼シロコという銀髪の少女は頭一つ抜けている。

 

 相手がホシノへと戦力を集中させたいことも察しており、そうはさせぬと妨害していた。あの“先生”と呼ばれた大人を含め一部はホシノの豹変に困惑している節が見て取れるが、それでも動きに乱れはない。

 

(くぅ……こうなったら……! まだ早いかなと思っていたけど予定変更よ……!)

 

 このままでは敗北は必至。故に、アルは切り札を切らんと耳元の無線機へと手を当てる。

 

「サオリ! 攻撃してッ!」

 

『──了解』

 

 次の瞬間、爆発が起きる。

 

「ッ!?」

 

 校舎の方からであり、何事かとアビドス生達は驚き、動きを止めてそこへと視線を向けた。

 

 あちこちから立ち上る爆煙。しかし、RPG手は撃破しているし、相手にしていた傭兵達は何か攻撃を加えたような素振りは無い。

 

「これは……ッ!? 皆さん大変です! 後方から攻撃が──ッ!?」

 

 困惑の中、いち早く何が起きたのかを把握した奥空アヤネは皆にそれを伝えようとするが、途中で言葉を止めてしまう。

 

 遮るように後頭部に走った衝撃により、意識を失ったのだ。

 

「アヤネちゃんッ!?」

 

「“一体、どこから──”」

 

 ばたりと倒れるアヤネに近くに居た先生が駆け寄る。銃撃を受けたのは明白であり、しかし後方支援である彼女は自分と同じように完璧に掩蔽していたはず。

 

 皆が混乱している中、シロコが何かに気付いて頭上へと視線を送る。

 

「あれは……ドローン……?」

 

 自分も戦闘でよく使用しているためすぐに分かった。それが羽音が極力まで抑えられた一見すると“花”のような形をした小型ドローンだということを。

 

 飛行している方角はホシノとアル達の方。そして、一定の距離まで来ると何かを散布し始める。

 

「ッ! 何……?」

 

 ホシノも気付き、直ぐ様裾で口元を覆う。しかし、特に何も起きなかった。

 

 遅効性の毒物か何かか? 様子を窺っているとこちらと対峙しているハルカに異変が起きる。

 

「…………? これは──」

 

 困惑の声を漏らすハルカ。心地の好い感触と共に痛みが和らいでいく。

 

 傷が、徐々に癒えていっているのだ。

 

「ッ──成程ね……!」

 

 それを見たホシノは舌打ちし、ドローンを撃ち落とそうと銃口を向けるも横から襲い来る短機関銃の掃射によりそれを阻まれる。

 

「……何者?」

 

「………………」

 

 飛び退くように回避し、視線を向けた先には鉄仮面で顔を隠した少女が立っていた。

 

 襲撃してきた傭兵部隊にはこのような特徴的な風貌の者は居なかったはずだが──。

 

「……加勢に来た」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

 ドローンが少女の傍らへと移動する。どうやら彼女が操作しているらしい。

 

 恐らく先程のハルカを回復させたのは“神秘”由来の力……これまた厄介そうな新手の登場にホシノは面倒臭そうに顔をしかめ、少女──秤アツコはそれを仮面越しからジッと見据える。

 

「一名撃破。各員、主力部隊の援護に当たれ」

 

 窓ガラスをぶち破り、校舎側から現れる数人の傭兵達。そこで漸くアビドスの面々も後方から別動隊を向かわせていたことを理解した。

 

「増援っ!? しかも後ろからだなんて……!」

 

「くっ……たかが数人追加したくらいで──」

 

「ですが、まずい状況です!」

 

 後方からでは防御・掩蔽出来る箇所が少なく、特に重量のある軽機関銃を扱っているため機動力の低いノノミには致命的である。そもそも陽動を使われていたとはいえアヤネの索敵に引っ掛からずに回り込まれ、内部まで潜入されてしまっていたというのは完全に想定外だった。

 

 補足すると、後方からの襲撃を想定していなかったアビドスや先生の詰めが甘かったのではない。今回の敵の隠密性は一介の傭兵を凌駕していたのだ。

 

「あらら、眼鏡ちゃんやられちゃった? まあけど今がチャンス! 一気に畳み掛けるよー!」

 

 ムツキが鼓舞し、先程まで戦っていた傭兵達も勢い付く。

 

「“まずい。このままだと……! ”」

 

 こちらが圧され、呑まれている。先生だけでなく皆がそれを感じ取った。

 

「“ホシノ! 一旦こっちに合流して──”」

 

「──動くな」

 

 守りを固め、陣形を立て直す為にもホシノに指示を送ろうとしたその時、後頭部に何か硬い物を押し付けられる感触と共に背後からそう告げられる。

 

 ゆっくりと視線を送れば、帽子を深く被り、口元をマスクで隠した少女が拳銃をこちらへ突き付けて立っていた。

 

「まさかヘイローの無い大人が居るとはな……何者だ?」

 

「“君は……”」

 

「先生……!」

 

「おお! 流石はサオリっち!」

 

「えっ!? 人質はちょっと……い、いや! よくやったわサオリ!」

 

 その光景を見てアビドス生達だけでなく何故かアルまでも驚きの声をあげる。

 

 一方、サオリと呼ばれた少女は耳に入ったある単語に片眉を上げた。

 

「先生? その呼び名に連邦生徒会の記章……もしや貴様、シャーレの先生か? これは驚いた。アビドス高校に居るとはな」

 

 すぐに目の前の大人の正体に思い至る。連邦生徒会長失踪後に設立された超法規的組織。そこに属する外部から呼び寄せたフィクサー……要注意人物として散々聞かされていた。

 

(シャーレってあの……? まさか、ニトさんはあの大人……先生がアビドスに居ることを意図的に伏せていた?)

 

 一方、その話を聞いていたカヨコは直ぐ様思考し、顔をしかめる。自分達が利用されている可能性が脳裏に過ったからだ。

 

 だとすると、恐らくサオリ達も──。

 

「“連邦捜査部S.C.H.A.L.E”……我々、そして何よりもあの方にとっても脅威となるのは明白。ここで排除しておくべきかもしれない」

 

「“………………! ”」

 

 生徒に明確な殺意を向けられるという初めての感覚に先生は目を見開く。

 

「──今すぐ先生から離れて。でないと蜂の巣にする」

 

 そんなサオリにも殺意が向けられる。シロコが銃口を向け、殺気立った様子で睨んでいた。

 

 静かな、それでいて荒々しい獣のような殺気を浴びせられ、しかしサオリは涼しげな表情を浮かべたまま。

 

「やってみろ。尤も、私が引き金を引く方が速いのは一目瞭然だと思うが」

 

「ん、試してみる?」

 

「“落ち着いて、シロコ。私は大丈夫だから”」

 

 そんな状況下で、先生は不自然なまでに落ち着き払っていた。生徒とは違ってヘイローが無く、一発でも弾丸を浴びれば致命傷と成り得るにも拘わらず。

 

「“残念だけど、私は人質にはならないよ”」

 

「ほう? 大した自信だな。しかし、自分の価値を理解しているなら──」

 

「“──そもそも”」

 

 ちらりと、ホシノを一瞥する。その僅かな瞬間に視線を交差し、意志疎通を試みた。

 

 たったそれだけでこちらの意図が伝わるとは思わないが、それでも自分が何かしようとしているということには気付いただろう。

 

 故に、先生は動く。

 

「“私は無防備に前線に出るほど甘くはないよ”」

 

「ッ!?」

 

 何を血迷ったか、先生はシロコの方へと駆け出す。サオリは驚きながらも照準を合わせ、躊躇無く引き金を引く。

 

 狙ったのは急所ではなく太腿部分であったが……。

 

「何──?」

 

 放たれた銃弾は先生には命中しなかった。外したのではなく当たる寸前で何かにぶつかり弾き飛ばされたのだ。

 

「先生ッ!」

 

「うへぇ……冷や冷やさせないでよね~」

 

 予想外の、未知なる現象に虚を突かれるサオリ。すぐに次の行動に出ようとしたが、本能的に衝撃で倒れ込む先生でも駆け寄ってくるシロコでもなく別の方向へと振り向いてしまう。

 

 視界に飛び込んだのは、すぐそこにまで迫っていた小鳥遊ホシノだった──。

 

「ッ──」

 

 認識するや否や迸るマズルフラッシュ。容赦無く放たれたスラッグ弾を回避し、サオリは拳銃からアサルトライフルへと持ち替えて応戦する。

 

 少しでも反応が遅れていればやられていた。ここでサオリは初めて表情を変え、額に冷や汗が滲み出る。

 

「へぇ──君もなかなかやるね」

 

(こいつが小鳥遊ホシノ……! あの一瞬でここまで接近してくるとは……!)

 

 こちらの攻撃を避け、かつ迎撃せんと向かってくるサオリを一介の傭兵ではなく便利屋と同等かそれ以上の戦闘員だとホシノは判断を下し、感心した様子で呟く。

 

 対するサオリもまた少しでも気を抜けば即座に仕留められてしまうであろう猛攻に噂に違わぬ、否、遥かに上回る実力者であると戦慄した。

 

「なっ……皆! サオリを援護して!」

 

「はいアル様……! 絶対に逃がしません……!」

 

 こちらを無視し、目にも止まらぬ速さでサオリの方へと向かったホシノに驚愕しながらアルが叫べば、ハルカがみすみす逃がしてしまったことへの不甲斐無さに自罰して償いたいのを堪えながら真っ先に駆け出す。

 

「行かせませんよ……!」

 

 そうはさせぬとノノミが軽機関銃を掃射する。バレルが高速回転し、毎分2000発以上もの銃弾の嵐がハルカを襲う。

 

「邪魔です!」

 

「なっ──」

 

 しかし、そんな個人に対しては過剰とさえ思える弾幕をハルカは物ともせず、一歩も退かずに耐えながら懐中に忍ばせていた柄付き手榴弾を投擲。

 

 咄嗟に防御姿勢を取るノノミを飛び越え、爆風に乗って一気に接近し、ホシノとサオリの戦闘に乱入した。

 

「死んでください!」

 

「おっと、執念深過ぎないキミ?」

 

 勢いよく突撃してきたハルカを避け、ホシノはそのバーサーカーっぷりに呆れの混じった声でそう言う。いい加減うんざりしてきたところだ。

 

「“皆! ホシノの所へ合流して! 一旦守りを固めるよ!”」

 

「全員でサオリとハルカを援護しなさい! 集中攻撃よ!」

 

 先生とアルがほぼ同時に指示を送る。その言葉に従って両陣営は即座に動く。

 

 目まぐるしく変化していた戦況は、ホシノとサオリを中心に守りに入るアビドスとそれを打ち破らんと攻める便利屋と彼女達が率いる傭兵部隊という構図に固定された。

 

「よし! 相手の物資にも限界がある。このまま攻めて行けばいずれは私達の勝ち──」

 

「……いや、そろそろ潮時」

 

「え?」

 

 アビドス側の物資は限界に近い。数の利もあって小鳥遊ホシノさえ突破すれば守りを崩すことは容易。サオリの戦いぶりからそれが決して不可能ではないと判断したアルはその確かな勝機に高揚し、笑みを浮かべるが、傍らで否定の言葉を発したアツコにぽかんと固まってしまう。

 

 どういうことかと問う前に、その疑問に答えるかのようにキンコンカンコーンとチャイムが鳴り響く。

 

「あ、定時だ」

 

 傭兵達がぴたりと動きを止めた。

 

「は?」

 

「……残念だけど、貰ってる分だとここまでだね」

 

「はぁっ!? ちょっと待ってよっ!?」

 

 まさかの発言に目が点となるアル。突然戦闘を中断した傭兵達にサオリと戦闘をしているホシノを除き、アビドス生達も困惑している様子だった。

 

「あちゃー、時給値切り過ぎちゃったかー」

 

「……これだから傭兵バイトは」

 

「冗談じゃないわよ! 後もう一息じゃないっ! 報酬なら後から追加してあげるから──」

 

「いや、潮時だと思うよ。このまま続けても、ほら」

 

 傭兵の一人が指差した方へ視線を向ければホシノと戦うサオリとハルカの姿が。

 

 一見すると拮抗しているように見えるが、ホシノは未だにダメージはおろか被弾すらしておらず、確かな余裕が感じられた。

 

 高揚していた気持ちが冷えていく。アル達が加勢したとしてもこの圧倒的な差を埋められるかどうかは怪しいということに気付いたからだ。

 

「今から逃げるってんなら、撤退戦くらいは付き合うよ。一応プロとして半端な仕事はしたくないし」

 

「ぐっ……」

 

「……どうするの? 社長」

 

「………………」

 

 一同がアルへと視線を送った。ムツキやカヨコも今が引き際だと判断しているようである。

 

「ぐ、ぐぐ……! し、仕方無いわね──撤退するわよ! 皆! 撤退っ! 撤退ィ────ッ!!」

 

 士気が低下しているこの状態で戦闘継続を強行しても結果は目に見えている。答えなどほぼ決められたようなものではないかと悪態を吐きながらアルは叫ぶと、待ってましたとばかりに傭兵達は行動を開始する。

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……!」

 

「……伊草ハルカ、聴こえていたか? 撤退だそうだ」

 

「コロ──スゥ……は、はいっ!」

 

「む……急に落ち着くな。ビックリする」

 

 完全に狂乱していたハルカだったが、その一言に瞬時に落ち着きを取り戻す。恐ろしいまでの変わり様にサオリは感心よりも驚きが勝って動揺を隠せない。

 

「逃がすと思って──」

 

 攻撃を止め、後退し始める二人にそうはさせぬとホシノは銃口を向けるが、突如として鼓膜を破りかねない轟音と激しい光が襲う。スタングレネード……どうやら他の傭兵が投げ込んだようであり、死角からそれを受けたホシノはみすみすくらってしまう。

 

「覚えておきなさい……!」

 

「アルちゃん、それ三下の台詞だよー」

 

 そんな声が聴こえて程なくして視力が回復するも、その時には既に目の前にサオリ達の姿は無く、それどころか便利屋も傭兵達も跡形も無く消えてしまっていた。

 

「ッ! クソッ……」

 

 恐らく最初から逃走の手筈は整えていたのだろう。その見事な逃げっぷりにホシノは思わず悪態を吐く。

 

「ホシノ先輩……」

 

「うへぇ……してやられたね、皆」

 

「追いかける?」

 

 シロコが問う。

 

「いや、それよりもアヤネちゃんの看病と……消火活動をしないとねぇ……」

 

 未だに爆煙を立ち上らせる校舎を見ながらホシノは溜め息混じりに言う。

 

 こうして、便利屋68のアビドス高校襲撃作戦は失敗したもののアビドス側は決して小さくはない痛手を負ってしまったのだった。

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