アリウスの王   作:大嶽丸

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ん、銀行を襲う

 

 

 いきなりだが、このキヴォトスでは“モモフレンズ”というアニメが最近流行っている。

 

 ファンシーな世界観のその中には多数のキャラクターが存在しており、代表的なものでウェーブキャット、スカルマン、そしてペロロなどが挙げられる。

 

 長らく地下深くのアリウス自治区で暮らしていた失楽ニトは当然そんなものを観る機会など無く、それらが人気キャラクターだということも知る由は無い。

 

 つまり何が言いたいかと言うと、美的センスというのは人それぞれであるということ。

 

「鳥の……死体か? 或いは薬物中毒? デフォルメされているものの随分と気色の悪い見た目だな。……いやマジでキモいな、何これ?」

 

「は?」

 

 故に、足下に転がってきたぬいぐるみに対してつい見て思ったままの感想を口走り、意図せずして戦争への火蓋を切ってしまった。

 

(あ、やべ)

 

 察した時には既に手遅れ。その後、如何に“ペロロ様”が崇高な存在かを何時間も教え込まれ、頭がおかしくなりそうだった。ぶっちゃけブラックマーケットで一番恐ろしく辛かった体験であり、出来得ることならば思い出したくもない。

 

 さて、では何故そんな苦い記憶を思い返しているかと言うと──。

 

「げ、阿慈谷ヒフミ……」

 

 思わず口から零れる。便利屋68との襲撃から二日後、ブラックマーケットへと足を踏み入れた先生とアビドスの面々を観察しに行けば、その輪の中に何故か見覚えしかないトリニティの生徒が居て思わず二度見してしまった。

 

 彼女の名は、阿慈谷ヒフミ

 

 またの名を狂信者、或いは“ペロキチ”。かつて、ニトがブラックマーケットへと赴いた際に不良に追われているところを助け、そして上述したように地雷を踏み抜いてしまった一般トリニティ生。改め、たかがぬいぐるみの為に単身でブラックマーケットへと突入するやべーやつである。

 

 どうやら今回も似たような理由でブラックマーケットを訪れ、先生達に助けられ彼らの頼みで案内することになったらしい。一度ならず二度までも、或いはもっと繰り返しているかもしれない事実にあいつまたやってんの?と驚愕しながらニトはフードをより目深に被って顔がバレないようにする。幸いにもブラックマーケットでは怪しい格好をした奴などありふれていたので人混みの中から遠目で眺める程度では気付かれることは無いだろう。

 

 実はミカの次に直接会話したトリニティ生であるが、あれがごく一般的なトリニティ生ではないことを切実に願っていた。

 

(こわ~ めっちゃブラックマーケットに詳しいし、かなり入り浸っているだろ絶対)

 

 聞き耳を立てれば、ブラックマーケットについてやたらと造詣が深い説明をする自称普通の女子高生にニトは戦々恐々する。

 

(──しかし、お蔭で想定よりも早く銀行に辿り着いたな)

 

 しかもタイミング良くカイザーローンの現金輸送車が現れる。これはもう誰が見ても黒と言うしかないが、まだ決定的な証拠は掴めていない。

 

 とはいえ関係性に気付きさえすれば後は徹底的に調べ上げるだけ。砂漠のど真ん中に拉致された黒見セリカを特定したあの凄まじい捜査能力を駆使すればそう難しいことではないだろう。

 

 さて、ここからどうするのか──。

 

「……ん?」

 

 眺めていると、目出し帽を被り始めた。

 

 そして、銃を構えたかと思うと先生を除き、ヒフミを含めた全員が闇銀行へと突入する。

 

 それ即ち、銀行強盗である。

 

「──マジか」

 

 程無くして鳴り響く銃声と悲鳴の中、ニトは呆気に取られた様子で立ち尽くす。

 

「いや、マジかよ」

 

 繰り返して二回。目的はまあ分かる。十中八九カイザーローンとの取引内容が記載された書類を奪う為だろう。確かにそれは手っ取り早い方法であるが、自然とその手段を除外していた。

 

 常識的に考えれば思い付いてもやらない。だが、ここはキヴォトスであり、そしてアビドスはその中でもわりと無法であるためニトにとっては思いもよらぬ方法でも彼女達にとっては当たり前のように実行出来る選択肢の一つなのだろうか。

 

 アビドスの行動に、未だにキヴォトスに染まり切っていないニトは普通に驚く。

 

(というか、先生も止めるべきでは? 常識ねぇのかよ)

 

 外から来たのだからそれくらいの良識はあるのかと思っていたが、既にキヴォトスに慣れたか、アビドス生達の勢いに圧されたか、或いは彼の居た“外”というのは自分が思っているような場所ではないのか……いずれにせよ、少し評価を改めなければならないかと思ってしまう。

 

 とはいえよくよく考えればここは闇銀行。資金源は当然犯罪から獲た金かつ元より違法な施設であるし、目的も金銭ではなく書類……ならばセーフと言えるかもしれない。

 

 そういった判断基準ももはや曖昧だった。

 

「……成功したみたいだな」

 

 流石はアビドス。ここの治安維持機関であるマーケットガードなど相手にもならなかったようで堂々と正面玄関からパンパンに詰められたボストンバッグを持って逃走し始める。

 

 因みにヒフミだけ目出し帽ではなく紙袋。どういう訳か物凄く様になっているような気がした。不思議だね。

 

(……追うついでに手助けしてやるか)

 

 程無くして警報が鳴り響く。マーケットガード達がバイクに乗り、彼女達を追跡せんと走り出す。既に出遅れており、恐らく逃げ仰せることが可能だろうが、念には念をということでニトは動いた。

 

「クソッ! 絶対に逃がすなッ!」

 

「ブラックマーケットの銀行を襲うとは命知らず共め!」

 

「オレもそう思う」

 

「は──?」

 

 いつの間にかバイクと()()()()()()ニトはマーケットガードの頭を鷲掴みにすると無造作に軽々と放り投げる。

 

「がぁ──ッ!?」

 

「なっ!? 何だきさっ……」

 

 衝撃音と呻き声で仲間がそれに気付くもそれとほぼ同時に、彼らは同じ末路を辿っていた。如何に戦闘用オートマタといえど、アスファルトの地面に頭から叩き付けられてしまえば機能停止してしまう。

 

 次々と操縦者を失い、転倒していくバイク。銀行から出てきたマーケットガードの追跡部隊は瞬く間に壊滅し、喧騒だけが残る。

 

「さて、アビドスは……」

 

 自らが作り上げた惨状など気にも留めず、ニトは野次馬を躱す為に目に入った建物の壁を蹴り、屋上へと駆け上がっていく。

 

 そして、そのまま建物から建物へと跳び移りながらアビドス生達が向かったと思われる方角へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「我が道の如く魔境を往く……はぁ~……良いわねぇ……」

 

「……どういう状況だ?」

 

 アビドス生達の姿を見つけたと思えば、そこには去っていく彼女達の背中を何かを決心し、希望に満ち溢れた表情で見送る陸八魔アルの姿があった。

 

 これにニトは困惑を隠せない。そもそも彼女がここに居るのが何よりも予想外である。

 

「私も頑張らなきゃ……!」

 

「こほん……何をしているのかね? 陸八魔」

 

「うん? あっ! ニトさん!」

 

 声をかければ、アルはぶんぶんとこちらへ手を振る。どうやらかなり興奮している様子だった。

 

「ニトさんも“覆面水着団”を追ってきたのかしら?」

 

「覆面……何て?」

 

「覆面水着団よ! 今さっき見事と言う他無い華麗な手際でブラックマーケットの銀行から大金を奪ってみせたあのカッコいい人達のことよ!」

 

 キラキラと目を輝かせ、若干涙目にまでなってしまっているアル。そのあまりのテンションの高さにニトは若干引き気味になる。

 

 しかし、彼女があの銀行強盗の現場に鉢合わせており、そしてアビドスが彼女の琴線に触れたということだけは辛うじて理解した。

 

「いやぁ何て恐れ知らずなの! 彼女達こそが私の憧れる一流のアウトローよ! 感動しちゃってるわ私!」

 

「……そうか。確かに彼女達の無法っぷりはアウトローの名に相応しい、のか……? まあ、君が越えるべき壁としても相応しいのかもしれんな」

 

「はぇ? あ、もしかしてニトさんは知っているのかしら! あの人達のことを!」

 

「ん? そりゃ彼女達は……」

 

「アルちゃーん!」

 

 まさか気付いていないのか? と覆面水着団なる存在の正体について教えようとすると、ムツキ達便利屋のメンバー三人が現れる。

 

「あれっ!? ニトちゃんも居るじゃん!」

 

「ああ、暫くぶりだな。浅黄」

 

「どうしたの? もしかしてニトちゃんもあの強盗団を追いかけたり?」

 

「……まあ、そんなところだ」

 

「へー、奇遇だね。くふふ。アルちゃんといい、そんなにあのコ達が気に入ったの?」

 

 にやり、とムツキは笑ってアルへと視線を送る。

 

「ええ、当たり前でしょ! あんな短時間で大金を盗み出す……しかも相手は闇銀行よ? アウトロー過ぎるわ!」

 

「……彼女達は」

 

「しーっ 面白いからまだ放置で」

 

「……本当に気付いていないのか」

 

「凄いでしょ? ほんと面白いよねアルちゃんって」

 

 制服ですぐに分かると思うが。それだけ感動し、盲目になってしまっているということなのだろうか。

 

「相変わらずいい性格してるね……ところで、ニトさん」

 

「ん? 何かね?」

 

「──シャーレの先生がアビドスに居るって、貴女は知っていたの?」

 

 カヨコが尋ねる。ニトがここに居るのは予想外だったが、それはそれとして次彼女と会ったら真っ先に訊こうと思っていた疑問だった。

 

「ほう……どちらだと思うかね?」

 

「……否定しないってことは、肯定しているようなものだと思うけど」

 

「は、違いない。実際その通りだとも」

 

「! ……あっさり認めるんだね」

 

 悪びれもせずに答えるニトに、てっきり知らぬ存ぜぬを通すかはぐらかされるかの二択だと思っていたカヨコは意外に思うも、自分達が当て馬にされたことが確定したため目を鋭くさせる。

 

「えー? ニトっち、ひっどーい。黙ってたの~? 何で~?」

 

「ど、どういうことですか……?」

 

 ムツキとハルカもこれに反応する。一方、アルは未だに覆面水着団に思いを馳せていて気付いていない。

 

()()()()()戦力についてしか訊かれなかった……という屁理屈はさておき、オレとしては教えぬ方が都合が良くてな。すまなかった」

 

 これまたあっさりとニトは謝罪の言葉を口にした。

 

「ふうん……でも言葉だけのお詫びじゃあちょっと、ねぇ? アルちゃん」

 

「へ? 何の話?」

 

「では、Empty skyにそちらへ優先的に依頼を回すように掛け合っておこう。ついでに物資の支給も」

 

「本当ッ!? ありがとうニトさん! 助かるわ!」

 

「……社長」

 

 ムツキに呼ばれ、やっと反応したアルだが、話の流れを理解しておらず、ニトの提案に大喜びする。

 

 それを呆れた様子で一瞥しつつ、カヨコは考える。揺さぶる為に敢えて直球で質問したが、こうも正直に返されてしまうとは。つくづく読めない相手だった。

 

「このくらいで許してくれると幸いだ。そも、シャーレの先生の存在を知ろうが知るまいが、今回の結果は変わらなかったと思うが?」

 

「……それは、そうだけど」

 

「言われちゃうとムカついちゃうなー」

 

「つ、次こそは殺します。必ず殺します……!」

 

「そうよ! 絶対にリベンジしてやるわ! あの覆面水着団のように一流のアウトローになる為に!」

 

「社長、少し黙ってて」

 

「何でっ!?」

 

 ニトの言っていることは紛れも無き事実。彼女からシャーレの先生の存在を事前に教えられていたとしても、あの指揮能力と小鳥遊ホシノを突破することは不可能だった。

 

 それに、これ以上糾弾したところでニトと揉めるのはリスクが大きく、便利屋にとってメリットは皆無である。

 

 しかし、それでもだ。

 

「……体よく使うのは勝手だけど、私達は決して飼い犬ではないから」

 

「ああ。改めて、肝に命じておくとも」

 

 視線が交錯する。便利屋と失楽ニトは如何に差があろうともあくまでビジネスパートナー。その立ち位置をニトは崩すつもりもなく、またカヨコは付け入る隙を与えぬように牽制していた。

 

 アルは勿論、ムツキも楽観主義的な面が見られるためこういったことはカヨコが担当するしかない。ハルカは鋭い面もあるものの基本的には判断を他者に委ねてしまっている。

 

(……アビドスは、見失ったか)

 

 一方、一先ず話が纏まったニトはアビドスの方へと気を向ける。銀行強盗なんて大それたことをした以上、既にブラックマーケットから退散している可能性が高いが……。

 

「あれー? なんかバッグが落ちてるよ」

 

 するとムツキが気付く。すぐ近くに大きなボストンバッグが放置されていることに。

 

「なんだろこれ?」

 

「ん? それは確か……」

 

 そのデザインに見覚えがあったニトが何か言いかけるもそれよりも先にバッグのチャックを開けて中身を確認し──。

 

「わっ!?」

 

 驚きの声をあげる。続いて他の面々も覗き込み、皆同じように驚愕した。

 

 そこには、大量の札束がパンパンに詰まっていたのだ。

 

「何でこんな所にお金がっ!?」

 

「……ざっと1億はあるよ、これ」

 

「もしかして、あのコ達の落とし物?」

 

「こ、これだけあれば毎日晩御飯が食べられます!」

 

「ほう……形振り構ってられないかと思っていたが、汚い手段で金を稼ぐつもりはない、ということか」

 

 各々が様々な反応を見せる中、ニトは感心した様子で呟く。先生かホシノ辺りが止めたのだろうか。

 

「どうする? 社長」

 

「ラッキー♪ 貰っちゃおうよ、アルちゃん」

 

「え、ええ……そうね……」

 

「……棚からぼた餅だな」

 

 見たこと無いような札束の量にアルはいまいち実感が湧いていない様子である。

 

 こうして、便利屋は大金を手に入れた。尚、ニトも山分けを提案されたが流石に断った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 一方その頃。

 

 ニトの予想に反してアビドスの面々はまだブラックマーケットに滞在していた。

 

 ん、銀行を襲う。

 

 シロコのその一言と共に始まった銀行強盗は見事成功し、結果分かったことは自分達が返済した金の一部がカタカタヘルメット団へと軍資金として流れていたということ。

 

 つまりは何とカイザーローンが、延いてはカイザー・コーポレーションが裏で糸を引いていたのだ。

 

「うへ。やっぱり、か」

 

 ホシノがぽつりと呟く。その顔は険しい。

 

「やっぱり……? ホシノ先輩はカイザーが怪しいって思ってたワケ?」

 

 その言葉を聞き取ったセリカが尋ねる。他の皆も同じ疑問を抱いている様子だった。

 

「別に、薄々そうなんじゃないかって思ってただけだよ。カイザーは黒い噂が絶えないから」

 

 実のところホシノはかなり前から怪しんでいた。ブラックマーケットを行き来する中でカイザーの評判を耳にする機会は度々あったし、カタカタヘルメット団も便利屋68もEmpty skyを介していない依頼ということは、余程後ろ暗い理由があるか、或いはそう、ライバル企業──PMCを経営しているカイザーもまた容疑者として浮上する。

 

 今回判明した事実はホシノにとっては確認作業に過ぎなかった。

 

 そして、決め手は。

 

「でも……どうして債務者を襲うのですか? 貸した金が返ってこないと困ると思いますけど」

 

「うーん……そこら辺はよく分かんないや」

 

 嘘である。ホシノには心当たりがあった。カイザーがアビドス砂漠に基地を作り、何かを探しているという情報をニト達から聞いていたのだ。

 

 恐らくはその()()()に際してアビドス高校の存在が邪魔であり、あの膨大な借金も破産させるのが目的であり、端から完済させるつもりなど無いのだろう。

 

(……舐められたモンだね、本当に)

 

 頭が沸騰しかける。ホシノは今にも内側から溢れ出そうな激情を抑え込みつつ、今後の方針について考えていた。

 

 相手は巨大企業。闇雲に立ち向かえば、首を絞められるのはこちら側であるが故に。

 

「もっと情報が欲しい、と言っても戦車の部品やカイザーローンから調べるにはここまでが限界か。うへ~さっきの便利屋を取っ捕まえて尋問しても良かったかも?」

 

「ん、今からでも捕まえる?」

 

「いえ、シロコちゃん。ここでまた騒ぎを起こせばマーケットガードが嗅ぎ付けるかもしれません。便利屋さん達が情報を吐くか、そもそもあの隠蔽っぷりからして依頼主の名を知っているかも不明ですし」

 

「だったら、一応エンプティの方に行ってみる? 便利屋が雇った傭兵達から何か分かるかも」

 

「“……うん。そうしようか。何故か追手の気配も無いし”」

 

 先生としては早い内にブラックマーケットから出た方が良いとも考えたが、正攻法では得られぬ情報を得る絶好のチャンスでもある。多少のリスクがあろうとも情報収集を続けた方が良いと判断した。

 

「エンプティ……ってEmpty skyのことですか?」

 

 するとアビドス生ではないため蚊帳の外となっていた阿慈谷ヒフミが問いかける。

 

「ん? うん、そうだよ。ヒフミちゃん、知ってるの?」

 

「はい。知ってるも何も、Empty skyは私もよく利用しますから。傭兵登録もしています」

 

 そう言ってヒフミは自身の顔写真が貼られた登録証を皆に見せる。

 

「ヒフミちゃん、傭兵だったんですか?」

 

「あはは。一応そうなるんですかね……? あそこの依頼を受ける為に登録しただけで実際にはアルバイトみたいな感じです。依頼を受けるよりも護衛等の依頼を出す方が多いかもしれませんね。今回はその、お小遣いが無くて……」

 

「“そんな簡単に登録出来るの?”」

 

 意外そうに先生が問う。

 

「はい。個人情報なんて名前と年齢、連絡先くらいで大丈夫ですし、本名じゃなくてニックネームでも可なんですよ、ほら」

 

 ヒフミが登録証を指差すと氏名の欄に“ペロロ様LOVE”と記されていた。ノノミに先程銀行強盗で名乗らされた覆面水着団のリーダー、“ファウスト”に改名しません? と提案されたが丁重にお断りする。

 

「まあ、大きな依頼を受ける際にはある程度の審査を受けないといけないみたいですけど……私には無縁の話なので」

 

「そ、そうなんだ……私も登録しようかな」

 

「ん、私も」

 

 その話を聞いたセリカとシロコが興味を示す。聞けば聞くほどEmpty skyでの傭兵稼業は理想的な仕事のように思えた。

 

「個人的にもオススメしますよ。あそこはブラックマーケットの組織とは思えない程に待遇が良くてきちんとしてますし。あ、登録には手数料で1000円くらい払う必要がありましたね」

 

「“……免許登録の手数料より安い”」

 

 こうも手軽に利用出来るのであれば、そりゃ爆発的に勢力が拡大する訳だと先生は納得すると共に、このままだとブラックマーケット外にも手を伸ばしていくかもしれないと、まだ見ぬEmpty skyなる組織に警戒心を抱く。

 

「うへ。トリニティの生徒までエンプティに登録してるなんてね……因みにおじさんは本名で登録しちゃってるよ。ニックネームに変えようかなぁ」

 

 そう言ってホシノは登録証を見せる。写真に写っている顔は無表情でどことなく目が鋭いような気がした。

 

「あ、ホシノさんもエンプティに登録していたんですね。しかも評価Bって凄いじゃないですか」

 

「B? おかしい。ホシノ先輩ならSランクは確実なはず」

 

「エンプティはAが最高評価だよシロコちゃん。それに、おじさんはそこまで積極的に依頼をこなしてないからね。評価Aとなると優秀かつ傭兵が本業みたいな連中ばかりだよ。単純な腕っ節だけで言えば、おじさんの見立てだと便利屋の子達はAは硬いと思う」

 

「ん、なら私もA級なのは確実」

 

 ふんす、と自信満々に言うシロコ。実際、彼女の実力ならばすぐに名が売れるだろうとホシノは思った。

 

「それじゃあ、次はエンプティの事務所に行こうか。ヒフミちゃんも来る?」

 

「え? そ、そうですね……折角ですし最後までお供します」

 

 あまり長居はしたくなく一瞬迷うもカイザーの陰謀を知った今、借金を背負わされた挙げ句に廃校の危機にあるアビドスのことを放っておけなくなり、出来る限り彼女達に協力してやりたいと思うようになっていたヒフミはEmpty skyの事務所へと向かう先生達についていくことを選んだ。

 

「あれが標的の銀行強盗かな?」

 

「人数と服装は一致している。チャンスを見つけ次第、やるぞ」

 

 その後を追いかける、二つの影にまだ彼女達は気が付かない。





Empty skyに登録している一般生徒はそれなりに居るが、ブラックマーケットを出入りしていることから分かる通り殆どがゲヘナ辺りの不良ばかりである。つまりファウストさんが異常なだけ。
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