アリウスの王   作:大嶽丸

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セイアが実装されたので初投稿です。

しかも無料100連で引いたから実質配布だし(喧 嘩 を 売 る)


UNKNOWN

 

 皆に、緊張が走る。

 

 たった一人の少女の登場に。一見すると高校生には見えない小柄で華奢な少女相手に。

 

 彼女が放った一発の銃弾が、まるで破壊光線のように一筋の光となって、暴れていたミサキとヒヨリを吹っ飛ばしたが故に。

 

『い、いい委員長っ!?』

 

「委員長って……まさか──」

 

『ゲヘナの風紀委員長……空崎ヒナ。外見情報も一致します、間違いなく本人のようです。この状況でゲヘナの最高戦力まで……』

 

 アヤネが深刻そうに説明する。その名は、アビドス、否、キヴォトス全土にまで轟いている。

 

「──アコ、状況を教えて」

 

『は、はい……実は……』

 

 一方、風紀委員長・空崎ヒナはそんな一同の様子を気にも留めず、静かに問う。

 

 その視線は、つい先刻己が作り出したクレーターが如き弾痕へとジッと向けられていた。

 

「いや、やっぱり後でいい。先に片付ける」

 

『えっ──』

 

 その時、爆煙からミサキが飛び出し、多角ミサイルを発射。既に幾度も降り注いでこの辺りを焼け野原にした子弾の雨がヒナへと襲い来る。

 

 ──が、ヒナは回避する素振りは微塵も見せない。すかさず自らが愛銃たる機関銃──“終幕:デストロイヤー”を掃射。自身へと被弾する可能性がある子弾を、寸分狂わぬ精度で一つ残らず撃ち落としてみせた。

 

「ッ!? 出鱈目な……」

 

 ミサキは驚愕する。既にヒナの銃口は自身の眉間へと向けられており──。

 

 ガンッ!! 

 

「……そこね」

 

 後頭部に衝撃が走る。

 

 これに小石でもぶつかったかのように平然と振り向けば、ヒヨリが瓦礫の陰から狙撃銃を構えていた。爆煙に身を潜めていつの間にか背後に回り込んでいたようだ。

 

「え、えへへ。怯みすらしないなんて、やはり人生は辛──」

 

 精密なヘッドショットは、ただ自らの居場所を伝えるだけに終わった。

 

 逃げようとする隙すら与えられず撃ち放たれた機関銃の弾幕がヒヨリを呑み込んだ。

 

「ヒヨリ……! チィッ──」

 

「させないわよ」

 

 距離を取り、再装填しようとするミサキ。しかし、ヒナは大地を蹴って跳躍し、翼を用いて滑空することで瞬く間に彼女の眼前へと降り立つ。

 

「なっ──」

 

 火力、耐久だけでなく、速度も異常。ゲヘナの頂点、アリウスが警戒する特記戦力の実力を思い知ると同時に、容赦無く至近距離から放たれた銃弾が全身へと撃ち込まれていく。

 

「っ、ぁ──灰は、灰、に──」

 

「!!」

 

 しかし、ここでヒナは初めて表情を変える。

 

 目の前の少女が自らの銃撃に吹っ飛ぶことも倒れることもなく、それどころか一歩も仰け反らずにこちらの肩を掴み、引き寄せてきたのだから。

 

 その顔は、()()()()()

 

「塵は、塵に……!」

 

 武器を捨て、代わりに握られていたのは、既に安全ピンが抜かれた対戦車用手榴弾──それを投擲することなく思い切りヒナの頬へとスイングした。

 

「────」

 

 衝撃と共に、火柱が立ち昇った。

 

「……驚いた」

 

 爆心地にて。当然のように無傷で立つヒナ。否、服の一部は焼け焦げ、爆熱により少なからずダメージを受けていた。

 

 だが、至近距離で手榴弾、それも対戦車用の爆発を浴びてその程度ならばもはや無傷にも等しいだろう。現に同じく至近距離で受けたミサキは意識を失い、地べたに倒れ伏している。

 

「す、凄い……」

 

『アレが、ゲヘナ最強……』

 

 あまりにも格が違い過ぎる。

 

 自分達があんなに手こずっていた二人を圧倒し、瞬く間に倒してみせたその戦いぶりを目の当たりにしたアビドス生達は驚きを隠せない。

 

 最強という呼び声が何ら嘘偽りの無いものだということを、その身で証明してみせた。

 

「何者なの? コイツらは」

 

 対して、ヒナの表情には驚愕があった。まさか自爆してくるとは思いもせず、信じられない様子で眼前の倒れ伏している少女を見下ろす。

 

 ただのチンピラではないのは明らか。実力も、覚悟も、執念も、今まで相対した連中の中でも一線を画していた。

 

 素性は不明。少なくとも格好や武装からは判別出来ない。自身が、そして恐らく万魔殿も認識していない未知なる戦力が存在する可能性を考え、ヒナは身元を探る為に少女へと手を伸ばし──。

 

「彼女に触れるな」

 

 ──ゾクリ、と背後から殺気が襲う。

 

「ッ────!!」

 

 即座に振り返って銃口を向け、しかし照準は正面ではなく遥か上空へと合わさっていた。

 

 困惑し、それが何者かに銃身を蹴り上げられたことで自らの重心が崩れたのだと理解すると、ヒナはいつぶりかの動揺を経験する。

 

 そして、同時に自身の胴体が今がら空きになっていることに気付く。

 

「────」

 

 ──まずい。

 

 このまま攻撃を受けてはならぬと本能が訴える。

 

 圧倒的な耐久を誇るが故に、狙撃にすら無頓着だったヒナは、しかし強者であるが故に、自らの危機を本能的に察知する。

 

 尤も、それはあまりにも遅過ぎたが。

 

「がぁっ……!?」 

 

 轟!! と腹部に砲弾でも突き刺さったかのような衝撃が走り、骨を震わせ、内臓を押し潰し、胃を、肺を圧迫する。

 

 反応する暇も無く、久しく味わっていない“痛み”が襲い掛かった。視線を下ろし、それが“脚”だと認識すると同時に、ヒナの肉体は地面から離れ、幾つもの瓦礫にぶつかっては突き破りながら宙を舞った。

 

『は──?』

 

 アコが固まる。イオリやチナツ、その他の風紀委員達も同様であり、目の前で巻き起こった光景に目を疑った。

 

 あのゲヘナ最強が。

 

 あの風紀委員長が。

 

 あの空崎ヒナが。

 

 ──まるでゴムボールのように、勢いよく吹っ飛ばされたのだから。

 

「………………」

 

 そして、つい先程まで彼女が立っていた場所。そこに誰かが居る。

 

 白いフードにロングコートを身に纏い、ガスマスクで顔を隠した人物──そいつがヒナを()()()()()()下手人であることは明白だった。

 

「ッ……な、何者だっ!?」

 

 辛うじて、イオリが銃を向けて叫ぶ。しかし、他の皆は動けない。

 

 圧倒されていた。あの風紀委員長を容易く蹴り飛ばしてみせた正体不明の人物に。その異質な風貌と異様な()()()に呑み込まれてしまっていた。

 

「………………」

 

 便宜上、白フードと呼ぼう。そいつは銃口を向けてくるイオリを一瞥するだけで気にも留めず、倒れているミサキへと近付き、ソッと彼女を脇へ抱える。

 

 そこで気付く。肩に気絶している少女……先程ヒナが撃破したヒヨリと呼ばれていた狙撃手を担いでいることに。その行動と白を基調とした服装から察するに、彼女達の仲間或いは関係者であると思われるが──。

 

「“ッ、まさか、あの時の──? ”」

 

 一方、先生は大きく目を見開いた。

 

 その背後から溢れ出て、生き物のように蠢く赤黒いオーラを幻視する。焼け付きそうな、凍り付きそうなソレには見覚えがあったからだ。

 

 柴関ラーメンで会った異形。しかし、アレとは違って普通の人間の形をしており、歪なディテールは存在せず、肌も赤黒くはない。それに、頭上に浮かぶ紅く刺々しい“ヘイロー”から生徒の一人である可能性の方が高かった。

 

 別人か? いや、それにしては──。

 

「………………!」

 

「シロコちゃんっ!?」

 

 そんな渦巻く思考は、突如としてその場に踞ったシロコにより現実へと引き戻される。

 

 彼女は額を押さえ、苦しそうに顔を歪めていた。

 

(なに、今のは──)

 

 ほんの一瞬、あの白フードと視線が交錯した瞬間、()()()()()()()()にシロコは大いに困惑し、混乱する。

 

 ()()()()()()()の下、地平線の彼方まで続く荒野にて、彼女は一人の少女と対峙していた。煤けた黒髪で服はボロボロ、体のあちこちから血を流し、今にも倒れそうな程に満身創痍な、しかし悠然と立ち尽くす少女だった。

 

 そして、少女の紅い瞳に映る自分の姿は今より大人びており、漆黒のドレスを着ていて──。

 

「……ほう」

 

 対する白フードはそんな先生とシロコの様子に気付くことはなく、この場から去ろうと背を向けたが、すぐに正面へと向き直る。

 

「逃がさない」

 

 空崎ヒナが、翼を広げて舞い戻っていた。

 

 最終的に壁へと叩き付けられ、瓦礫の絨毯へと這いつくばった彼女であったが、すぐに起き上がって瓦礫を押し退けて戦線復帰する。

 

『委員長! ご無事ですか!?』

 

「ええ。──それよりも、総員戦闘準備。全力を以てコイツを捕縛する」

 

 胃から汲み上げてきたものを吐き出す。未だに残る鈍い痛みを無視し、ヒナは平静を保って命令を下した。これに動けずに居た風紀委員達は即座に再起動し、一斉に白フードへと銃を向ける。

 

 四面楚歌。そのような状況下でも白フードは微塵も動じることなく無言で立っていた。

 

「──何者?」

 

 最大限の警戒を以て問いかける。

 

 不意打ちとはいえ自分に単なる足刀でダメージを与えられる程の実力者。得たいの知れぬその存在の一挙手一投足まで見逃すまいと睨み付け、返答を待つ。

 

「………………」

 

 しかし、白フードはヒナの質問に答えることはなく、踵を返し──()()()

 

「なっ──」

 

 あまりにも一瞬の出来事だった。敵に対して背を向けるという愚行に呆気に取られ、そして次の瞬間には100mに届かんという高さまで跳躍したことに瞠目する。

 

 予想外の行動にヒナも含めて風紀委員達は反応が遅れてしまう。そのまま白フードは凄まじいスピードで近くのビルの壁を蹴り、まるでジャングルの木々に跳び移っていく猿かのようにビルとビルを縦横無尽に飛び越えながら郊外へと消えていく。

 

 ヒナは追おうとし、しかし今から全速力で追っても間に合わぬと判断して顔を歪める。

 

「ッ……ジャンプ力もそうだけど、二人も抱えた状態であの速度……とんでもない奴ね」

 

 ヘイローを有するキヴォトス人、その中でも最強格のヒナから見ても人間離れしていると言う他無い獣が如き身体能力。その正体について学園が定めた要注意生徒や危険分子を思い出していくが、少なくともヒナが記憶する限りでは該当する者は居ない。

 

『委員長、すぐに追跡部隊を派遣して──』

 

「無駄よ。あの速度だととっくに索敵範囲から逃げられている……それにあっちは砂漠。深追いすれば逆にこちらが遭難してしまう」

 

 突如現れたUNKNOWNの追跡を進言しようとするアコに、ヒナはそう言って阻む。言葉こそ冷静だが、下唇を噛んでおり、逃がしてしまったことへの苛立ちが見え隠れしていた。

 

「それとアコ、改めて状況を教えて。何故こんな所に部隊を派遣しているのかも含めてね」

 

『ぎくっ! そ、その……これは、素行の悪い生徒達を捕まえようと……』

 

「便利屋68のこと? どこにいるの?」

 

『え、便利屋ならそこに……って、い、居ない!? さ、さっきまでそこに居たはず……!』

 

 白フードとことは一先ず頭の片隅へと追いやり、ヒナは先程の続きだと詰問する。これに言い訳しようとするも、既に便利屋は忽然と姿を消しており、目を白黒させる。

 

 彼女達は空崎ヒナの姿を見た瞬間に逃亡していたが、全く気が付いていなかったようだ。

 

『え、えっと……委員長、全て説明いたします』

 

「…………」

 

 便利屋の逃げ足の早さを考慮していなかったアコはまるで悪事が親にバレた子供のように縮こまった態度でヒナに弁解を試みる。

 

「いや、もういい。大体把握した」

 

 しかし、元よりヒナはアコの企てを察しており、アビドスと、シャーレの先生の姿を見て推測は確信へと変わった。

 

「察するに、ゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除。そういう政治的な活動の一環ってところね」

 

 とても今来たばかりとは思えぬ的確な理解。戦闘力だけでなく、頭の回転も早いようだ。

 

「でもアコ、私たちは風紀委員会であって、生徒会じゃない。シャーレ、ティーパーティー、それに連邦生徒会長。そういうのは“万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)”のタヌキ達にでも任せておけばいい」

 

 あくまでも治安維持組織。政治は専門外であると、普通はそうあるべきなのだろうが、残念なことにゲヘナでは風紀委員と生徒会の立ち位置にある“万魔殿”の仲は良好ではなくむしろ険悪、敵対に近い関係性になってしまっている。

 

 そういう点を踏まえると、アコの行動意図も理解出来なくもないのでヒナは内心溜め息を吐く。

 

 いずれにせよ、面倒事を増やしてほしくはない。

 

「詳しい話は後で聞くから、通信を切って校舎で謹慎していなさい」

 

『……はい』

 

 しょんぼりと頭を下げ、ホログラムが消える。それを確認するとヒナは先生、及びアビドス生達へと体を向けた。

 

 一同は身構える。セリカは先程の戦いを見て尻込みしており、アヤネは穏便に済ますべきだと判断していた。いつもは好戦的なシロコも今は突然の不調で踞ってしまっている。

 

 いずれにせよ、依然として風紀委員は敵のままであり、ゲヘナ最強と名高い委員長までもが加わり、戦況は最悪であると言えよう。

 

「うへぇ。()()()が派手に飛んでいったから何事かと思ったら……こいつはまた、凄いことになってるじゃん」

 

 その時だった。

 

 ヒナが口を開くよりも先に、何の前触れもなく彼女は現れる。

 

『ホシノ先輩!?』

 

「ごめんごめん。ちょっと昼寝しててね〜、少し遅れちゃった」

 

「昼寝ぇ!? こっちは色々大変だったのに! ゲヘナの奴らが……」

 

「──ふうん、ゲヘナの風紀委員会かぁ。これやったのは、君達って認識でオーケー?」

 

 ──小鳥遊ホシノ。

 

 遅れてやって来た彼女は普段と変わらぬ態度で、しかしショットガンの弾は既に装填されており、そのオッドアイの瞳は(ヒナ)を捕捉している。

 

 一方、相対するヒナは、その()()()()()()姿に、そしてまだ彼女がアビドスに居たという事実に驚き、戦況が向こう側へと傾いたことを理解した。

 

「返事しないのなら、撃っちゃうけど?」

 

「……一年生の時とは随分変わった、人違いじゃないかと思うくらいに」

 

「ん? 私のこと知ってるの?」

 

「情報部にいた頃、各自治区の要注意生徒たちをある程度把握してたから。特に小鳥遊ホシノ……あなたのことを忘れるはずがない」

 

「うへへ。思ってたよりおじさんって有名人みたいだねぇ」

 

 対峙するや否や懐かしさを滲ませながらそう言うヒナに対し、ホシノは首を傾げるも黒服やニトの存在から自分がそれなりに有名なのは理解していたので別段不思議には思わなかった。

 

「あの事件の後、アビドスから去ったと思っていたけど……そうか、そういうことか、だからシャーレが──」

 

「言いたいことがあるならはっきり言ってもらわないと。おじさん困っちゃうな~」

 

 一人で納得した様子のヒナに、笑みを浮かべてホシノは言う。その表情とは対照的に、引き金には指がかけられている。

 

「にしても、天下の風紀委員長ちゃんが随分としてやられたみたいだね……口元、まだ汚れてるよ? ──はてさて、一体誰にやられたのやら」

 

 小声で、ぼそりと呟いた。

 

「! ……あのUNKNOWNについて、知っているの?」

 

「さあ、何の事かな……とりあえず今すぐ退散してもらうと助かるんだけど。今なら()()()()()()()からさ」

 

 ヒナの顔が強張る。暗に先程の白フードとの関わりを仄めかすホシノ。それは障害は己だけではないという脅しだった。

 

 ──雰囲気は変わったが、本質は微塵も変わっていないのだと理解する。それどころかより食わせ者になっているような気がして厄介に思う。

 

「………………」

 

 選択の余地は無し。

 

 元よりホシノがまだ在籍していることを知った時点で撤退するつもりだったのでヒナは躊躇うことなく一連の行動について全面的に謝罪。

 

 イオリ達に撤退を命じ、立ち去る。

 

「アビドスの捨てられた砂漠……あそこで、カイザー・コーポレーションが何かを企んでる」

 

 置き土産として、一つの情報を伝えて。





ニトちゃん(こわ~)

おじさん(何やってんだあいつ……)
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