アリウスの王   作:大嶽丸

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消化試合

 

 

 ホシノがアビドス高校から去り、カイザーPMCの襲撃を撃退し、黒服と舌戦を繰り広げたその翌日。

 

 先生は、砂漠に構えているPMC基地に囚われているホシノを救出する戦力確保の為に、キヴォトス中を奔走していた。

 

 何せ、相手はキヴォトスでも有数の大企業であるカイザー・コーポレーション。アビドス廃校対策委員会、そして便利屋68だけではまだ心許ない。故に、ゲヘナやトリニティに協力要請したものの前者はともかく後者は正直手応えが無かった。

 

 シャーレは創設されてからまだ日が浅く、実績が少ない。しかも彼女達から見れば先生はキヴォトスの外から赴任したばかりの得体の知れぬ人物。協力すべきかどうか迷うのは当然のことであり、話を聞いてもらえただけ僥倖だと思うべきだろう。

 

「──失礼します。シャーレの先生」

 

 そんな中、接触を図る存在が居た。

 

 道端で唐突に声をかけてきた少女。ビジネススーツを着こなし、短く切り揃えられた緑掛かった黒髪が特徴的な彼女は薄く笑みを浮かべ、こちらを見据えている。

 

 後ろには、小銃を肩から吊り下げ、防弾チョッキを着用した少女が二人ほど控えており、彼女達の格好にはどこか既視感を覚えた。

 

「“……君は? ”」

 

「初めまして。私は、“葦原トウコ”と申します。Empty skyという会社にてCEOの立場を務めさせてもらっている者でして──」

 

 そう名乗り、少女──トウコは一礼すると共に、名刺を差し出す。

 

「“Empty sky……!? えっと、これはご丁寧に……私はシャーレの先生だy──です。よろしく……お願いします”」

 

 これに先生は驚きながらもぺこりと頭を下げ、名乗り返し、懐中のケースから名刺を取り出して交換し合う。

 

 ブラックマーケットで名を馳せている傭兵派遣会社。そのCEO──つまり最高責任者がこのような少女だったとは思いもしなかった。

 

 思えば、後ろの二人は以前に訪れたEmpty sky本社の警備員と同じ格好だった。道理で見覚えがあった訳である。

 

「フフ……喋りやすい口調で構いませんよ。私は特に学校に所属はしていませんが、年はそこらの学生と変わりませんから」

 

「“……ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ。トウコ”」

 

 先生は、トウコを社会人か学生どちらと判断すべきか迷い、少しぎこちない挨拶をしてしまう。

 

 学校には所属していない……つまり退学者、ということなのだろうか。ブラックマーケットで会社を経営していることから、後ろ暗い過去があることを何となく察し、詮索はしないようにしておく。

 

「“……それで、エンプティの人間が何の用かな? ”」

 

「かの連邦生徒会長がご指名したフィクサーにご挨拶を……という建前はさておき、簡潔に言うと()()()()()()()()()()

 

「“ず、随分ぶっちゃけたね? ”」

 

「──戦力を欲しているのでしょう? カイザーPMCと戦う為の」

 

「“! ”」

 

 その言葉に、先生は目を見開く。

 

「“……どこでそれを? ”」

 

「独自の情報網があるのです。我が社にアビドス高校の生徒達と共に来訪してきた時点であなたのことは調査していました」

 

 不自然な点は無い。一先ず納得し、成程と先生が頷くとトウコはそのまま言葉を続ける。

 

「まず第一に我が社に敵対の意図はありません。そして、今後の経営戦略としてシャーレ、延いては連邦生徒会とのコネクションを確保したいと考えています」

 

「“……だから、今回の件に手を貸すと? ”」

 

「はい。純粋な損得勘定……ある意味では最も信用するに足り得る動機かと」

 

 一理ある、が……。

 

「“君達は、非合法な組織じゃないの? ”」

 

「確かに我が社が取り扱う依頼にその類いのものが混ざっていることは否定はしません。しかし、我々が破壊活動を行う対象は基本的にブラックマーケット内の犯罪組織や悪徳企業であり、拉致監禁や強盗といった犯罪行為は勿論、その他の違法性の高い依頼はお断りしております。少なくともグレーゾーンを装っているカイザーPMCよりも断然マシだと自負していますよ」

 

 先生が問えば、トウコはそう弁論する。思い出すのはあのヘルメット団の河駒風ラブという少女が言っていたこと。

 

 その事からEmpty skyは少なくともアビドス襲撃といった依頼は取り扱っておらず、トウコの言っていることは本当かもしれない。

 

 実態こそ不透明。どこまで本当のことを言っているかも怪しい。しかしながら彼女達により傭兵が管理されることで、キヴォトスの秩序と安寧に一定の貢献になっているということは純然たる事実であった。

 

「それに、あなた方から依頼をいただければ、いずれはそのような依頼を取り扱う必要性は無くなるでしょう。我々としても、クリーンな経営が可能であればそうしたい」

 

「“………………”」

 

「聞いた話によると、キヴォトスの外では軍隊の大部分を傭兵だけで賄っている国家も存在するらしいではありませんか。連邦生徒会長失踪に伴う混乱は沈静化したとはいえ治安の完全回復には未だに至っていない……シャーレは勿論、連邦生徒会も人手不足なのでは?」

 

 押し黙る先生に、ここぞとばかりに売り込むトウコ。随分と強気だが、彼女は目の前の大人がそこまで潔癖ではないことを知っているが故に、勝算があった。

 

 何せあの日、ブラックマーケットで闇銀行相手とはいえ強盗行為を許容し、また自身が受け持つ生徒がEmpty skyで傭兵登録をすることを看過していた。更に先日のカイザー襲撃においては便利屋68とも協力しており、現在も彼女達と手を結んでいる。

 

 つまりシャーレの先生は、善悪をきっちりと判断しながらも臨機応変に対応するタイプなのだと、トウコは推察していた。

 

「“……言っておくけど、そんなにお金は出せないよ? ”」

 

「構いません。むしろ今回の依頼は、私のポケットマネーで支払わせていただきます。先行投資という奴ですよ」

 

「“それは助かる。──じゃあ、トウコ。Empty skyの力を私に貸して”」

 

 その読み通り、先生は首を縦に振る。

 

「──商談成立です。では、お見せしましょう。我が社が誇る傭兵の実力を」

 

 そう言ってのけるトウコの口元は、三日月のように引き裂かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

『という訳で、無事協力を取り付けました』

 

「ご苦労。流石だな、葦原」

 

 数時間後。

 

 アビドス駐屯基地の客室にて。ホログラム映像で映し出されるトウコはニトに一連の出来事を報告する。

 

「……エンプティも動くんスか?」

 

 その隣で報告を聞いていた部隊長が問う。

 

「ああ。お前達にしてもEmpty skyの傭兵という体で動いた方が不自然ではないし、動きやすいだろう」

 

「そりゃそうッスけど……人員まで導入するこたぁ無いと思いますがね。私達だけでも充分ッス」

 

 暗にEmpty skyの協力は不要だと進言する部隊長。実際、先の戦闘において駐留部隊は一方的に勝利しており、更に“オシリス”という切り札も有しているのだからカイザーPMC相手に遅れを取る要素は一つ足りとも無いように思えた。

 

「……Empty sky、及びブラックマーケット駐留部隊にはアビドス外から出動するであろうカイザーの増援を主に対処してもらう予定だ」

 

『そういうことです。ニト会長は以前から我々に協力を仰いでおられました。その時点で今回の展開を予想していたのでしょう。流石と言う他無い、素晴らしい先見の明です』

 

(え? いや……そうでもないが……)

 

 トウコの評価に、内心そう思いながらニトは無造作に頭を掻く。最終的にアビドスとカイザーが衝突するのは元よりそう事を運ばせるつもりだったので想定内であるが、黒服の策謀によるホシノ退学は普通に想定外であった。

 

(……まあ、結果オーライだ。そういうことにしておこう)

 

 しかし、結果的には予めトウコに話していた予想通りになったのでわざわざ過大評価だと訂正するのもアレなので黙っておくことにした。

 

『なので手柄を横取りするつもりは毛頭もございませんのでご安心を。ナスカ部隊長』

 

「む……まあ、閣下がそうおっしゃるのであれば……分かりやした」

 

 部隊長……トウコに“ナスカ”と呼ばれた彼女は、そう言いながらも未だにどことなく不服そうであった。

 

 ん? と、その姿を見たニトは首を傾げる。

 

「……何だ、仲が悪いのか?」

 

「え、あっ……い、いや! そんなことはないッス! エンプティには私らも世話になっていやすし……」

 

『フフ……そうですね。誤解を与えてしまったのなら申し訳ございません。ニト会長』

 

「……そうか。なら、いい」

 

 慌てて取り繕うナスカのそれをフォローするトウコ。対するニトは一応納得した様子も見せるも内心訝しんでしまう。

 

(え、なんで? あからさまにギスギスしてんじゃん)

 

 何かしらの蟠りが存在するのは明らか。それがアビドス駐留部隊とブラックマーケット駐留部隊の間か、ナスカとトウコの個人的な間によるものかはまだ分からない。

 

 予想外の問題の浮き彫りに困惑しつつも追及は避け、頭の片隅へと追いやる。後で調べてみるつもりだが、今は明日にでも決行されるカイザーPMC基地襲撃に集中すべきだろう。

 

「明日はいよいよ山場だ。シャーレの先生と共に我らが盟友を救う。充分に英気を養っておけ」

 

「ウ、ウッス!」

 

『御意に。会長は、これから如何なさるおつもりで?』

 

「一旦自治区へと戻る。少し共有したい“情報”があってな……それでは明日、作戦通りに事を進めてくれ」

 

 そう言い、ニトは立ち上がる。

 

 昨日に黒服と交わした“契約”。それによってもたらされた情報は今後の方針を大きく変える重大なものであり、生徒会、それから調査技研と共有し、話し合いたかった。

 

(“神秘”を“恐怖(Terror)”に反転……ヘイローを有する以上、このオレですら天敵に成り得る存在とは、実に厄介極まりない)

 

 判明した“敵”の正体と能力……それを知った時はニトは思わず溜め息を吐きそうになった。

 

 一刻も早く対策を講じなければならない。そういう意味では早期に黒服と接触出来たのは僥倖だったと言えよう。目的の為ならば手段を選ばぬ外道ではあるが、あれくらいの方がむしろ分かりやすいとニトは考える。探究者の類いしてはどうにもまとも過ぎるくらいだ。

 

(……やることが多い)

 

 結局、ニトは溜め息を漏らすのであった。

 

 問題は山積み。受難はどこまでも続き、困難は立ち塞がらんとする。それでも彼女は進み続けるのだ。

 

 全ては、アリウスの為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 本日、カイザーPMC理事は狼狽していた。

 

 それは突如としてアビドス廃校対策委員会が攻めてきたから……ではない。多勢に無勢にも拘わらずこちらを圧倒する彼女達との戦闘状況が絶え間無く無線に入ってくるが、完全に耳に入っていない様子で鋼鉄の身体を震わせる。

 

 原因は、たった一つの報告。

 

「……今、なんと?」

 

『は、はい! 北方に配備されていた対デカグラマトン大隊ですが……たった今、壊滅したとのことです!』

 

 悲鳴のような声で叫ぶ部下に、理事は先程の報告が幻聴でも何でもなかったことを漸く悟る。

 

 だが、それでも事態が呑み込めない。北方の対デカグラマトン大隊は、あの“化け物”に対処する為の部隊であり、最新装備が支給され、練度も高い……少なくともアビドスに居るカイザーPMCでは最高戦力だったはずだ。

 

「馬鹿な……!! 一体どういうことだっ!? まさか“ビナー”が……」

 

『いえっ! ほ、報告によると敵は……その……』

 

「何だっ!? はっきりと答えろ!!」

 

た、たったの1名とのことです!

 

「……は?」

 

 理事は言葉を失う。

 

 たった1名相手に大隊が壊滅? 何の冗談だと叫びたくなるも、嫌な予感がした。

 

 脳裏に過ったのは──。

 

『す、姿は水色の頭髪をした生徒! ガスマスクを装備しており、顔は確認出来ず──』

 

「アイツかぁぁぁぁああああ!!」

 

 無線機が叩き潰され、発狂にも近い怒声が響き渡る。

 

 あのゴリアテを瞬殺したガスマスクの少女──奴が、また現れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 対デカグラマトン大隊。

 

 彼らは目を疑った。何せ、目の前で仲間の兵士達が宙を舞ったのだから。

 

 砂嵐でも起こったか、それともいよいよ“ビナー”が暴れ出したのかと思うのも束の間、驚くべきことにその災害を引き起こしたのは一人の人間だった。

 

 いや、本当に人間かどうかは怪しい。そいつは武装ヘリにでも積むような巨大なガトリング機関銃を両手に装備し、それを掃射しながら、しかしそうとは思えない有り得ない速度で部隊へと突貫し、兵を文字通り薙ぎ倒していく。

 

「ば、化け物が──」

 

 鋼鉄の蛇を相手取ることを覚悟し、任務にあたっていたその部隊の指揮官は、しかしそれすらも上回る本物の怪物を前に悪態を吐き、同時にその機能を停止させる。

 

 ただでさえ一人に蹂躙され、遂にトップが討ち取られたことで残った兵士達はパニックに陥り、中には戦意喪失して逃亡を図る者まで居た。

 

「………………」

 

 この阿鼻叫喚の地獄を創り上げた少女──“オシリス”はそんな兵士達を気にも留めず、丁度弾切れとなったガトリング機関銃をその場に投げ捨て、背負っていたショットガンへと持ち替える。

 

「──見事ッス。オシリス」

 

 すると背後に、いつの間にか居たナスカが呼び掛ける。

 

「残党は私が片付けておくんで、PMC基地の方に向かってくだせえ。おたくの実力を、アビドス駐留部隊の実力を知らしめてやるんですぜ」

 

「………………」

 

 こくりと頷き、オシリスはPMC基地のある方角へと走り出し、風のような速さで戦場を駆け抜けていく。

 

「閣下に気に入られているからって調子に乗りやがって……エンプティには絶対に負けられねぇ……!」

 

 その後ろ姿を見送り、ナスカは対抗心を剥き出しにしながらそう呟き、奮起するのだった。

 

 仲良くして? と、ニトがこの場に居た場合、そう切実に願ったことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 場面は変わり、アビドス自治区境界線付近の某所にて。

 

 そこでは、理事がプライドをかなぐり捨て、本社から呼び寄せた増援が通せんぼをくらっていた。

 

 ヘルメット団、スケバン、その他諸々が混成している傭兵部隊の手によって。

 

「おーおー、凄いことになってるなこりゃ……」

 

「マジ? ヒナちゃん来てるじゃん。あとアコの馬鹿も」

 

 兵士を蹴散らしながら、かつてブラックマーケットでアビドスと争った傭兵バルチャーとパンサーは、暢気に遠くの戦場を眺めていた。パンサーに至っては双眼鏡まで使っている。

 

「あのカイザーPMC相手に大丈夫かと思ったが……」

 

「圧倒的過ぎるね。拍子抜けしちゃったー」

 

「ああ。むしろ可哀想になってくる。私達が必要だったかさえ怪しい」

 

 敵に同情する有り様。それだけカイザーPMCは一方的に打ち負かされていた。

 

 アビドス廃校対策委員会と便利屋68に加え、ゲヘナ風紀委員会……人数こそ僅か四名ほどだが、風紀委員長である空崎ヒナが居る時点で全軍を上回る。

 

 おまけにトリニティによる支援砲撃まで。最後の望みの増援もこうしてEmpty skyの傭兵部隊が足止めしているのでどうしようもなく()()()()()と言う他無い状況だった。

 

(しかし、どうにも傭兵の中に強さの割に知らねぇ顔の奴らが混ざってるな……それに、向こうの方でも戦闘があったようだ。随分と面白いことになってやがる)

 

 もはやカイザーの惨敗は明白。故に、バルチャーは敵を軽くあしらいつつ、今後の為にも他の戦力の分析をしていた。因みにパンサーは今回の報酬で何を買おうかなーとしか考えていない。

 

(あの指名手配の取り下げといい、エンプティはアビドスを贔屓……いや、シャーレの先生相手か? いずれにせよ、裏で絵図を描いてる奴が居る。その辺も要チェックしといた方がいいな)

 

「バルチャー? あんまりボーッとし過ぎると怒られちゃうよー?」

 

「テメェも少しは頭を……言っても無駄かぁ」

 

「え、なに? もしかして喧嘩売ってる?」

 

「おいコラァ! そこの傭兵二人! サボってないで働きなさいよ!」

 

「ほら、怒られちゃった。というか私も~?」

 

「チッ……まあいい。仕事が終わってから考えるか」

 

 銃をバットのように振るうヘルメット団の少女に怒鳴られ、そそくさとバルチャーとパンサーは戦闘に戻る。

 

 程無くして、彼女達の下に連絡が入った。それは既定路線であり、しかし想定よりも早い。

 

 ──カイザーPMC基地が、陥落した。





結果は目に見えてるのでソッコーで終わらせました。

そして漸く部隊長とCEOの名前が判明しちゃいました。因みに部隊長のフルネームは“須藤ナスカ”。苗字が本編で出るかは分からんので一応記載。
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