アリウスの王   作:大嶽丸

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設定だけ用意してるオリキャラが多くてどのタイミングで出すか迷う。


もう消えてもらうしかないじゃんね

 

 

 聖園ミカは、大いに焦っていた。

 

 逃げるようにセイアから去った後、側近達に口止めをし、自室に籠るフリをして直ぐ様カタコンベに入り、アリウス自治区へと向かう。

 

 このタイミングで下手に動けばセイアに怪しまれるかもしれないが、どのみち“予知夢”による“未来視”などという出鱈目な能力の前には無意味であるし、ここで足踏みしていても状況は変わらない。

 

 己がいくら考えたところで一体どうすればいいのか、何が得策なのか分かるはずもない、とミカは一刻も早くニト達に状況を伝え、判断を仰ごうと思い至った。

 

「あ、ミカ様! 今日もお越しになられたので──」

 

「ごめん! ちょっと急いでるんだ!」

 

 警衛の身体検査を終え、門を通過するや否や全速力で走る。途中で通行人のアリウス生から声をかけられたが、答える余裕は無く、早口でそう言って通り過ぎていく。

 

 目指すは、ニトが居るであろう本校舎。事前にモモトークで急ぎの話があると送っているが、それは一向に既読が付く気配が無かった。

 

「えっ!? 居ないっ!?」

 

「はい。昨日から調査技研の方々と共にカタコンベの奥へと向かいました」

 

「そんな……」

 

 しかし、門番から伝えられたのは、不在という事実。それも、カタコンベの奥ときた。試しに電話を掛けてみたが、やはり電波が届かず繋がらない。道理でモモトークも既読が付かぬ訳だ。

 

「よりにもよってこんなタイミングで……」

 

「? 如何なさいました? 聖園殿」

 

「え、あっ、その、とっても急いでるんだ。どうにかニトちゃんと連絡取れないかな?」

 

「ふむ……であれば、伝令を遣わせましょう。少々時間が掛かりますが……」

 

「うんっ! お願いっ!」

 

 いつもと違い、鬼気迫る様子を見て重要な用件であると察した門番はそう提案すれば、ミカは食い気味に頷く。

 

 それから彼女はニトが来るまで一階の応接室で待機することになった。

 

「おう、聖園ミカ」

 

「あ……ラミちゃん。こんにちは」

 

 応接室へ向かうため廊下を歩いていると、ばたりと会ったアリウス生に話しかけられる。腰に届くまで伸ばした銀髪を一本に束ね、パーカーの上から白いコートを羽織った少女だった。

 

「今日も来てたんだな、丁度良い。この後、アルファの訓練がある。付き合えよ」

 

 少女──ミカが“ラミ”と呼んだ彼女はアリウスの主力部隊の一つ、“アルファ隊”の隊長であり、アリウス生の中ではよく話す相手の一人であった。

 

 そして、今言ったように時間があれば()()()()にされる仲である。

 

「えっと、ごめん。実は大事な用事があって、また今度にしてくれないかな?」

 

「あん? マジか。チッ……あんた相手じゃねーと歯応えがねぇんだよな。サオリの奴は任務中だし」

 

 断れば、不機嫌そうに舌打ちする。

 

「あはは。相変わらず闘うのが好きだねぇ……」

 

 これにミカは苦笑いを浮かべる。彼女──ラミは屈指の戦闘狂(バトルジャンキー)であり、故にキヴォトスでも有数の“強者”の一人であるミカは度々訓練と称して戦闘を挑まれていた。

 

 実力も学年首席である錠前サオリに引けを取らず、単純なフィジカルでは圧倒的に上であるミカ相手に何度も食い下がり、ルール有りの模擬戦では黒星を付けられることもあった。

 

「それもあるが、今後の為にも()()はいくらでもしておいた方が良いだろ。私もサオリもあんたやキヴォトスで名を馳せる“上澄み”には劣る」

 

「えー? そんなことないよ」

 

 少なくとも全体的に見れば、アリウス生の戦闘練度は一般生徒も含めて著しく高く、統率も取れている。正直に言ってしまえばトリニティが勝っているのは単純な数くらいであり、ミカが危機感を覚えてしまうくらいには、精鋭揃いであった。

 

 しかし、どうやらラミはそれだけでは駄目だと思っているようだ。

 

「でも、訓練も良いけど休息も大事だよ? しっかり休んで英気を養わないと」

 

「そのくらい分かってるよ。じゃあな、次は付き合えよ」

 

「おっけー。またね」

 

 他愛のない会話をし、二人は別れる。

 

 そして応接室へと辿り着くとフカフカの革製ソファーに座り、ミカは走ってきたこともあり差し出された紅茶をグイッと飲み干し、息を整える。

 

(今後の為にも練習、かぁ……もしかすると、近々()()が来ちゃうかも……)

 

 己の致命的な失態のせいで、とミカはラミとの会話を思い出して顔を暗くする。セイアの行動次第ではアリウスとの和解不可能どころかトリニティとの戦争にまで発展してしまうかもしれない。

 

 それだけでも最悪だというのに、上述したようにアリウスは少数ながらも精鋭揃いかつ軍事力もトップクラス。どちらかが勝つかは想像も付かないが、きっと多くの血が流れ、大きな傷跡を残すことになる。

 

 絶対に、避けなければ──。

 

(お願い、ニトちゃん。早く来てっ……!)

 

 自分よりもずっと聡明な彼女ならば、きっと最適解を出してくれるはず。ミカは俯き、両手の指を絡み合わせながら手遅れになる前に彼女が来てくれることを祈る。

 

 するとその時、こんこんとノックの音が響き、しばらくしてから応接室のドアが開く。

 

「! ニトちゃん!」

 

「──いえ、閣下ではありませんよ。ミカさん」

 

 思わず立ち上がるミカ。しかし、入ってきたのはニトではなく、修道服を身に纏い、微笑を浮かべた金髪の少女だった。

 

 シスターフッドのものと対となる真っ白な修道服であり、背と腹部には大きな赤い十字、胸元にはアリウスの校章が刺繍されている。

 

「あ、ユーグちゃん」

 

「どうも。ぬか喜びさせてしまいましたか? すみません」

 

 彼女もまた、ミカがよく知る人物だった。

 

 ──“剣持ユーグ”。

 

 聖堂騎士団の総長(グランドマスター)であり、アリウスにおける立ち位置的にはシスターフッドの歌住サクラコや救護騎士団の蒼森ミネと似ている。

 

 尚、ミカはよく分からないあの二人よりずっと良い子だと認識しており、大聖堂に遊びに来た際にはよく一緒にお茶をしていた。

 

「何でここに?」

 

「ミカさんがここに居ると聞いて。随分と騒がれていましたよ? トリニティの麗しの姫が鬼気迫る様子で全力疾走していたと」

 

「ひ、姫ってそんな……じゃなくて、本当? ちょっと恥ずかしいかも……」

 

 姫と称されて照れるミカだったが、先程の猛ダッシュが大勢に見られていることを知り、別の意味で顔を赤くする。

 

「そんなに急いで、何かあったのですか? 先程の反応を見るに、閣下に用があったみたいですが……」

 

「あ、実は重要な用事があって……ニトちゃん、今は居ないみたいだから帰ってくるのを待っているんだ」

 

「ふむ……それはそれは。あの方は今度は技研の方々と地下墓地(カタコンベ)へと行かれているのでしたね? まったく……アビドスでの件といい、(トップ)である身でありながらあちこちへふらふらと……ですから、こういった時に不在で困るのです」

 

 溜め息混じりにユーグはそう言い、自然と向かいのソファーへと座る。

 

「はは……気持ちは分かるけど、ニトちゃんも考えがあってのことだからさ……」

 

「あの方のアリウスへの思いを疑うつもりはありませんが、それでも長は動かず玉座の上でどんと構えていられる方が我々としては安心出来るのです。いくら(わたくし)では到底及ばぬ深いお考えがあろうとも……」

 

 微笑を保ちつつも、やれやれといった様子のユーグ。こうした愚痴のように溢される不満を、ミカは度々聞かされており、苦笑いを浮かべながらフォローする。

 

 しかし、ユーグの口は止まらない。

 

「つくづく思うのです。閣下は自らを軽視し過ぎている。だからこそ、腰が軽く平気で自治区を離れてしまう……腰巾着の副会長や日和見の補佐ごときが自らの後任になれると本気で思っているのですかね、本当に──」

 

「──言ってくれるな」

 

 その時、ドスの利いた声が言葉を遮る。視線を向ければ、眼鏡を掛けた銀髪の女性が一人、いつの間にかそこに立っていた。

 

「ヒ、ヒトミちゃん……」

 

「おや、ごきげんよう。月島ヒトミ副会長、及び内務部門統括……ノックもせずに盗み聞きとは感心しませんね」

 

 鋭い眼光の副会長──月島ヒトミにミカはびくりと体を震わせる。一方、腰巾着呼ばわりしていたユーグは涼しげな表情であった。

 

「大聖堂から離れ、こうして雑談に陰口とは。聖堂騎士団は随分と暇そうで羨ましい限りだ」

 

「休憩時間ですので。それに、陰口なんてとんでもない。事実を述べているだけですよ、あの方の後任など到底務まらぬのは副会長ご自身が一番ご存知なはずではありませんか」

 

「ッ…………」

 

「ほら、ご自覚があるから、言い返すことも出来ません」

 

「貴様──」

 

「わー! ストップストップ! 喧嘩は止めてよ、ニトちゃんも悲しむって!」

 

 一触即発といった雰囲気に慌ててミカが間に割って入る。ヒトミとユーグが顔を会わせるのを見るのは今回が初めてだが、ここまで険悪な仲だとは思いもしなかった。

 

「……見苦しいところを見せていました。申し訳ありません、聖園ミカ」

 

「ううん。大丈夫だから……それで、何か用があって来たんでしょ?」

 

「ええ。あなたが閣下にご用があると聞いて。どうやらいつものと違い、かなり重要な用件であるようでしたので、次級者である私も聞いておこうかと思いまして」

 

 ニトが不在の間は、自治区のトップは自動的に次級者であるヒトミに繰り上がり、彼女は生徒会長代理を務めることになる。

 

「火急の案件ならば尚更。お聞かせ願いますか?」

 

 そう言いつつ、ヒトミは何としてでも話を聞くつもりだった。実際に会って分かったが、ミカの様子は普段とは全く違い、そわそわと落ち着かず、そこには焦りが見え隠れしている。

 

 精神的に追い詰められているのは一目瞭然。余程のことがあったのだと判断した。

 

「……そうだね。まずはニトちゃんに話そうと思ってたけど、来るのはまだ時間が掛かりそうだし、話しておいた方が良いね」

 

 ヒトミの言葉にミカはあっさりと頷く。彼女としても、早くこの情報を誰かに共有したかった。

 

「決まりですね。……おい剣持ユーグ。いつまで居るつもりだ? さっさと失せろ」

 

「あら、酷い。機密でもあるまいに、私も是非ともお話を伺いたいのですが……」

 

「チッ……構いませんか? 聖園ミカ」

 

「うん。ユーグちゃんなら、大丈夫だと思うし」

 

 あまり大勢に聞かせるような話ではないが、ユーグは聖堂騎士団のトップであるし、頭も切れるから良い助言をくれるかもしれない。

 

 そして、意を決したミカは遂にセイアにアリウスとの関係について感付かれたかもしれないということを語り始める。

 

「実は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 沈黙が空間を支配する。

 

 ミカが話した衝撃的な事実に対し、ヒトミもユーグも目を見開いていた。

 

「まさか。よりにもよって、現ホストである百合園セイアに我らの存在が……とんでもない失態ですね、聖園ミカ」

 

「うう……本当にごめんなさい……」

 

 沈黙を破り、額に手をやりながらそう良い放つヒトミに、ミカはしょんぼりとした様子でただひたすらに頭を下げるしかなかった。

 

 失望されてしまったかもしれないが、それも仕方のないことだと受け入れる。

 

「しかし、“予知夢”など馬鹿げた能力……眉唾だと思うのは当然のことでしょう。今回の件で漸くミカさんはそれが本物であると知ったのですから、彼女を責めても仕方がありませんよ」

 

 これにユーグが擁護する。実際、そのような出鱈目な能力を前にはいくら情報が漏れぬようにしても無意味であるし、仮に事前に知っていたとしても未然に防ぐ手段は皆無と言っていい。

 

「して、如何なさいますか? 早急に手を打たなければ」

 

「……その通りだ。だが、これはあまりにも問題が大きい。閣下の判断を仰がなければならん」

 

 ヒトミは眉間に皺を寄せる。いくら会長代理の立場とはいえ、これを一存で決める訳にも行かないだろう。

 

 トリニティ関係では、何かしらのトラブルが起こることは予期していたが、まさかニトが不在しているこのタイミングとは。

 

「“セプテム”を集める。閣下がお戻り次第、会議を開きましょう……聖園ミカ、それまでここでお待ちを」

 

「う、うん……」

 

 準備をするためヒトミは応接室を後にする。残されたミカは相変わらず落ち込んだままだった。

 

「──ミカさん。ご覧になったでしょう? 結局のところアレは閣下に依存し過ぎている。戻ってきた閣下に、今のリーダーはお前だろと叱責されるであろうことを分かっていながら、己で判断することを恐れた」

 

「ユーグちゃん……?」

 

「副会長はああ言いましたが、私は反対です。今回の件は早急に手を打たなければ、手遅れになってしまう」

 

 ユーグがはっきりと言い切る。これに関してはミカも同意であり、だからこそニトが早く戻って来ることを祈っていた。

 

「閣下がここへ戻られるのはかなりの時間が掛かると思われます。カタコンベのどこまで行ったかは知りませんが、距離によっては伝令が無線の届く範囲まで来てから戻ってくるまで……最悪、今日中には戻って来れぬやもしれません」

 

「そ、そんな……」

 

 ミカは顔を青くする。それではここで待ち惚けをくらうだけではないか。悠長にしている余裕など微塵も無いというのに。

 

「嘆かわしいことです。副会長(かのじょ)もそれを分かっているはずなのですが……閣下が居なければ、何も考えられない。それはあの方が一番嫌う愚行だというのに」

 

「……でも、どうするの? 私達だけじゃ出来ることは少ないんじゃ」

 

「そうですね……聖堂騎士団の人員ならば、いくらでも動かせるのですが」

 

「………………」

 

 どうしたものかと考えるユーグ。一方、ミカは俯いたまま下唇を噛む。

 

 つくづく最悪な展開である。頼みの綱のニトは不在で、ヒトミ達残ったアリウスはこの想定外の事態に手をこまねいている状況……もしかすると、これすらもセイアは織り込み済みなのかもしれない。

 

 ふと脳裏に過った可能性。“予知夢”があれば何でもありだ。ニトの不在の間にアリウスを掌握或いは排除する策を練っているのかも──。

 

(そんなこと、絶対にさせない……!)

 

 事態は一刻を争う。

 

 故に、対抗手段は、一つしかなかった。

 

「……セイアちゃんには、もう消えてもらうしかないじゃんね」

 

 自分でも驚く程、冷静な声が出た。

 

「それは……よろしいので?」

 

 ユーグは問う。彼女もそれが“一番手っ取り早い方法”だと理解していたが、それと同時にミカと百合園セイアが友人関係であることから口にすることを避けていた。

 

「うん。アリウスを守るには、もうこの方法しかない。セイアちゃんは病弱だから、ちょっと怪我させて喋れなくすれば……いや、いっそのこと誘拐した方が良いかな? いくら未来を視られたって動けなければ関係無いじゃんね」

 

「……賢明なご判断、感服です。であれば、百合園セイアさんには消えてもらいましょう、表舞台から」

 

 相変わらず微笑を浮かべたまま、ユーグはミカの選択を素直に称賛する。感動すら覚えた、友人よりも自分達アリウスを取ってくれたのだから。

 

 一方、ミカもユーグの賛同を得て、覚悟を決める。

 

「早速、二人であの副会長を言い含めましょう。元より“予知夢”は危険極まりない能力……誘拐という具体案を示し、事態の緊急性を訴えれば彼女の重い腰も上がることでしょう」

 

 予知夢、未来視。

 

 そのような能力を有する者がトリニティ側に存在することを知っていれば、アリウスのことを感付かれる感付かれない以前に、問答無用でアリウスは排除に動いていたことだろう。

 

 それだけ馬鹿げた、恐るべき能力なのだ。おまけに保有者は現ホストかつアリウスの融和に反対の立場を取っている人物……そう考えればミカの決断は性急でも何でもない妥当なものだった。

 

 こうして、ティーパーティー襲撃、及び百合園セイア誘拐計画は程無く実行されることとなった。





ニトちゃん「副会長が居るからまあ大丈夫でしょ。引き継ぎシステムも完璧だし」

ヒトミ「あの……流石にキャパオーバーです……」

※一応ニトちゃんは副会長一人では流石に荷が重いと思って会長補佐なんて役職も用意してるが、普通に二人掛かりでもきつかったりする。

雷同ラミ
 三年生。
 アルファ隊というチームの隊長。総合成績ではサオリに劣るものの戦闘力は互角以上。
 見た目イメージはドルフロ2のクルカイ。性格は戦闘狂で昔はもっとヤバかったが、ニトちゃんに挑んで完敗してからは若干落ち着いた。
 もし原作時空に居た場合、ベアおばに特攻して死んでる。

剣持ユーグ
 三年生。年齢不詳。
 アリウス聖堂騎士団の総長。前に出てきた反トリニティ派のリーダーはまた別でこっちは原理主義派だが、ニトへの好感度は普通に高い。
 ニトちゃん曰く、「原理主義者のくせに性格は全然ヴァニってない変な奴。ほんとに原理主義派のトップ?」
 尚、当たり前だが、普通に今の環境の方が過ごしやすいので原理主義の風潮はとっくに形骸化している。
 特に誤解なんて一切無いサクラコ様みたいな奴でミカと仲良くしているのも打算ありき。
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