アリウスの王   作:大嶽丸

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ミアレで辻ポケモンバトルしてました。スターミーわりと好きだったのですが、例のメガのデザインよりも種族値があれでショック受けました。


覚悟の準備

 

 

 桐藤ナギサは憔悴していた。

 

 外面こそ平静を装い、誰と相対した場合でも涼しげな表情を浮かべているが、少しでも気を抜けば苦虫を噛み潰したような顔に変貌するだろう。ティーカップを握るその手は僅かに汗ばみ、必死で震えを押さえ込む。

 

「──やはり、先生は協力してくれませんか」

 

 私は私のやり方でやる、と。つい先程、第二次試験が目前に迫る中、裏切り者は見つかったかという問いに対して自身が呼び寄せた連邦生徒会のフィクサーはそう返答した。

 

 予想はしていたことだ。言葉を交わし、シャーレの先生がその噂に違わずあくまでも生徒一人一人を尊重し、庇護するスタンスであるということは否が応でも理解出来てしまう。

 

「ですが、構いません。従わぬのであればこちらも相応の手段を取るのみ……予定通り、裏切り者には消えてもらいます。少々コラテラル・ダメージが発生してしまいますが、致し方の無いことでしょう」

 

 まるで自分自身に言い聞かせるように、ナギサは口にする。

 

 先生が裏切り者を突き止める、或いは差し出すつもりが無いのだと言うのならばティーパーティーとしての強権を行使し、補習授業部ごとトリニティから追い出すまで。

 

 疑わしきは罰する。その行いが非道であるということはナギサは重々承知しており、然りとて実行することに対して微塵の躊躇も存在してなかった。

 

 すべてはエデン条約の締結、延いてはトリニティの安寧の為に。

 

「疑心暗鬼……実際そうなのでしょう、先生。私は、もはや誰も信じられないでいる。だからこそ、ヒフミさんを補習授業部へと送り込んでしまった」

 

 いつだったかミカが言っていたことと同じように、彼もまたナギサが疑心暗鬼に陥っており、疑心に囚われず、他者を信じるよう諫言した。

 

 腹の探り合いが基本のトリニティの政治を行う身としては鼻で笑ってしまいそうな、そんな言葉に対してナギサは自分でも恐ろしく感じる程に、自然とその言葉を受け入れていた。

 

 己の胸の中を埋め尽くす()()という感情がこれでもかと証明しているのだから。

 

「だけど、それでもやらなければ。次は私、或いはミカさんが殺される。──セイアさんのように」

 

 学友であり、同志であり、かけがえない存在であった彼女の死を知って以来、ナギサは止まることを許されないでいた。

 

 あの夜、ティーパーティーへと襲撃してきた集団は明らかなプロであり、有数の手練れ達だった。

 

 主力の一部が不在だったとはいえトリニティが誇る正義実現委員会を相手に真正面から渡り合い、容易くティーパーティーに侵入してセイアの下へと辿り着き、彼女を始末しただけでなく、大した損耗も無く一人残らず逃げ仰せた。

 

 しかもその正体は依然と不明。手掛かりとなる痕跡は不自然なまでに存在せず、正義実現委員会の自作自演で口裏を合わせていると考えた方が納得が行く程だった。

 

 だが、正義実現委員会を信用せず独自の捜査網でナギサは調査したものの可能性は低いだろうというのが答え。であれば、本当に居るのだろう。

 

 ──我らトリニティをまんまと手玉に取り、ここまで完璧な斬首作戦を実行し、あまつさえ成功してみせた恐ろしい戦闘集団が。

 

「そのような者達が敵ならば……きっと、内通者を一人や二人排除したところで、止まらないのでしょう」

 

 声が震える。疑心暗鬼に陥り、それでもナギサという少女は聡明であり、相手の方が一枚上手であるということと、己の行いが自らの身を守ることに繋がらないことには気付いていた。

 

 怖かった。純粋に、ただひたすらにナギサは恐ろしく、怯えていた。

 

 敵は、ヘイローを破壊する手段を有している。セイアは病弱だったが、だからといって自分が殺されないなどという保証はどこにも無い。

 

 しかし、一つ安心することがあるとすれば、次の標的はホスト代理であるナギサであることはほぼ確定であり、ミカが狙われる可能性は著しく低いということ。

 

 そして──。

 

「私の死は、即ち私の正しさの証明。シャーレの先生も、楽観的な考えを捨ててくださるでしょう。──ミカさん、どうかトリニティを頼みます」

 

 大切な、大切な幼馴染。彼女は強い。この策謀渦巻くトリニティにおいてその武力とカリスマ性のみでパテル派のトップへと至った傑物であり、それはティーパーティーにとって切り札とも言える暴力装置であった。

 

 かつてはお飾りの首長などと揶揄されることもあったが、ここ最近はどういう心境の変化があったのか政治にも関心を寄せ、部下とも打ち解けたらしくパテル分派は勿論のことそれ以外の派閥からも多くの支持を集めている。

 

 次期ホストとしては政敵としてこの変化と成長を警戒すべき。しかし、それ以上にナギサは嬉しく、そして安堵してしまう。

 

「エデン条約には未だに消極的ですが……私の遺志ならばきっと、受け継いでくれますよね? たとえそうでなくとも、次の長となった貴女の決断を、私は否定しないでしょう」

 

 懸念されていたゲヘナ嫌いも解消しようとしている節がある。決して満点を出すことは出来ないが、それでも今の彼女ならばトリニティを正しく善き道へと導けるであろうと、疑うことしか出来ない今の状況下でナギサは()()()()()

 

「ただ──」

 

 死を理不尽とは思わない。それはきっと、友を疑い、騙し、裏切った報いにして罰なのだろう。

 

 恐れ、怯え、しかし覚悟は決めた。

 

「簡単に殺されるつもりはありません。セイアさんを殺したトリニティの敵……必ずや、その正体を暴いてみせます」

 

 恐怖の中で沸き立つ怒り、そして()()。友人の仇を討てずとも、せめて一矢報いる為にナギサは行動を始めている。

 

 しかし、彼女は気付かない。

 

『ええ、そうです。その調子ですよ、桐藤ナギサ』

 

 気付けるはずもなかった。先程からずっと、己を視ている者が存在することなど、夢にも思っていなかった。

 

 赤い影が、蠢く。

 

『憐れなる子羊、疑心に溺れる道化……存分に怒り、憎み、そして精々踊りなさい。──この私の掌の上で』

 

 花弁を思わせる異形の頭部。その隙間に浮かぶ幾つもの瞳はぎょろりとナギサを見据え、彼女の有り様を嗤っていた。

 

 他者を疑い、前提を疑い、思い込みを疑い、挙げ句の果てに真実までもを疑い、そうして盲目となり()()してしまう。

 

 所詮は“生徒”という枠組みから脱け出すことの出来ぬ未熟な子供……()()()のような化け物はやはり例外中の例外なのだと永遠の淑女の名を持つ異形は改めて再認識する。

 

 であれば、利用してやろう。

 

 であれば、搾取してやろう。

 

 それこそが、より上位の存在。“大人”が有する権利なのだから。異形はそのような悪辣な理屈を至極当然の理であるのだと疑いもしない。

 

『より良い明日を。他ならぬ私の為に、いずれ“崇高”へと至らんが為に──』

 

 誓うような、願うような呟き。

 

 しかし、その瞳に宿す“復讐心”という名の炎は暗く、激しく燃え上がっていた。

 

 不倶戴天。

 

 必ずや、あの小娘を──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 美的センスというのは人それぞれ。

 

 美しいと思ったモノが、他者にとっては醜く感じる場合もある。その逆もまた然りであり、それについてニトはブラックマーケットで味わった苦い体験から重々承知していた。

 

 しかし、それでも思わずにはいられなかった。

 

(……マジかぁ)

 

「如何でしょうか閣下? とても可愛い……否、可愛過ぎるキャラクター達ではありませんか?」

 

 とある喫茶店にて。キラキラと眼を輝かせながらアズサが差し出してきた小さなぬいぐるみ達にニトは何とも言えぬ表情を浮かべる。

 

 どれも独特なデザインをしているが、その中でも一際目を引くのが中央のどう見ても死んでいるかラリっているようにしか見えない鳥? だと思われるキャラクターだった。

 

「ぺロロさm……ぺロロ。察するに、モモフレンズとやらか」

 

「! 流石は閣下。ご存知だったのですね」

 

「……ああ。詳しくは知らんが」

 

 尚、何故かぺロロに関する情報だけは嫌というほど脳内に叩き込まれている。不思議だね。

 

(ハァ……阿慈谷ヒフミの影響か。とはいえオレのように洗脳教育を受けたのではなく、純粋に好んでいるようだな)

 

 誰が布教したかは、想像するまでもなかった。

 

 信じて送り出した部下が、モモフレンズに染まってしまっていた。わりとショッキングである。

 

「こっちがアングリーアデリー、こっちがピンキーパカと言って、こっちがウェーブキャット、それでこっちがビッグブラザーで……」

 

 そんなニトの様子に気付かず、アズサは淡々と、しかし夢中となってぬいぐるみ達を紹介していく。

 

 モモフレンズ自体は未だに視聴していないが、随分と多種多様なキャラクターが居るようだ。こうして見るとぺロロが一際異質なだけで他は比較的マシ……なのか? 感覚麻痺しているだけかもしれない。

 

「ふむ……白洲は、どれが一番好きなんだ?」

 

 どこぞのオセアニアの独裁者のようなキャラクター名も聴こえてきたが、突っ込んだところで無意味なのでとりあえずスルーしつつ尋ねてみる。

 

「む、そうですね……皆、甲乙付け難い魅力がありますが……一番のお気に入りは、この“スカルマン”です」

 

 するとアズサは暫く考え、ぬいぐるみの中から黒いボディにデフォルメされた髑髏の貌をした死神、或いは悪魔をモチーフにしたであろうぬいぐるみを指差した。

 

髑髏男(スカルマン)……そのままなネーミングだな。こいつ()どことなく愛嬌があるし、良いデザインだと思うぞ」

 

 当社比。にしても、他が動物モチーフ(?)なのに何故このスカルマンだけは違うのだろうか。見た目からしてアニメ作中では悪役的な立ち位置なのかもしれない。

 

「!! やはり閣下も気に入られましたか!」

 

「え? いや……ああ、まあ、そうかもしれん。奇しくもアリウスの校章も髑髏(スカル)であるしな」

 

 食い気味で言うアズサに、一瞬当惑するも否定するのもどうかと思い、話を合わせる。実際ぺロロよりは愛着が持てるデザインではあった。

 

 これらがカルト的な人気だというのは些か信じ難いものであったが、アズサの反応を見るにこういう奇抜なキャラクターがキヴォトスでは受けるのだろうか。

 

「お前はどう思う? 錠前」

 

 故に、それを確かめる為にアズサの隣に座る人物──錠前サオリへと問いかける。

 

 実はニトの付き添いで同行していた。

 

「はい? えっと、私は……その、よく分かりませんが、ミサキの奴なら気に入るかもしれないと思いました。あいつはぬいぐるみとかが好きなので……特にこのMr.ニコライとかいう熊のようなキャラクターは気に入るかと」

 

「ほう……戒野はぬいぐるみが好きなのか」

 

 急に話を振られ、戸惑いながらもサオリは身内の意外な嗜好を暴露する。もしこの場にミサキが居れば顔を真っ赤にして余計なことを言うなと怒鳴っていたことだろう。

 

「しかし、閣下……今回、アズサと顔を合わせたのは状況報告の為では?」

 

「ん? そうだが、何か問題でも?」

 

「あ、いえっ、その……」

 

「クク……冗談だ。以前から白洲には、補習授業部の友人達との交流について聞かせてもらうように頼んでいてな。これもその一環だ」

 

 ニトは笑う。この様子だと、良き友人関係を構築出来ているようで何よりだ。

 

「な、成程……」

 

 一方、サオリはその意図をはかりかねていたが、自分の頭では到底理解が及ばぬ崇高なお考えがあるのだろうと解釈し、一先ず納得した。

 

 しかし、補習授業部の()()()ときたか。その言葉でサオリは隣の同輩がどのような日々を送っているのかを察する。

 

「──そうか。アズサ、トリニティの方で……友達が出来たのだな」

 

「! ああ……皆、色々なことを教えてくれて、とても得難い経験をさせてもらっている」

 

 これもサオリが推薦してくれたお蔭だと、アズサはそのポーカーフェイスを崩して微笑む。

 

 対するサオリの表情はマスク越しからは伺えぬが、その声色は軟らかかった。

 

「意外だな。お前はアリウスでも独りで居ることが多かったから、自ら進んで人と関わるのは好まないのかと思っていた」

 

 かといって孤立しているということは勿論無く、分からないことがあれば他者に訊くし、尋ねられた場合でも自らの出来る範囲で対応しようとする。

 

 共同作業やチームでの連携が苦手という訳でもなく、単にわざわざ必要性の無いことはやろうとしない主義なのだろうとサオリは分析していた。

 

「閣下が助言してくれたんだ。友を作ることが、多くを識ることに繋がる、と……実際その通りで彼女達のお蔭でこれまで知ることの出来なかった多くのことを知ることが出来た。ついこの前はプールで──」

 

 つらつらと、饒舌にアズサは補習授業部で体験した様々な出来事を語る。

 

 これをサオリは微笑ましく思いながら聞く。彼女にとってアズサは優秀な教え子にして、スクワッドの面々と同様に妹のように大切な存在であった。

 

(フッ……知ってはいたが、随分と仲が良い。連れて来て正解だった)

 

 一方、ニトもまたサオリと似たような心境なのかその視線は暖かく、しかしその対象はアズサだけでなく話を聞くサオリも含まれている。

 

 実のところ補習授業部で合宿することになったアズサは自由が制限され、元より怪しまれていることもあってこのように直接会うのはリスクが高いのだが、今回数少ない機会を以てこうして報告に赴かせた一番の目的はアズサのことを何かと心配しているサオリと引き合わせることだった。

 

 本当ならば他のスクワッドの面々も一緒に連れて来たかったが、流石に皆多忙かつ目立つためヒヨリのように付き添いという体でサオリのみを連れて来ることが出来た。

 

「にしても……」

 

「ん?」

 

「実はヒフミ……この子達を教えてくれた友人が言うには、こんなにも可愛いペロロのことを鳥の死体だとか薬物中毒だとか宣った酷い奴が居るらしいのです」

 

「え?」

 

 アズサの言葉に、ぴしりと固まるニト。

 

「全く悪気も無く素で言っていたからとてもショックを受けたらしく……私としては実に理解し難かったのですが、閣下も気に入られている様子ですし、そいつの方がマイノリティ側なようで安心しました」

 

 尚、ショックを受けたのはヒフミだけでなく、相手側の方もだろう。

 

「死体……言われたら、そう見えなくも……いや、何でもない」

 

 その話を聞いたサオリは改めて他のキャラクターと比べて一際異色なデザインであるペロロなる鳥? らしきぬいぐるみを見据え、確かにと口走りかけるも、アズサが良い気はしないだろうと思い止まる。

 

 些か盲目な気もするが、友人だけでなくそれだけ好きな物が出来たのだと嬉しく思う。

 

「……そ、そうか。いやまあ、価値観というのは人それぞれだからな。うん」

 

「?」

 

 そんなサオリとは対照的にニトは内心冷や汗を掻きつつ、そう誤魔化す。

 

 これにまさか今話題にした“酷い奴”が敬愛する閣下ご本人だとは夢にも思っていないアズサはこてんと首を傾げる。

 

(ううむ……どうやら阿慈谷ヒフミは、あの一件をしっかりと根に持っているようだな。一応、不良に絡まれている所を 助けてやった立場なのだが)

 

 流石に恩を忘れたというのはヒフミの人間性を分析するに考えづらいし、悪感情自体は然して無いと思われるが、それはそれとして顔を会わせると色々と面倒なことになるかもしれないと、ニトは僅かに顔をしかめる。

 

「──ん?」

 

 その時、胸元で振動を感じる。ニトは片眉を上げ、胸ポケットにしまっていたバイブレーションし続けるスマホを取り出す。

 

 画面を確認すれば、そこには部下の名前が。

 

「……どうした?」

 

 着信に応じるなりそう問えば、簡潔明瞭な報告がスマホから聴こえてくる。これにニトはだんだんと神妙な面持ちへと変わって行く。

 

「……そうか。分かった、すぐ行こう」

 

 そして、静かにそう言い、通話を切った。

 

「閣下?」

 

「悪いが、野暮用だ。少し席を外す」

 

「! であれば、私もお供します」

 

「いや、オレ一人で構わんよ。しばらく白洲と二人でゆっくりするといい」

 

「し、しかし……」

 

 自分はニトの付き添いとして、護衛としてこの場に居るのだから側から離れる訳には行かないのではと言おうとしたが、言えない。本来彼女に護衛など全く必要無いことはよく知っているが故に。

 

 それに、他ならぬニトの言葉は、彼女にとって絶対であった。

 

「二人きりでないと話せないこともあろう。オレは大丈夫だから、久々の再会を是非とも楽しんでくれ」

 

 有無を言わさず、ニトは会計はこれで済ましておけと紙幣を二枚ほどテーブルに置いて喫茶店から出ていく。

 

 その後ろ姿をサオリとアズサは慌てて席から立ち上がって見送る。本当は敬礼もしたかったが、周りに人が多いのでそれは出来なかった。

 

「……行ってしまわれた」

 

「もしかして、閣下がサオリを連れて来たのは」

 

「ああ、そういうことなのだろう」

 

 聡明なアズサは勿論、サオリも流石に気付く。彼女としては己が心情を読み取られ、あろうことか気遣われるなど恥ずかしい限りである。

 

「──アズサ」

 

 しかし、今はその厚意に有り難く甘えよう。

 

「楽しそうにしている所に水を差すようで申し訳無いが……その友人達に別れを告げる覚悟をしておけ」

 

「! ……どういうことだ?」

 

 あまりにも唐突に告げられたその言葉にアズサは驚き、その顔を引き締める。

 

「例の計画(クーデター)が決行されれば、その渦中にまず間違いなくお前達は巻き込まれる……お前が今所属する補習授業部とやらには、あのシャーレの先生が居るのだからな」

 

「……先生か。サオリは会ったことがあるのか?」

 

「ああ。以前にアビドスでな……あの時、排除出来ていれば良かったのだが」

 

「排除、だと……?」

 

 シャーレの先生はヘイローを持たぬ人間。であればその排除の意味を察し、アズサは顔を険しくさせる。

 

 単純に復帰不可能な程の怪我を負わせるという方法、そしてもう一つのパターンは──。

 

「ああ。アリウスにとって脅威なのは明白。実際、奴がトリニティに来訪したことでこちらの計画は大幅に狂ってしまっている。──アリウスの為ならば、この手を汚すことくらい躊躇うはずもない」

 

 敬愛する御方がそうであるように。当然と言わんばかりの返答にアズサは言葉を失う。

 

 否、兵士としては至極真っ当だ。ならば同じアリウスの兵士としてアズサもまたそう在らんとすべきだが、それでもこのキヴォトスにおいて“死”とは、況してや誰かを“殺す”など──。

 

「閣下は、聖園ミカの考えを慮り、お前や補習授業部を巻き込まないようにする方針だと仰られたが、シャーレの先生が顧問である以上、衝突を回避することは不可能に近い……それはお前も薄々察しているのだろう?」

 

「…………」

 

「そうなればお前もお前の友人達も巻き込まれる。シャーレの戦力として動かされることも考えられ、そうなれば……分かるな?」

 

「! ……先生を裏切れと?」

 

「語弊があるな。お前は元よりこちら側なのだから、裏切りではないだろう」

 

「っ…………」

 

 訝しげにそう返すサオリに、確かにその通りだとアズサは押し黙る。そう、最初から味方ではないのだから裏切りでも何でもない。

 

 しかし、ヒフミ達に友情を抱いたように、アズサは自分に勉強を教え、しっかりと見てくれているシャーレの先生にも親愛の念を抱いてしまっている。

 

「……どうやら随分と絆されたようだ、先生にも情が湧いているとは。ああ、咎めるつもりはない、奴の人柄は閣下も評価する程だ」

 

 これにサオリは目を細め、淡々と語る。失望されたのではと不安に思うも、そのような感情は一切込められていなかった。

 

 それが逆に、心苦しい。

 

「ならば当日“何もしない”だけでも構わない。元より閣下も聖園ミカもお前を作戦に組み込むつもりは無いようであるしな」

 

「…………」

 

「だが、もう一度言うぞ。覚悟はしておけ……全ては虚しいのだから」

 

「……ああ、分かった」

 

 アズサは頷く。頷くしかなかった。

 

 未だに迷うその心は、新しく手にした友情を前に更に揺れ動き、然りとて時間は決して待ってはくれない。

 

 選択の時は、近いのだ。




サオリ(……心苦しい。すまんアズサ)
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