アリウスの王   作:大嶽丸

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ほぼ戦闘シーン。

因みに主人公の今の格好はアリウスモブの格好に防弾ベストと腕章無しでフード被って顔を隠している状態。かなり怪しいしなんかアサクリ感がある。


便利屋68

 

 

「すごいすごい! まるで踊ってるみたい!」

 

 けたましい銃声が響き渡る中、マシンガンを乱射する少女──“浅黄ムツキ”は愉しげに笑い、しかし確かな驚愕を以て称賛する。

 

 何てことのない護衛任務。今一つ物足りないと感じていたはずのそれが、たった一人の存在によって覆された。

 

 フードを目深に被り、白いジャケットを着込んだ黒髪の少女。依頼人を狙った襲撃者……本人は誤解と言っていたが、信用性は無く、おまけに先程蹴散らしたチンピラ達とは一線を画す実力者であったため野放しには出来ないと同僚であり、後輩の“伊草ハルカ”と共に依頼人が目的地に着くまで足止めしようとしていたのだが──。

 

「────」

 

 壁を蹴り、障害物に隠れ、縦横無尽に。その姿はムツキの言う通り踊っていると形容するに相応しく、迫り来る銃弾を避け、凌いでいる。

 

 決して破れかぶれなどではなく、反応・予測しているとしか思えない的確な動き。

 

 先程の跳躍力といい、その動体視力と身体能力はムツキらヘイロー持ちの“生徒”から見ても、超人的と呼ぶ他無い。

 

(私とハルカちゃんがこうも攻めあぐねるなんてね……けど、何で銃を出さないのかな? もしかして持ってない……ってことはないよねぇ普通)

 

 このキヴォトスにおいて銃火器を携行するということは服を着ることと同じくらいには常識であり、そうでないのは余程の命知らずか物好きだけであろう。

 

 にも拘わらず素手で立ち回り、銃を取り出す気配が一向に無い目の前の女にムツキが疑問を抱くのは至極当たり前のことだった。

 

 本当に持っていないのならそれで良いが、もしそうでない場合一体どういう意図があるのか。銃弾を避ける鉄人がステゴロなのはこちらにとっては都合が良い状況とはいえ、だからこそムツキは不気味にすら思い、思考を巡らせる。

 

(──ふむ、やはり練度が高い)

 

 一方、襲撃者と勘違いされている女──ニトは銃弾の雨を掻い潜りながら冷静に分析していた。

 

 付かず離れず。接近を試みようにも距離が縮まれば直ぐ様離れられ、向こうにとって的確な間合いを維持されてしまっている。

 

 それに加え──。

 

「ムツキ室長に近付かないでください……!」

 

 真横から散弾が襲う。

 

 上体を大きく反らして回避しながら視線を向ければ血走った眼がこちらを睨む。

 

「──恐れ知らずだな」

 

「この……! いい加減に、死んでください……!」

 

 殺意を剥き出しにし、狂ったようにこちらを攻め立てるハルカ。一見すると闇雲に突っ込んでいるようだが、実際にはしっかりと中距離を保ち、ムツキを守るように立ち塞がっており、接近出来ない一番の要因は彼女だった。

 

 かと言って先に処理しようとすれば、ムツキの激しい弾幕がこれを阻む。

 

 流石と言うべきか、見事な連携だった。

 

(埒が明かんな)

 

 それは相手も同じこと。しかし、相手の目的はこちらの足止めであり、この状況はむしろ都合が良く、依頼主の護送が完了し、目的を達成したという連絡が来るまで、或いは増援が来るまで現状維持するつもりだと思われる。

 

 そうなれば、いずれニトの誤解も解けるが──。

 

(否、それではつまらん。時間の無駄だ)

 

 そう切って捨てる。

 

 元より相手にせず逃亡しようと思えばいつでも出来たのだ。にも拘わらずニトが貴重な時間を割いてまで戦闘に付き合っているのは、ひとえにキヴォトスで腕を鳴らす強者であろう彼女達の実力を見てみたくなったからである。

 

 故に、このただ銃撃から逃げ惑うだけで一向に進展の無い状況は好ましくない。

 

(となると、やはり──)

 

 そこで一か八かの賭けに出る。

 

 二人の敵の姿を視界に捉えたまま、徐に近くのプラスチック製のゴミ箱を蹴飛ばす。この戦闘間に動き回りながら地形を確認していたためどこに何があるかは大まかではあるものの把握していた。

 

「!」

 

 砕けた容器の破片と共に中の可燃ゴミを撒き散らしながらかなりのスピードでゴミ箱は飛来する。

 

 方向は一番距離の近い位置に居るハルカだ。

 

「邪魔です!」

 

 すかさずハルカはこれに動じることなく精密な射撃で撃ち落としてみせる。

 

 破裂し、残骸となって地面へと転がるゴミ箱。それと同時にその裏に隠れていたニトが姿を現す──。

 

「ッ──」

 

「くふふ。させないよっ」

 

 蹴り飛ばしたゴミ箱に走って追い付き、隠れ蓑にしながら接近したのか。しかし、その動きは離れた位置に居るムツキには丸見えであり、ハルカから引き離そうと横合いから発砲する。

 

 ハルカもまたこれに反応して銃口を向け──。

 

「当然、そう来るだろうな」

 

 同時に、ニトは大きく踏み込む。

 

「「ッ!?」」

 

 二人が目を見開く。てっきり回避行動に移るかと思えば、弾幕に自ら飛び込む蛮行に走るとは思わなかった。

 

 当然の如くムツキの放った銃弾は一発の撃ち漏らしも無くニトに命中する。

 

「────」

 

 弾丸が衣服を破き、肌にめり込む。然りとてニトは一歩も退かず、お構い無しに前進する。

 

「ヒッ……!?」

 

 想定外の事態にハルカは動揺を隠せず、照準がぶれたのか発砲するも大きく外れ、散弾の塊がニトの顔の真横を通り過ぎた。

 

 これにニトはほくそ笑み、そのまま一気に距離を詰める──。

 

「まずは安い方から潰すとしよう」

 

 一連の戦闘からハルカは恐れ知らずではあるものの悪く言えば無謀。ムツキの方と比べればまだ経験が浅く、未熟であるとニトは推測し、その隙を突かんとした。

 

「ッ!? くっ──近寄らないでくださいッ!」

 

 そして、その目論みは成功する。ハルカは目と鼻の先まで迫るニトに対して一向に怯むもすぐに目をぎらつかせ、応戦しようとするが──。

 

「駄目ッ! すぐに離れてハルカちゃん……!」

 

 ムツキが叫ぶ。既に懐へ入り込んでいるニトに対して、散弾銃の銃身の長さでは照準することなど出来るはずがなかった。

 

 急接近されて焦ったハルカはこれに気付くのに遅れ、ムツキの言葉を受けて慌てて後退しようとし──。

 

「ッ!?」

 

 体が動かない。困惑するも原因はすぐに判明する。

 

 己が肌身離さない愛銃。その銃身をニトが片手で掴んでいた。

 

「しまっ──」 

 

 次に感じたのは腹部に伝わる衝撃と強烈な圧迫感だった。

 

「ごっ……ぁ……ッ!?」

 

 がら空きの胴体に叩き込まれたボディブロー。肺と胃を押し潰される感覚に堪らず体勢を崩したところに、そのまま追撃と言わんばかりに繰り出した前蹴りが顎にクリーンヒットする。

 

 ぐらり、と脳が揺れる。

 

 如何に頑強なキヴォトス人といえど、人体の構造は常人と同じ。故に、相応のパワーで脳を揺さぶれば意識を奪うことは容易い。

 

 ニトはそれをよく分かっていた。

 

「かっ……ぁ……こ、の……ここ殺s──!」

 

 それでも尚、ハルカは必死に踏みと止まり、フラフラとしながらも意識を保たんとする。

 

「しぶといな」

 

 だが、それをニトが許すはずがない。

 

 ぐるんっと体を捻り、その勢いのまま強烈な回し蹴りを顔面に叩き込む。

 

「ぁ──」

 

 トドメの一撃。今度こそハルカは意識を失い、倒れ伏す。

 

「ハルカちゃん……ッ!? チィッ……!」

 

 仲間がノックアウトされた。その一瞬の出来事に驚きながらもムツキは目を鋭くさせ、ニトを彼女から引き離さんと銃撃しようとし──。

 

ドォン!! 

 

「──ッ!?」

 

 それと同時に、一発の弾丸が手首に命中し、衝撃と激痛によって銃を弾き飛ばされ、宙を舞う。

 

「ッ……何だ、やっぱり持ってるじゃん」

 

「それがキヴォトスの常識なのだろう?」

 

 ムツキが睨む。その視線の先には、こちらへ向けられている硝煙が出ている銃口があった。

 

 銀色の銃身に黒いラインが塗装された大口径のリボルバー式の拳銃。随分と古臭い代物だが、通常の拳銃よりも一回りほど大きく、またその威力は未だに痛む手首が物語っている。

 

 ここまでサイズが大きいと威力こそあれど反動が凄まじくまともに運用など出来ないように思えるが、あれだけの身体能力を見せた彼女からすれば大したデメリットではないのだろう。

 

「今まで手加減していた、って認識でOK?」

 

「ん? ああ……いや、単なる戦略さ。君達を侮っていたから使わなかったという意図は決して無いとも」

 

 気に食わないといった様子でそう問われ、ニトは一瞬首を捻るもすぐに意図を理解し、否定すると共にそう弁明する。

 

 これにムツキは今一ピンと来ていないのか訝しげな表情を浮かべた。

 

「出し惜しみだと言ってしまえばそれまでだが、実際有効な手だった。現に今の今まで君はオレが銃を使うという考えを度外視していただろう」

 

「ッ……なるほど、ね。確かに、してやられちゃった」

 

 アハハハ、と強がるように笑い、歯噛みする。取って付けたとしか思えない詭弁であるが、まんまと術中に嵌まってしまったため何も言い返せない。

 

(と、カッコ付けてみたが……肌がヒリヒリする。仕方無いとはいえ高く付いたな)

 

 銃弾を物ともしない鉄人っぷりを見せたニトだが、平気そうに見えて実際には決して少なくないダメージを受けている。

 

 死にはせずとも、痛いものは痛いのだ。特に彼女は神秘の総量とその強靭な肉体に反して痛覚自体は常人と大した差は無く、彼女が今も涼しい顔を浮かべていられるのは単に我慢強いだけであり、故に極力被弾を避けていた。

 

 衣服もアリウス製の軍用コートで防弾仕様だが、所詮は布。衝撃は消せないし、所々破れてボロボロ……お忍びで外出しただけだというのにとんでもない損害だった。

 

「さて、と……分かっていると思うが、君が何かするよりもオレが引鉄を引く方が早い。無駄な抵抗はせず大人しくしてもらえると助かる」

 

 カチャリ、と撃鉄を起こす。

 

 静かに警告するニトは不自然なまでに殺意を感じさせず、しかし銃口と目線を1ミリ足りともこちらから外さない。

 

 その姿にムツキは冷や汗を掻く。銃を弾き飛ばされた今、彼女が思い付く限りのありとあらゆる策を講じようと先に撃ち抜かれるのは目に見えていた。

 

「えー、どうしよっかなー」

 

「……時間稼ぎに付き合うつもりはないぞ」

 

「あ、やっぱり?」

 

 ムツキのはぐらかすような口振りは、しかし目の前の彼女を油断ならぬ相手だと理解しているニトには逆効果であり、妙な行動をされる前に撃破しておこうと引き金にかけた指に力を入れる。

 

 ここまでかと、ムツキは覚悟し──。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 次の瞬間、甲高い絶叫と共に背中に衝撃が走る。

 

 意識を失っていたはずのハルカが突如として起き上がり、タックルを仕掛けたのだ。

 

「なっ──」

 

 確かに気絶させたはず。予期せぬ出来事にニトは目を見開き、ほんの数瞬であるものの反応が遅れてしまう。

 

 そこに、向けられた銃口が火を噴く。

 

「今度こそ、死んで──死ねェ!」

 

「────」

 

 轟音が鼓膜を思い切り叩いたかと思えば、次は視界が真っ白に染まった。

 

(な、に────!?)

 

 至近距離の散弾。刺すような、焼けるような激痛が衝撃とほぼ同時に伝わり、首が真後ろへと折れ曲がる。常人ならば頭が柘榴のように弾け飛び、一般的なキヴォトス人でも無事では済まず、無論ニトにとっても一溜りもないものだった。

 

「ぐぅ──ッ」

 

 だが、ニトは倒れない。

 

 上体が大きく仰け反りながらも宙に浮きかけた足を何とか着地させ、踏み止まった。

 

「ッ……! 死ね、死ね、死ねェェェエエ!! 

 

 これを見たハルカはより一層血走った、焦点の定まっていない眼で睨み付け、ショットガンをリロード、即座に発砲する──。

 

「は、まるで獣だな……!」

 

 対するニトもまた仰け反ったまま銃口を向け、一気に三発、乱暴に連射した。

 

 顔面に散弾をもろに受けたため視界も潰され未だに回復していないが、それでもぼんやりとした輪郭くらいは視認でき、そこを狙った。

 

「ッ!!」

 

 大口径のマグナム弾は頬を掠め、肩口、そして腹部に命中した。

 

 然れど、ハルカは退くどころか怯みすらせず、引き金を何度も引き続けながら駆け、こちらへ特攻する。アドレナリンの分泌による痛覚の麻痺……否、それだけでは説明が付かない異常なまでの耐久力だった。

 

(こいつ……まさか執念のみで耐え、意識を保っているとでも言うのか? 信じられん。あの内乱でもそんな奴は居なかったぞ──)

 

 散弾の範囲から逃れる為に後退しつつ、ニトは驚きを隠せない。

 

 純粋な耐久力ではなく、精神的な要因。普通はそんなもので脳震盪すら耐えて戦闘を続行するなど有り得ないことであり、ニトの記憶の限りでは前例の無い存在だった。

 

 故に、完全に読み違えてしまった。そのあまりの動揺を察しているのかハルカはより激しく攻め立て、それなら距離を取らんとするニトと、先程とは打って変わって真逆の状況と化す。

 

「逃げるなァ!!」

 

「チィッ──」

 

 ならば、望み通り迎え撃つまで。

 

 動揺させられたが、いくら立ち上がろうと満身創痍なのには変わりない。このまま戦闘を続ければ向こうが先に限界を迎えるのは明白だった。

 

「ハルカちゃん下がって!」

 

 足を止め、銃口を向けるニト。それに構わず狂乱しながら突き進むハルカ。

 

 その時、ムツキが叫ぶ。

 

「!」

 

 これに反応するや否やハルカは瞬時に停止し、飛び退くようにバックステップする。

 

 ニトもまた何をするつもりだと視線を向け、それとほぼ同じタイミングでからん、と何かが足元に転がった。

 

「む──」

 

 それが柄付きの手榴弾だと、認識した時には既に回避は間に合わない。咄嗟にニトは両腕をクロスさせて防御姿勢を取る。

 

 次の瞬間、手榴弾は起爆。高熱と砕けたアスファルトの破片が襲い掛かった──。

 

「よし命中……! ハルカちゃん、無事?」

 

「ハァ……ハァ……! は、はい……! 大丈夫、……です……!」

 

 呼び掛けにそう答えるも一瞬よろめくハルカ。倒れはしなかったが、肩で息をしており、もう限界に近かった。

 

 その様子を見て一先ず意識ははっきりしてることにムツキは安堵する。

 

「うーん……ハルカちゃんもヤバそうだし、これで倒れてくれると有り難いんだけど……」

 

 しかし、決して警戒は解かず、そうぼやく。銃弾を物ともしないのだ、手榴弾の直撃にすら耐えていても不思議ではないだろう。

 

 ハルカもまた同様であり、銃を構え、眼前で立ち上る爆煙を見据えていた。

 

「とりあえず私の銃は……あった!」

 

 今のうちに先程弾き飛ばされた愛銃を回収しようと、辺りをきょろきょろと見回し、すぐに発見。直ぐ様拾いに行こうとムツキは走り出す。

 

「──やってくれたな」

 

 が、行く手を阻むように爆煙の中から銃弾が飛び出し、目の前を横切った。

 

「ッ! へぇ──やっぱりまだ動けるんだ? お姉さん、“空崎ヒナ”より頑丈かもね」

 

 案の定、爆煙の中から姿を現すニト。煤で汚れており、服の一部が焦げているが、ダメージらしきダメージを負っているようには見えなかった。

 

 これにムツキは自身が()()通っているゲヘナ学園の、今やキヴォトス最強と名高い風紀委員のエースを想起する。

 

(もっと火力のある爆弾を使う? いや、こんな狭い所で使ったら自分もハルカちゃんも巻き込んじゃうね……どうしようっかなー)

 

 加えて、先程のように手榴弾で援護しようにも完全にこちらへロックオンしているニトはその隙を与えてくれはしないだろう。

 

(どうやらあの鞄の中に色々と仕込んでいるようだな。流石にこれ以上くらうとまずい)

 

 最優先で排除しなければ。その為にムツキを狙うもハルカが射線に割り込むように立ち塞がる。

 

「ムツキ室長に手を出すな……!」

 

「む、やはりそう来るか。だが──」

 

 相も変わらず敵を抹殺せんと殺意を剥き出しにする彼女を鬱陶しげに睨み、しかし想定通りであり、散弾を回避しながら一気に接近する。

 

 銃が無い以上、ムツキは支援射撃を行えず、爆発物を用いればこの距離ならばハルカも巻き込んでしまうから使えない。

 

 故に、距離を詰めるのは容易である。

 

「ッ!!」

 

「今度こそ、仕留める」

 

 そして、素早い動きで銃身を掴んで自らを射線から逸らし、頭部に銃口を押し当てる。

 

 至近距離の銃撃。満身創痍のハルカの意識を刈り取るには過剰が過ぎるが、確実に無力化せんとするニトに一切の躊躇無い。

 

「──退きなさい!」

 

 だが、引き金が引かれることはなかった。

 

「ッ!?」

 

 一発の銃弾が、ニトの拳銃を吹き飛ばしたのだ。

 

 ムツキが他に銃を持っていたのか。否、ならばわざわざ拾いに行く必要は無いし、銃弾が飛んできた方角も彼女の居る位置とは違う。

 

 驚いていると間髪入れずに再び銃声が鳴り、今度はニトの後頭部へと命中する。

 

(ぐっ──この威力、狙撃か?)

 

 衝撃によって仰け反るニト。それによって銃身を掴んでいた力が緩んだ瞬間、ハルカはこれを振りほどき、すかさず銃口を向けた。

 

「死ね……!」

 

「ッ──」

 

 乱射される散弾がニトを襲い、堪らず彼女は吹っ飛ばされて地面へと転がる。

 

「ふぅ……危ないところだったみたいね? ムツキ、ハルカ」

 

「アルちゃん! ナイスタイミングだよ!」

 

「アル様……!」

 

 銃弾が放たれた方角、そこへ視線を向けると赤いスナイパーライフルを構える一人の女が立っていた。

 

 “アル”、と呼ばれた彼女は不敵な笑みを浮かべ、しかしすぐにホッと胸を撫で下ろす。

 

「ふふっ、仕事では社長と呼びなさい。とにかくまあ無事で何よりだわ……早く依頼主(クライアント)とカヨコ課長と合流しましょう」

 

「! いや、待ってアルちゃん! 相手はまだ──」

 

 大方今ので仕留めたと思ったのだろう。女──陸八魔アルがそう言って銃を下ろして仲間の二人へと近付く。

 

 が、相手の異常なまでの耐久力を知っているムツキはそんなクールに決めようとしている彼女に対して警告しようとする。

 

「──新手か」

 

「え?」

 

 その次の瞬間、倒れていたニトが起き上がった。

 

「なっ、嘘でしょ……!?」

 

 立ち上がるや否や全速力でアルの方へと駆け出す。これにアルは目を見開き、慌てながらも狙撃銃を構え──。

 

(いや、間に合わない……!)

 

 即座にそう判断。こちらの懐へと飛び込み、格闘に持ち込もうと画策するニトを横へ飛び退くように回避した。

 

「ほう──?」

 

「次こそは、撃ち抜いてやるわ──」

 

 距離を取りつつ、アルは照準を合わせる。これにニトは勢いを殺すことなく方向転換し、コートで隠された腰のホルスターから拳銃を抜く。

 

「ッ……二個目を隠し持ってたのね」

 

 先程の巨大な拳銃と全く同じモデル。銃口が交差し、両者が睨み合う。

 

 そして、ニトに向けられる銃口は一つではなかった。

 

「くふふ。形勢逆転だね?」

 

「アル様から離れろ……!」

 

 この隙に自らの銃を拾ったのであろうムツキが左に、先程よりもずっと血走った眼で今にも発砲しそうなハルカが右に。

 

 三つの銃口がニトに向けられ、取り囲まれていた。

 

「ふむ……ここまでやるとはな」

 

 予想以上の実力にニトは素直に驚嘆する。人数的な不利があるとはいえこうも追い込まれるとは。

 

「ふ、ふふ……す、少し驚かされたけど、年貢の納め時のようね?」

 

「……まさか。楽しくなってきたところだ」

 

 少しでも動けば蜂の巣にされる。にも拘わらずニトは眉一つ動かさず、その様子にアルは表情にこそ出さないものの冷や汗を掻く。

 

 こちらが圧倒的に有利なはずだが、どうにもその状況が張りぼてのように感じてしまう。

 

「社長! 待って!」

 

 その時である。

 

 一触即発の空気に何者かが割り込んだ。

 

「カヨコ?」

 

「依頼人から話を聞いた。その人は無関係だよ」

 

「……時間切れ、か」

 

 先程ムツキ達と一緒に居た少女。彼女の登場とその発言から、あの犬人から誤解であると聞いたのだと察したニトは銃を下ろす。

 

「……え、どういうこと?」

 

「あ、やっぱりー? 薄々そうなんじゃないかって思ってたよ」

 

 これにアルはきょとんとし、ムツキは笑いながら納得し、ハルカはおろおろと戸惑っている。

 

 一方、“カヨコ”と呼ばれた少女はその惨状を確認し、溜め息を吐く。

 

「すぐにでも事情を説明したいところだけどヴァルキューレの連中が出動しているから一先ずここを離れよう」

 

「えっ!? 大変! はやく逃げないと!」

 

「あははは。そりゃあんだけ派手に暴れたら通報されちゃうよねー」

 

「ま、纏めて始末しますか……!?」

 

「………………」

 

「お姉さんも一緒に来る? 誤解だったみたいだし、後で謝らせてよ」

 

 大急ぎで逃走の準備を始める面々。先程まで激闘を繰り広げていたとは思えない様子の中、どうしたものかと考えていたニトにムツキがそう提案してくる。

 

「……ああ、お言葉に甘えよう」

 

 ニトとしてもヴァルキューレに捕まる訳には行かず、かといってここら辺の土地勘も無いため彼女達と行動を共にする方が良いだろうと判断し、その提案に応じる。

 

 そして、五人はそそくさとこの場から逃走し、今回の戦闘は何とも締まらない結末で幕を下ろす。

 

 ──これが、失楽ニトと“便利屋68”との邂逅だった。





ニトの銃。
 名前は『The Lucy12』。
 モデルは“S&W M500”というリボルバー式の拳銃でこれを更に一回りくらい大型にした感じ。ニトが特注で製作したもので重さも反動も凄まじくそこらの生徒ではまともに扱えない代物。要するにゴリラ専用の銃である。
 二丁ほど持ち歩いており、どこぞの半人半魔や吸血鬼みたいに二丁拳銃で戦うこともある……かも。
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