アリウスの王   作:大嶽丸

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新年明けましておめでとうございます。これからもこの作品をよろしくお願いします。

長くなったので二話に分けます。


温泉開発部、或いは狂ったテロリスト共

 

「一難去ってまた一難……まったく、地獄(ゲヘナ)の名を冠するだけはある」

 

 美食研究会との一悶着から数刻後。

 

 あれから補習授業部は映画宛らの逃走劇を繰り広げたものの、ベータ隊の秘かなサポートもあってどうにか風紀委員から逃げ切ることに成功した。

 

 しかし、ここはゲヘナ。残念なことにトラブルを切り抜けた先にはまたトラブルが待ち構えていた模様で漸く辿り着いた試験会場ではさも当然の如く銃声が鳴り響いている。

 

「……あれが悪名高き温泉開発部か」

 

 試験会場の近く。物陰からニトはゲヘナ生に扮したベータ隊と銃撃戦を繰り広げる作業用ヘルメットにタンクトップと一見すると土木や建設の作業員のような格好をした一団を見据えていた。

 

 温泉開発部。

 

 美食研究会と並ぶかそれ以上のテロリストと名高く、温泉開発の為ならそこが市街地だろうが他校自治区だろうが首を突っ込んでは、温泉を掘り当てようとし、それがもたらす被害や影響など知ったことではないと言わんばかりの大規模な破壊活動を行うという、これまたイカれた集団である。

 

 特筆すべきはその規模。目算しただけでも200人近くが戦闘に参加しており、これだけの人数がテロ活動を行うのは脅威的と言わざるを得ない。また練度自体は大したことないが、部員一人一人が温泉開発への熱意によるものかしぶとく、訓練された兵士であるベータ隊相手にも全く怯む様子を見せずに徹底抗戦している。

 

 曰く、この辺で良質な温泉が出るという情報があり、その為にまず採掘に邪魔な試験会場や周囲の建物を爆破しようとしているのだと。

 

 風紀委員が検問を張っているのも連中が暴れているかららしい。何とも理解し難き動機に加え、ゲヘナの連中は揃いも揃って爆発が好きなのかとニトは眩暈がしてきた。

 

(恐らく桐藤ナギサの策略であろうな……テロリストまで利用するとは、いよいよ節操が無い)

 

 偽の情報をリークしたのか、或いは源泉があるからこそこの場所を試験会場に選んだのか。いずれにせよ、ここまで来ると笑えてくる。

 

「梯、状況は?」

 

『戦闘力は大したことありませんが……やはり母数が多過ぎますね。それに、どうやら悪知恵の働く指揮官が付いているようで……なかなかに諦めが悪いです』

 

「そうか……そのまま戦闘を続けろ。試験会場には決して近付けるな」

 

『──了解』

 

 幸いにも防衛戦はベータ隊の得意分野。攻めのアルファ隊と守りのベータ隊とアリウスにおいて称される程であり、激しく攻め立てる温泉開発部の侵攻を鉄壁の布陣で阻んでいた。

 

 が、温泉開発部は諦める気配など微塵も見せず、狡猾に戦術を変えながらあの手この手で防御網を突破せんとしている。

 

「白洲、そちらはどうだ?」

 

『は。お蔭様で無事全員到着し、間も無く試験が開始されます』

 

「それは良かった。であれば、会場は我らが全身全霊で守護する。試験終了までそちらには何人足りとも近付かせんから安心したまえ」

 

『……本当に、何から何までありがとうございます。期待に応える為にも、死力を尽くして励む所存です』

 

 無線越しから聴こえてくるアズサの声は、どこか申し訳無さそうだった。彼女としては自分の為に主力部隊一つが動いているという事態を気にしているのだろう。

 

「ああ、健闘を祈る……合格点の引き上げや試験範囲の変更で大変だとは思うが、仮に失敗したとしてリカバリーはいくらでも利く。故に、そう気張らずに落ち着いて取り組むといい」

 

 これに対してニトは真面目だなと小さく笑い、激励の言葉を伝えてから通信を切る。

 

「さて……オレも()()()()としようか。これ以上、貴重な弾薬を無駄に消費するのは憚られる」

 

 ──そして、首をコキリと回し、ガスマスクを着けながらスバルへと無線を送った。

 

「梯、聞こえてるな? 各部隊へ伝達。今からオレが出撃し、思うように埒を明ける。引き続き防御を集中して行え」

 

『! 了解しました、ご武運を』

 

 そろそろ温泉開発部を追って風紀委員会もここへ駆け付けてくる頃合いだ。現時点でも随分と悪目立ちしてしまっているし、一応風紀委員の()()()()()()()()()()()()()させているが、それが完璧とも限らず事態を重く見た連中が最高戦力(空崎ヒナ)を動かす可能性も無きにしも非ず。

 

 故に、ニトは早急に決着を付けんと脚に()()()()力を込め、地面を蹴った。

 

「え──?」

 

 たったそれだけの踏み込みでアスファルトが砕け、まるでジェット噴射のような勢いで大きく跳躍し、銃撃戦の最前線にまで到達する。

 

 空を見上げ、その存在を認識した温泉開発部の動きが止まる。まだスバルからの報告が行き届いていないベータ隊の面々も。

 

 天から舞い降りてきたと幻視してしまう、神々しさすら感じるその姿に呆気に取られ──。

 

「ッ!?」

 

 ──次の瞬間、“嵐”が起こった。

 

 着地と共にその付近に居た人間が余波で吹っ飛び、そこを起点に加速。巻き起こった土煙が立ち塞がる総てを薙ぎ払いながら一直線に突き進んで行く。

 

「な、何だっ!?」

 

「爆撃!? それとも台風!?」

 

「分からん! 分からんが、とにかくヤバい! 仲間が次々とやられてる!」

 

 理解が追い付かぬ、突然の事態に温泉開発部の面々はパニックに陥る。

 

 空から現れたニトの姿を見た部員達は既に吹っ飛ばされて気絶しており、知らぬ者はそれがただ一人の人間が突撃してきたことによって発生している現象だと夢にも思わず、何が起きたのか誰も掌握出来ていなかった。

 

(38、39、40、41、42──)

 

 その混乱の中、ニトは勢いを殺さず最高速度を維持しながら、しかし恐ろしく精密な動きで突き進み、視界に入った温泉開発部の者達を殴り、蹴り、或いはただ衝突するだけで一人、また一人と無力化していく。

 

 端から見れば目を疑う光景。ひたすらに高速で繰り出される徒手空拳により、前衛は瞬く間に半壊してしまう。

 

「うわぁっ!? なんか居るっ!?」

 

 すると一人、縦横無尽に高速で動き回るニトの姿を辛うじて捕捉する。

 

「よく見えないけど……とりあえず、燃えちゃえ!!」

 

「ん?」

 

 ──そして、“炎”が吹き荒れた。

 

「!」

 

 視界を埋め尽くす火炎と襲い来る熱気にニトは瞠目する。その発生源は、赤髪の温泉開発部員が手にする火炎放射機であった。

 

「うわ熱っ!?」

 

「ちょ、待ってくれ現場班長! 私達まで巻き込んでるって!?」

 

「ほんとごめん! けどそうでもしないと、あんだけ素早いのには当たんないからさ!」

 

 紅蓮の炎が勢いよく放たれ続け、射程内のありとあらゆるものを呑み込む。

 

 その規模からして火炎放射機本体からも相当な高熱が発生していると思われるが、現場班長と呼ばれた赤髪の彼女は多少汗を掻くだけで平気そうにしていた。

 

「ッ……随分と物騒な代物を使う」

 

 身を焼く熱にニトは顔を歪める。実際それは彼女にとって最も有効な攻撃手段と言え、炎熱による継続的なダメージもそうだが、何よりも周囲の酸素を燃やすことによる酸欠は理論上ヘイローを有するキヴォトス人を死に至らしめる方法として効果的な手段であった。

 

「嘘、まだ耐えてるっ!?」

 

「ハッ 久々の感覚ではあるが、サーモバリック弾に比べれば温いものだ」

 

 だが、それでもニトの意識を刈り取るにはまだまだ時間を要する。ガスマスクの裏で歯を剥き出しにし、微塵も怯んだ様子を見せずに炎の中を突き進む姿に、赤髪の少女は驚愕を隠せない。

 

「ううっ、こうなったら最大出力で……っ!」

 

 熱気が強まる。少女にとって出力を上げるのは自分自身にも被害が及ぶ危険性がある諸刃の剣であり、現にサウナどころか蒸焼きにされているのではと錯覚する程の高温により冷や汗と共に滝のように発汗していた。

 

 この間にも体力を消耗するため長時間維持していては危険。自滅してしまうのは明らかであり、火力からして下手するとキヴォトス人であっても無事では済まないことになってしまう。

 

 そこまでのことは望んでいないが故に、さっさと相手が倒れてくれることを祈る。

 

「我慢比べしてやっても良いが、生憎と時間が無くてな」

 

 が、残念なことにニトは倒れるどころか歩みを止めること無く猛進し、遂に少女の眼前へと辿り着き、炎の中から飛び出してくる。

 

「マ、マジでっ!?」

 

 有り得ない。想像すらしていなかったまさかの事態に少女は大きく戸惑い、思わず後退りしてしまう。

 

 その隙を逃すはずもなく、一気に距離を詰めたニトは彼女の顎へと裏拳を叩き込んだ。

 

「がっ──ぐっ、まだまだぁ!!」

 

 脳が揺さぶられ、ふらりと倒れ込みそうになるのを気合で踏み止まり、少女は火炎放射機を握り締めて攻撃を継続せんとする。

 

「──え?」

 

 が、既に目の前にニトの姿は無かった。

 

 呆気に取られるとほぼ同時に真後ろから乾いた音が響き、背中に走った衝撃で前のめりによろけてしまう。

 

「わっ!? あ、まず──」

 

 何かが()()()()()()音。己が使う武器の特性上、どこを狙われ、これから何が起きるのかを理解した少女は顔を青くさせる。

 

 ──次の瞬間、背負っていた燃料タンクが爆発して燃え上がった。

 

「あちちちちちっ!?」

 

 当然、爆炎は少女をも焼く。

 

 こうなることが容易に予想されるため彼女の燃料タンクはそんじょそこらの銃では傷付かぬ特別製なのだが、生憎と今回のはそんじょそこらの銃とは比較するのも烏滸がましい別格の代物だった。

 

「やばいやばい!! 助けて、ぶちょ──」

 

 慌てふためき火炎放射機を捨て、燃え移った火を消そうとする少女の後頭部を殴打。今度こそ意識が飛び、がくんっと膝を付きながら倒れ込んだ。

 

「……なかなか悪くなかったぞ」

 

 戦闘だけ見れば取るに足らぬあまりにも一瞬の出来事。然りとて、火炎放射機相手だったこともあり、少なくともここ最近では一番命の危機を感じた。

 

 故に、ニトは懐かしいその感覚に思いを馳せ、敬意とばかりに焦げてもはや襤褸布に近い上着を脱いで消火布代わりに少女へと被せてやる。専用の布ではないので気休めではあるが、元より火に強いのか既に鎮火しかけているので問題は無いだろう。

 

「現場班長……!?」

 

「そ、そんな……メグさんがやられるなんて……」

 

 その光景を見ていた温泉開発部の面々がどよめく。そんな彼女達へニトが視線を向ければ、その声はより一層大きくなる。

 

「……さて、続けようか」

 

 どうやら現場班長だというこの少女は温泉開発部の中でも相当上澄みの強者だったようだ。

 

 動揺する彼女達を黒い無地のタンクトップ姿となったニトはつまらなそうに見据え、しかし容赦無く牙を剥く。

 

「ヒッ!? やべぇぞ、こいつは……!」

 

「現場班長があんなあっさりとやられるような奴に勝てる訳が……」

 

「ば、馬鹿! 怯むなっ! 温泉開発の為ならば私達は火の中、水の中──」

 

「……その熱意は、認めてやらんでもない」

 

「ぎゃあっ!?」

 

 呆れと共に、戦意が削がれて及び腰になっている者も、尚も諦めず果敢に向かってくる者も一切合切区別無く纏めて蹴散らす。

 

 人がゴミのように舞う。圧倒的なまでの蹂躙により既に先程までの勢いは存在していなかった。

 

「──ん?」

 

 その時、疾走していたニトの足下が爆ぜる。

 

「ッ……地雷? いや、起爆式か──」

 

 小型の爆弾。ダメージこそ大したことないが、爆風によりニトは吹っ飛び、しかし空中で体制を整えて着地しつつ辺りを見回す。

 

 が、次の瞬間には背後から更に大きな爆発音が、連鎖的に複数響き渡った。

 

「む──?」

 

 振り向いて視線を向けた先では、何と一棟の廃ビルが大きく揺れ、崩れ落ちようとしていた。

 

 起爆させる爆弾を絞って計算していたようでそれはゆっくりとニトが居る方角へ目掛けて傾きながら倒壊し、彼女を下敷きにせんと迫る。

 

「……正気か?」

 

 その光景を前に、ニトは思わず呟く。

 

「えっ!? もう爆破っ!?」

 

「退避だ! 部長から命令があった!」

 

「いつもすげー無茶苦茶やるなぁ、あの人は」

 

「けど良かった! これ以上あんなバケモンの相手なんかしてられるかよ!」

 

 同時に、この場に居る温泉開発部達が近くの気絶した仲間を抱き上げ、蜘蛛の子を散らすように逃走を開始する。ニトはこれを一瞥し、しかし倒壊する廃ビルへと意識が向いていたこともあり、追うことはしなかった。

 

「いつの間に仕掛けて……いや、予め張り巡らせておいたのか。これだからテロリストというのは恐ろしい」

 

 面食らいつつも冷静に分析する。元よりこの辺りの建物は全て爆破して解体するつもりだったのだろう。

 

 無人の廃ビルとはいえ随分と派手にやるものだ。試験会場の方は事前にアズサから聞いて調べ、不審物が無いことは確認しているが、そうでなければ試験中にこのように爆破されていたのかもしれないと考えるとゾッとする話である。

 

 桐藤ナギサは、果たしてそれを理解した上でこの所業を行っているのだろうか。ただの人間であるシャーレの先生も巻き込まれるというのに。

 

「さて……逃げることは容易いが、()()()()()()()()

 

 流石のニトもビル程の重量に下敷きにされては一溜りもない。故に、倒壊の範囲外へと逃れようとするのは至極当然のことであり、実際にそうするしかなかった。

 

 ──そして、それは廃ビルを爆破した者の思惑通りであり、彼女が逃走経路に選んだ先の建物が次々と爆発していく。

 

「成程。是が非でもオレを潰したいようだ」

 

 奥の方から爆破し、逃げ道を塞ぐ徹底ぶり。ニトは顔をしかめ、しかし歩みを止めること無く道路を疾走する。

 

 実のところこの状況下であったとしても、ニトならば無傷で切り抜けることは差程難しくはなかった。

 

 難しくはない、が。

 

「──良いだろう、乗ってやる」

 

 すると何を思ったのか。ニトは瓦礫の山を踏み越え、そこに仕掛けられていたクレイモア地雷を()()()()()()無視して通り抜けようとする。

 

 当然の如く地雷は起爆。それに連鎖して、或いは爆発を確認して遠隔で起爆したのか辺り一帯が爆発に包まれ、ビルの倒壊による瓦礫が豪雨のように降り注いだ。

 





ニトちゃん無双
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