アリウスの王   作:大嶽丸

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新年明けましておめでとうございます。これからもこの作品をよろしくお願いします。

二話に分けますので前話から見てもらえるとありがたいです。


テロリストとは交渉しない

 

 ──数分後。

 

 ヒュウヒュウと風が寂しく吹いている。爆破したビル全てが倒壊し、大災害でも起きたかのような瓦礫にしか残っていない更地が完成していた。

 

 見渡す限り瓦礫の山であり、人影は無し。あれだけ理不尽に暴れ回っていた化け物染みた闖入者であったが、流石にビルの崩落には耐えられず、無事生き埋めになったようだと、()()()()()()()()()はほくそ笑み──。

 

「──そこか」

 

 致命傷な、隙を晒してしまった。

 

「ッ!?」

 

 山積みとなった瓦礫が宙を舞う。驚くと同時に、凄まじい勢いで飛び出してきたニトがこちらへと駆ける。

 

 咄嗟に拳銃を取り出し、しかし構える暇などあるはずもなく彼女は首を掴まれ、そのまま崩れ建物の壁へと叩き付けられてしまう。

 

「かはっ……」

 

「ここまで気配を隠匿していたのは見事だが、欲を出さずビルを爆破した時点で逃げるべきだったな」

 

 短パンにサンダルとラフな格好とは対照的に白衣を羽織った小柄な少女。長い尻尾には温泉開発部の腕章が引っ掛かられており、戦闘力こそ低そうに見えるもののニトは直感で彼女こそが頭目であると推測した。

 

 頭目、即ち部長の名は、確か──。

 

「は、ははっ……まさか。あれだけの爆発だぞ? 見逃す手は無いさ」

 

 対して彼女は息苦しそうにしながらも不敵な笑みを浮かべ、そう言ってのける。

 

「しかし、完全に予想外だったよ。敢えて崩落に巻き込まれて、私を炙り出そうとするだなんて……全く以て、頭がイカれているとしか言い様が無く、恐ろしいことだ」

 

「……お前達には言われたくないな」

 

 心外そうにニトはそう言い、首を掴む力を僅かに強めた。

 

 その万力の握力ならば少女の細い首など簡単にへし折ってしまいそうであるが、流石はキヴォトス人。当然折れないどころか苦しむだけで意識をはっきりと保っている。

 

「ぐぅ……はは、本当に恐ろしい。何者なんだい君……いや、君達は。少なくともゲヘナにあの風紀委員長以外にも化け物が居るならば私が把握していないはずがないし……報告にあったトリニティ生達と何らかの関わりが? 君達が防衛している場所とそのトリニティ生達が向かったと思われる方角は合致している」

 

「………………」

 

「おや? 図星のようだね。であれば、少し交渉しようではないか。これ以上の損耗はお互い望むところではないだろう?」

 

 圧倒的なまでの力の差。追い詰められ、怯えの感情を抱いているにも拘わらず少女は笑みを崩さずに言葉を紡ぐ。

 

 口八丁でどうにか付け入る隙を見出だそうとしているようだ。分析力も大したものであり、あのテロリスト集団を纏め上げているだけはある。

 

「……確かに、一理ある」

 

「! そうだ、そうだとも。なら──」

 

「だが、生憎と可愛い部下が頑張っているところでな。たとえ無駄であろうとも損耗を惜しむつもりは微塵も無い」

 

 故に、このような弁が立つ相手への一番の対処法はそもそも交渉の場に立たせないこと。

 

「それに、テロリストとは交渉しないのは基本原則だ。交渉も無く温泉開発などと宣って破壊活動を行うお前達が一丁前に交渉出来る道理などあるまい」

 

「ッ……酷い言い種だなぁ、まったく」

 

 交渉の余地無し。淡々と吐き捨てられた言葉に少女は一瞬表情を歪ませ、しかしすぐに先程のように笑みを見せる。

 

「そうかそうか、端から決裂だと言うのなら致し方無いが……私もただやられるつもりは毛頭も無い」

 

 そして、いつの間にかその手に握っていた起爆スイッチを見せつけた。

 

「自爆するしかない、ということさ」

 

「む──」

 

 そこでニトは気付く。彼女がその華奢な身体のあちこちに地雷や爆弾といった爆発物をこれでもかと隠し持っていることに。

 

 死なば諸共。思わぬ行動にニトが逡巡するよりも先に少女はスイッチへと指を掛け──躊躇無く押し込んだ。

 

「!」

 

 これまた予想外な出来事。てっきり脅し、交渉の材料にするかと思っていたニトはこれに瞠目し、即座に少女から手を離して距離を取ろうとし──。

 

「なんてね♪」

 

 爆発が起きる。

 

 それは少女が装備する爆弾ではなく、ニトの背後。彼女が後退することを見越していたかのように埋められていた地雷だった。

 

(ッ……ブラフだったか)

 

 無防備に、それも背後から地雷をくらったニトはよろけて膝を付く。

 

ハーッハッハ! どうやら流石の君も、これだけの爆弾は脅威なようで安心したよ!」

 

 これに少女は高笑いし、パチンと指を鳴らす。

 

「そして! 炎もまた充分に有効であるということを我が愛しき腹心が実証してくれた! 敵討ちと行こう諸君!」

 

 すると瓦礫の影から四人の温泉開発部員が、ニトを四方から取り囲むように姿を現した。

 

 装備しているのは、あの現場班長なる少女が装備していたものとよく似た火炎放射機。

 

「………………」

 

「おっと、動かない方がいい。既に辺り一帯に先程のと同じ地雷を埋めてある」

 

「……驚いた。初めからこうなることを見越していたのか?」

 

「いいや? しかし、策を二重、三重に練っておくのは当然のことだとも」

 

 得意気に笑う少女にニトは素直に感心する。現場班長を撃破した時か、それとも廃ビル爆破のタイミングからか、いずれにせよ先程までの戦闘を観察しただけで即興でここまでの作戦を思案し、展開してみせるとは。

 

 過小評価していたつもりはなかったが、この有り様を見るに所詮はならず者共の延長線上だと侮っていたと言わざるを得ない。

 

「クク。見事だ、まんまとしてやられた」

 

 少なくともこの状況はニトにとって思いもよらぬ結果だったと言えよう。

 

「──まあ、特に問題は無いが」

 

 だが、それだけだ。

 

 少女の作戦はこの土壇場においてはこの上無く的確で最適だったが、残念なことにそれではニトという理不尽を止めるには至らない。

 

「! 放て──」

 

 不審な素振りに少女は即座に合図。それと共に火炎放射が放たれる。

 

 ──が、そんな十字砲火ならぬ十字放火をニトは()()()避けた。

 

「なっ──!?」

 

 逃げ場を無くしたつもりだった少女達は予想外の行動と10mにも及ぶその馬鹿げた跳躍力に目を剥く。

 

 悪魔の兵器とも呼ばれ、扱いやすく万能な兵器とされる地雷であるが、いくら何でも空に仕掛けることは不可能であった。

 

 ──そして、ニトの両手には拳銃が握られており、驚きのあまり硬直している隙に空中で狙いを定め、引鉄を引く。

 

「「ぎゃあっ!?」」

 

 まずは二人。眉間を撃ち抜き一撃で撃破。

 

「ちょ、マジかよっ!?」

 

「ぶ、部長! 指示を──」

 

 続けて動揺する残り二人にも発砲。同じように一撃で沈黙させる。

 

 これにより炎が消え、ニトはそのまま跳躍する前と同じ地点へと着地した。

 

「チッ……本当にとんでもないな……!」

 

 あっさりと包囲網が崩壊してしまう。少女は舌打ちしながらも誰よりも早く落ち着きを取り戻して懐中から取り出した手榴弾のピンを抜き投擲。

 

(足止めにすらならないとは……! 高笑いなんてする前に逃げた方が良かったな……!)

 

 銃声と共に爆発音が響く。手榴弾が撃ち抜かれたのだが、これを少女は見ることなく投擲した時点で後ろを向いて全力でダッシュしていた。

 

 元よりニトのような化け物相手に勝てるなどという甘い見立ては立てておらず、隙を見て逃げる算段だったのだ。

 

 幸いにも地雷のお陰で相手は迂闊に身動きが取れず、爆煙に紛れれば逃げ切ることは充分可能なはず──。

 

「ぐえっ──!?」

 

 しかし、次の瞬間には背中を押され、前のめりに地面へたダイブしてしまう。

 

 何事かと体を起こそうとし、それよりも先に首根っこを掴まれ、乱暴に持ち上げられる。

 

「ぐっ……馬鹿な、何故──」

 

「──ナイフを足場にした」

 

 ニトが、そこに居た。

 

 地雷が起爆した様子は無く少女は困惑して疑問を口にすれば、何てことのないように彼女は答える。

 

 その言葉通り、背後には数本のサバイバルナイフが列を成して地面に突き刺さっていた。

 

「ナイフを……おお怖い怖い。あの風紀委員長様といい、規格外な奴らの行動は到底予想が付かないからほとほと困る」

 

「……さて、元通りの状況になったな。次はどうする?」

 

 少女を掴み上げたままニトは問う。

 

「ッ……そうだな、では先程と同じことをしよう」

 

 対する少女は尚も笑みを崩さず、裾から取り出した起爆スイッチを見せびらかす。

 

「……ほう」

 

「おっと、今度は本物だよ? 勿論、私が身に着けている総ての爆弾と連動している」

 

 決して虚勢ではない。少女の張り付けた笑みに欺瞞は無く、自爆することに対して微塵の恐怖も躊躇も存在していなかった。

 

「この距離での爆発では、いくら君でも無事では済まないのだろう? ならば今度こそ建設的な話し合いと行こうではないか」

 

 既にスイッチの上に指を置いており、ほんの少しの衝撃、ちょっとした弾みでも起爆するであろうそんな状況下でも平然とした様子で容易く己自身をチップに脅しを掛けるのは正気の沙汰とは言えず、元より温泉開発部とはそういう連中だった。

 

「君の恐ろしさはよく分かった。ここで見逃してくれたのなら今日のところは退こう……温泉開発が出来ないのは業腹ではあるが、君達が守るそこにも金輪際手を出さないとも……どうだ? 何だったら協力するのも吝かでは──」

 

 ニトが如何なる行動をしようとも指を置いたスイッチを押す方が早いのは明白。起爆スイッチを見て動きを止めたその姿に、再び交渉の場へと舞い戻ったへと確信した少女は嬉々として口を開く。

 

 交渉・話術・扇動。自分のフィールドに持ち込めさえすればこっちのものだと、確固たる自信があった。

 

「──くだらん」

 

 けれど、彼女は失念していた。

 

 世の中には話の通じない、もしくは話に流されずに行動を移せる相手が居ることに。それに加えて、圧倒的なまでの暴力を兼ね備えた存在こそが自らの天敵だと過剰なまでに恐れていたというのに。

 

 理由の一つとして、目の前の怪物(失楽ニト)は、あの天敵(空崎ヒナ)と違って、交渉を拒絶しながらもこちらへの警戒心は薄く、己の話に耳を傾けるという迂闊さがあった。

 

 それで彼女にはまだこちらが付け入る隙があるのだと()()()()()()()()のだ。

 

「は──?」

 

 笑みが崩れ、瞠目する。不審な素振りを少しでも見せれば躊躇無く自爆してやろうと思っていた少女は、しかし何てことないかのように起爆スイッチを握る手へ自らの掌をソッと添えてくるという予想外の奇行を前に動きを止めてしまう。

 

 起爆を誘発させる行為。優しく、赤子を撫でるようにその掌はスイッチへと掛けた指まで瞬く間に到達する。

 

「よく口が回る。お前が狡猾で危険な知能犯だということは深く理解した。オレ以外なら……いや、皆優秀であるし、こうなる前にもっと上手くやるか」

 

 ここまで一方的なように見えて、随分としてやられた。規格外のスペックが無ければこのまま策に嵌まり、敗北していたことだろう。

 

 故に、ニトは自分ではない誰か、例えばスバルやサオリがこの立場にあった場合どうなるのかと脳内でシミュレーションし、けれどもそれが無意味であることを即座に悟る。

 

 一重にこのような状況に陥っているのは、ニトが()()()()()()()()()なのだから。

 

「どうにもオレは戦場(いくさば)に立つと脳筋というか雑というか……結局のところ“力”を持つが故に、その方が()()()()()()のだと思ってしまい、実際それが最適解になってしまう。反省すべき点だな」

 

「ッ……一体、何を言って──」

 

「まあともかく……危険因子には変わりない。道理でゲヘナ風紀委員会が手を焼く訳だ、鬼怒川カスミ

 

 以前に聞かされた名を漸く思い出すニト。対して少女──カスミは自らを呼ぶその声と、どこまでも冷えきった表情が恐ろしき天敵の姿と重なる。

 

 油断と慢心ではなく、余裕。迂闊さなど最初から存在していなかった。

 

 それは空崎ヒナには無い要素であり、だからこそ馬鹿げた怪物への恐怖を忘れさせ、判断ミスを犯したことを聡明な彼女は察する。

 

「ひ、待て──」

 

 無情にもカチッという音が響く。

 

「お前のことは、覚えておくとしよう」

 

 要注意人物として。

 

 次の瞬間、ぐるんっと視界が反転する。何事かと思うよりも先に感じたのは爆発による熱ではなく、凄まじい風圧と途方も無い()()()だった。

 

 突然のことに混乱し、辛うじて視線の先のニトの姿がどんどん小さく、遠ざかっていくことに気付く。

 

 否、自分の方が遠ざかっているのだ。

 

(まさか、()()()()()()()のか──!?)

 

 あまりにも迷いの無い、一瞬の動作に驚愕。しかし、その気付きから思考は続かなかった。

 

 身に着けた爆弾が一つ残らず発破し、爆炎が包み込んだが故に。

 

「──おっと、ギリギリ範囲外だったか」

 

 その光景を眺め、爆風が運んできた僅かな熱気を感じながらニトは呟く。咄嗟に駄目元でやってみたが、意外と何とかなるものだ。

 

 仮に爆発に巻き込まれたとしても別段構わなかったのだが、余計なダメージを負わなくて済んだのは儲け物だろう。

 

「閣下!」

 

「──やぁ、梯」

 

 余韻に浸っていると自身を呼ぶ声がする。後ろを振り向けばスバルと数名のアリウス生達がこちらへ駆け寄っていた。

 

「ご無事でしたか。いえ、当然分かってはいましたが……楽しんでいらっしゃったようで何よりです」

 

「クク。いやはや存外やる連中でな……」

 

 服装こそボロボロで満身創痍と見間違えてしまうものの、楽しげに笑みを浮かべる様子を見て杞憂であったとスバルは安堵する。

 

 我らが最高戦力たる生徒会長が敗北するなど天地が引っくり返っても到底有り得ぬ話であるが、それでも先程から何度も爆発が起きていたこともあって万が一、億が一のことがあればと心配していた。

 

「閣下が大打撃を与えたのと、風紀委員達が接近していることもあって温泉開発部は撤退を開始しました。試験の方も滞りなく終わりそうです」

 

「そうか……それは何より。一先ず山場は終えたな」

 

 試験結果がどうであれ、彼女達が無事試験を終えたことは喜ばしい。挑戦する機会すら与えられぬなど到底許されることではないのだから。

 

「……さて、であればそろそろオレは行くとするか」

 

「は。では、お召し物の方を」

 

 するとスバルが部下を呼び、事前に用意していた着替えを持ってこさせる。

 

「ああ、助かる」

 

 するとニトは今着ている服を脱ぐ。

 

「え──」

 

 そして、その場で早着替えを披露し、焼かれ、崩落に巻き込まれ、地雷をくらい、見るも無惨な姿となったゲヘナの制服からアリウス特有の真っ白な軍用コートを羽織った姿へと変化した。

 

「………………」

 

「……どうした?」

 

「い、いえっ! 何でも……」

 

 ボディシートで煤けた顔を拭きながら何故か僅かに頬を染めているスバル達に首を傾げるニト。流石にこの場で躊躇無く、着替えるとは思っていなかったようだ。

 

「そういえば……先程話したゲヘナでの用件とは一体?」

 

 こほん、と気を取り直してスバルはずっと気になっていたことを尋ねる。

 

 対してニトはあっさりと答えた。

 

「──ああ、羽沼マコトと接触してくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 そして──。

 

「キキキッ……なかなかのデモンストレーションだったぞ」

 

「……感謝する。そちらが色々と根回ししてくれたお蔭で動きやすかった」

 

 薄暗い、とある一室。ゲヘナにおいてごく一部しか知らぬ秘匿されたその場所で二人は邂逅を果たす。

 

「初めまして。万魔殿議長殿」

 

 そう告げるニトの視線の先には、長い銀髪の女。制帽から湾曲した二対の角を見せた、鋭い目付きが特徴的な人物。

 

 彼女は満面の笑みを浮かべており、これにニトは妙な既視感を覚える。

 

 そこに秘めるのは、確かな友愛と──。

 

「こちらこそ、初めまして(久しぶりだな)アリウスの王(わたし)よ」

 

 ──かくして、長き時を経て、ここにアリウスとゲヘナが接触した。

 





鬼怒川カスミ
 やべーやつ。爆弾魔で狡猾な知能犯。今からでも七囚人の八人目に加わっていいよ。
 ニトちゃんのHPを20%くらい削ったが、敢えなく敗北。トラウマになった。
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