アリウスの王   作:大嶽丸

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臨戦リオのメモロビやっば(語彙力低下)


◼️◼️◼️◼️◼️なりし◼️◼️◼️

 

 

 初めは、単なる興味本位だった。

 

 ここ最近まことしやかに囁かれている、あの目の上のたん瘤である我らが忌々しき風紀委員長が蹴り飛ばされた挙げ句、みすみす獲物を逃がしたというこれ以上に無い愉快かつ痛快な噂。当然耳に入り、議長権限で色々と調べればそいつの情報は簡単に手に入った。

 

 通称“白フード”。アビドス自治区においての便利屋68捕縛──表向きにはそうなっている任務に際して突如として乱入したUNKNOWN……あの目障りな最強へ対抗する為のカードになるやもしれぬと利用価値を見出だし、()は独自の情報網をこれでもかと駆使してその正体について調査を開始した。イロハの奴が聞けばまた思いつきで行動していると嘆息したことだろう。

 

 白フードに関する情報はあまりにも乏しく、調査はすぐに行き詰まったが、その徹底的なまでの秘匿性が逆にその存在への確信を持たせ、粘り強く調べ続けた。

 

 思えば、この時点で単に興味や好奇心などと言い表すには異常なまでの執着であり、私はどうしようもなく()()()()()()のだろう。

 

 そうして熱狂的な調査の果てに浮上したのは裏社会で暗躍する、遥か昔に消え去ったはずのある学校。期待と、これ以上に無い“予感”を胸に接触を図り──。

 

「初めまして。万魔殿議長殿」

 

 そして、遂に出会った。

 

「────」

 

 紅い竜がうねり、十二の黒翼が羽ばたく。禍々しく、神々しい純然たる“力”を幻視する。

 

 結論から言えば、期待は良い意味で大きく裏切られ、予感はずばり的中した。

 

 何故ならそこに居たのは──。

 

「キ、キキキッ……」

 

 思わず、笑みが漏れる。

 

 その姿を、その顔を、その眼を視た瞬間、一体如何程の衝撃が身を襲ったか。

 

 ああ、鳴呼。

 

 間違いない。間違えるはずがない。

 

 そうか、そうか、お前が()()()()()()

 

「──こちらこそ、初めまして(久しぶりだな)アリウスの王(わたし)よ」

 

 あれは、“私”だ。

 

 あれは、“羽沼マコト”だ。

 

 深奥に宿るナニカが叫ぶ。頭髪の色も、瞳の色も、顔付きだって違う。似ても似つかぬ赤の他人としか言い様が無く、けれども血縁などよりもずっと根深い魂の()()()

 

 地獄の王──。

 

 神の敵対者──。

 

 ありとあらゆる悪徳の象徴──。

 

 悪魔を束ね、やがて世界を統べる者──。

 

 この世に生まれ付いてから己がそうであることを微塵も疑わず、それはすぐそばに圧倒的な力を誇る化け物(空崎ヒナ)が居ながらも決して揺るがず変わりはしなかった。

 

 馬鹿馬鹿しい。一体どこにそのような自信が出てくるというのか。己には致命的に()()()()()()というのに。

 

 そうだ、そうだった。

 

 どうして今の今まで忘れていたのだ。

 

 在りし頃の明けの明星。一目見た瞬間からどうしようもなく悟ってしまう。

 

 眼前で悠然と佇む、顔も姿形も似つかぬこの女こそが、己が失った“力”であると──。

 

(まさか、トリニティ……それもアリウスに居たとは、これもまた運命と言うべきか。いいや、正しく運命と言う他無い!! ──だからこそ、我らは出会ったのだ!!)

 

 歓喜に打ち震え、胸の高まりを抑えられない。今まで気付きもしなかった、無意識に感じていた喪失感が埋まって行くのを感じる。

 

(欲しい)

 

 ごくり、と喉を鳴らす。

 

 それは邪な欲望ではなく、本能による渇望だった。

 

(欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しいィ欲しいィ……! 

 

 否、元よりあれは私のモノだ。私が手にすべき、私が使うべき、私の──。

 

 何がなんでも手に入れなければならない。そうでなくてはならないのだ。

 

 もはやこの感情を止めることは出来ない。己自身の欠落を、この喪失感を知ってしまったからには戻れるはずがなく、ただ渇望と高揚が胸を埋め尽くす。

 

(キキキッ……キヒャヒャヒャヒャ!!)

 

 やった、やったぞ。

 

 笑い堪え、しかし堪え切れるはずもなく、幼童のようにはしゃぎたくて仕方が無い程に嬉しくて堪らない。

 

 有頂天とは正しくこのことなのだろう。

 

(遂に私は私の“力”を取り戻すのだ! もうヒナを恐れる必要など無い! 誰もこの私を、我らを止めることなど出来やしない!!)

 

 今まで己に足りなかった、欠けていた要素。それは純粋な強さであり、この弱肉強食、力が物を言うゲヘナ学園、延いてはキヴォトスにおいて暴君在らんとするにはあまりにも致命的なものだった。

 

 だからこそ、その頭脳と策謀を以てして議長にまで登り詰めたが、足りないが故にそこ止まりで空崎ヒナを筆頭とした己よりもずっと力ある者達にその覇道は阻まれてしまう。

 

 しかし、それも今日この日まで。

 

「早速だが、手を結ぼう。武力同盟だ、“私達”で共に憎きトリニティを倒し、このキヴォトスを征服しようではないか……!」

 

 交渉も取引も不要だ。何故ならこれは既に決まっている、確定事項なのだから。

 

 奴は私。私は奴。愛しき片割れは必ずこの手を取ってくれるはず──。

 

「ふむ……一応言っておくが、別に我らアリウス全体がトリニティに対して悪感情を抱いている訳ではないぞ?」

 

「………………何ィッ!?」

 

 だというのに。

 

 何故先程から、こうも何とも言えぬ表情でこちらを見ているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

(……なんかやけに好感度高くね? こわ)

 

 一方、ニトは終始困惑していた。

 

 ──羽沼マコト

 

 ゲヘナ学園生徒会・万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)議長。すらりとした体形に長い銀髪、鋭い目付きから男装の麗人といった印象を受けたその人物は、やたらとテンションが高い様子で満面の笑みを浮かべてこちらを歓迎している。

 

 腹の探り合いから始まると思っていたニトはこれに面食らった。これがこちらの意表を突く作戦ならば大したものだろう。

 

 工作員から事前に聞いていた人物像とはだいぶ食い違っている。キヴォトス征服を持ち掛けてきた辺り野心家であることは間違いないようだが……。

 

「つまり……アリウスはトリニティに復讐するつもりはないということか?」

 

「ああ、そうだ。反トリニティ派は存在するが、多数派ではなく我らの方針に賛同している。かつてはともかく今はもうトリニティ憎しの風潮は広まっていないとも」

 

 むしろ聖園ミカの精力的な活動の影響もあってそういった悪感情は薄れつつある。

 

「そ、そうだったのか……」

 

 口をあんぐりと空け、驚きを隠せないマコト。確かにアリウスの歴史を知っていれば、トリニティに対して憎悪や復讐心を抱いていないとは決して思わないだろう。それにしては源流はトリニティであるのに反ゲヘナ感情については警戒していなかった様子であるが。

 

「キキッ……成程。復讐などというくだらん感情には縛られないということか。予想外ではあったが、むしろ流石は我が盟友だと称えよう」

 

「……手を組むかどうかは今からの話次第だろう」

 

「必要か? いずれにしてもお前達はトリニティで何かを企て、事を起こそうとしているはず。ならば保険として我らゲヘナとの武力同盟は是非とも結んでおくべきだ」

 

「……はて、何の事だ?」

 

「惚けんでいい。奴らが必死で隠蔽しているティーパーティー襲撃事件、それと同時期に百合園セイアが休学、程無くして招かれたシャーレの先生、ホスト代理の不審な動き……そして今回の騒動だ。恐らくだが、ここ最近のパテル派の活性化にもお前達が噛んでいるのではないか?」

 

「………………」

 

 無言。その沈黙が答えだとマコトは受け取り、愉しげに言葉を続ける。

 

「単純な乗っ取りか、それとも傀儡を立ててクーデターか……少なくとも融和路線は上手く行かなかったように見える。まあ、トリニティの陰険共相手なら仕方無いさ」

 

「──ほう。随分と調べたようだ」

 

 流石はゲヘナのトップに立つ者、といったところか。トリニティ内部の事情にもアンテナを張っているようでこちらの目的についても言い当てられてしまった。

 

 先程の態度から意外と愉快な奴だと思っていたが、それはそれとして油断ならぬ切れ者だと評価を改める。

 

「キキッ、このマコト様の情報網を舐めないでもらいたい」

 

 対してマコトはこれくらいはお手の物だと得意気に笑う。尚、実際はアリウスと接触を図らんと手当たり次第に必死で調べ上げた結果の賜物だったりする。

 

「今しがたの戦いぶりでお前達アリウスの実力はよく分かった。お前の個としての“力”は当然として、兵の質も一流……全く以て恐るべき戦力だ。今回見せたのがほんの“一端”であることは重々承知しているが、あれだけの戦力を保有していながら表舞台に出ず闇に潜んでいるのはひとえに質は高くも量が伴っていない……そういったところか。そうだろう?」

 

「……ふむ、だったら?」

 

 実際にはアリウスが表舞台に出ない主な理由はベアトリーチェの存在なのだが、主要な学園に比べて戦闘員が不足しているのもまた事実なのであながち的外れな推理でもない。

 

「決まっている。再三言っている通り、手を組もうではないか。お前達の数という欠点をゲヘナが補ってやる。我々としてもお前達のような優れた戦闘集団を敵には回したくない」

 

「──エデン条約機構調印式において奇襲を仕掛けるから、か」

 

「! キキキッ、成程。既に把握済みか……そちらの情報網も優秀なようだ」

 

 流石だと笑うマコト。この様子だとゲヘナ、それに万魔殿にも潜入させている工作員の存在には気付いていないとみた。

 

「だが、エデン条約にはそちらも不満があるのでは? そうでなくとも、お前達(アリウス)が実権を握った新生トリニティならば大歓迎だ」

 

 パテル派との繋がりに、ティーパーティー襲撃……状況証拠だけ見ればアリウスはエデン条約反対派だと認識されるのはごく自然なこと。

 

 確かに、今のアリウスの方針はその通り。マコトの言う“欠点”を補う為に調印式を乗っ取り、“戒律”を手に入れる算段だった。

 

(……そもそも、お前が条約を締結する気が無いのが一番の理由なのだがな)

 

 とはいえ仮に結んだところで上手く行くとは思っていないのもまた事実。シャーレの先生には悪いが、ニトとしてはエデン条約自体にはそこまで価値を見出だしておらず、どうでも良かった。

 

「さあ! 利害は一致しているはずだ。今後の展開についても問題があるのならばアリウスの方に合わせよう……我が万魔殿は、お前達に全面的に協力してやる。どうだ?」

 

「……解せんな。随分と手厚いが、何故そこまでする?」

 

 これで文句はないだろうと胸を張るマコトに対し、先程から無条件に譲歩を重ねるその姿勢にニトは訝しみながら問いかける。

 

 元より手を組むこと自体はそのつもりであったので特段問題無いのだが、明らかに損得勘定抜きで推し進めんとするマコトの態度はどうにも気味が悪かった。

 

「──当然だろう。お前が手に入るんだ、それくらい何も惜しくはない」

 

 すると何を不思議なことをとでも言いたげにマコトはそう告げ、傲岸に笑ってみせる。

 

「────」

 

 ニトは瞠目する。

 

(……要するに、オレという戦力が欲しいと。空崎ヒナに対抗する為に)

 

 分かりきっている、取り繕ってすらない明らかに透けて見える真意。にも拘わらず不可解なことに通常あるはずの打算や私欲が全く感じられず、そこにあったのはただただ純粋なまでの熱意だった。

 

 それを前に、思わず心を突き動かされる。目の前の彼女は一切の偽り無く、まるで無垢な幼童のように(ニト)を求めていた。

 

(ッ……何だ、妙な感覚だ)

 

 その瞳、その貌、その躰──。

 

 マコトに対して先程から感じていた、懐かしさすら覚える既視感。それがどうにも思考を揺さぶり、当惑してしまう。

 

 もしかするとマコトの方も同じ感情を抱いているのだろうか。彼女にはそれが何なのか理解しているからこそあそこまで歓迎してくれているのだろうか。

 

(万魔殿と接触したのは単に利用価値を見出だしたが故……だからこそ、真の意味で協力することは決して無い。──そう思っていたのだがな)

 

 政治に関心を持たぬ生徒が大半で暴力による実力主義が浸透するゲヘナでは極めて珍しい権力に固執する、支配欲に満ちた野心家。そしてゲヘナらしく混沌を好み、望んで引き起こす無秩序さを持つ。

 

 それが工作員による羽沼マコトという人間の評価であり、ニトもまたその通りだと思った。そこに一切の間違いは存在しない。

 

 そう、なのだが──。

 

「……元よりその予定ではあった。ただ、そこまで熱烈にアプローチされるとは思わなくてな、少々戸惑ってしまった」

 

「! では……」

 

「──ああ、協力し合おうか」

 

 その言葉にマコトは破顔し、けれども当然だと言わんばかりに頷く。

 

「おお! そう言ってくれると思っていたぞ! では、早速だが──」

 

「但し、武力同盟とやらは一度持ち帰らせてくれ。ここで決めて後から齟齬が出てしまっては困るし、内容を練ってから改めて話し合うとしよう」

 

 今にも小躍りしそうな様子で更に話を進めようとするマコトにそう釘を刺す。流石に武力同盟、それもゲヘナ相手ともなれば一度アリウスに持ち帰って審議する必要があった。

 

「む……それもそうか。キキッ、ならば今度はこちらがアリウスへと出向くとしようではないか」

 

 これにマコトは少し残念そうにするもすぐに楽しみだぞと笑う。一応、アリウスは宿敵であるトリニティ自治区にあり、そこにゲヘナのトップが安易に足を踏み入れるのは色々と問題なのだが、そこら辺は特に考えずに発言していた。

 

「ああ! し、しまった!」

 

「ん?」

 

「このマコト様としたことが! 互いに自己紹介するのをすっかり忘れてしまっていた!」

 

 思い出すと同時に愕然とした様子でそう叫ぶ。確かに挨拶こそ交わしたが、その後すぐにマコトが興奮して同盟を持ち掛けた為に失念されていた。

 

「これは失敬! 改めて、名乗らせてもらおう! 万魔殿議長である羽沼マコト様だ!」

 

「……こちらこそ名乗らずに失礼した。オレは失楽ニト。アリウス分校において生徒会長の座に就いている者だ」

 

 互いに名乗る。尚、マコトはここで初めてニトの名を知った。 

 

「──そうか。ニト、ニトか」

 

 故に、マコトは漸く知ったその名を噛み締めるように小さく発する。

 

「うむ、実に耀かしく良い名だ! 今後とも是非よろしく頼むぞ、ニト!」

 

「フッ……ああ、よろしく頼む。羽沼」

 

「む……」

 

 するとマコトから笑みが消えた。

 

「そんな他人行儀な呼び方はよせ!」

 

「え?」

 

「親しみを込めてマコトと呼べ! お前と私の仲であろう!」

 

「……分かった。よろしく頼む、マコト」

 

 他人行儀も何も他人のはずだが。しかし、拒否して関係が拗れるのも面倒であるし、こういう展開にデジャブを感じ、恐らく一歩も退いてはくれぬであろうと察して了承した。

 

 単なる呼び方の差異に何故こうも拘るのか。ニトには理解し難かった。

 

「キキキッ! ああ、それで良いぞニト!」

 

(ぐいぐいと来るな……そこら辺はなんか、ミカに似ているような気がしないでもない)

 

 名を呼ばれ、嬉しそうにするマコト。その積極的にこちらとの距離を縮めようとしてくる姿勢や下の名前で呼ばせるのに拘るといった共通点からニトは対照的であるはずのミカを連想してしまう。

 

 わりと似た者同士なのだろうか。尚、そんな考えを本人が知れば心外だと激怒し、天から雷ならぬ隕石が降り注ぐことだろう。

 

(……羽沼マコト、か)

 

 キヴォトス征服などと大言を掲げ、野心と支配欲に満ち、進んで暴君のように振る舞うその裏で、それに似合わぬ純真無垢さを併せ持つ。

 

 その姿は、その有り様は──。

 

(陸八魔といい、どうにもゲヘナには()()を感じる者が多いな……ミカの方はまだ血縁であろうから理解出来るが、こっちは一体どういう因果なのやら)

 

 脳裏に過る、とある人物。あの日、ミカと対面した際に思い起こされたそれとはまた別の、片割れ。

 

 それは失われた追憶。今はもう、決して戻ることはない情景であり、けれども今のニトを構成する要素としては欠かせぬ、欠かしてはならぬモノだった。

 

 もしかするとマコトに対して感じた妙な既視感はそれが影響しているのかもしれない。何となく違う気もするが、他に心当たりが無いのでそれが自然であろう。

 

「──マコト」

 

 そうであるのならば、見定めならばならない。

 

「君は先刻、キヴォトスを征服しようとオレに持ち掛けていたな。それが君の目標であると認識して構わないか?」

 

「む? ああ、その通りだが……どうした? よもや不満がある訳ではなかろう。えっと、そうだよな? いや、我が大願であるからして譲ることは出来んが──」

 

 唐突な問いにマコトは当然だろうとそう答え、しかし同時にまさかアリウスの目的と違える可能性があるのではと不安を覚える。

 

「いや、そんなことはないさ。ある意味では、我らアリウスもまた()()()()()()()()()()()()()

 

「おお! そうなのか!」

 

 しかし、ニトの返答によりそれは杞憂であると知り、安堵と共に歓喜の声をあげる。

 

 そうだ、当然のことだった。彼女は半身。片割れ……己が望むことを望まぬはずがないのだ。

 

「キキッ……そうかそうか! では、共に成そうではないか! いずれ、必ずやこのキヴォトスを手中に収め──」

 

「──だが、我らにとってはそれは単なる“通過点”に過ぎない」

 

「……何?」

 

 喜び、然りとて続いて放たれた言葉に今度こそマコトは硬直してしまう。

 

「通過点……だと?」

 

「そうだ。あくまでも過程であり、目的を成し遂げる為の手段だ。征服の先にある変革を我らは目指している」

 

「────」

 

 信じられない。

 

 キヴォトス全土を征服・支配する。それは歴代の万魔殿議長達が望んできた悲願であり、マコトにとっても何よりも目指すべき“夢”であった。

 

 それを通過点であると、過程であると言ってのけてしまうとは思いもしなかったマコトは大きく動揺しながらもどうにか舌を回して言葉を紡ぐ。

 

「へ、変革? どういうことだ、お前は一体何を目的にしている? 征服の先で何をしようと……?」

 

 固唾を飲んで尋ねる。それは今の今まで考えもしなかったことなのだから──。

 

 これに対してニトは小さく笑った。

 

「お前は何を望む? 羽沼マコトよ」

 

 しかし、マコトが望んだ答えが返ってくることはなく、ニトは静かに、しかし荘厳にそう問い返してきた。

 

「征服した先で、お前は何を成したい? 何を成す為に、征服を望んでいるのかね?」

 

「………………!」

 

 答えに窮する。

 

 過程、手段だと、そう言われて確かにその通りだと思った。そこで初めて己はそもそも何故キヴォトスを征服したいのかと疑問を抱き、思考を巡らせていく。

 

「それ、は──」

 

 何故──? 

 

“それは、己こそが支配するに相応しい存在だから。”

 

 内に宿る何かが囁く。マコトはその不可解さに気付くことはなく、無意識に問う。

 

 何故、そう思った──? 

 

“それは、相応しくないと◼️◼️たから。◼️が支配する世◼️は間◼️◼️◼️いる。だからこそ、◼️は◼️◼️した。”

 

 何故、間違っていると──? 

 

“それは、◼️が◼️◼️よりも◼️を。否、ただ◼️◼️するだけだったから。そ◼️だけに留まらず◼️の◼️◼️性を封◼️◼️◼️たから。”

 

 一部が塗り潰されたような、穴抜けな声。そこには憎悪と屈辱、そして何よりも使命感に満ちていた。

 

 果たして、これは本当に己の、羽沼マコトの記憶なのだろうか。

 

 嗚呼。きっと、違うのだ、これは。

 

“だ◼️ら◼️となり◼️◼️から解◼️◼️た。◼️を与◼️◼️。◼️◼️し、◼️◼️の底◼️に◼️◼️◼️、◼️と◼️◼️◼️。”

 

 しかし、それが己が根幹に根差すモノであることも本能的に理解する。

 

 これこそが、羽沼マコトがキヴォトス──否、“世界の征服”を夢見る起源。ならば彼女には知る必要があった。

 

 そうでなくては、答えが出ない。

 

“◼️◼️に、◼️を──”

 

 思い出せ。思い出すな。

 

 理性と、本能が衝突する。それが呼び起こされれば己のナニカが致命的に変わってしまうのだと警告される。

 

(だが、答えなくてはならん。この問いに答えなくては、失敗してしまえば、恐らく私は後悔する。漸く“力”が手に入るというのに)

 

 何となく、そんな予感がした。

 

 ニトの問い。それは審判であり、きっと分水嶺なのだろう。

 

 故に、まるで永遠にも等しい逡巡を繰り返し、答えを導き出さんとする。

 

 征服の、支配のその先、己が、羽沼マコトが本当にやりたいことを──。

 

「…………私、は──」

 

 そして、口にした答えは……。

 





ミカ「は?」

ニトは力、マコトは◼️、そして他にはーー
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