アリウスの王   作:大嶽丸

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アリウス親衛隊

 

 

 ──想定よりも数が多い。

 

 無事に合宿場へと辿り着き、体育館にてシャーレの先生と補習授業部の面々と共にこちらへ前進するアリウスの部隊を待ち構えながらアズサは内心そう毒づく。

 

 当初ハナコが立てた作戦。ナギサを確保し、アリウスを合宿場へと誘い出し、ブービートラップで数を減らしながら最終的に体育館で迎え撃つ。それはナギサの自爆という思わぬハプニングがあったものの一見すると問題無く進行出来ているように思えた。

 

 しかし、アリウスは甘くはない。況してや今回のクーデターに動員されているのは、作戦の重要度から見てもまず間違いなく精鋭揃いのはず。

 

 現に既にかなりの距離まで接近されているが、幾度も爆発音が響き、地を揺らしながらもアリウスが受けている損耗はあまりにも少ない。

 

「恐らくこちらの狙いを読まれている……指揮官はサオリか、それともスバルか。いずれにせよ、この調子だと想定より数は減らせなさそうだ」

 

「成程……やはり一筋縄では行きませんか。流石はアズサちゃんが所属する学園の戦闘部隊ですね」

 

 ここまでに仕掛けたトラップは多岐に渡る。クレイモアから指向性の機雷、即席爆破装置に諸々……アリウスを迎え撃つ為にこれでもかと余す所無く仕掛け、この合宿場は下手な要塞よりも強固なものと化していた。

 

 しかし、アリウスはそんなトラップ群を物ともせず、着実にその防御網を攻略し、最低限の損耗で突破してここへ侵攻しているのが現状。アズサは想定外だとは言うもそんな彼女の実力を知るハナコはむしろ当然の結果であると納得する。

 

「ですが、私達の目的は正義実現委員会到着までの時間稼ぎ……これについては誰かさんのお蔭で早い段階で動いてくれましたので楽に達成出来そうなので問題ありません」

 

 ちらり、とハナコは体育館の備品であるパイプ椅子に座るナギサへと視線を送る。

 

「えっと……その、ナギサ様」

 

「……ヒフミさん」

 

 横に立つヒフミと視線を交わし、何とも気まずい空気が漂っていた。ナギサからすれば合わせる顔が無く、そんな様子にヒフミもどう声をかけるべきかと困っているようだ。

 

「“とりあえず……この戦いが終わったら改めて話し合いの場を設ける、ってことでいい?”」

 

「……そうですね。ヒフミさん、正式な謝罪はまたその時に」

 

「は、はい……」

 

 その様子を見て先生が言う。本来ならば今すぐにでも二人の仲を取り持ちたかったが、状況が状況。とてもではないが、そのようなことをしている暇はないと判断し、一旦この話は置いておくことにした。

 

 ナギサもこの提案に賛同する。すぐにでも土下座して贖いたい気持ちがあったが、それはそれとしてまだ心の準備が出来ておらず、ヒフミも頷く。

 

「アズサは聞いてないの? アリウスがどれだけの人数で襲う予定だったとか」

 

 コハルが問いかける。

 

「いや、元々私は今回の作戦には加えられていなくて、何も聞かされていない……二次試験の時にゲヘナでスバルを見かけたから恐らくベータ隊は動員されると思うが……」

 

「ベータ隊、というのは?」

 

「アリウスの主力部隊の一つだ。規模にして一個中隊クラス……他にもアルファ隊やガンマ隊があって、私は前者に所属していた」

 

「“成程……因みに、他に部隊はあったりする?”」

 

「ああ。他にも──」

 

 その時、バリケードで封鎖していた扉が爆発して抉じ開けられる。

 

「!」

 

「──手こずらせてくれる。流石と言うべきか、白洲アズサ」

 

 扉からぞろぞろとアリウスの兵士達が入ってきて瞬く間に隊列を組む。目測で100人以上、扉の前で控えている人員も居るようで外に居るのも含めれば恐らくこの倍の人数が居ると思われた。

 

 そして、この中で前線に立つ者達。他のアリウス生とは違い、胸元や肩部に鷲の頭部と翼、獅子の胴体を有した伝説上の幻獣──“グリフォン”を象った刺繍が施された記章を装着した集団を見てアズサは目を見開く。

 

「なっ……“親衛隊”だと……ッ!?」

 

「親衛隊……ですか?」

 

「生徒会直属の部隊だ。自治区内かカタコンベでしか活動している所を見たことはなかったが、まさか奴らまでもが動員されているなんて……」

 

「つ、強いの?」

 

「ああ。基本的に厳しい選定基準を通過したエリートばかりだ。志願制でもあるから忠誠心も高い……まずいな、“スクワッド(サオリ達)”が来ることは覚悟していたが、奴ら相手では──」

 

 アズサは険しい表情を浮かべる。

 

 スクワッドと親衛隊。両方とも生徒会直属の部隊であり、人数差や運用目的を考慮せずに考えれば差程実力に差がある訳ではなく、個人の能力を見ればスクワッドのリーダー、錠前サオリは親衛隊の上澄みと比べても特筆していた。

 

 けれど、アズサにとってまだ勝ちの目があると思えるのは前者だ。サオリから指導を受け、他の面々とも訓練したことがあるため彼女達の動きの癖を把握しており、そういう意味でアドバンテージがあったからである。

 

「で、でも! もうすぐハスミ先輩達が来てくれるはず! それまで持ち堪えれば──」

 

「──残念。来ないよ、予定通りね☆」

 

 狼狽えるアズサに対してコハルはそう言って励まそうとしたその時、遮るように声が響いた。

 

 それと同時に、アリウスの人の波が割れ、一人の少女が歩いてくる。

 

「いやぁ事前に待機命令を出しておいたんだけど……困ったものだね、ティーパーティーの命令に従えないなんてさ。ナギちゃんの言う通り不穏分子だったのかも」

 

 にこやかに、そう言った彼女は白い翼をはためかせ、ピンク色の髪を優雅に流しながらゆったりと歩いて補習授業部達、そしてシャーレの先生の眼前へと立つ。

 

「“ミカ……?”」

 

「ッ…………」

 

「や、久しぶり先生。また会えて嬉しいな」

 

 ──聖園ミカ。

 

 その人物の登場に先生を含めた一同は驚きを隠せず、唯一ナギサだけは辛そうに目を背ける。

 

 分かってはいたが、遂に現実を直視しなければならない時が来てしまった。

 

「あれ? まだアズサちゃんから教えてもらってなかった? まあ簡単に言うと、黒幕登場☆ってところかな? 私が()()()“トリニティの裏切り者”」

 

 対してミカはそれを冷ややかに見据え、何でもないことかのように暴露する。

 

 信じられない。学園のトップが、学園を裏切っていたという、在ってはならいことが起きていた。

 

「ッ……違う、ミカは──」

 

「違わないよ。というか、何でそっち側についてるの? アズサちゃん。冗談にしては笑えないかなぁ」

 

 咄嗟にアズサが否定しようとすればそう問いかけを被せられる。思わずアズサは押し黙り、これにミカは悲しそうに、本当に悲しそうに溜め息を吐く。

 

「報告を聞いた時はそれはもうびっくりしちゃったよ。これはアズサちゃんの為に決行したクーデターだったのにさぁ……土壇場で裏切ってくれたお蔭で全部台無しになっちゃった」

 

「ッ……すまない。けど、こんなことは間違っている。なぁミカ、今からでも──」

 

「ふうん……そこまでトリニティのこと気に入ってくれたんだ。喜ぶべきなのか怒るべきなのか反応に困っちゃうね☆ ──それと、今更後戻りなんか出来る訳無いじゃんね」

 

 あーあ、と肩を竦めるミカ。彼女のそんな言葉を受け、アズサは思うところがあるのか俯いてしまう。

 

 一方、先生は二人の会話を聞いて首を捻る。

 

「“アズサの為にクーデターを……? それは一体どういう意味?”」

 

「ん? どういう意味って、そのまんまの意味だよ。ナギちゃんがおかしくなって補習授業部なんてのを作っちゃって……そんなことで大切な大切な和解の象徴を追い出すなんて真似させる訳には行かないじゃん? だから皆が退学になる前にティーパーティーを乗っ取っちゃおうと計画したんだ」

 

「“! じゃあ、あの時に言っていたことは本当だったんだ”」

 

 アズサが“和解の象徴”であり、トリニティとアリウスの架け橋になる存在であると。

 

 いつしか秘かに話したあれは事実だったようだ。

 

「およ? 先生ったら、私が嘘吐いてると思った? 傷付くなぁ……」

 

「“………………”」

 

「けどまあ、エデン条約が武力同盟だとかいう話は嘘だったんだけどね☆ 本気でゲヘナと手を取り合えると思い込んでる夢見がちなナギちゃんにそんな活用法なんて出来る訳無いから」

 

「“……嘘を吐いたのは、私とナギサを対立させるため?”」

 

「そゆこと♪ 潰し合ってる所を横合いから叩いちゃうつもりだったんだ。アズサちゃんさえ裏切らなければ、結構上手く行ってたし、なかなか良い作戦でしょ?」

 

 エデン条約は武力同盟などではなく、れっきとした平和条約だった。

 

 それについて先生はヒナと話した辺りから疑問は抱いていたが、確証が持てるまでには至らず、最後まで判断が付かなかった。ミカの勘違いなのではという線でも考えていたが、どうやら彼女はそれこそが狙いであり、ナギサと敵対する方向へと後押しされてしまっていた。

 

「ま、先生にばかり気を取られて肝心のナギちゃんの方を甘く見ちゃってたのは反省かな。まんまと一杯食わされちゃったよ……ねぇ、ナギちゃん?」

 

「……ミカさん」

 

 するとナギサが立ち上がり、前へと出る。先頭に立つアズサの後ろまで行き、震える口を開く。

 

「何故、なのですか?」

 

「さっきも言ったでしょ。ナギちゃんがアズサちゃんを追い出そうとしたから。それにエデン条約も気に食わなかったからね、やっぱり私はゲヘナってのが心の底から嫌いみたい。きっと、善い娘も居るんだろうけどねぇ……」

 

「……いつからアリウスと?」

 

「結構前からだよ。ほら、私ってば急に政治の勉強するようになったじゃん? あれもアリウスのトップに影響されたんだ」

 

「そう、ですか……教えてくれなかったのは、相談すらしてくれなかったのは……」

 

「あー、実はアリウス側にちょっと込み入った事情があってね。それに、相談したところでまともに相手してくれないでしょ? セイアちゃんと同じように」

 

「ッ…………」

 

 ナギサは悲痛な面持ちとなる。これに黙って話を聞いていたハナコも反応を示す。

 

「だから、セイアさんを手にかけ……」

 

「──いや、殺してない」

 

「え……?」

 

 突然、ミカは先程までの笑みを消し、低い声でそう言い放った。

 

「私も、況してやアリウスも断じてセイアちゃんを殺してなんかいない」

 

「で、ですがあの日に襲撃したのは──」

 

「確かに襲撃したのはアリウスだし、手引きしたのも私。目的もセイアちゃんの誘拐だったけど、あの失踪は別件で私達にとっても予想外な事態だった。セイアちゃんを殺した奴が居るとすれば、それは全く別の勢力だよ」

 

「そ、そんな……」

 

「信じられないかもしれないけど……それでも私達はセイアちゃんを絶対に殺してなんかいない。これだけははっきりと言わせてもらう」

 

 嘆きにも近い訴え。確固たる意志を以てしてそう告げるミカの言葉を前にナギサも先生も、他の面々も彼女が虚偽を述べているとは到底思えなかった。

 

「では、セイアさんは……」

 

「生きているのなら、きっと救護騎士団が匿っているんだろうね。そもそも私達は蒼森ミネから死んだと聞かされただけで死体すら見てないんだし」

 

 考えてみれば自然なことだった。

 

 客観的に見ればセイアが消えて得をするのは繰り上がってホストとなる他のティーパーティー。あの蒼森ミネならば襲撃から守る為にセイアを死亡した扱いにして匿うのは不思議な話ではない。

 

「ま、セイアちゃんの行方に関してはこのクーデターが終わってから調べるから安心して。もし見つけたら会わせてあげる。ってか当分は二人揃って檻の中で暮らしてもらうことになるかも」

 

「…………!」

 

 そう言い、ミカが片手を上げると、後ろに控えていたアリウス親衛隊が前へと出る。

 

「……もう良いのか? 聖園ミカ」

 

「うん。ごめんね、貴重な時間を無駄なお喋りに使っちゃって……」

 

「構わない。閣下からは、お前に従うように言われている。それに無駄だとも思わない」

 

 カチャ、と引鉄に指がかけられる音が響く。

 

 凍て付くような殺気が空間を支配し、補習授業部達に緊張が走った。

 

「全ては虚しい……虚しいが、だからこそ、“別れ”というのは貴ぶべきだ。それがかつての友ならば尚更のこと」

 

「とはいえ、我々には言葉は不要だ」

 

 そう言い、親衛隊が視線を向ける先には険しい表情を浮かべる、道を違えた同胞。

 

 彼女達としても思うところがない訳ではないが、優先すべきは任務遂行であり、その障害となるのであれば敵として排除するまで。

 

「さて……降参してくれると助かるかな? まさか、たったそれっぽちの戦力で私達相手に本気で勝てると思っている訳じゃないよね?」

 

 ミカが提案する。むしろ彼女からすれば何故この絶望的な状況を前に未だに戦意があるのか不思議で仕方が無かった。

 

 覆す手段を有しているとすれば、それは変数たるシャーレの先生に他ならず、不確定要素ではあるが……。

 

「……教えてください。先程、正義実現委員会は来ないと仰ってましたね? それは何故です?」

 

 ハナコが問う。

 

 ティーパーティーの権限なら下部組織である正義実現委員会を止めることは容易いが、それはナギサが事前に対策していて現にミカも上手く行かなかったという風な弁を述べていた。

 

 にも拘わらず彼女は確固たる自信を持ってそう言い、そしてその言葉通りに一向に正義実現委員会の部隊が駆け付ける気配は無い。

 

 一体どうやって──。

 

「簡単だよ。足止めされているからだよ。もしかしたら今頃とっくに全滅してるかもねー」

 

「そんな馬鹿な。今の正義実現委員会には前回の襲撃の際とは違って、エースである剣先ツルギさんを筆頭とした主力が……!」

 

「ふふ。前回と違うのはこっちも一緒だよ☆」

 

「なっ……」

 

「──まさか」

 

 ここでアズサが気付く。

 

 確かにアリウスには存在している。剣先ツルギを含めた正義実現委員会に対抗し得るだけの戦力──否、個人が。

 

 正解だと言わんばかりにミカは笑うのと程無くして、轟音により建物が揺れる。

 

 果たして、外では一体何が──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 時は少し遡り、出動した正義実現委員会の部隊は補習授業部、それからアリウスと入れ違う形でナギサが爆破したセーフハウスがあった場所へと駆け付けていた。

 

「確認したところナギサ様は不在であり、連絡もつかないとのこと……やはり、襲撃を受けたとみて良いでしょう」

 

「と、ということは……」

 

「はい。このタイミングでの待機命令。ナギサ様の恐れていた通りティーパーティーに内通者が、それも命令を出した人物を考えると……疑いたくはありませんが……」

 

「そんな……」

 

「まさかミカ様が……?」

 

 副委員長、羽川ハスミの言葉に更なる波紋が広がる。

 

 もしも今後自分以外のティーパーティーが待機命令を出す、もしくは出動の妨害を行った場合、直ちに出動して自身の安否を確認し、事態を収拾せよ。

 

 ナギサからの命令。それはティーパーティーに不穏分子が存在することを意味し、またホストを差し置いて正義実現委員会の動きを封じる権限を持つ者は限られている。

 

 そんなまさかとハスミは半信半疑であったが、実際に事が起こり、挙げ句にナギサが居たと思われるセーフハウスが爆発……彼女があれだけ疑っていたトリニティの裏切り者、その驚くべき正体を察し、流石のハスミも他の正義実現委員と同じく動揺を隠せなかった。

 

「全員、落ち着け」

 

「ッ……ですが、ツルギ。相手は──」

 

「関係無い。相手がたとえミカ様だとしても、トリニティを脅かす敵だと言うならば私達は正義を執行するまでだ」

 

 先頭に立つ者が、そう言って諌める。

 

 ──剣先ツルギ

 

 正義実現委員会の委員長にして最高戦力。普段ならば凶悪な笑みを浮かべている彼女だが、現在の表情は険しく彼女自身もハスミ達と同じようにこの事態を前に思うところがあるようだ。

 

 しかし、それでも、だからこそ冷静に対処しなければならないといことを彼女はよく理解している。

 

「まずはナギサ様を捜索しつつ、ここを襲った連中を見つけ出し、捕縛する」

 

「……そうですね。恐らく動いているのは、前回ティーパーティーを襲撃した集団と同じ。あの時はその場に居ませんでしたが、私達が居る中でこれ以上の狼藉は許してはなりません」

 

「はい! 今度こそ捕まえてやります!」

 

 ツルギの言葉に全員が頷く。

 

 前回のティーパーティー襲撃事件。その際は煮え湯を飲まされたが、今回は違う。ツルギもハスミも居る中で一度ならず二度までもティーパーティーを狙ったことを後悔させてやると皆が意気込む。

 

 その時、水を差すように無線が入る。

 

『──スミ──、ハ──先輩──ス──』

 

「この声は……イチカですか? 何がありました?」

 

 ノイズ混じりな無線。辛うじてその声の主が別動隊として動いている後輩のものであるとは判別出来たが、元々の声が小さいのもあって何を言っているのかは聞き取りづらい。

 

『──ッ、攻──ー! 全──ー救──!』

 

「……駄目です。聞き取れません」

 

 しかし、向こうで何かが起きているのは明白。

 

 自分達より先に接敵したのだろうか。にしては銃声も何も聴こえていなかったが……。

 

「ふむ……緊急を要する事態の可能性が高いですね。一旦、イチカの部隊と合流して──」

 

「──何だ、通信出来るだけのガッツのある奴が居たのか」

 

 次の瞬間。

 

 耳に響いたその声に、まるで心臓を鷲掴みにされたかのように凍り付く。聴こえてきた方向は、自分達の前、左、右、後ろ──。

 

「──は?」

 

 ゆらり、と白いコートが風に靡く。

 

 部隊のど真ん中。何食わぬ顔で紛れ込んでいるそいつの存在に、漸く気付いた正義実現委員会は、しかし皆一様に動けず、理解が追い付かなかった。

 

 まるで幽鬼の如く。今の今まで誰にも気付かれずにそこに居た。それよりはつい今しがた突然ここへテレポートしてきたと言われた方が納得が行くくらいには、非現実的な事実であったが故に。

 

「────」

 

 真っ先に動いたのはツルギ。即座に二挺のショットガンを構え──。

 

「ごっ……ぁ……ッ!?」

 

 腹部に衝撃と──()()

 

 一瞬ツルギは困惑し、辛うじて自身の腹部に脚がめり込んでいることを視認して宙を舞う。

 

「ツル──」

 

 次に反応出来たのはハスミ。しかし、目の前で起きた突然の出来事に彼女は目を見開き、吹っ飛んで行くツルギの姿を目で追ってしまう。

 

 同時に、眉間に冷たい感触。

 

「ッ!?」

 

 ズドン! と、気を取られたハスミは押し当てられた銃口に抵抗する間も無く、至近距離からの銃撃により意識を刈り取られる。

 

「え──」

 

「は──」

 

 委員長が吹っ飛び、副委員長が撃たれた。

 

 あまりにも一瞬の出来事。突然目の前で起きた信じられない光景を前に誰しもが茫然としてしまい、動けない。

 

 対して、それをやってのけた襲撃者はそんな彼女達を見渡すように見据え、愉しげに笑う。

 

「トラトラトラ……なんてな」

 

「て、敵襲! 敵しゅ──」

 

 辛うじて出したその叫びを銃声が掻き消した。

 

 両手に握る拳銃が火を吹き、荒々しく、四方八方へとマシンガンのように乱射された弾丸が射線上に居る者へと襲い掛かる。

 

 計11回。全弾撃ち尽くすまで続き、その回数と同じ人数がバタバタと倒れていく。

 

「ひっ……撃て! 撃て撃て!」

 

「馬鹿! ここからだと仲間にも当たる!」

 

「そんなこと言ってる場合っ!?」

 

 動揺が走る。

 

 漸く戦闘態勢に入り、しかし一瞬にして多数の仲間が屠られたことで完全に臆してしまっているのに加え、取り囲んでいる状態であるため仲間も射線に入れてしまうことになり、安易に発砲出来ずに言い争う。

 

 本来であれば諌めたであろう戦術指揮官(羽川ハスミ)は真っ先に狙われて気絶してしまっている。

 

「………………」

 

「ッ──う、動くな! 少しでも動いたら蜂の巣にしてやる!」

 

 対して弾薬を撃ち尽くしたと思われる襲撃者は無言でその光景を見据える。正義実現委員達は動かぬ彼女へと銃口を向け、その一挙手一投足も見逃さんと緊迫した雰囲気が漂う。

 

 ──が、すぐに襲撃者は無造作に片手を上げ、パチンと指を鳴らした。

 

「! 何をして──!?」

 

 その刹那、迸るマズルフラッシュが闇を照らす。

 

 降り注ぐ弾幕。()()である彼女に気を取られ、正義実現委員会は自分達が既に()()()()()()()()ということに気が付けなかった。

 

「ふむ……諸君は練度こそ高いが、やはり“兵士”には程遠いな」

 

 悲鳴が銃声に混じりながらけたましく響き渡る。それをBGMに襲撃者──失楽ニトは酷く落ち着いた様子で拳銃のリボルバー式の弾倉へと弾薬を込めていく。

 

 そうして二丁の拳銃に6発ずつ装填し終えた頃にはあれだけ居た正義実現委員会の部隊は全滅していた。

 

「ご苦労。梯」

 

 ぞろぞろと現れるアリウス生達。ベータ隊に属する小隊規模の部隊。それを率いる隊長、梯スバルはニトの労いの言葉に静かに敬礼する。

 

「先刻閣下が潰したのも含めて既に三つの正義実現委員会の部隊を殲滅しました」

 

「では、残りの正義実現委員会と交戦しろ。目的は作戦終了までの足止めであり、別に殲滅する必要は無い」

 

「了解しました。直ちに向かいます」

 

 存外楽な仕事だとスバルは笑う。

 

 指揮官を潰し、主力も壊滅状態。このような有り様の正義実現委員会の相手など造作も無い。況してや足止めはベータ隊の得意分野である。

 

「閣下は如何なさいますか?」

 

()()を片付ける。終わり次第、ミカ達の支援に向かうとしよう」

 

「成程。では……ご武運を、閣下」

 

 スバル達は改めて敬礼し、瞬く間に散開する。それを見届け、ニトはゆっくりと後ろを振り返った。

 

「ひゃっはぁ……!!」

 

 同時に、凄まじい轟音と獣のような奇声と共に()()()が豪速で突貫してくる。

 

「──やぁ、おかえり。随分と遅かったな」

 

 これにニトはそうにこやかに返し、自分の方へと向かってくるそれをバックステップで避ける。

 

 そのまま勢いよくその物体は地面へと着弾し、榴弾でも落ちたような土煙を発生しながら鈍い音を響かせた。

 

「クク。まるで狂犬だな」

 

 ギロリ、と土煙の中から殺気がこれでもかと込められた血走った眼でニトを射抜く。

 

 体を大きく前傾させ、狂気的な笑みを張り付けたその姿は正しく“獣”であり、先程蹂躙した正義実現委員会の面々と比較して明らかに異色と言う他無い。

 

 別の意味で、兵士とは程遠い怪物。伊草ハルカといい、何故こうもイカれた奴が自然発生するのかと内心ニトは疑問を抱かざるを得なかった。

 

 しかし、浮かべるのは苦笑ではなく、眼前の怪物に応えるかのような獰猛な笑み。

 

「トリニティ最強。お手並み拝見と行こうか」

 

「きひひっ……」

 

 両者が睨み合う。

 

 剣先ツルギと失楽ニト。両陣営の最高戦力がここにぶつかろうとしていた。





ニトちゃん(こっわ。え、シラフでこれ?)

尚、乙女な一面を見たらそれはそれでビビる模様。

親衛隊
 アリウス生徒会直属の部隊の一つ。グリフォンをシンボルとしている。
 現在100人近くが所属している。志願制だが、成績上位者でも厳しい難関な試験に合格する必要があり、また選定基準を一つでも満たせなければ入隊不可能という狭き門。それ故に生徒会長、及び生徒会への忠誠心が高い者が多い。
 実はサオリも入隊希望を出しており、試験にも通過していたが、その優秀さから同じく生徒会直属の部隊で少数精鋭の特殊部隊であるスクワッドのリーダーに抜擢されたのでその話は無くなった。

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