アリウスの王   作:大嶽丸

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とあるティータイムでの一幕。

ミカ「へー。神秘って力が私達にはあるんだー」

ニト「ああ、そうだ」

ミカ「ニトちゃんもその神秘による異能?っていうの使えるの?」

ニト「まあ、それなりに」

ミカ「そうなんだ、凄いね☆」

ニト「フッ……それ程でもない」

ミカ「あ! 実は私も異能?みたいな凄い力があるんだ」

ニト「ほう? そうなのか。それは興味深い」

ミカ「ふふ。あのね、隕石を落とせるんだ」

ニト「……何と?」

ミカ「隕石を落とせる」

ニト「……はにゃ?」



星の呼び声

 

 

 トリニティ最強は誰か。

 

 その問いに多くの者が“剣先ツルギ”に決まっていると答えるだろう。

 

 正義実現委員会のエースにして、歩く戦略兵器とさえ呼ばれ、恐れられる怪物。その名はキヴォトス全土にまで轟いている。

 

 しかし、一部の者はこれに異を唱える。

 

 大体がパテル派であるが、彼女達は胸を張って誇らしげに語る。

 

 曰く──“聖園ミカ”こそが、最強であると。

 

「えいっ☆」

 

 天から“星”が落ちてくる。

 

 輝くそれはシスターフッドの部隊を中央から吹っ飛ばす。その非現実な光景を前に誰しもが驚きを隠せない。

 

「さあ、どんどん行くよ!」

 

 ミカが腕を掲げ、彼女から放出される“神秘”が高まり、天へと昇っていく。

 

 そうして形成されるのは、眩い桃色の宇宙。

 

「っ……皆さん、頭上に注意を──」

 

「注意と言われましてもどう防いだら……!?」

 

 今度は()()

 

 降り注ぐ“隕石”はシスターフッドへと炸裂し、その主力部隊を容易く粉砕する。

 

 ミカの内に宿る異能。“星の呼び声”と名付けられたそれは、名が示す通り()()()()力であり、落下させる隕石が秘める絶大なる破壊力は、それこそ一人だけの軍隊(ワン・マン・アーミー)に近い剣先ツルギよりも歩く戦略兵器と言うに相応しく、個人が有する戦力としては規格外としか言い様が無い。

 

 これまでアリウスが確認した神秘による御業の中でも上位、特に一個人の生徒が行使した異能であればトップクラスに強力だと言え、初めて見た際はニトも度肝を抜かれたものだ。

 

「ちょっ……何なのですかあれっ!?」

 

「ッ……ミカさんの力です。しかし、以前見た時よりも強くなっている……? 少なくともあんな短い間隔で連発出来るようなものではなかったはず──」

 

「驚いた? ちょっと鍛えてもらったんだ。ニトちゃ……アリウスには、こういう力に詳しい人が居るから」

 

 瞠目するナギサに、ミカはそう言って笑う。アリウスにおいて彼女は“神秘”という概念を知り、またその扱い方についても伝授してもらった。

 

 未だによく分からない部分の方が多く、ほぼ感覚で行使しているもののその力は、かつてと比べれば確実に研ぎ澄まされている。

 

「成程。噂に違わぬ実力ということですか……皆さん! 前進してください! 出来るだけミカさんの近くで戦闘を……!」

 

 運良く隕石の落下地点から離れていたサクラコはその力に驚きながらも冷静さを保ち、そう指示を送る。

 

 近距離ならば自分や仲間を巻き込んでしまう恐れのある隕石落としは安易に使うことは出来ないと思ったからだ。

 

「ふうん……確かに、こうなるともう“星の呼び声”は使えないね」

 

 その指示通りに駆け出すシスターフッド達を見据えてミカはそう言い、しかし落ち着き払った様子で小馬鹿にするように笑みを浮かべる。

 

「でも、笑っちゃうね。近付くことさえ出来たら勝てると本気で思ってる? あなた達ごときが」

 

 ミカが握るサブマシンガン──“Quis ut Deus”が火を噴く。

 

 別に隕石落としなど使わずとも、彼女はトリニティのみならずキヴォトス全体においてもトップクラスの戦闘力を誇り、迫り来るシスターフッドを余裕の表情で蹴散らす。

 

「ッ…………!」

 

「あーあ……弱過ぎじゃんね? そんな体たらくでどうやって今まで第三勢力を気取ってこれたのやら」

 

 悪夢かと、思いたくなる事実。

 

 シスターフッドの主力部隊が、たったの一個人相手に全く以て歯が立たない。

 

「うわぁっ!?」

 

「きゃっ──!?」

 

 そして、それだけでなく、ミカに付き従うアリウス親衛隊もその高い戦闘練度と連携能力により人数差を物ともせずシスターフッドを圧倒している。

 

 一人、また一人と削れていくシスターフッドの戦力。このまま行けば全滅するのは誰の目から見ても明らかだった。

 

「──聖園ミカ」

 

 しかし、親衛隊の隊長だと思われる女はそんな有利な戦況に反して険しい表情でミカの名を呼ぶ。

 

「……うん。分かってる、さっさと終わらせよう」

 

「………………?」

 

 これにミカが頷く。その不審なやり取りにハナコは疑問を抱き、そこに()()が見え隠れしているのに気付く。

 

 何故? 状況は圧倒的に向こうが有利なはず……。

 

「──成程。そういうことですか」

 

 そして、聡明な彼女はすぐに一つの結論に達する。

 

「考えてみれば、当然のことです。戦闘が長引けば長引く程、あなた方の計画が成功する可能性は低くなる……目的はあくまでもティーパーティーへのクーデターであり、トリニティとの全面戦争ではない。パテル派を動かさないのも、そういうことなのでしょう?」

 

「……やっぱり賢いね、浦和ハナコ。本当にムカつく」

 

 つらつらと述べるハナコの推論に、思わず舌打ちしそうになるミカ。

 

「ど、どういうこと?」

 

「簡単な話です。ナギサさんが打った一手……それはミカさん達の計画に致命的な綻びをもたらしました。正義実現委員会を止められなかった今、悠長にしていては私達を倒してナギサさんを確保したところで実権を握るのは難しい」

 

「え? 何でよ?」

 

「……そうですね。アリウスがトリニティを憎んでいない。それが本当ならば、そうなのでしょう。我々へ復讐するつもりが無いのならば……合点が行きます」

 

 話を聞いてナギサも思い至る。一方、コハルは未だに頭の上に疑問符を浮かべたままであり、これにハナコはより分かりやすく自らの推論を語って行く。

 

「当たり前ですが、このような方法で実権を握れば他派閥、正義実現委員会、シスターフッド、救護騎士団と多くの勢力が猛反発するでしょう。クーデター成功後なら鎮圧出来るだけの自信があるのでしょうが、その前に動かれてしまえば、トリニティとアリウスの戦争にまで発展してしまう。それはあの方々の望むところではないということです」

 

 白洲アズサの裏切り。

 

 正義実現委員会の出動。

 

 シスターフッドの参戦。

 

 それらの要素は、ここまで圧倒的な力を見せ付けるミカとアリウスの首を着実に絞めていたのだ。

 

「じゃ、じゃあ! このまま持ち堪えて時間を稼げば……!」

 

「いえ……そうとも限りません。戦争を望まず退いてくれるのならばそれで良いのですが、そうでなければ──」

 

 危うい賭けだ。

 

 相手が平和的な考えを持つことに依存している。とはいえ残念ながらこのままではそれ以外の勝機は見えて来ず、この圧倒的に不利な状況下で漸くミカとアリウスに見出だせた隙でもあった。

 

「“……もし、そうなったら私が”」

 

「先生……?」

 

 一方、先生も思案する。

 

 果たして、()()()使()()()()()()()。リスクなど微塵も恐れてはいないが、相手が守るべき“生徒”であることが彼の決断に迷いを生じさせていた。

 

「尤も、どうやらミカさんはそのような最悪の事態は望んでおられない様子ですが……」

 

「言っておくけど、戦争したら負けるからじゃないからね? そうなった場合、火の海になって消えちゃうのはトリニティの方だよ。間違いなく」

 

 ミカの声は冷たい。その顔から笑みが完全に消えていた。

 

 想像するだけでゾッとする。それだけは何としてでも回避しなければならない。

 

「私達が望むのは戦争ではなく、融和──だから、この計画は絶対に成功させる」

 

 次の瞬間、ミカがダッと地面を蹴り、真っ直ぐ駆け出す。

 

 今まで相手にしていたシスターフッドではなく、先生と補習授業部、彼らが守る桐藤ナギサ目掛けて──。

 

「ッ!?」

 

「“ミカ、何を──”」

 

 速い。

 

 思わぬ行動だったこともあり、シスターフッドは対応出来ずに動きが遅れ、すかさず発砲したアズサの銃撃を全身に受けても怯む素振りすら見せずミカは突き進む。

 

「ごめん!! 皆、伏せて!!」

 

「──構わん。我々ごとやってしまえ」

 

 一方、親衛隊はそんな突然の行動に何をするつもりなのかを即座に察し、戦闘を中断して道を開ける。

 

 同時に、再び天井を“宇宙”が覆った。

 

「まさか、自分ごと──ッ!?」

 

 出力最大。

 

 先刻とは比べようも無い、巨大な隕石が落下し、着弾による衝撃が体育館全体を巻き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 瓦礫の山。

 

 半壊した体育館、まるで災害でも起きた後のような光景が広がっており、崩れた天井から本物の夜空が顔を覗かせる。

 

「あはっ☆ そもそもさ、自分の攻撃でダメージを受ける訳ないじゃんね」

 

 月明かりに照らされながら、ミカは立つ。その言葉通り隕石が作ったクレーターの真上に立ちながら、服が汚れた程度で傷一つ無かった。

 

「さて……やっと、捕まえたよ。ナギちゃん」

 

「ッ……ミ、カ……さ……」

 

 そして、眼前には瓦礫を背に凭れるナギサが居た。運良く気絶しなかったようで、しかし元より自爆したことで満身創痍だったのもあり意識は朦朧。もはや立つことはおろか喋ることさえ儘ならない。

 

 か細い呼吸をしながら、虚ろな目でミカを見ていた。

 

「……流石の威力だな」

 

 ぞろぞろと親衛隊が瓦礫の陰から現れる。隕石に巻き込まれ、しかし彼らの大半が健在だった。

 

「一か八かだったけどね。そっちは大丈夫? だいぶ巻き込んじゃったけど」

 

「軽傷者を除けば六割程は無事だ。既に増援は呼んでおり、戦闘続行が困難な負傷者はそいつらに回収させる」

 

「そ。良かった、こっちはすぐに終わらせるから負傷者の救助を優先して」

 

 安堵しつつ、しかし内心味方である彼女達を攻撃に巻き込んでしまったことをミカは心の底から悔いる。このようなやり方は本当ならばしたくなかった。

 

 これも、思わぬ一手によりこちらの計画を狂わせた目の前の幼馴染みのせいである。

 

「“ッ、ミカ……!”」

 

「お、先生。生きてたんだ……って冗談だよ、凄いバリアを持ってるって話は聞いてたからさ。遠慮無くやらせてもらったよ」

 

 近くで声がする。視線を向ければ、先生は服に土埃が付着した程度で無傷だった。

 

 とはいえ衝撃までは殺し切れず、表情は苦しげであったが。

 

「まあでも指揮する兵隊が居ないんじゃもう戦えないよね? そこで大人しく見てると良いよ」

 

 補習授業部達の姿は見えない。一番近くで隕石に巻き込まれたのだからただでは済まないだろう。

 

 そう判断したミカは先生を捨て置き、改めてナギサと向き直る。

 

「ナギちゃんも大人しく捕まってくれるよね? アリウスと戦争なんてしたらどうなるかは賢いナギちゃんならよーく分かってるでしょ?」

 

「ミカ……さ……」

 

「……うん。恨み言なら後でいくらでも聞くから」

 

 ミカは銃口を向け──。

 

「ごめ……な、さ……い……」

 

 ──その言葉にフリーズしてしまう。

 

「ご、め…………い、わた……せ……で……」

 

「……何それ」

 

 その瞳は虚ろで、しかし確かにミカを捉えている。朦朧としていつ意識が飛んでもおかしくないにも拘わらず、ミカから目を反らそうとしない。

 

 そこには深い後悔があった。

 

 きちんと話を聞いていれば。もっと早くに気付いていれば。

 

 大切な幼馴染みに、このような選択を取らせるようなことは無かったというのに──。

 

「違う、違うよ……謝るのは私の方なんだから。ナギちゃんが謝る必要なんて全く無い」

 

 ミカは首を横に振る。

 

 悪いのは己だ。セイアを襲わせたのも、クーデターの決行を決めたのも、全ては自らの考えの甘さが招いた結果なのだと、彼女は理解していた。

 

 故に、全てが終わった後に誠心誠意謝るつもりだった。土下座でも何でもするつもりだった。

 

 許されようとは思わない。幻滅されることも、一生恨まれることも、絶縁されてしまうことも覚悟していた。

 

 ──しかし、逆に謝られることは、完全に予期せぬものであり、ミカに動揺が走る。

 

「悪いのは私。ナギちゃんでもアリウスでもなく、私なんだ──」

 

 そう言葉にしたその時だった。

 

そう。あなたのせいだよ

 

 声が、響く。

 

 身に覚えが無く、しかしどこかで聞いたことがあるような、そんな声が。

 

「なに、今の……?」

 

これは全部、あなたが招いたこと

 

トリニティの魔女

 

「ッ……うる、さいなぁ……!」

 

 頭が割れるように痛い。

 

 無性に腹が立つ。心底気に食わない声だ。今はこんな意味不明な現象に気を取られている場合ではないのに──。

 

「……どうした、大丈夫か?」

 

 突然額を手で押さえ、苦しそうな表情を浮かべるミカに不審に思った親衛隊の一人が声をかけ、彼女へ駆け寄る。

 

ドゴン!!

 

「ぐはっ──!?」

 

 ──何かがぶつかり、吹っ飛ばされる。

 

「なっ……」

 

 親衛隊が吹っ飛ばされ、代わりにそこに立っていた人物にミカは目を見開く。

 

 その人物は、白衣に身を包み、青い長髪と翼をはためかせ、ショットガンとライオットシールドを構えて力強く誓言する。

 

「これより、“救護”を開始します……!」

 

 トリニティ最強は誰か。

 

 多くの者が剣先ツルギと答え、一部の者は異を唱え、聖園ミカだと言う。

 

 しかし、中にはこう述べる者も居る。

 

 曰く、鋼の白衣。

 

 曰く、ブレーキの壊れた救急車。

 

 曰く、彼女が壊して騎士団が治す。

 

 トリニティ救護騎士団の団長、蒼森ミネこそが、最も恐ろしいのだと──。

 

「ッ……どいつもこいつも……!」

 

 これにミカは苛立った様子で拳を握り締め、思い切り振りかぶる。

 

「!」

 

 轟!! と放たれた右ストレート。彼女──蒼森ミネは盾でこれを受け止め、しかしその怪力により大きく仰け反りながら吹っ飛ぶ。

 

 ──が、数mの所で盾を床へと突き刺し、踏みとどまった。

 

「もういい! 救護騎士団も、シスターフッドも、全員纏めてぶっ潰してあげる!」

 

「聖園ミカさん、あなたにも“救護”が必要です……!」

 

 先刻までの頭痛など忘れ、ミカはその身から“神秘”を放出しながら、決意を胸にこちらへ突貫するミネを迎え撃つ。

 

 戦いは、まだ続く。

 

 しかし、それでも着実に、終幕へと向かおうとしていた。

 

『ほう……ミネ団長までもが。彼女は私に付き添って表舞台から離れていたはずなんだがね』

 

 その光景を、百合園セイアは見ていた。

 

 知らない軌跡、知らない展開、けれども辿り着く未来は変わらず、しかし彼女は目を離さない。

 

 それこそが、この道筋を肯定した自らの責任だと言わんばかりに──。

 





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