アリウスの王   作:大嶽丸

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ChatGPTくんと遊んでたらニトちゃんの良い感じのイラストが生成できました。最近のAIって凄いね(時代遅れ爺)

ニトちゃんの立ち絵。↓


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先生視点※閲覧注意。↓


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作者的にはこんなイメージで想像しながら執筆しています。なんか違う!ってなったらすみません。


信仰

 

 

 視線が射貫く。

 

 つい先程までの、見ているだけで腹立たしくなる酷く憔悴して曇っていたものとは違う。強い意志と、覚悟の籠ったアメジストのような瞳。

 

 そう、この眼だ。あの時と同じ、理不尽に抗うことを決して諦めない強い眼差し。

 

 サオリにとってそれは──。

 

「……戦う、だと? 全部背負う、だと?」

 

 初めて聞く弱音と共に告げられたその言葉を、サオリはゆっくりと咀嚼する。

 

 対峙してからここまでの間に、どのようにしてそんな結論に至ったのか。

 

「ふざけるな……! 開き直るのか? そんなことで許されるとでも……!」

 

「許されるつもりなんて、無い。開き直り……というのは、その通りなんだろう。でも、もう決めたんだ」

 

「ッ…………!!」

 

 感情のままに叫び、しかし、真っ直ぐこちらを見据えるあの眼を前に押し黙る。その決意が紛れも無く本物だということが否が応にも分かってしまうが故に。

 

 向けられる怒りと憎悪を受け止め、彼女は本気でそう言っているのだ。

 

「……そうか。お前は、結局そうやって立ち上がるのか」

 

 どれだけ傷付いても、どれだけ迷っても、どれだけ絶望しようとも、それでも心折れずに前へ進もうとする。

 

 昔から変わらない。それこそが、白洲アズサであり、アリウスの教義を体現するその在り方がいつも羨ましくて仕方が無かった。

 

「本気だということは分かった。だが、もはや何が正しいのかすら分からず、それでも戦うというのか?」

 

 訝しみ、サオリは問う。今まで自らの正しさを信仰して行動していたというのに、その選択は半ば自暴自棄のようにも思えた。

 

「……ああ。私の選択は正しくなかったのかもしれない、間違っていたのかもしれない。でも……それでも私は自分が選んだ道を否定することは出来ない。あの時の私の決意を、意志を無かったことにする訳には行かないんだ」

 

 切っ掛けは、百合園セイア。

 

 後押ししてくれたのは、失楽ニト。

 

 しかし、それでもそれは己が悩み、迷い、考えて、考え抜いた末に出した選択。

 

 間違いなくそれは、アズサが()()()()()()()ことだったのだ。

 

「サオリの言う通り……この世界は理不尽で、私が信じる正しさなんて罷り通らないのだろう。でも、きっと……自分が信じる道を往く。それが私の願い、私が本当にやりたいこと、なんだと思う」

 

 正しいとか、間違っているとかではない。

 

 ただ、自分がそうしたいかどうか。納得出来ずに行う選択は単なる妥協に過ぎない……ニトのその言葉が今一度響く。

 

 きっと、そういうことなのだろう。それを正しさであるとアズサに合わせて表現し、定義付けたに過ぎず、本当はそんな高尚なものではなかった。

 

 自らを突き動かすのは、より原始的な感情。とうにあの御方は答えを示してくれており、自分は今その通りに動かんとしている。

 

 ならば──。

 

「私は、アリウスの生徒だ。今も昔も変わらない……たとえ道を違え、裏切り者だと呼ばれようとも、私の胸にはアリウスの教えが刻まれている」

 

「………………」

 

 サオリは反論出来ない。そのことを他の誰よりも理解しているが故に。

 

「だからこそ、より良い明日を目指す。自分が思う限りの最善を尽くして、ただひたすらに。全てが虚しくとも、どんなに苦しく、理不尽だとしても……たとえ他の誰かを傷付けることになったとしても、私はもう立ち止まらない」

 

 静かな宣言だった。

 

 けれど、その声には確かな熱が宿っており、しかしどこか悲壮な面持ちである。

 

「……そうか」

 

 サオリは小さく呟く。

 

「ならば、証明してみせろ」

 

 ガチャリ、と。

 

 アサルトライフルが構えられる。先程までの激情は読み取れず、けれども銃口は決して揺るがない。

 

「私は、お前のようには考えられない。きっと、その意志は尊いものなのだろうが、それこそが閣下が望むアリウスなのだろうが、それでも……私はお前のようにはなれないさ」

 

「……サオリ」

 

「私にとって、アリウスは帰るべき場所だ。閣下は恩人であり、救世主であり、私達を導いてくださる偉大なる王……それが私がアリウス足らんとする、全てなんだ」

 

 あの日、生まれて初めて“幸せ”というものを噛み締めた。雲の上のような存在でありながら自分のことを視てくれていた彼女へ絶対の忠誠を誓った。

 

 きっと、望まれているのはアズサのような強さを持つ人間だ。自分のような狂信的な忠誠は求められていないのだろう。

 

 スクワッドのリーダーとなり、より近くで関わるようになった段階でとうに理解しており、しかしそれでも止められるはずなど無い。

 

Vanitas Vanitatum et omnia Vanitas.……全ては虚しい。ならば私は、アリウス(失楽ニト)の為に戦う」

 

「……なら、私と同じだ、サオリ。それこそお前が、自分で選んだ道なんだから」

 

 サオリの言葉にアズサは瞠目し、しかし納得する。一見すると真逆で相容れないように見えるものの根底にあるものは同じ。

 

 だが、だからこそ、解り合うことは無いのだ。

 

 アズサが信じるのがニトが掲げた理念と思想ならば、サオリが信じるのはニトという人物そのものであり、そこには決定的な差と隔たりがあった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 沈黙が支配する。

 

 言葉は尽くした。互いに覚悟を示し、知った。

 

 ならば、次にやることは決まっていた。奇しくもそれは古くから伝わるアリウスの流儀でもあった。

 

 ──次の瞬間、二つの銃声が同時に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 熱い。

 

 肺の奥が焼けるように熱い。呼吸をする度に激痛が走り、意識が薄れていく。

 

 誰かが()の名前を呼んでいる。

 

 必死に、けれど遠い。水の中へと沈んで行くような感覚に陥りながら、私は“彼”のことをただひたすらに追憶していた。

 

「御馳走様。大将、会計だ」

 

 初めて会った時は、ただ“恐ろしい”としか思えなかったのをよく覚えている。

 

 まるで現実から切り離されたかのような、しかしその存在を認識した瞬間から今までの日常があっという間に塗り潰されるような感覚に襲われ、私は理解が及ばなかった。

 

 そんな異物としか言い様が無い、赤黒い異形。

 

「──ごきげんよう。シャーレの先生」

 

 それが本当に異常な存在であったことを知った後、二度目の邂逅を果たす。

 

 ゲマトリア……子供を騙し、利用する、悪い大人。唾棄すべき敵であり、それと同じく異形の、それよりもずっと恐ろしい風貌をした彼に対して関連性を疑うなと言う方が無理があり、恐れ、そして最大限の警戒を抱いていた。

 

 でも──。

 

「実を言うとオレもキヴォトスの外から来たのだ。君と同じ出身かは分からぬが、そういった理由もあってこうして話してみたかった」

 

「オレも最初は大いに戸惑ったものさ。街歩く連中誰も彼もが銃器を持ち歩き、ちょっとしたことで銃撃戦を繰り広げるのだから」

 

「実のところオレも未だに慣れてはいない。尤も、いくら死なないとはいえ成人にも満たぬ子供が平気で人を撃ち、傷付け合う“異常”など慣れるべきではないと思うがね」

 

 話してみると、その印象は大きく変わる。

 

 彼は私と同じように外から来て、そして私と同じようにこの街の“異常さ”に戸惑っている側の人間だった。

 

 生徒達が銃を持ち、撃ち合い、傷付け合うことが当たり前になっている光景。痛みは確かに存在し、けれど死ぬことがないからと見過ごされている現実。

 

 この街に来てから、ずっと胸の奥に燻っていた違和感。けれども仕事に追われ、異常の中で暮らす内に感覚が麻痺し、慣れていき……この“狂った世界観”に染まってしまっていた。

 

 そんな唾棄すべき状態だった己とは違って、彼は疑問を抱いたまま現状を憂い、問題提起する。

 

 慣れるべきではないと。

 

 間違っていると。

 

 ハッとさせられた。気付かぬ内に受け入れようとしていた自分に対してゾッとし、嫌悪すら抱いた。

 

 それは先生として、何よりも一人の大人として決して看過すべきではなく、変えねばならぬ現実であると……そんな至極当たり前の真実を、彼は思い出させてくれたのだ。

 

「オレにも()()()()()()()が居てな……君で言うところの生徒のような存在だと思ってくれていい」

 

「意味合いこそ違えど、オレも君と同じ“指導者”という訳だ」

 

 それから会話は続き、彼は自らの素性の一部を明かしてくれた。彼には私にとっての生徒のような……否、口振りから察するに、それこそ“家族”に等しい庇護すべき者達が存在し、彼らを導く立場に居ると。

 

 今にして思えば、ここで深掘りしていればとっくの昔にその正体に気付けていたのかもしれない。そもそも彼は隠そうとすらしていなかったのではないか。

 

「彼女達に幸福を、などと贅沢なことは言わない。楽園を創る、などと烏滸がましいことも言わない。

 

「ただ、ほんの少しでも生きやすい世界を」

 

 不思議だった。

 

 ノイズ混じりで、性別も年齢も分からず、表情すら判別出来ないのに。

 

「より良い明日を。全ては虚しいが故に」

 

 その純然たる願いを語る穏やかな声は、真っ直ぐ胸に響いた。

 

 彼は、カイザーPMC理事や黒服なんかとは違う。柴大将のような善良な大人であるだけでなく、自分と同じような視点と価値観を持ち、それでいてより聡明な考え方でこのキヴォトスの問題に向き合っている。

 

 それを理解した途端、先程まであれだけ緊張し、恐怖していたにも拘わらず親近感が湧く。息が止まりそうな圧迫感もおどろおどろしい空気も嘘だったかのように消えて無くなった。

 

 彼の語った自らの過去にも感銘を受けた。右も左も分からぬ状態で漂流し、己が常識も価値観も通用しない異邦の地で誰かを導き、守ろうとしているその姿勢には、憧憬と尊敬の念すら覚える。

 

 ──嬉しかった、どうしようもなく。

 

 そのような人物がキヴォトスに居たことに歓喜し、同時に酷く安堵した。もしかすると、私は心のどこかでこの街に来てから抱いた様々な疑問や戸惑い、そういった気持ちを分かち合えるような“理解者”を求めていたのかもしれない。

 

 姿形こそ恐ろしくとも、その正体すら知らずとも、彼は間違いなく私にとって──。

 

「──“失楽ニト”だ」

 

「アリウス分校において生徒会長の座に就いている。改めて、よろしく頼む」

 

 柴関ラーメンで語り合ってから彼と会う機会はたったの一度だけで、ちゃんと話したのはあの日を含めても僅か二回しかない。

 

 それでも、自分は彼のことを同じ立場で理想を語り合える大人同士なのだと信じて疑わなかった。

 

 ──彼が何者なのか、名前すら知らなかったというのに。

 

 炎。

 

 瓦礫の山。

 

 飛び交う悲鳴と怒号。

 

 争い、傷付く生徒達。

 

 たった一発の銃声で地獄と化した式典。

 

 あの日、語り合った理想からはあまりにもかけ離れた光景。その惨状を創り上げた張本人こそが彼であった。

 

 その受け入れ難く、しかし紛れも無き現実を前に、私の中の何かが音を立てて崩れる。

 

「君相手には、くだらぬ建前も下手な誤魔化しもするつもりはない。いずれは分かることであるし、君の理想への足掛かりを台無しにしたことへの、せめてもの謝意だ」

 

 何よりも辛く絶望的であったのは、そこに居る彼が変わっていなかったこと。

 

 柴関ラーメンで語らった時と変わらず、誠実で真摯にこちらと向き合い、その姿を前にして否が応にも理解させられてしまう。

 

 裏切られた訳ではない。騙されていた訳でもない。彼は最初から何一つとして偽っていなかったのだから。

 

 守るべき者達が居ると、指導者であると、ミカやアズサの話から関係性があることは明白であったし、それでも気付けなかったのは、気付こうとしなかったのは、無意識にその事実から目を逸らし、自分にとって都合の良い部分だけを見ていたからに他ならない。

 

 理解者であって欲しかった。

 

 同志であって欲しかった。

 

 味方であって欲しかった。

 

 同じ場所から、同じ景色を見て、同じ痛みに顔を顰めてくれる誰かであって欲しかった。

 

 ──だから、目を逸らした。彼の言葉の端々に滲んでいた危うさから。自分と似ているようで、決定的に違う何かから。

 

 彼が敵であるかもしれないという可能性を認めてしまえば、あの日得た安堵も、胸に灯った希望も、全てが崩れ落ちてしまう気がしたから……。

 

 その結果が、この絶望なのだとすれば、何て自業自得な末路なのだろうか。

 

「元々はトリニティとの融和において再現しようとも考えていたが、生憎と頓挫してしまったのでな」

 

 何気無しに放ったであろうその言葉が、胸へと深く突き刺さる。あの時、ミカのクーデターを阻止してしまったことによってもたらされた結果なのだと……言外にそう告げられているような気がして。

 

「それに、このやり方が確実かつ最善だった。アリウス、延いてはキヴォトスにとって……少なくともオレはそう判断した」

 

 追い討ちを掛けるように、信じ難い言葉を告げられて頭が真っ白になる。

 

 責めるような声音ではなかった。

 

 嘲るでもなく、見下すでもなく、ただ事実を告げるような声だった。

 

 だからこそ、余計に胸が抉られる。

 

 彼にとってこれは悪辣な企みではない。愉悦でも、憎悪でも、復讐ですらない。

 

 より良い明日へ至る為に必要な工程。

 

 ただそれだけなのだ。その淡々とした確信こそが、何よりも恐ろしかった。

 

「オレは君ほど潔癖ではない。それが必要だと言うならば躊躇わず実行するとも」

 

 そこで漸く気付いてしまった。

 

 致命的なすれ違いがあったことを知る。理解し合えていたなどという認識は、私だけが抱いていた幻想に過ぎなかった。相手は最初からその隔たりを理解した上で接していたというのに。

 

 その残酷な事実は己の愚かさと盲目さを容赦無く抉り出す。

 

 最善。

 

 そう告げた彼の言葉は理解し難く、しかしならばそう言う私は、果たして最善を尽くせていたのか。

 

 犠牲無くして出来ることは無いのだという事実を否定したく、しかしそれこそが事実であることを彼が……否、私自身がとうに証明してしまっていた。

 

 だって、あの時にミカのクーデターを阻止したから。血が流れることを許容出来なかった私はその手段を拒絶し、ナギサ達を救った。

 

 結果としてトリニティ全体を揺るがす混乱を未然に防いだ。当時の私は、それこそが最善だと、正しい選択だったのだと認識していた。

 

 だが、今になって気付く。あの時の私は、ミカの想いを切り捨てたのだ。

 

 その判断が間違っていたとは言わない。彼女なりにトリニティとアリウスの融和を真剣に考え、しかしどうにもならなくなったからこそクーデターを決行せざるを得なかったということも理解しているが、それでも先生である以上、生徒が傷付く結果で終わるのは容認出来るはずがない。

 

 きっと、私は何度でも同じ選択を取る。しかし、今の今まで私は愚かにも血が流れぬよう犠牲無く成し遂げたつもりで、あまつさえミカの手を汚さずに済んで良かったとすら思ってしまっていた。

 

 確かに踏みにじったものは存在していた。なのに、私はそれに気付きもしなかった。

 

 そして、今回はその時の自分と同じことを、今度は自分がやり返されたようなものだ。彼もまた、これが最善であると信じた。そう信じて、この惨状を創り上げた。

 

 違うのは、ただ一つ。

 

 彼は最初から、犠牲が出ることを理解していた。誰かの願いを踏みにじり、誰かの明日を奪うことを承知の上で、それでもなお必要だと判断し、決行したということ。

 

 ──私は、理解していなかった。

 

 血が流れるのを防ぐことは出来ても、犠牲になるモノは存在している。それは結局のところ何かを成す上で回避出来ぬ事象なのだと。

 

 そんな事実に打ちのめされた。私はその事実から目を逸らし、自分だけは犠牲を出さずに済ませたのだと思い込んでいたのだ。

 

 その認識の甘さを突き付けられ、言いようのない衝撃に襲われる。

 

 何が正しくて、何が間違っているのか。

 

 それすら分からなくなりそうで、ただ絶望だけが胸の内に広がっていった。

 

「君が歩くのは、茨の道だ。様々な苦難が立ち塞がり、懸命にやったことが無為に終わることもあるだろう。全ては虚しいが故に」

 

 なのに、何故だろうか。

 

「この先、如何なることがあろうとも、どうか、その思いを忘れないでくれたまえ」

 

 現実が受け入れられず、心が折れそうになって……それでも奮い立たせようと、立ち上がらせようと脳裏に浮かぶのは、他ならぬ私を絶望させた彼の言葉だった。

 

 嗚呼。

 

 あなたは、何で……あの時、そのような言葉を私へ掛けたのですか? 一体どんな思いで──。

 

『──そうか。君には()()見えていたのか。君の彼女への対応にはどうも違和感があったが、漸く解決出来たよ』

 

 誰かの声がする。

 

『随分と思い悩んでいるようだね……彼女の有無でここまで変わるとは、不思議なものだ。でも私としては今の君の姿はとても好ましいよ』

 

 その姿が、朧気に見える。

 

 何度か夢を介してこちらへ語り掛けてきた少女。ならば此処は夢の中なのだろうか。

 

『しかし、ふむ……言葉は不要か。どんな目に遭おうとも、君の在り方は揺らぐことはなく、信じた道を往く。そうだろう? 先生』

 

 そう言ってこちらを見据える眼は、何もかもに諦観しているようでその実、決して揺るがぬ強い意志が垣間見えた。

 

 以前からそうだった。語る内容には深い絶望が存在し、苦しげで、どこか投げやりになっているようであるにも拘わらず。

 

 それは強く、しかし危うい。一歩間違えれば致命的な所にまで行ってしまうと感じた私は呼び掛けようとするも、その姿はぼんやりと、ゆっくり遠ざかっていく。

 

『いってらっしゃい、先生。私も……やれるだけのことはやる。この身に代えてでも、運命に抗うさ』

 

 少女は微笑む。

 

 遠ざかる背中を追おうとして、手を伸ばす。

 

 けれど、その指先は届かない。まるで彼女が最初から、誰にも救われるつもりなどなかったかのように。

 

「──先生?」

 

 初めに感じたのは、軟らかな感触だった。

 

 白い天井。消毒液の匂い。規則的に響く機械音。そして、こちらを覗き込む誰かの顔。

 

 永劫にも感じられた微睡みの底から、私はようやく水面へ浮かび上がるように目を覚ます。

 

 身体は重い。肺はまだ焼けるように痛む。けれど、それ以上に胸の奥で燻るものがあった。

 

 何をすべきか。何を選ぶべきか。

 

 答えはまだ無い。けれど、問いだけは確かにそこにあった。

 

 私は、ゆっくりと息を吸う。痛みと共に、現実が戻ってくる。

 

 その疑問と共に──。





セクシーFOXさんは、果たしてここから挽回出来るのか……?
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