TS淫魔の酒場記録   作:ぷに凝

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“月下のヒツジ亭”

転生!女!!淫魔!!!ウェイトレス!!!!

 

異世界に転生したら淫魔で社会的地位が皆無だったので酒場に就職した件。

 

それが私の異世界人生の始まりを端的に表した一文だ。

 

前世じゃどこにでもいるような男子学生だった私だが、内に秘めていた女装趣味を異世界の神に見抜かれたのか、この世界で晴れてTSして女にされた。しかも種族は淫魔だ、淫魔。

 

確かにエロ猿でもあったけど!!それは若かったら皆そうだろうが!!

 

と、憤慨のあまり生まれた森の中で地団駄を踏んで怒鳴り散らかしていると、通りすがりの男性冒険者に見つかり、殺されそうになり、逃げて逃げて逃げた先。

私が裏路地で膝を抱えて座っていると、“月下の羊亭”という酒場のマスターに拾われ、私はウェイトレスとして雇われることになった。

 

自分で言うのもなんだけど、その頃の私は軽い……というか、それなりに重度の人間不信に陥っており、拾ってくれたマスターに対しても、少し険悪な態度を取ってしまったことは申し訳ない。

 

森の中で追い回された経験だけじゃない。一度捕まって、なんというか、その……乱暴されそうになったのだ。裸だったしね、その頃の私。男だったから気持ちはわかる。

 

あとおっぱい大きいし。

 

なんでもこの世界での淫魔というのは通常、青い肌に蝙蝠の顔という化け物みたいな容姿をしているのだそうだ。だからそういう淫魔は普通に殺されるんだけど、私みたいな普通の肌色で、顔も超絶可愛い美少女淫魔が極々たまーにいる。

 

あとおっぱいも大きい。

 

そんな淫魔は、冒険者たちの間で冗談めかしてこう言われる。「犯してから殺せ」って。

 

魔物というのは存在自体が罪。殺したからと言って、咎められることはない。それを責める人の方が異常者と言われる始末だ。それはそう。私だって以前までは“スライムを殺すなんて可哀想!!”なんて声を荒らげる人がいたらちょっと距離空けちゃってただろうし。

 

だけどその当たり前の価値観が、私にとってこれ以上ない恐怖だった。暴力を振るわれても、乱暴されても、殺されても。私は誰にも助けを求めることができない。

人間の街にいるはずなのに、魔物に擬態した状態で魔物の住処に潜入しているような感覚。バレたら即死。怪しまれたら即死。心を許せば即死。

 

色々と疲れて、もう全部終わりにしようと貧民街に落ちていたナイフを取り出した所でマスターと出会った。

 

時間をかけて、少しずつ。暗闇の底から一段ずつ階段を登って明るい場所へと。そうやって私は、なんとか笑えるようになり……。

 

「あはははははは!!!!」

 

今、酒場で手を叩いて爆笑しています。

 

「ほーら、やっぱりフラれたじゃーん!!無理に決まってんじゃん受付嬢なんて。相手選び放題なんだしさぁ〜」

「くっそぉ……イケると思ったんだよぉ……!俺にだけ他の奴と違う笑顔で笑いかけてくれるし、手もたまに触れるし、目も良く合うしさぁ……」

「それ、全部受付嬢の接待の基本だから」

 

私は賭けの勝者のみが飲むことができる美酒を一気にグイっと煽った。

 

「ぷはぁ!染みる〜!!」

 

口の端についた泡を拭うと私が座っているテーブルに頭を突っ伏している男性冒険者……ルッシさんが真剣な目で見上げてきた。

 

「……メリリアちゃん。物は相談なんだけどさ」

「あ、私は付き合わないからね〜」

「なんでだ!!!!!」

 

再びゴツンとでかい音がしてルッシさんが机に突っ伏した。

 

「もう女なんか一生信じないから!!あたいもう独り身で生きていくもん!!」

「う〜ぃ、頑張ってね〜」

「淡白!!」

 

ルッシさんがなんか言ってるが、もうお酒が回って何が何だかわからない。とにかく今日は夜風が気持ちいい。

 

「……ハァ。でもさぁ、こうやってメリリアちゃんが話聞いてくれるだけで、俺って幸せもんだなって思うわ」

「えっ、何いきなり。気持ち悪っ」

「ひでぇ……」

 

この世の終わりのような目をしたルッシさんを見て、私はため息を吐いた。

 

「ルッシさんは高望みしすぎなんだよ。依頼でも、女の子でもさー。もっと身の丈に合った恋をしなよ」

「なんて残酷なことを言うんだ。夢見るのは男の性だろ!?」

「夢見るのと妄想見るのは違うけど」

「おぅフ」

 

バッサリと切り捨てられたルッシさんは気持ち悪い声を出して胸を抑えて死んだ。

 

「……わかってんだよなぁ。でもさぁ、やっぱ手を伸ばしたくなっちまうんだよ。届かねぇって分かっててもさぁ……」

 

しかし即座に回復したルッシさんが落ちた声色でグルグルとアイスだけが入ったグラスをかき回す。

 

「……ま、でもルッシさんはすごいと思うよ?」

「どこがぁ!?」

「顔近いわボケ」

「どふっ」

 

額にデコピンをして、ルッシさんを吹き飛ばす。

 

「普通の人はさ、最初から“俺には無理だ”って諦めちゃうもん。でもルッシさんは無理だとわかってても向かっていくでしょ?そういうとこはさ〜」

 

私は手を伸ばし、吹き飛んだルッシさんのボサボサの頭に伸ばした。

 

「かっこいいと思うよ?」

「……」

 

なでなで。

 

おまけでルッシさんの寝癖を少し直してあげる。

 

「……メリリアちゃん」

「うん?」

「結婚しようぜ、俺と」

「さーて汚いもの触っちゃったから手洗わないと」

「っておーーーーい!!」

 

私は立ち上がり、手をパッパと払いながらカウンターへと歩いていく。

 

「なぁ!俺マジなんだけどメリリアちゃん!?」

 

私は少しだけ振り返って、くすくすと笑いながら言った。

 

「もっとかっこよくなったら考えてあげる」

 

カウンターに入ると、裏方のマスターが酒瓶の入った樽を出してきていた。

 

「(こくこくと)」

 

さて、“月下のヒツジ亭”の開店時間だ。

 

夜の帳が上がるまで、小さな夢を魅せてあげよう。




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