冒険者。
彼らは私のイメージ通り、その日暮らしの荒くれ者って感じだ。昼は魔物と戦い、夜は酒や女に金をパーっと使って、また魔物を殺す。
近隣地域では魔物の被害が甚大だ。“間引き”の意味で冒険者の存在は欠かせない。だけど冒険者は命を賭けてる割りに薄給で、その仕事は割に合わない。
言ってしまえば害獣の駆除作業を、“宝”だとか“夢”だとか耳障りの良い言葉を教養のない市民に言い聞かせて奉仕させる。それが冒険者という存在なのだった。
「なぁ!?ひでぇ話だろ!メリリアちゃん!」
「本当にねー。でもローメンさんは楽しそうだね?はいエール一丁〜」
「がははは!そりゃメリリアちゃんがいるからだな!!」
だけど本人達は、そんな自分の境遇を笑い飛ばしている。
私がエールを置いた席にいたのは、片腕が機械で出来ている褐色禿頭の大男、ローメンさんだ。
強面、かつ色々と大雑把な人ではあるけど、悪い人じゃない。前世で言うところの、“優しい前科者”って感じかな??わざと怒らせるようなことを言わなければ、ただの気のいいおじさんだ。
「あ、ところで聞いたか?メリリアちゃん」
「うん?どしたの?」
私はローメンさんが平らげた食器を片付けながら話を聞く。今の時間はゴールデンタイムだ。一挙手一投足を無駄に出来ない。私は自分の体をフル活用して仕事をこなしていた。
「“クレーバス”の小僧。死んだってよ」
「……」
だけど、コンマ1秒も無駄に出来ない激務の中で、私はその言葉を聞いて不覚にも一瞬体の動きを止めてしまった。
「……そっか」
それだけ聞いて、私は他の席へと向かった。
「いらっしゃいませ〜!ご注文はいかがなさいますか?」
「おっ!来たよ、メリリアちゃん!」
「あっ、リク君じゃん!来てくれたんだ!」
「そりゃ来るよ!メリリアちゃんに会えるって聞いたら!」
……冒険者は死ぬ。
それはもう、ポンポン死ぬ。特に冒険者になりたての新人は。
“冒険者の山”と呼ばれる特に死亡するタイミングが多い時期があって、それがなりたてと、昇格直後と、冒険者になってから三年目。
“月下のヒツジ亭”の顔ぶれが変わるタイミング的にも、私の肌感的にも、それはあまり間違ってないと思う。
“死”が当たり前。隣り合わせの彼らにとっては刹那的に生きることが当たり前なのかもしれない。
だから私も、新人冒険者やまだ歴の浅いなりたての冒険者なんかにはあまり入れ込まないようにしてる。
その代わり、3年目という峠を越えてもまだピンピンしてる冒険者さんには、私が個人的に一度だけ。同伴で酒場の料理や酒をサービスしてあげるのだ。
だから冒険者さんよ、すぐにおっちんじまったら、美少女ウェイトレスの接待が受けられないんだから。
頑張って生き残ってよね。
◆
この世界での女性の立場ってのは、相対的に低い。
相対的に、っていうのは要するに、男性の地位が高いからどうしても女性の発言権みたいなものは弱くなっちゃうよね、って話だ。
前世じゃ男女平等やら参画社会やらがうるさいくらい叫ばれてたが、それは争いが滅多にない社会だからこそ。
戦争、魔物駆除、内乱の鎮圧……腕っぷしが必要になる事案が多ければ、それだけ男性の意見が尊重される。
女性の役割ってのは主に結婚して、子供を育てること。結婚の適齢期は15〜18歳で、それぐらいの歳の子が父親と同じ年齢の男性の元に嫁ぎに行くみたいなことが当たり前に行われる。
ってなもんで……。
「あら、メリリアちゃん!もういい相手は見つかったかい!?」
市場で野菜を品定めしていると、店主の恰幅のいいおばちゃんに捕まった。
「まだなんですよ〜。なかなかいい相手が……」
「なんだい、メリリアちゃんみたいな器量良しを男共が放っておくなんて、見る目のない連中だよ!うちのせがれはどうだい!?」
「あはは、考えておきます……」
こういう見合い話は枚挙に暇がない。
私は自分の年齢を公表したことはないが、見た目からして10代後半から20代前半と当たりをつけられる。となればもう結婚しててもおかしくない頃で、当然結婚は話題の中心だ。
まぁ、実際にはこの世界に生まれて1年も立ってない赤ちゃんなんだけど。
「いやメリリアちゃん、真剣な話さ。メリリアちゃんみたいな後ろ盾のない子は、さっさと家庭持った方がいいよ。じゃないともしもの時に守ってもらえないんだから」
「うーん、でも、マスターがいますし……」
「いやいや、アイツももういい歳だよ。病気なんかしたらどうするんだい?貯蓄もないんだろう?」
私はこの手の話を愛想笑いで誤魔化すしかない。相手がいない……ってわけじゃない。嬉しいことに、見合い話はそこそこの頻度で来る。有名とは言わないけど、色んな所に顔を出してはいるからね。
ちなみに私はマスターの親戚の子ということになってる。嘘八百もいい所だが、孤児や出身不明ということになると色々と面倒なのだ。気を利かせてくれたマスターにはホント、頭が上がりませぬ。ありがたやありがたや。
しかし、それでも結婚なんて出来るはずもない。そもそも人間じゃないし。
私に尻尾や翼、角といった魔族的特徴はないが、人間の子供を妊娠することもできない。子供を作るための行為のアレコレは全て魔力として吸収されてしまうのだ。食事もそう。全てが魔力になる。
私が結婚どころか、お付き合いの相手すらいないのはこのためだ。
「うちのせがれは確かにアンポンタンだが、メリリアちゃんには本気だよ。私が保証するさ。アイツはいい旦那になるよ」
なので、八百屋のおばさん……ゼニーさんというのだが、彼女の息子さんにも、何度か酒場で口説かれたことがあったけど適当にはぐらかした関係。悪い人ではないと思うけど、やっぱりお付き合いはできない。
「……ごめんなさい。やっぱり今は、まだ結婚は考えられないんです」
「……そうかい」
私がそう言うと、ゼニーさんは難しそうな顔をして言った。
「やっぱり、前の婚約者ってのが忘れられないかい?」
「……はい」
私は、虚空を見つめているようで、視線はその先にいる想い人に注がれているようなな物憂げな視線を向けた。
……誰もいないけどな!!
色々と面倒な見合い話をやり過ごすために、以前、婚約者がいたがその男と死別したという設定にしたのだ。名前はケイさん。有力貴族の嫡男で文武両道。優しくてお金もあって完璧なイケメンらしい。会ったことないけど。
その男のことを語る時のメリリアはまさに雌の顔……と、周囲の人間にはまことしやかに噂されているが、二次元嫁を熱く語るオタクの熱量で語ってるんだからそりゃそうだ。現実に二次元嫁はいない。
なんか泣きたくなってきたんだけど。
「ちょ、な、泣くんじゃないよ……」
現実の非情さに心を打ち砕かれていると、何かを勘違いしてしまったゼニーさんがばつの悪そうな表情であたふたとしていた。
「い、いえ。ごめんなさい……」
「……ごめんね。あたしが悪かったよ。メリリアちゃんの気持ちも考えずに……」
私は身を乗り出したゼニーさんの色々と逞しい腕に抱かれた。
周りが少しざわざわしている。注目を集め始めてしまったらしい。
「ほ、本当に、大丈夫なので……」
「いや、アンタどう見ても大丈夫じゃ……」
「そ、それでは」
私は色々といたたまれなくなってその場から逃げ出した。
ごめん、ゼニーさん。そんな痛々しいものを見るような目で見ないで……。
……その日の夜、何故か店員側の私が客として来た皆に接待されるという光景が“月下のヒツジ亭”では繰り広げられたそうな。