TS淫魔の酒場記録   作:ぷに凝

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ガールズトーク(?)

「アズせんぱーい。このお皿、ヒビ入ってません?」

「あら、本当?……本当ね」

 

私が食器洗いをしていると、僅かなヒビ割れを見つけた。

 

「じゃあそれは捨てちゃって?同じものを買ってくるから、それまで別のお皿で代用しておいて」

「りょうか〜い」

 

こういうのは見過ごしちゃダメだ。僅かな切れ目でもお客さんの指を切っちゃったりするからね。

ウチに来るお客さんには冒険者が多いから、ちょっとの切り傷くらいなんてことない……と思わせておいて、実は結構大事だ。

 

なんでかと言えば、この街での冒険者というのは手厚く保護されていて、故意に傷つけたりすれば罰金を支払うことになるからだ。

 

「よいしょ……っと。洗い物終わったので、ゴミ出してきちゃいますね」

「あ、ちょっと待って」

 

私が濡れた手を付近で拭き取っていると、アズ先輩がぱたぱたと走って自室へ向かう。

 

「これも、入れといて」

「……」

 

そう言ってアズ先輩が渡してきたのは、丸まってこんもりとした布。手に持つとほのかに暖かい。

 

「……アズ先輩、ノンデリって言葉知ってます?」

「え?どういう意味?」

「いや、いいですけど」

「えぇ!?ちょっと、気になるでしょう!?」

 

私の何か言いたげな表情で不安になったのか、アズ先輩がガクガクと肩を揺さぶってくる。

 

……女同士ならいい、のか? 一応私は元男なんだけどなぁ。

 

 

アズ先輩……もといアズラ・ミシェルさんはヒツジ亭の先輩ウェイトレスさんだ。

 

赤毛のカールしたモフモフの髪と、切れ長の瞳。高い身長。長い足。普通に……というかかなりの美人さんで、日本だったらモデルとしてスカウトされてもおかしくなさそうな高スペックお姉様。

 

しかも。

 

「メリリア、私、この前愛の告白を受けたのよ。“君しか見えない”ってね。あぁ、困っちゃうわ。モテる女は辛いわねぇ」

「マシリトさんのこと?この前結婚した」

「えぇ、そう……は?結婚?」

「うん」

「……」

 

残念美人属性まで持っている。無敵かよ。

 

ちなみにマシリトさんは冒険者ギルドでも高い役職についてる役人さんで、先日どこぞのお貴族様のご令嬢と籍を入れたという話だった。

マシリトさんは普段から“アズちゃんのケツがデカくて何も見えない時がある”と話していた。

 

普通にセクハラである。

 

アズ先輩は元々、お金持ちの商家出身のお嬢様だったらしい。

 

だけど婚約相手とのトラブルがあり、最終的に家を追い出されてしまったらしい。

なんでも、10年以上お付き合いしていたお相手が裏では浮気をしていて、しかもその相手が貴族だから関係悪化を防ぐためにアズ先輩の方から婚約破棄を申し出たことになったとかなんとか。

普通に胸糞悪い話だし。もう結婚適齢期を過ぎたアズ先輩を貰ってくれる王子様もそうそう現れない。そんな時に彼女をマスターが拾って、ここで働いている。

 

身の上話を聞くと、かなり辛い境遇に思えるアズ先輩だけど、先輩はいつも前向きで、明るい。

絶対に本人には言わないけど、密かに私の憧れだ。

 

「メリリア、あなたいい加減いい相手は見つかったの?」

「いやぁ、まだかなぁ」

「なーにやってるのよ。アンタみたいなのを男どもは放っておかないでしょう?」

 

なんだかアズ先輩にどこかで聞いたようなことを言われた。

 

「男なんてみんな上目遣いで手掴んでそのままベッドに連れてけばその気になるんだから。さっさといい男捕まえちゃいなさい」

「身も蓋もないなぁ」

「そういうものよ。愛なんて」

 

アズ先輩の目から光が失われている。

 

言葉に説得力がありすぎる……。

 

「別に相手を好きになる必要なんてないの。一つだけ、どこか人間として尊敬できる部分があればそれで十分。顔でもお金でも、特技でもね」

 

なんかすっごい人生を達観していらっしゃる!!

 

あれ、アズ先輩ってまだ20代だったよね?なんでこんなに貫禄があるんだろう……。

 

「あぁ、でも一つだけ。イケメン、かつ冒険者はやめておきなさい。例外なくヤ○チンだから」

「チ……!?」

 

突然の下ネタに私が食器を落とす。幸い木製のボウルだったため損害はゼロだ。

 

「なに動揺してんのよ。今更清純キャラで売っていこうなんて考えてるんじゃないでしょうね」

「い、いやぁ……」

 

別にシモが苦手なわけじゃないんだけど……。

 

相手が女の人だと、シモってよりなんか妙に生々しい話になるというか……ねぇ……?

 

「アンタだって男性経験くらいあるでしょ。そういう時は大抵お遊びだろうけど、結婚となると身体の相性は重要なの。体で相手の男としての格を見極めなさい。まぁ、そういうのは私よりアンタの方が得意でしょ?」

「……」

「何黙ってるのよ」

 

私が目を逸らし、なんとも言えない表情で食器を洗っていると、アズ先輩が怪訝そうな顔で私を見てくる。

 

み、見ないで……。

 

アズ先輩が目を見開いて、信じられないものを見るような目で見てきた。

 

「……アンタ、まさか」

「あー、うー……あー……」

「……本気で言ってんの?」

 

……私はなんとも言えない表情で、こくんと頷いた。

 

アズ先輩は、口をあんぐりと開けて……大きく息を吐いた。

 

「いや、まぁ……そういうこともある、か……いやでもメリリアくらい可愛くて愛想いい子でそんなこと……えー?じゃあ私は何なのよ一体……」

 

アズ先輩がすごく険しい顔でブツブツ言い始めてしまった。

 

何か盛大に勘違いされてそうな気配がするけど、ごめんなさい、人間じゃなくて……。

 

「……メリリア」

「はい?」

「私、ようやく貴方のことがわかったわ」

 

その言葉に、僅かに頬が硬直する。

 

……バレた!?私の“種族”!!

 

「あなた……男が怖いのね」

「……」

 

あー、良かった!!

 

アズ先輩が残念美人で良かったぁ〜!!

 

「そう……実は、そうなんです」

「やっぱりね……」

 

私がいかにも図星を突かれたように頷くと、アズ先輩もまたしみじみと頷く。

 

「どおりでアンタ、そんな地味な制服着てたわけだ」

「じ、地味って……結構かわいいですよね?」

 

ウェイトレス服のスカートの裾を持ち上げる。うん、シンプルながらもシックで、ゆったりとしたデザイン。お気に入りだ。

 

「可愛いには可愛いけど……」

「可愛いけど……?」

「“媚び”が足りないわ」

「“媚び”が!?」

 

何!?その基準!!

 

「良い?男ってのはね、自分に自信がないくせに周りに自分を強く見せようとして、しかもプライドを傷つけられたらすぐに怒り出すどうしようもない生き物なの」

「お、おぅぉ……」

 

すごい反応しづらいことを言われてしまった。元男の身としては。

 

「だから“媚び”が必要なの。媚びてくる女は下に見れるでしょう?下に見れる女と一緒にいると、男は安心できるの。安心できる女を男は欲しがるのよ」

「そ、そうかなぁ……」

「そういうものよ」

 

なんか、すごく尖った人生観のような気もするけど。

 

まぁでも、そりゃメイドカフェにいるメイドさんほどフリルいっぱいの見栄え重視にはなりようはないにしても、実用的なデザインすぎるってのは確かにあるかも……?

 

アズ先輩の制服はスタイルのいい身体のラインがハッキリ出るような薄手の布を使ってるもんね。その制服がアズ先輩の魅力を数段引き上げている。

対して私はボディラインが隠れるように、厚めの生地を使ってスカートの裾が大きく広がっている。

これには理由があって、あんまり体の線がハッキリ出ちゃうデザインだと、視線のせいで全身がムズムズして仕事にならないからだ。

 

目立ち過ぎない、その上で実用的で、それなりに可愛く。

 

それが私の求める自分の仕事像だった。

 

でも、そうか。“安心感”。

 

確かにそれは重要かもしれない。

 

「……アズ先輩」

「なに?」

 

確かに私は学ぶべきかもしれない。

 

「“媚び方”を教えてください!」

 

本場の“媚び”というものを!!

 

「……その言い方なんか微妙なんだけど」

「あ、すいません」

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