午後のトレーニング準備も今できる分は終わってしまい、昼を食うにはいい時間だ。
やけにいい挨拶をしてくれるウマ娘達と先輩、同期トレーナーたちに負けじと挨拶を返し食堂に向かっていると緑色の女性と目が合った。
「おはようございます、たずなさん、これからお昼ですか?」
「あら、おはようございます、播磨トレーナー♪ええ、ちょうどお昼にしようかと思ってました。」
「でしたらご一緒にどうでしょうか、たずなさんとは色々話したいことがありまして。」
「まぁ、熱いお誘いですね、ウマ娘さん達の為なら私も人肌脱いじゃいましょうか。」
そう言い袖を捲りフンスと言わんばかりに力瘤をつくる、
細身に騙されそうになるが鍛えていたものの腕だ、やはりたずなさんは昔レースに出ていたのだろうか。
いや、レースに出ていたからこその体験を交えた解説が出来るからこその学園長秘書なのだろう。
たずなさんと食事を摂りながらトレーニングについて色々と相談をしていると聞き覚えのある声が向かってきた。
「トレーナーさん!」
「おおバクシンオーか、予定が無いなら一緒にどうだ、たずなさんの話はいい影響になるだろう。」
「ふふ、精一杯頑張ります。」
ありがとうございます!といつも通りの元気な声で俺の隣に腰掛けた、何も席二個分くらい使ってる俺の横に座らなくても、現にバクシンオー斜めってるし。
「では、お聞きしたいのですが!」
「はい、私に分かる事でしたら。」
「長距離を走るコツを教えてはいただけないでしょうか!」
長距離という言葉に困惑するたずなさん、
それもそうだ、後から知ったが模擬レースに出るたびサクラバクシンオー=短距離の申し子だと言われるほどの才を持ちながら長距離を走りたがる変わったウマ娘だと。
たずなさんもてっきりバクシンオーが折れて短距離に移行したからトレーナーが付いたものだと思っていたのだろう、
実際先輩トレーナーにはバクシンオーを長距離に挑ませると言った時大分怒られた、あの才を潰す気かと。
「播磨トレーナー、本当によろしいのでしょうか...?」
「ええ、私とバクシンオーで決めた事です、私たちは長距離に挑みます。」
「バクシンオーさん、本当によろしいんですね?その道は厳しいなんて言葉では言い表せないほどの苦行ですよ?適性外の距離を走るというのはそういう事です。」
バクシンオーは確かに修羅の道を行くだろう、ゼロからスタートならまだしもバクシンオーの体は短距離を走るものとしてデビュー前から完成しつつある、はっきり言って異質な程の才能だ、短距離の重賞ならば前人未到の記録をいくつも打ち立てただろう。
「はい、覚悟の上です!私は、トレーナーさんと一緒に長距離へ挑みます。」
熱い桜の瞳がたずなさんを焼く、俺は何故そこまで長距離にこだわるのかを知らない、だがこの瞳を見て確信したのだ、体に爆薬巻きつけたあいつでも無い、から元気を振る舞っていたあいつでも無い、
絶対に帰ってくると、やり遂げる覚悟を決めたものの瞳だ。
だから、俺はこのウマ娘を信じたのだ
「たずなさん、私からもお願いします、俺はバクシンオーが長距離で逃げ切る姿が見たいんです、理想を成すバクシンオーの姿が見たいんです。」
「お願いします!」
困ったような顔をして、諦めたような顔をして、吹っ切れたような顔をして。
「分かりました、ですが、播磨トレーナー、あなたにやってもらいたい事があります。」
「分かりました、やりましょう。」
即答
「ちょっとは考えて下さい!」
バクシンオーですら驚いた顔をしているが仕方ない、俺はまだトレーナーとしてはペーペーだ、縋れるものは藁だって縋る、今回縋るのは大木だったが。
「はぁ、播磨トレーナーを呼んだ真の理由と言うべきでしょうか、本当はもう少し経験を積んでもらってから始めて欲しかったのですが、少し、スパルタに行きますね?」
にっこり笑うたずなさん、やはり只者ではない凄みを感じる、彼女の協力を仰げたのは俺史上1番のファインプレーだろう。
「ええ、貴方のようなレースを知っている人に協力してもらえるなら何でもしましょう、それに私ではウマ娘の感覚は分かりませんから、たずなさんがいてくれると助かります。」
筋肉の質で俺も負荷を調整しているが実際にウマ娘であるたずなさんならもっと正確にギリギリを攻めれるだろう。
「え?」
俺の話を聞いているとふと帽子と腰を抑えるたずなさん、何かを探っているようだが特に何かがあるようには見えない。
何やら慌てた様子だがふと周りを見ると食堂のほぼ全員がこちらを注目していた。
うむ、大分騒いでしまった、立ち上がり非礼を詫びると徐々に元の空気に戻っていったがたずなさんはしきりに帽子を触っていた。
トレーナーはストリートファイターのガイルを日本人にしたみたいな体格しています。
バクシンオーはトレーナーの5倍は喰います