ルフィと対峙した敵に運とタフネスが足りなかった世界   作:浅学寺のえる

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Mr.ランターンさん
波打つ水面さん
誤字報告ありがとうございます。


再会

 〜 〝偉大なる航路(グランドライン)〟とある冬島 〜

 

 赤髪のシャンクス。彼は現在、雪が降り頻る小さな島に逗留している。ここは、偉大なる航路後半の海〝新世界〟──海軍すら軽々には動けない、海の皇帝達が跳梁跋扈する海。

 シャンクスもまた、海の皇帝と称させる大海賊〝四皇〟の一人である。

 

 「どうした、お(かしら)。また二日酔いか?」

 

 宴を開く中、酒が進んでいないシャンクスへ幹部の一人が揶揄う口調で声をかける。どんなに高みへ登ろうとも、自由こそが海賊稼業。彼らはそう考えている。長年行動を共にしている幹部達は、尚の事。堅苦しさなど皆無である。

 どこか浮かない様子のシャンクスへ酒を勧めるのは、肉を咥えた幹部の男。二日酔いには〝迎え酒〟が一番効くと彼が言う。シャンクスは一瞬考え、その冗談に乗る事にした。

 彼は差し出された酒を一口にあおると、大袈裟に顔を顰める。そして、気分が悪いと言って席を離れていった。そんな様子を目にし、幹部達が笑い出す。だが、副船長だけは見逃さなかった。去り際に見たシャンクスの横顔は、どこか憂いを帯びていたのだ。

 

 

 シャンクスは、数奇な人生を歩んできた男である。彼はこれまで、幾度となく〝因果〟が巡る状況を目にしてきた。己と同様に、宝箱へ入っていた赤子との出会い。かつての船長と同じ言葉を放った少年との出会い。例を挙げていけばキリがない。それらはみな、偶然の産物と片付けるには、余りにも似通った出来事。

 まるで誰かが、世界の運命を描いているかのような奇妙な一致。彼の人生には、そういった体験が数多くあったのだ。

 

 そして現在──似ているという段階を通り越し、ついに因果は完全に一致してしまった。

 

 

 「まさか、もう一度()()()を目にする事になるとはなァ」

 

 彼の見つめている果実は、敵船から襲撃を受けた際の戦利品。奇妙な見た目の果実。パイナップルを思わせる形状の悪魔の実──〝バラバラの実〟である。

 それは、少年時代に見た物と全く同じ果実だった。巡り巡って、己の元へとやってきた悪魔の実。かつて、この実を食べた者が既にこの世を去った証。先日の新聞に載っていた〝死を呼ぶ麦わら〟の記事を裏付ける証拠。

 

 「ハハ、てっきりどこかで生きていると思っていたが……」

 

 目の前の果実が、そんな思いを完全に否定する。

 昔馴染みの()()へと酒を流しかけ、遠い日々の記憶を頭の中で巡らせるシャンクス。いつか海で出会えば敵同士。お互いに海賊ならば、殺し合いになる事もあるだろう。そう語ったにもかかわらず、ついぞ出会う事は無かった。

 

 海賊の世界ならば、こんな事もある。互いに譲れぬ〝誇り〟があるならば、死闘となるのも必然な世界。海賊同士が戦って、負けた方が海へと散っただけの話。

 既に別の道を歩んだ者が、これ以上の感情を抱くのは筋違いなのだ──なにも語らぬ〝実〟が、そんな〝意志〟を告げてくる。

 

 

 惜別は、もう昔日に済ませている。ならば今は、笑い話の一つでもするべきだろう。

 

 しばし幻影と語り合い、酒を酌み交わす。寒さに鼻が赤らむ頃、酒瓶は空となっていた。

 雪原へと立てた瓶を背にし、隻腕の男は仲間の元へと戻って行く。

 空は曇り雪が降り頻る。されど男の表情は、一転して晴れ渡っていた。

 

 

 「おっ! お頭が復活したぜー!!」

 

 「ハハハ! 待たせたな。そうだ、()()()を食いたい奴がいたら食っていいぞ」

 

 まるで酒のツマミを出すかの如く、軽いノリで宴会の場へと提供される悪魔の実。一気に沸き立つ若い海賊達。怪訝そうな顔を浮かべる一部の幹部達。

 海賊の宴は、まだまだ終わらない。遣いへ出した〝新入り〟からの連絡が来るまで、彼らの宴が終わる事はない。

 

 

 

 

 〜 〝偉大なる航路(グランドライン)〟前半の海 〜

 

 アラバスタ王国を出航して数時間経った現在。メリー号へは珍客が訪れていた。

 甲板に現れた巨大な(ハヤブサ)──その正体は、ログを頼りに飛んできたペルである。

 彼の登場で、祖国へ送り返されるのかと構えたビビであったが、意外な事にペルが帰国を促す事は無かった。彼は開口一番に、王が後妻を迎えたという件が誤解だと伝えたのだ。城へ招かれた考古学者と王が意気投合し、歴史を語り合っていただけなのだと弁明する。

 

 「そう……私の勘違いだったのね。パパに悪い事しちゃったかしら?」

 

 国を去る際にビビが告げた後妻の存在は、既に国民が周知する事実となってしまった。王が弁明しようとも、民の抱いた不審感は拭われない。それも当然と言えるだろう。ニコ・ロビンという女性が絡む以上、いくら弁の立つコブラ王と言えど語れぬ事情が多すぎたのだ。必然、抽象的な発言となり、それを民が邪推するという悪循環。

 もはや後妻は存在するものとされ、王女の帰還を望む民からは子作りを急かされる始末。弟か妹が産まれたら帰る。そうビビが告げてしまった弊害である。

 

 わずか数時間で激変してしまった祖国の近況を聞かされ、ビビが狼狽する。されど、ペルの用事はまだ終わっていない。つい先程、世界政府が公表した事実。一味にとっては、こちらの方が重大な案件と呼べるだろう──

 

 

 〝死を呼ぶ麦わら〟モンキー・D・ルフィ 3億ベリー

 「うはーっ! 上がったー!!」

 

 〝海賊狩り〟ロロノア・ゾロ 1億1100万ベリー

 「フン」

 

 〝姫さらい〟サンジ 1億ベリー

 「な……!?」

 

 

 ペルが持ってきた最新の手配書を目にして、各々が反応を示す。ルフィは素直に喜び、ゾロは不満を装いつつも喜びを隠しきれず……サンジは絶句した。一人だけ似顔絵の手配書な上に、不名誉な二つ名まで付けられてしまったのだ。アラバスタでビビと共に行動する機会の多かったサンジが、元・反乱軍らの証言によって〝姫さらい〟の主犯格とされてしまった結果である。

 

 涙を流し怒りを訴えるサンジに、ペルは追い討ちをかける。世界政府の見解では、王女はサンジの甘言に乗せられ誘拐されてしまった被害者。そんな情報操作をされた以上、現状で無理やりビビを帰国させるのは悪手にしかならない。下世話な新聞社が押しかけ、恰好の的にされてしまう事だろう。

 コブラ王は断腸の思いで、娘の航海の無事を祈る事とした。まずは混乱した国民を宥めねば、己の名誉も危ういのだから。ほとぼりが冷めた後、ビビが帰国できる環境を整える予定でいるのだ。

 

 

 「ビビ様。あなたが円満に帰国できるよう、私も尽力致します。少なくとも、2年後に開かれる〝世界会議(レヴェリー)〟までには間に合わせて──」

 

 熱意が籠ったペルの話を半ば聞き流し、ビビは次の冒険へと想いを馳せている。旅立って早々に出鼻を挫かれる様な出来事だったが、彼女の心はこれしきの事で折れはしない。元より、芯の強い性格。海賊となった今、それは揺るがぬ〝信念〟へと進化している。一度旅立つと決めた以上、ペルが言うような帰国の準備が整った所で、冒険をやめて帰る気など一切ないのだ。

 

 

 

 少しして、別れを告げたペルが空へと消えて行った。

 いくら大空を翔べるとは言え、ここは偉大なる航路。いつ天候が荒れるとも判らない。アラバスタの地から離れ過ぎてしまえば、彼とて引き返すのは難しくなるのだ。

 惜しみながらも〝永久指針(エターナルポース)〟を頼りに、砂の王国へと引き返して行ったのだった。

 

 そんな矢先。この海の過酷さを証明するかのように、メリー号の甲板へ雨粒の様な物が叩きつけられる。天候の変化を警戒するウソップとゾロ。

 ウソップは言う。そもそも雨雲など無いと言うのに、雨粒が──あられが降り頻るなどおかしいだろうと。

 

 

 「いや、雨でもあられでもねェな。何か降って──」

 

 ゾロが見上げると、そこには朽ち果てた巨大な〝ガレオン船〟があった。

 幸い、メリー号への直撃は免れたものの、大質量を叩きつけられた海面は大いに荒れ狂う。船体へとしがみつく事で難を逃れた一味であったが、彼らにはさらなる苦難が待っていた。

 

 この海を渡る上で欠かす事のできない道具──〝記録指針(ログポース)〟が壊れてしまったのだ。これでは、次の島へ辿り着けない。大海原での立ち往生を余儀なくされてしまった。

 混乱する一味だが、針は変わらず上を指したまま動かない。

 

 

 なぜか空へと固定されてしまった記録指針。

 この異常を説明できる人間が、船の中には誰も居なかった。




 お久しぶりです
 ルフィの誕生日にかこつけて投稿しました。ついでに匿名も解除しました
〝憑いている洋一〟改め〝浅学寺のえる〟です。よろしくお願いします
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