ルフィと対峙した敵に運とタフネスが足りなかった世界   作:浅学寺のえる

2 / 10
白猟のスモーカー

 ローグタウン。海賊王ゴールド・ロジャーが生誕した地であり、最期を迎えた場所でもある。そして、彼の最期は公開処刑。そのため、およそ二十年が過ぎた現在でもローグタウンの広場には当時の〝処刑台〟がそのまま残されている。これは世にはびこる海賊への見せしめであると同時に、ごく少数の者に対しては一種の憧れをもたらす物でもある。死に際の一言で、大海賊時代の幕開けをした偉大なる先代。死の瞬間まで、思うままに生きた自由な男。そんな彼の在り方に共感を覚える少年が、ここにも1人──

 

 「おっほー! これが海賊王が最期に見た景色かー!」

 

 処刑台へと登り町の広場を見渡す少年、海賊モンキー・D・ルフィ。大勢の人が賑わう広場でこんな振る舞いをすれば、当然警官がやってくる。先程から降りるようにと警官から勧告を受けているが、全く意に介す素振りは見せない。そんな彼らのやりとりを、周囲の人々は微笑ましい光景として見守っている。先日1億ベリーという高額手配をされたばかりのルフィだが、まだ彼を懸賞首と認識できる人間は少ないようだ。せいぜいが、観光名所である処刑台にテンションが上がり登ってしまったヤンチャな少年といった認識だろう。

 

 「どこにでも〝おのぼりさん〟って奴はいるんだべなァ。恥っずかしい小僧だべ」

 

 トサカのような髪型をした青年が、そう呟き広場を去っていく。独特な訛りのある彼だが、裏社会では名の通った男である。そのため潜ってきた修羅場の数は計り知れない。彼にとって、広場を騒がすヤンチャな少年などさして興味の湧く対象ではないのだ。ましてや、無邪気に警官と会話している少年に〝憧れ〟を抱く事など決してないだろう。150の町を締め上げる暗黒街のボス──バルトロメオは、この先も海へ出る事なくギャングとして名を馳せていく事となる。

 

 

 「さってと、見るもん見たし。どーすっかなー?」

 

 少しして、ルフィは満足した顔を見せる。そして、それなりの高さがある処刑台から飛び降り、唖然とする民衆を置き去りにしたまま走り去って行った。散々注意をしていた警官も驚愕から動けずにいる。それもその筈。ルフィは地面へと落ちる寸前に身体を大きく膨らませ、当然のように落下の衝撃を緩和して見せたのだから。

 ゴムゴムの実の能力者。多くの人々が行き交うローグタウンと言えど、悪魔の実の能力者を前にすれば誰しもが驚く。例え海軍所属の能力者による捕物を過去に見ていたとしても、悪魔の実の能力は千差万別。人が煙へと変化する光景を幾ら目撃しようと、人がゴム風船のように膨らむ光景を目の当たりにして驚くなと言うのが無理な話である。

 

 一方その頃、煙へと変ずる能力を持つ海軍本部大佐〝白猟のスモーカー〟はと言えば、基地の執務室で呑気に石ころを積んでいた。なぜそのような真似をしているのかは本人以外知る由もない。扉の隙間から、無心に石を積む上司を目撃した軍曹は声をかけるのを止め去っていく。処刑台を騒がせている少年がいるなどという報告は、大佐の耳へ入れるほどの案件ではないのだから。

 しかし、のちに軍曹は後悔する事となる。数十分後、血相を変え海軍基地へと駆け込んで来る一人の警官。その手には最新の手配書が握られている。そして軍曹は知る羽目となる。広場を騒がせた少年こそが、現在〝東の海〟で最高額の懸賞金を掛けられた海賊であったのだと。

 

 

 〜 ローグタウン沖 〜

 

 「おわっ! ホントに嵐が来た! やっぱナミの勘はスゲェなァ」

 

 「勘じゃなくて予報よ。まあ何事もなく出航できてよかったわ」

 

 町を離れて行く海賊船ゴーイング・メリー号。やり手の海軍大佐がいるという噂を耳にした航海士のナミが、いち早く仲間を集合させた結果である。大雨が降り出す前に船は港から出て行き、現在船上では進水式が行われている。偉大なる航路への所信表明。それぞれが掲げる野望を宣言し、夢へと向かって船は進む。灯台の光を針路とし、荒れる海原を突き進んで行く。

 

 

 

 所変わって、ここはローグタウンの波止場。荒天の下で、黒いローブを纏った1人の男が佇んでいる。雷鳴が鳴り響く中、降りしきる雨をものともせず、男はただじっと遠くなる船影を眺めている。この男こそルフィの父、モンキー・D・ドラゴンその人である。革命軍と呼ばれる組織のトップ。世界的な犯罪者として有名な男である彼だが、息子の門出を祝う人間味も持ち合わせている。ルフィの手配書とアーロンが敗北したという情報から、息子がローグタウンへと立ち寄る時期を計算しこの場へと現れたのである。

 

 「〝死を呼ぶ〟などと物騒な二つ名には驚かされたが、フフ。いい仲間に恵まれたようだな。海賊……大いに結構。行ってこい! それがお前の求める自由の在り方ならば!!」

 

 大言壮語な物言いをする男であるが、実のところ息子がスモーカーに捕縛されるような事があれば救助する腹づもりでこの場へと駆けつけている。親の心配も他所に、危惧していたような事態は起こらなかったものの……果たしてそれは幸運だったのだろうか?

 

 結果として、ルフィは〝自然系(ロギア)〟の脅威を知らぬまま〝偉大なる航路〟へと突入するのだから。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。