ルフィと対峙した敵に運とタフネスが足りなかった世界   作:浅学寺のえる

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荒野のベンサム

 〜 アラバスタへの航路途上 〜

 

 「ま、待って!? まーってよう!? あちし、別に敵対する気はナッスィング! ジョーダンじゃなーいわよーう!?」

 

 メリー号の甲板にて、大柄のオカマが必死に弁明を繰り返す。先程までの和気藹々とした雰囲気から一転、一触即発の状況へと置かれたオカマは正に針の筵という様子。ふとした偶然でこの船へと現れた彼の正体は〝Mr.2ボン・クレー〟バロックワークスのオフィサーエージェントである。

 溺れていた所をルフィらに救われ、余興替わりに自身の能力──マネマネの実の変身能力を披露する。それを気に入ったルフィ、ウソップ、チョッパーといった面々は肩を組んで踊り合う程に彼と馬が合っていた。皮肉にも、その踊りが状況を覆す切っ掛けとなる。大きく上体を反らし、交互に脚を上げて踊るボン・クレーの視線は、自然と上方へと向いていた。そして捉えてしまう。メインマストのその上にある黒い何かを。その目に映り込むものの正体は、風にはためく〝麦わら帽子の海賊旗〟だったのだ。

 

 察しの悪い彼であったが、ここで漸く肩を組んでいる少年の麦わら帽子へと意識を向ける。そして、理解してしまった。巷で話題の死神ルーキー。脳裏に蘇るのは、ある新聞記事──対峙した敵全てを呪い殺す海賊、モンキー・D・ルフィ。そんな煽り文句を思い出してしまったボン・クレーは顔面蒼白となる。その様子を見て彼を心配するルフィらだが、恐怖に支配された目には、もはや〝死神〟と〝天狗〟と〝小鬼〟としか映らない。

 そして不運は重なり、もう一人の察しが悪い人物に正体を看破されてしまう。彼の特徴を伝え聞いていたビビがその正体に気付き、そのまま激しい剣幕で問い詰める。なぜアラバスタ国王に変身できるのか。何の目的でこの船へやって来たのか。王女である自分の姿を真似て、何をするつもりなのかと。

 

 「だーかーらーァ! なーんも、知らなかったのよーう!? あなたが王女だなんて初耳よう!? コブラ王の姿だってコピーしただけで、悪用なんてしてないのよーう!」

 

 「どちらにしろ、父や私に変身できるあなたを放って置く事はできないわ! きっと、クロコダイルの企みに利用されるもの!」

 

 「……クロコダイル〜? なーんで〝七武海〟の話が出てくんのよう?」

 

 今ここで、秘密主義が仇となる。ビビの語る真実を知り、ボン・クレーは沈痛な面持ちとなる。理想国家の建国と聞かされていた組織の最終目標。まさかそれが、既存の国を乗っ取るだけとは思いもしなかった。砂の能力を持った男が、砂の王国を我が物とするだけの計画。ボン・クレーは、とんだ肩透かしをくらった気分となる。そして彼は考える。元来、義理人情に重きを置く彼であるが、果たして組織への義理はあるのかと疑問を抱く。顔を合わせていたミス・オールサンデーはともかく、Mr.0には騙されていたという怒りしか湧いてこない。

 

 激情を必死に堪え、悲痛な表情で真実を語った少女。それを見守っていた海賊達もみな表情が険しい。そんな姿を目にすれば、深い絆があることは聞かずとも判る。もはや死を呼ぶ一味への恐怖は消えた。

 ボン・クレーは決意を口にする。会ったこともない男への義理よりも、目の前の人情を取る事こそが彼の掲げる信念〝おかま(ウェイ)〟なのだと。その口上に男たちの歓声が上がる。実はだいぶ前から迎えに現れていた彼の部下たちも、口を挟めないまま白鳥を模した船の甲板で話に聞き入っていたのだ。ボン・クレーの熱い語りを聞き、組織の離脱へは概ね賛成の様子を見せる部下たちだが、総意という訳ではない。彼らはみな、理想国家という目標の元に集っただけの間柄。その梯子を外された事への憤慨はあれど、ボン・クレーへ付き従う必然性はないのだ。

 

 「待ちねい野郎共! このあちしが、何の手立てもなく足抜けするマヌケなオカマなワケなーいでショ〜ウがっ! 前に話した事があったじゃナーイ? その時は〝凪の帯(カームベルト)〟にあるからと半ば諦めていたけドゥ、()()()を二つ売っぱらえば元手は充分。そうよう、あの場所へ辿り着けるかもしれないのよーう!? よく聞け野郎共! このままあちしに着いてくる奴にァ、見せてやろうじゃないノウ! 真の〝理想郷〟ってヤツをねい!!」

 

 歓声に湧くボン・クレーの部下たち。ここに彼らの裏切りは確定した。そして巻き起こる「ボン・クレー」コール。だがそれを受ける彼は、目を閉じそっと手のひらを前に出し首を横へと振る。否定の意を見せた彼が部下たちへと語る──

 

 「あちしの名はベンサム。船長でも、ベンちゃんでも好きに呼びねい。もうオメェらは、部下じゃなく〝同志〟なんだからねいっ!」

 

 新たに巻き起こるは「ベンちゃん」コール。これにはルフィ達も加わっている。歓声が止まぬまま、白鳥の船では自己紹介合戦も始まった。彼らはみな互いの本名も知らず共に行動していたのだが、その実絆は育まれていた。同じ夢を追う同志となった今、その絆はより強固な物へと変わることだろう。そんな様子を静かに見守るベンサムは、感涙が止まず、ただサムズアップを返すだけで精一杯のようだ。

 

 

 

 「それじゃァ、あちし達はロマンを求める旅に出るわねい! あばよ、麦ちゃんズ!!」

 

 別れを告げ去っていく白鳥の船。未だにその船上では喧騒が飛び交っている。反対に、羊の船は静寂に包まれる。ベンサムのもたらした情報を元に作戦を立てる必要が生まれたからである。ビビも知り得なかった『反乱軍の拠点はカトレアへ移った』という新情報。そしてもう一つ、別れ際にベンサムが残した未開封の指令書。明らかに意図して置いていった物なのだが、彼はこう嘯いていた──あんれェ〜? なにか落とし物をした気がするけれドゥ、もうあちしに必要のない物だからどうでもいいのよーう──彼なりに、指令書を送ったミス・オールサンデーへの義理があったのだろう。その指令書の封を開け、ビビが短い文章を読み上げる。

 

 四日後の夜、スパイダーズカフェに8時。オフィサーエージェントは全員集合。

 

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