ルフィと対峙した敵に運とタフネスが足りなかった世界   作:浅学寺のえる

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火拳のエース

 サンディ(アイランド)──中央に大河を挟み東西を別つこの島こそ、古くからネフェルタリ家によって統治される〝アラバスタ王国〟が存在するその場所である。

 ルフィ達が上陸した〝港町ナノハナ〟と、反乱軍が拠点を置く〝カトレア〟は、河の東側にある町だ。しかし、現在メリー号が向かっているのは河の西側。目指す場所は、河口付近に拓かれた〝緑の町エルマル〟である。

 

 

 話は少しだけ遡る。ルフィらが港町へと到着したのは、ベンサムと別れた日から四日後。例の指令書に記載された日付、その当日である。ただし夜までは大分時間の余裕があった為、ビビの立てた計画も充分に間に合うだろうと一味は安堵していたのだ。

 

 そんな時に事件が起こる。遥々、ローグタウンからルフィを追いかけてきた海軍大佐スモーカーが一味の前へと立ちはだかったのである。因縁を口にするスモーカーであるが、ルフィにとっては寝耳に水。困惑している間に戦闘へと突入したのだが……初めて見る、煙へと変じる能力。そして、能力者から力を奪う〝海楼石〟を仕込んだ十手。この二つを前にして、ルフィは呆気なくも捕らわれてしまうのだった。

 

 ついに悪運が尽きたと思われたその時、ルフィの兄であるエースが現れた。メラメラの実の能力者である彼の助けを得て、海軍から逃れる事ができたのだった。一同はメリー号へと乗り込み、ナノハナを出航する。一先ずは、停泊する海軍船とは逆方向である西へと舵を切る。

 甲板にてエースとの再会を喜ぶルフィであるが、それを見守るビビの表情には焦りが見えていた。海軍の横槍さえ無ければ、既にカトレアで反乱軍との接触を果たせていた筈だ。計画の修正に焦燥を感じ、彼女は迂闊にもまたもや()()()の名前を口に出してしまう。この事が、のちの運命を大きく変える一因となるのだった──

 

 

 「ルフィ、お前の選んだ道だ。とやかく言う気はねェが……あの海軍大佐に手も足も出ねェお前じゃ、クロコダイルとは勝負にならねェ」

 

 エースの発言に、ルフィが腹を立てる。そんな弟をなだめながら、エースは先程の言葉に補足を加える。勝負にならないとは、文字通りの意味。強い、弱いを通り越して、そもそも攻撃が当たらない相手とは戦いにすらならない。試しに自分を殴ってみろという兄に対し、ルフィは無遠慮にパンチを打ち込むが、結果は散々だった。熱さに悲鳴をあげ、必死に手を吐息で冷やそうとするルフィ。その様子を笑いながら揶揄(からか)うエース。メリー号の甲板では、幼い頃の兄弟関係を想起させる光景が広がっていた。

 

 そんな様子を見せられ、ビビの纏う雰囲気も若干の弛緩を見せる。そして、見計らったかのようにエースから一つの提案が挙がった──

 

 

 

 〜 緑の町エルマル 〜

 

 一同が辿り着いた場所は、砂に埋もれ荒廃した町。緑の町という名であったこの場所は、バロックワークスの企てによって完全に枯れ果ててしまっていた。打ち捨てられた髑髏を手に取り、ビビは語る。人工的に雨を降らせる〝ダンス・パウダー〟という粉の話を。そして、悲痛を堪えながらさらに続ける。争いを呼ぶその粉を利用し、クロコダイルは国から雨を奪い、王家の信頼を失墜させ、困窮した国民が自ら反乱を起こすよう裏で糸を引いているのだと。

 

 ビビの慟哭を聞いたルフィ、サンジ、ウソップはやり場のない怒りを廃墟へとぶつける。ビビを国へ送り届けるという漠然とした約束が、ルフィの中でこの時はっきりと形を変えた。アラバスタへ来てから一度も笑った顔を見せないビビ。当然である。彼女の故郷は変わり果ててしまっていたのだから。元凶を絶たない限り、ビビの故郷は戻って来ない。

 つまりは──クロコダイルをぶっ飛ばす。その目的は初めから口にしていた事であるが、今のルフィの表情には〝必ず成し遂げる〟という強い意志が宿っていた。

 

 「さて、やる気は充分だなルフィ。おれも付き合えるのは半日が限界だ。それまでに、みっちり特訓してやるから覚悟しろよ?」

 

 「おう! たのむ、エース!」

 

 「あー、そうだった! 念のため帽子は外しておけよ。燃やしちまったらシャレになんねェからな」

 

 能力を使えば〝火〟そのものとなるエースからの配慮であるが、ルフィは渋い表情を浮かべる。自身の宝物が燃えるなど、想像するだけで嫌な気分となるのだ。これから半日は、廃墟にてエースと二人きりの猛特訓。船も移動してしまうのだから、帽子は誰かに預かって貰わなければ安心できない。ここへ来る途中、バロックワークスの船団を炎の一撃で沈めてみせたエースの火力を考えれば、近くに置いておくのは危険過ぎる。

 

 「ビビ! 帽子、預かっててくれ」

 

 「……ええ! しっかり預からせてもらうわ」

 

 ビビが帽子を預かるのは今回が初めてではないが、リトルガーデンで短時間だけ預かった時と今とでは意味が違ってくる。あの時はルフィの宝物だと知らず、ただ手に持っていただけだった。しかし、航海の途上で色々な会話を重ねた今は、ルフィがどれだけ帽子を大切にしているか知っている。だからこそ、自分がそれを預かれるだけの〝信頼〟を得たのだと確信できる。ビビは麦わら帽子を無くさないよう頭へと被り、出航準備を整える。ここからは時間との勝負だ。

 

 

 ルフィは、エースとの特訓でクロコダイルを殴る術を身につける予定だ。たった半日で習得できるほど甘いものではないとエースは語るが、内心では弟ならば〝さわり〟程度は掴んでくれるだろうと期待している。ティーチという裏切り者を追う身ではあるが、幼少期の記憶が彼を半日だけこの場へと留めている。以前、熊と対峙したルフィへ加勢するタイミングを見誤り、大怪我をさせた苦い記憶。兄弟を失う恐怖を既に知っていたからこそ、あの時の後悔はとても大きなものだったのだ。二度と同じ〝悔い〟は残さない。それが、弟と交わした誓いなのだから。

 

 ビビとサンジは、これからメリー号で河を遡上する事となる。船の移動は、エルマルへ着いた時に親交を結んだ〝クンフージュゴン〟が協力を申し出てくれた。動物の言葉が分かるチョッパーのお陰である。船体をジュゴン達に引いてもらい東岸へと渡り、海軍から補足されにくい場所へ係留する予定だ。その後、陸路でナノハナを迂回しながらカトレアを目指す。反乱軍のリーダー、コーザとビビは幼馴染。接触さえ叶えば、説得できる自信がある。とはいえ、王女であるビビが反乱軍と接触するのは危険も伴う。リーダーの元へ辿り着くまでに、諍いが起こらないとは言い切れないのだ。その為、サンジがビビの護衛を買って出て同行する形となっている。

 

 ゾロ、ナミ、ウソップ、チョッパーの四人は、カルーの先導でエルマルから西へと移動する。目指すは〝スパイダーズカフェ〟バロックワークスが本社としている場所である。図らずも、オフィサーエージェントの動向を知れたのだから、邪魔立てしない手はないという考えだ。海軍との一件で予定が狂い、メンバーの入れ替えを余儀なくされてしまったが、足止めをしクロコダイルとエージェント達を合流させないだけでも充分な戦果となる。尤も、約一名だけは敵を全滅させる気でいるようだが……。

 

 

 クロコダイルの認識では、Mr.3の手によって全滅した海賊たち。その一味が、三手に別れ密かに行動を開始する。

 カジノの地下で優雅に葉巻を吸う男が、計画の瓦解を知るまで──あと24時間。

 

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