ルフィと対峙した敵に運とタフネスが足りなかった世界   作:浅学寺のえる

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24時間後

 早朝。クロコダイルは、電伝虫の着信声によって仮眠から目覚める事となる。組織のボス、Mr.0としての番号は既に破棄している。つまり、これは七武海〝サー・クロコダイル〟へ向けた連絡。寝起きの頭を素早く回転させ、彼は表の顔で受話器を取る。繋がった相手は東の港〝タマリスク〟の住人。会話の内容も海賊が現れたので助けて欲しいという、いつもの救援要請だった。

 国の英雄として名声を高める目的は既に充分果たしている。計画も大詰めとなった現状では些末事に関わる必要性はない。適当に理由を付け会話を終わらせようとするクロコダイルであったが、その刹那、受話器の向こう側から聞き捨てならない名が聞こえてきた──

 

 「ポートガス・D・エース……だと!?」

 

 港に現れたという海賊は、懸賞金5億超えの四皇幹部。そんな男が、この偉大なる航路(グランドライン)前半の海に、たった一人で現れたというのだ。既に賞金稼ぎと思われる連中が何人も倒されており、その連中の船も何隻か破壊されたという話を聞き、クロコダイルは思い当たる。有事を想定して、敢えてタマリスクへと入港させたビリオンズ50名。彼らは、万が一騒乱が鎮圧されるような事態となった場合、塵旋風にまぎれて横槍を入れる要員だった。計画全体として見れば、あくまで保険の人員。潰されたとしても然程支障はない。普段の彼であれば、そう切り捨てただろう。

 しかし、それをやった男が〝白ひげ〟の関係者となれば話は別である。因縁のある大海賊。その二番隊隊長の座を与えられた若造が、自分のナワバリを荒らしているのだ。ナメられたらお終いなのが海賊の世界。やられたまま泣き寝入りなど、彼の誇りが許さない。そう考えてしまう彼は、どこまでいっても〝根〟が海賊なのだ。ひとたび怒りに支配されると、冷静な判断を下せなくなってしまう。

 

 通話相手へ要請に応える旨を伝え、彼は足早に廊下を進む。途中で見つけたカジノの副支配人に、支配人(オール・サンデー)への言伝を残しておく──VIPへの顔見せは祝杯を上げるその時とする。その為、今朝の説明も一任する──そう伝えられた副支配人は、特に怪しむ事なく了承を返す。カジノオーナーとしてもクロコダイルが信頼されている証拠だ。しかし、この伝言が届く事はない。受け取る相手が、既にこの場へと戻る気がないのだから。早朝のカジノで、支配人の不在に気付く人間はまだ誰も居ない。カジノの地下で、餌の時間を待つ〝バナナワニ〟だけが唯一彼女の不在を嘆いていた。

 

 

 〜 首都アルバーナ付近の砂漠地帯 〜

 

 レインベース、アルバーナ、タマリスク。この三つの街は直線上に存在している。従って、クロコダイルを乗せたF-ワニもアルバーナ近辺を走る事となる。連絡を受けて既に4時間、目的地まで残り半分の距離だ。冷静になった彼はエースが既に去っている可能性も視野に入れる。国王軍よりも迅速に動く事が売りの英雄とはいえ、広大な大地を移動するにはそれなりの時間を要する。これでも徒歩よりは遥かに速いのだ。

 

 バロックワークスはこれまで、サンディ大陸に生息する動物達を飼い慣らし、移動手段や伝達係として活用してきた。その中でもF-ワニは欠点の目立つ動物と言える。速さに特化したワニは力が弱く、一人乗りが限界となる。その上個体数も少なく、二体しか確保できていない。

 その点、複数人を運ぶ事のできる水陸両用カメ〝バンチ〟は大型の車両を引く膂力を持ち、海まで渡る事が可能である。しかも亀とは思えぬ速度で走る為、大変重宝している。そんな亀の利便性を思い返していれば、まさにそのバンチがクロコダイルの視界へと入ってきた。この場に居る筈のない亀が、アルバーナへと向かい疾走しているのだ。

 

 「スパイダーズカフェへ迎えに出したバンチが、なぜ此処にいる……?」

 

 バンチの進路へと立ち塞がり、クロコダイルがそう投げかける。主人を見て足を止めるバンチであるが、残念ながら質問に答える術は持っていない。「ウィッ」と鳴くだけのバンチだったが、その声を聞き甲羅の上で手綱を引いていた小狸のような動物が驚愕する。

 

 「え、え、えっ〜〜!? コイツがクロコダイルなのかァー!?」

 

 突然しゃべり出した動物を前にクロコダイルも一瞬驚くが、すぐにミンク族か動物(ゾオン)系能力者だろうと当たりを付ける。見たところ、狸がバンチを懐柔し乗り回していたと推測できるが、問題は別にある。狸は御者に過ぎない。車内に見える複数の影──乗っている人物如何で、計画に支障が出かねない。仮にオフィサーエージェントが乗っているとしても、命令を無視された形となる。あらゆる疑念が頭をよぎり、彼の額に血管が浮き出る。それを見た狸が悲鳴を上げ、ようやく異変を察知したのか車両のドアが開き出す。現れたのは、麦わら帽子を被った男。巷を騒がせる呪われた海賊〝死を呼ぶ麦わら〟モンキー・D・ルフィだった。

 

 既に死んだと報告された人物の登場で、今度こそ驚愕に固まるクロコダイル。立て続けに王女ビビまで現れれば、彼の表情にも焦りが見える。脳内で様々な可能性を検証するも、混乱した頭では正解へと辿り着くことはない。仮に彼が冷静だったとしても、既にオフィサーエージェントは全滅していて、反乱軍も説得されているなどとは夢にも思うまい。その上、バンチを良いように使われルフィの兄エースを東の港まで送って来たという事実など、もはや判りようが無い。

 

 

 ──タマリスクにエースが現れた経緯を語るには半日程、時間を遡る事となる。

 

 約束の刻限となり、再び一堂に会した一味へと別れを告げるエース。彼が次に目指す島は、アラバスタからは北の方角にある。現在地のエルマルとは真逆の方向。隣に見えるサンドラ河を遡上しても海へと抜ける支流は無い。その為、一度船でぐるりと島を回り込む必要があった。そんなエースへ、土地勘のあるビビが一つの提案をする。チョッパーが連れてきた大きな亀を利用し、島を横断して東の港から北へ向かうのが最短ルートだと告げる。エースの船〝ストライカー〟は小型ボート。バンチならば輸送に問題はないサイズだった。こうして、当初の予定よりさらに半日程エースは行動を共にする事となる。尤も、移動中は劇的な事など何も起こらない平穏な時間であったのだが。

 

 ビビとしては兄弟が話す時間を少しでも長く作りたいという思いもあったのだが、特訓からの疲労でルフィはずっと眠っていた。同様に、激戦を終えて来たゾロ、ナミ、ウソップ、チョッパーも眠ってしまい、サンジが御者を務めている状況。ビビは、突発的に眠り出すエースに翻弄されながらもルフィに関する思い出話を幾つか聞かされていた──

 

 幼い頃、サボというもう一人の兄弟が居た話。その彼が既に故人であるという話。死の瞬間を、幼いルフィが()()見てしまい深い絶望を経験したという話。海上で船を燃やされ亡くなったというサボの話を聞き、ビビは息を飲んだ。同じなのだ。イガラムが亡くなったあの時の状況と。燃える海面を見てルフィは、ビビに命の儚さを語った。そして励まされた。生き残った人間がすべき事、できる事を教えてくれた。ルフィの過去を知ったビビは、穏やかな顔で眠る少年に改めて感謝を告げる。涙を流し弟へ感謝を伝える少女に対し、エースは目を瞑り寝た振りを決め込む……或いは、本当に寝ていたのかもしれない。

 

 

 バンチがタマリスクへと着くと、ルフィ以外の面々は起き上がりエースに別れを告げる。その後、ビリオンズがエースへと勝てぬ戦いを仕掛けるのだが一味は既に首都へと向かっていた。チョッパーが御者を替わり、車内はウソップの武勇伝で盛り上がる。単独でスパイダーズカフェへ乗り込んだせいで劣勢となったゾロを颯爽と助け、見事Mr.4とミス・メリークリスマスを撃退したと。その発言にナミが抗議の声を上げ、車内は一層騒がしくなる。そんな中、ルフィはバンチが停止する今の今まで眠り続けていたのだった──

 

 

 「クロコダイル! おれは、お前をブッ飛ばしに来た!!」

 

 ここで出会したのは完全に偶然の産物なのだが、ルフィはそう宣言する。砂の国での決戦が、人知れず始まろうとしていた。

 

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