ルフィと対峙した敵に運とタフネスが足りなかった世界   作:憑いている洋一

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ビビの冒険

 アルバーナ宮殿にて、およそ三年振りに父であるコブラ王との対面を果たすビビ。だがその直後、外から大きな爆発音が轟いた。それを聞き、思い出すのはイガラムの死。血相を変えたビビは、カルーに跨り宮殿を後にする。市街地を駆け抜け、目指すは南東の大階段。だが、目的地へ辿り着く前に、ビビは安堵する事となる。そこに居たのは幼い頃より信頼している人物──アラバスタ王国の護衛隊副官を務める男〝ハヤブサ〟のペル。その彼が腕に抱えているのは、傷だらけになりながらも笑顔を見せて眠るルフィだった。

 

 

 二日後。

 

 「なっはっはっは! いやー、死ぬかと思った! もうけっ」

 

 ルフィが目を覚ます。心配だったサソリの毒も、解毒が間に合ったため後遺症の兆候も見られない。偏にいくつかの幸運が重なった結果である。

 

 解毒剤を所持していたのはニコ・ロビン。彼女はバロックワークスのアジトの一つへと赴き、Mr.7らに計画変更の旨を伝えていた。ナンバーエージェントに顔が効く彼女は、まさに今からという段階だった〝巨大爆弾〟の運び込み任務を延期だと言い下す。手違いで、砲撃手まで爆発に巻き込まれる恐れがあると()()()伝えればアジトにいた人間は皆、別の拠点へと逃げて行った。

 

 その帰り道、徒歩でアルバーナ近辺まで戻って来た所で、後方から大爆発が起こる。混乱する彼女であったが、二人の男が織りなした激闘の終盤を目撃していたペルによって状況を説明される。

 ペルは、ロビンが裏切らないよう絶えず空から監視していた。何故か王の信頼を得た敵の最高幹部。その女は数々の情報をもたらした。結果、早朝に緊急会議を開かざるを得ない事態となる。その話し合いの場で、王自身が彼女への作戦協力を求めたのだ。物騒な爆弾を一番安全に対処する為という理由は尤もだが、放任などできる筈もなかった。同僚と話し合った結果、鳥へと変身できるペルが内密に監視する事となったのだ。

 

 こうして、幸運が重なった。ルフィがクロコダイルを討ち果たす場面を目撃したペル。地面に落ちていた状況を物語る折れた毒針。解毒剤を所持していたロビン。すぐに解毒されたルフィは、宮殿へと運ばれチョッパーの処置を受けたのだった。

 

 

 ルフィが目覚めたのは夕刻。その後まもなく、大食堂での会食が執り行われた。直ぐにそれは大宴会へと様相を変え、一味も王国の人間も分け隔てなく大盛り上がりとなる。ビビも満面の笑みを見せ、宴は夜まで続いたのだった。

 宴の後は大浴場を堪能する。少しのハプニングもあったが、コブラ王とルフィらの親交はより深まった。

 そして、一味は宛てがわれた寝室へと集まる。今後の話し合いだ。この二日間で既に出航準備は整っている。しかし、ルフィがもう2〜3日アラバスタ料理を食べたいなどと言い出せば、それを止める人間は誰もいなかった。スモーカーが率いる部隊は未だアラバスタにいるものの、港が封鎖されている訳ではない。メリー号は国王軍が拿捕したという建前で、既に東の港へ入港済み。スモーカーもアルバーナとは別の街を捜索しているようなので、一味が急ぐ理由はない。

 会議は自然と終了し、そのまま雑談へと興じる面々だった。しかし呑気な船長以外は、もうすぐビビと話す最後の機会が訪れるかもしれないと、心のどこかで思っていた。

 

 

 

 翌日。

 思い思いに過ごした一味たち。夕食は前日ほど豪勢ではなく、少しだけ落ち込むルフィ。アラバスタの財政は厳しい状況なので仕方が無い。再び夜となり、ビビは今後の事を考え眠れぬ時を過ごしていた。

 どうせ寝られないのだし夜風にでも当たろうと廊下へ出てみれば、思わぬ場面を目にしてしまう。父コブラが、女性と小声で談笑しながら歩いていたのだ。ベールで顔を隠しているが、相手の女性は父よりも大分若い印象。そんな二人が、王の寝所へと入っていけば娘は絶句するしかないだろう。しかし、ビビは諦めなかった。ここまでの経験で諦めの悪さは充分学んできたのだから。かぶりを振り、寝所の扉へと聞き耳を立てる。すると──

 

 「お姫様に、私の事を伝えなくて良いのかしら? 今見てきた〝歴史の本文(モノ)〟についても、いずれは話すのでしょう?」

 

 「もう少し大人にならんと理解し難いだろう……しかし、明後日はあの子の〝立志式〟か。うむ、その夜にでも──」

 

 ビビは確信した。近日中に新しい母親を紹介されるのだと。彼女はそのまま、フラフラと覚束ない足取りで廊下を彷徨う。そして、同様に寝ぼけてフラフラと食料を求めていた少年とぶつかってしまう。思えば宮殿へ帰って来てから、ビビとルフィが二人だけで話す初めての機会だった。話題は尽きない。ルフィが興味を持つものがアラバスタにはまだまだあるのだ。ペルとチャカの動物へ変身する能力の話は、特に食い付きが良かった。そして、護衛隊の話が出た所でルフィは思い出す。

 

 「そうだった! 良かったな〜ビビ! ちくわのおっさんが生きててよ!」

 

 そう。大宴会の前日、イガラムは宮殿へと帰還したのだ。本人は、ミス・オールサンデーの気まぐれで生かされたと語り、それからずっとペルやチャカと共に国内に残存しているバロックワークスが行った犯罪の証拠を集めている。既に北の海岸に隠されていた〝人工降雨船〟も発見されている。明後日の立志式では、これらの事実をコブラ王自らが公表し国民に悪夢の顛末を説明する予定も含まれている。

 イガラムの生存を喜ぶルフィを前にして、ビビは少しだけ複雑な心境となる。サボの件を聞いてしまったビビは、自分にだけ訪れた〝奇跡〟に負い目を感じてしまう。そんな気持ちを吐露するのだが、少年は変わらず笑っていた。

 

 「エースから、サボのこと聞いてたのか! いやァ〜、サボは優しい兄ちゃんでさ!」

 

 深夜の宮殿で、少年は懐かしい日々を語る。盃を交わした件から始まり、協力して大虎を倒した話。特訓をし、森に基地を作り共に暮らしていた話。〝D〟という名を気にしたサボへ、エースが要らないからやると言った他愛の無い話まで。色々な思い出をビビへと語った。ビビも少しだけ〝D〟が気になりルフィへと質問するのだが、返答は幼少期のエースと全く同じだった。曲解して、顔を赤らめたビビだったが「ダメかー? ビ(ディー)ビ!」などと言われれば途端に吹き出してしまった。

 少しして解散となり、部屋へ戻ると同時にビビは眠りにつく。その寝顔は、いつかのルフィと同じ穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 〜 立志式 当日 〜

 

 電伝虫を通し、国中へと響き渡るコブラ王が語る真実。国の英雄が黒幕だったと知り驚愕する者も多い中、コブラ王を信じ抜いた者達は自慢気な顔をしている。長年かけて築いた王家の信頼は、卑劣な奸計を受けてなお完全に失墜する事はなかったのだ。

 そして王から受話器を引き継いだ男が、証拠の正当性を世界政府直下〝海軍本部〟の名の元に証明する。ここ数日で独自に調査をしていたスモーカーは、レインディナーズやスパイダーズカフェで捕まえた組織関係者を締め上げ情報を得ていた。先日宮殿へと直談判に現れ、この場での介入を認められたのだった。

 

 スモーカーから海軍上層部へ連絡が上がったため、じきにアラバスタへ増援が送られるだろう。そう悟った一味は、立志式を見届ける事なくタマリスクへとやって来ていた。

 再びコブラ王が国民を鼓舞する演説をし、次に控えるはビビの立志式。本来14歳で執り行われる予定だったこの式が、二年遅れでようやく始まる。国民は行方不明だった王女の帰還を喜び、ルフィ達もその話に聴き入っている。少しだけ冒険をして来たという語り出しから、これまでの経験を比喩的に語るビビ。コブラ王は既に屋内へと戻り、優雅にコーヒーを飲みながらそれを聴く。アルバーナ宮殿のバルコニーでは、ビビに扮したイガラムが正体を看破され広場にブーイングが巻き起こる。そんな状況の中、本来居るべき場所に居ないビビのスピーチが、いよいよ締め括られようとしている──

 

 「私は、この国を愛しています!」

 

 途端に湧き立つ衆人観衆。誰もが皆、立派になった王女の言葉に国の行末を安堵する。幼い頃のお転婆だったビビを知る国王軍の古株達も、感無量となって涙を流す。反乱軍を解体し、里帰りしたビビの幼馴染達も誇らし気な気持ちとなる。悪夢は完全に終わり、この国へは安寧が訪れる。そう、誰もが思っていた時〝爆弾〟は落とされた。

 

 

 「──だから行ってきます! 私は、あるヒトの〝夢の果て〟まで付き合うって決めたから!!」

 

 「「えぇ〜ッッ!?」」

 

 国中がパニックに陥った。すわ逃避行かなどと邪推する者まで現れる始末。混乱は王家の者達も同様で、コブラ王はコーヒーを吹き出している。メリー号では、ルフィ以外の面々も初めて聞いた〝夢の果て〟というワードに驚いている。どよめきが砂の王国を支配する中で、さらにもう一つの爆弾が投下されようとしていた。

 

 

 「それとパパ! 後妻さんと末長くお幸せに! 弟か妹が産まれたら顔を見に帰るから!」

 

 その発言で、一転して静まり返る民衆。スピーカーから響き渡る通話終了の合図。「ガチャ」という、どこか間の抜けた電伝虫の声が、無情にも静かになった宮殿前広場へと響き渡る。数秒の沈黙を置いて、一番初めに再起動を果たしたのは護衛隊長イガラムだった。王へ対する言葉とは思えない罵詈雑言を浴びせ、国王コノヤローとビビが旅立った責任を追及する。それを聞いた民衆も共通の認識を得たのだった。国王が陰で新妻を迎えていた為、心を痛めた王女様はどこかの馬の骨に誑かされ、遠くへ旅立ってしまったのだと。

 寝耳に水なコブラ王は、自室に匿っている女性へ助けを求める。しかし、彼女は楽しそうに笑うのみ。椅子へと腰掛けコーヒーを一口だけ嗜み、黒髪の女は読書へと戻る。本の題名はアラバスタ史・名言集。この後語られるコブラの弁明が、将来そこへ記載されるかどうかは、まだ誰にも判らない。

 

 

 

 アラバスタの地を離れるゴーイング・メリー号。その甲板では、歓迎会が行われている。死を呼ぶ麦わらの一味へ、正式に加入する事となった本日の主役は──海賊ビビと、海賊カルー。

 彼女らの旅立ちを祝福するかのように、島から一陣の風が吹く。帆を大きく張り上げ、船が目指す次の島は果たして──

 




ここまで読んでくれた皆様、ありがとうございます!
原作キャラ死亡という地雷踏み抜き作品だというのに、沢山の高評価まで付けて頂き感無量です。

さて今後についてですが、区切りの良い所まで書けたので以降は不定期更新の予定です。ロビンの不在とビビの同行がどう影響してくるのか? どう影響するんでしょうね? 私自身まだわかりませんが、楽しみに待っていてもらえると幸いです。

※3/15 21:00追記
二次創作のルーキー日間ランキングで、まさかの一位になってました! 評価して頂いた皆様、改めてありがとうございます!

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