雷陽と黒龍   作:四ツ鼓的な

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 出した後から修正できるのが小説の良いトコって言ってましたしね。(言い訳)
 一応最後まとめた気でいるけど、後半は文字量少な目で飛躍感説明不足感が目立つかもしれない。


来たる②

 

「はァ……ッ、ハァ……ッ!?」

 

 亜風炉照美の頬を汗が垂れ落ちた。

 

「行かせるかぁ……ッ!」

「――トロいな」

 

 無敵ヶ原のドリブルとの衝突に抗うこともできず、稲森は砂埃で全身を汚して倒れ込んだ。

 

「クソ……!!」

 

「大丈夫か! 稲森くん……!」

 

 道路から、自動車の過ぎる音がする。

 まだまだ走っていられる。

 

 立ち上がった。

 目標は変わらない。悠長にボールを構える緑髪の少年。

 

 それでも――

 

「……これ以上は無駄だね」

 

 無敵ヶ原藤丸の一言で、再戦は連敗に代わった。

 

「なんで! 俺たちは――」

「ボクたちはまだやれる……!!」

 

「いやいやいや……」

 

 無敵ヶ原は呆れきった表情で、ボールに足を潜らせて持ち上げた。

 

「どんだけ続けたとしても、そっちの痣と傷が増えるだけだし……」

 

 ボールは宙に浮かび上がり、落下を妨げる形で挟まれた無敵ヶ原の手のひらに収められる。

 

「2時間くらいぶっ通し? この程度とはいえ、続けるなら体力に限界があるし、熱中症で一日潰されるとか勘弁なんだ。……というか日本代表だろ、集合時間とかないわけ?」

 

「あ―――」

「いいや、まだ数十分の余裕がある」

 

「じゃあ、本気で叩き潰す。今日……いや、明日くらいまで長引くようなのをね」

 

 無敵ヶ原の手の上からボールが解放された。

 重力に従って弾んだボールが跳ねる。

 

 ただ、幾度となく思い知った驚異的な実力をそんな風に使うとは思えない。

 見つめる瞳に敵意はないということくらい、誰にでも見て取れる。

 

 つまり、本当にこれで終わりなのだ。

 

「わかった。ありがとう」

 

「わかったらさっさと行きなよ。仲間に心配させるのは三流だよ」

 

 稲森は亜風炉と頷き合うと、元の道へと戻ることにした。

 無敵ヶ原と向かい合っている間には気が付かなかったが、砂埃に隠れて擦り傷が身体の至る所に出ているようで、汗が伝い落ちるたびにほのかな痛みが刺してくる。

 

「……敵に塩巻くようなこと、言う気はなかったんだけど」

 

 稲森の疲れ切った足を、無敵ヶ原の声が止めた。

 予想外の声掛けに、稲森の視線は無敵ヶ原へ戻っていく。

 

 無敵ヶ原は、しれっとした顔でこちらを見つめていた。

 そして稲森と視線が向き合うった途端に、何か言いたげに視線を外すと、改めて口を開く。

 

「――向いてないからやめたら?」

 

「――――」

 

「スピードも、シュートも、あの代表のメンバーにしては凄いのかもしれないけど……僕からしてみれば、パッとしない」

 

 無敵ヶ原はボールを今度は人差し指だけで持ってみせた。

 

「かといって、中心に立ったところで大したことできないタイプだろ?」

 

「…………稲森君」

 

「……君は、何か知っているの?」

 

 亜風炉の案じ顔を横目に、稲森は無敵ヶ原を催促する。

 無敵ヶ原は、目を細めてニヤリと口をゆがめた。

 

「空回るにしたって、回り方は考えないと。得意も、強みも、今の不細工なプレイに飲み込まれるよ」

 

「……! どうして、急にそんなこと……」

 

 確かに、とばかりに目を見開いて、無敵ヶ原は考え込む。

 

「強いて言えば……必死に足搔いてぐちゃぐちゃになってる奴は、嫌いじゃない」

 

「……え?」

 

「楽しかったよ。身体の調整せいぜい頑張って」

 

 治安の悪い台詞を、懐かしむように口にして、無敵ヶ原は立ち去った。

 

 

 ◇

 

 

 ミーティングルーム――――

 

 室内は、ただ重い空気に包まれていた。

 緊張感と呼ぶのは、不適切な様子だ。

 

「オーホッホッホ!」

 

 ステージ脇でノートパソコンの画面を眺める趙金雲監督による高笑いが響き渡る。

 

 一方で、大谷つくしがミーティングルーム最前のステージ上で度々頭を抱えながら数十枚の紙束を捲っては凝視し、捲っては凝視し、と繰り返している。

 また、その隣に座る目金欠流は、監督とは比較にならない速度でノートパソコンを操作している。

 

「な、なんだぁ?」

「とりあえず、席に着いていよう」

 

 円堂と鬼道に続くイナズマジャパンは、マネージャー陣の心労を察して苦笑を浮かべながら各々の席に着いた。

 

「……監督。全員集合しました」

 

 鬼道が監督に改めて問いかける。

 監督は「んあ?」と興味を微塵もない態度で応じると、ステージ上の大谷の姿を指し示した。

 

「今日のミーティングは任せてありますからねェ♪ 資料は印刷したので、つくしさんから話をしていただいてください?」

 

 さも当然とばかりの監督の言葉を聞かされて、大谷は一段と肩を落とした。

 

「もーッッ! やってやりますよぉ!!」

「ちょッ!? 急ぐとボクのスライドが間に合いませんからゆっくりお願いしますよ!?」

 

 大谷と目金が叫びながら配置に着いた。

 

「監督、呼んでおいてサボり出したでゴス……」

 

 呆れ切った岩戸が言う。

 

 そして、大谷が手に持っていたリモコンでモニターのスライドを操作すると、対戦国として決まったばかりのレッドバイソンの選手たちが映し出された。

 大谷は机に置いていたマイクを口元に近づける。

 

『対戦相手に関する情報を、監督から私と目金さんに渡していただきましたので、明後日の試合に関係する情報の共有をさせていただきます!』

 

 と、早々に氷浦が手を上げた。

 

「……相手が決まってからこの短時間で、情報自体は一体どこから?」

 

「私は内容しか伝えられていないので……」

 

「まあ、そうだよな……」

 

 氷浦の視線は監督の席へと向いた。

 趙金雲の隣には、背伸びをしながらパソコンの画面を除く李子文の姿もあった。

 

「オホーッッ! さすが親分、こんなエグイのよく知って――!!」

 

「放り出して何見てんだよ!!」

 

 興奮を抑えきれていない二人に、灰崎が怒鳴りつけた。

 

「なんか……雷門の人たちが一番、監督に厳しくないですか?」

「普段の行いですね」

 

 坂野上に万作が答える。

 そして、大谷は気まずさのある話題にほのかに頬を赤くながらも、コホンと小さく咳払いをして場の空気を改めた。

 

『では……、今回――初戦の対戦相手・韓国代表【レッドバイソン】について説明します……!!』

 

「「「「ハイッ!!」」」」

 

 大谷は一瞬選手一同の返事に気圧された後、すぐに目金に向かって手を挙げた。

 目金が確認すると同時に、映し出された画像が変化する。

 

 ――韓国代表【レッドバイソン】。

 そう見出しの置かれた画面には、赤いユニフォームを着た20人の写真も配置されている。

 

 大谷の説明が始まった。

 稲森は大谷たちの解説に集中する。

 

『韓国代表は、この20人で構成されるチームです。彼ら最大の特徴は、ラフなプレイスタイルを主とした個人技での圧倒』

 

 大谷の言葉を裏付けるように、画像では選手全員が自信に満ちた表情をしている。

 だが、その選手たちの表情による確信こそが、稲森に疑問を持たせた。

 

「ラフプレーが……チームの特徴……?」

 

 反則が得意です、と言っているようなものだ。

 スポーツマンシップを前提に、互いの信頼の上で成立する運動競技の世界大会において、レッドバイソンの前評判はそれほどに異端……どころか、存在して良いかすら怪しい。

 

 稲森が眉を顰めていると、大谷は此方の疑問に答えるように続けた。

 

『レッドバイソンは「赤い突撃獣」とも呼ばれています。異名が付けられるほど受け入れられているスタイルなので、やたらめったら反則上等ってわけではないようですけど…………あっ』

 

 資料を捲っていった大谷の動きが止まった。

 

「どうした?」

 

 円堂が首を傾げる。

 

 大谷はニヤリと得意げに笑みを浮かべた。

 

『理由がわかりました。これです……!!』

 

「ちょ、これですって何ですかァ!?」

 

 大谷がドヤ顔をかます他方で、目金が絶叫した。

 そりゃあそうだ。リアルタイムで資料作成をしていたはずが、思わぬアドリブをされてしまってはたまったものではないに決まっている。

 

「……手伝いますか?」

「知識と技術があるのなら、ですかねぇ……」

「じゃあ俺は行けるから、やらせてもらいますね」

 

 基山が目金の補助に入って一分ほど経って、スライドが切り替わる。

 大谷は恥ずかしそうに目金たちに会釈を繰り返し、また説明を再開する。

 

『……これですね。この人……【レッドバイソン】キャプテン――ソク・ミンウ

 

 モニターに新たに映し出されているのは、選手20人のスライドにも映っていた左腕にキャプテンマークを巻いた選手の写真。

 髪型は内側を薄く刈り上げた青髪で、目元から鼻筋にかけて肌にはそばかすが薄く見えている。

 

『彼がいてこその「赤い突撃獣」なんです。……ソク・ミンウの指揮によって、チームのラフプレーは戦術へと昇華した。真正面から相手を蹴散らし敵陣を猛進する――まさに猛牛のように』

 

「つまり、試合における彼らのプレイそのものが“戦術”……タクティクスというわけか」

 

 鬼道の推察に、大谷が頷いた。

 

『ソク・ミンウの指揮によって実現する超高速かつ超広範囲展開……更に、元々の個性であるラフプレーを組み合わせた連鎖攻撃戦術は、一部サポーターからは〈タクティクスストリーム〉とも呼ばれる必勝戦法だそうで……』

 

「なら、今回の試合はソイツを止めちまえば良いんだな?」

 

 “究極の個人技”を誇る吉良ヒロトが強気に笑う。

 大谷は、それも肯定するように頷いた。だが、

 

『はい……。ですが、そう簡単にいかないと私は思います……』

 

「何……? どういうことだ」

 

「ソク・ミンウは、相手のフィジカル戦術の核にいる選手。それを簡単に負かして戦術を打ち崩せるのなら、異名が付くほどの実績を生み出せていないよ」

 

 吉良の問に、亜風炉が答える。

 推測の域を出ない話だが、亜風炉の言葉には、確信にも近しい自信が乗っている。

 

『ご存じだったんですか?』

 

「少しね。ただ、母国の情報を持っていたというだけさ」

 

「ぼっ、母国!? ……そ、そうだったのか」

 

 円堂が声を荒げた。

 他の面々も、同じように亜風炉照美の発言に困惑させられている。

 

「韓国が……か?」

 

 改めて尋ねた鬼道の言葉に、亜風炉はきまりが悪そうに頷いた。

 

「そうだよ。韓国代表に関しても、日本代表の選考より早くに代表にポジションを設ける提案が来ていた。その提案主も、【レッドバイソン】にはいないみたいだけど」

 

「何らかの理由で代表を弾かれたのか……」

 

 鬼道はふむ、と考え込む。

 

「韓国……思えば、チェ・チャンスウの姿もないな」

 

「チェ・チャンスウ……?」

 

「完全な戦略で盤面を支配する天才ゲームメーカー……アジアのトップ選手を羅列したなら必ず名が挙がる」

 

 万作の疑問に、他ならぬ“天才ゲームメーカー”本人が断言する。

 そのレベルの選手が韓国代表を外れ、ソク・ミンウ中心のチームとなっている。

 

「……僕に申し入れをしたのも彼の名義だった。国を代表する名誉を彼が、望んで捨てるとは思えない」

 

 亜風炉は鬼道の言葉に補足をした。

 

「純粋に、チェ・チャンスウ以上の実力があるということか。或いは……何か理由があったのか」

 

「理由って?」

 

「チーム内、選手間での不和……あまり考えたくはないが、何か組織的な意向の結果ということも考えられる」

 

 吹雪の言葉に鬼道が最悪を想定した。

 だが、その最悪では1つ矛盾が起こる。

 

「……誰かに作られただけのチームなんかじゃ、勝てない」

 

「キャプテン……」

「いや、俺らも『誰かに作られたチーム』じゃ……」

 

 氷浦と万作を始めとしたチームの面々が、円堂の言葉に反応を示した。

 万作の言葉に、円堂はきょとんとした表情を見せた。

 

 

「……? 俺たちは“だけ”じゃないだろ」

 

 

「え?」

 

「……俺たちは、ライバル同士、互いに競い合って生まれた――この日本最強のチームだ」

 

 円堂の言葉は自信に満ちていた。

 

 ――その通りだ。

 

 と、稲森は思った。

 そして、

 

 吉良の表情が、神妙なものに代わった。

 豪炎寺もまた、自信に満ちた表情で頷いた。

 万作は、帽子をかぶり直すと小さく「はい」と呟いた。

 

 イナズマジャパンの自信は、全くもって自惚れなどではない。

 

 【イナズマジャパン】が、日本最強のチーム。そう断言できる者はここに居ない。

 だが『日本を代表して世界に挑むチーム』は、『日本最高にして最強のチーム』であるべきなのだ。

 

 空気の変化を肌で感じたようで、趙金雲は笑っていた。

 

『……では最後に、「最強のドリブル技」についてを離させていただきます』

 

 大谷つくしもまた、気を引き締めたような声で続行した。

 目金は時間に余裕ができたのか、大谷の補足情報の伝達もするようになっていた。

 

 

 ◇

 

 

 夜――――

 

 

 前日の修練を終え、就寝を待つ。

 世界への挑戦。その前夜で、おとなしくしていられるほど稲森には余裕がない。

 

「灰崎……!?」

「明日人……!」

 

 合宿所を出るところで、偶然向かいからやって来た灰崎と顔を合わせた。

 何故こんな時間に、と尋ねると。

 

「キャプテンの練習に付き合ってた」

 

 のだそう。

 

「お前も自主練か?」

 

「……まあ、そんなところ。色々悩んじゃってるから、試合前に片づけておこうと思って」

 

「付き合うか?」

 

「良いの!? ――いや、やっぱい、うーん……」

 

「はあ……。バカが考えすぎなんだよ」

 

 持っていたボールを、灰崎に奪われた。

 

「行くぞ、明日人」

 

「……おう!」

 

 

 

 

 

 

 場所を移して、

 

 高台サッカー場――――

 

 

 スポーツセンター内には、いくつかサッカーコートが用意されている。

 今、灰崎と共に上がっている百近い数の階段を上がった先にある金網内の人口芝のコートは、その1つ。

 

 この階段の上下がある都合上、基本練習場に指定されなければ人の行き来は少ないこのコートなら、夜に人と出会うことはない。

 稲森の内情を察した灰崎の提案だった。

 

「お前、代表になってからずっとおかしくないか」

 

「…………そうかも」

 

 周囲の暗さが表情を隠すからか、先を歩く灰崎は稲森に振り向くこともなく話を振った。

 

「何があった」

 

「何もないよ。ただ、どうしたらいいのかなって」

 

「はあ? 嘘でも吹き込まれたのかよ」

 

「嘘なんて、誰も」

 

「じゃあ、なんなんだ。いい加減、うじうじされても面倒なんだよ」

 

「それは…………」

 

 

 瞬間、

 

「ォオオオッッ!!!!」

 

「え――――」

「何だ……ッ!?」

 

 ――試合中や練習中でない気の抜けた状態の稲森では、立っていることすらままならなかった。

 

「おわっ!?」

 

 稲森は咄嗟に階段の側の木に手をついて、揺らいだ姿勢を抑えた。

 鼓膜に未だに反響している轟音と、肌を裏返すような大気を揺らす衝撃、そして周囲一帯の夜を焼くような光の衝動。

 

 その発生源は、間違いなく階段の先にあるサッカーコートだった。

 

「誰かいるのか……?」

 

 興味に突き動かされ、灰崎と稲森は階段を駆け上がった。

 

 

 

 

 階段を上り切って、金網の柵に仕切られたサッカーコートにたどり着いた。

 夜空に差す月光を、コートの一方から立ち込めた砂煙が遮っている。

 

 仄かに吹いている風が、遮蔽を退かしていった。

 

 やがて、視界にその金髪の選手が現れる。

 

「豪炎寺……!?」

「豪炎寺さん!?」

 

 灰崎と、稲森の声が重なって、名を呼ばれた豪炎寺修也が此方を振り向いた。

 

「稲森、灰崎……!」

 

 豪炎寺は目を見開いた後で、何故か破られたゴールネットの裏で地面を抉り埋まっている真っ黒の球体を拾い上げる。 

 変色したその球体は細く煙を立てており、そのおかげでようやくサッカーボールが焼き焦げたものなのだと気づかされた。

 

「どうかしたか?」

 

「……どうかしたか、じゃねえよ! なんだ今の音は!」

 

「新しい必殺技の特訓をしていたんだ」

 

「はあ……?」

 

 灰崎の声から怒気が抜けていく。

 

 豪炎寺は頷くと、稲森へと視線を向けた。

 

「こんな時間に、お前たちはどうしたんだ?」

 

「明日に向けて最終調整をしようと思って……灰崎とはさっき下で」

 

「そうか。今、場所を変わる」

 

「いえいえ! こんなに凄い技の練習を邪魔なんて!」

 

「技自体は出来上がっているんだ。後は練度を高めていくだけで、問題はない」

 

「そうなんですか……」

 

 豪炎寺の必殺技。

 視界に入れずとも、その凄まじい威力は感覚で感じることができたほどの必殺技。

 

 灰崎は最早呆れかえってしまっている。

 

 豪炎寺は、タオルを首に提げて微笑んだ。

 

「少し話すか? こう偶然でもなければ、この3人になることもなかっただろ」

 

 

 

 

 

 昇って来た階段の最上段からは、本棟の屋上から湖まで広く一望できる。

 夜空には月と星々が出ており、遠くの水面が仄かに白い点として反射している。

 

「ほら」

 

 豪炎寺と灰崎と共に稲森は一番上の段に座ることにした。

 

「遂に明日だな」

 

「そうですね」

「おう」

 

 普段はクールな印象が第一に来る豪炎寺だが、観察力の高さ故か年下である稲森と灰崎には面倒見の良さを見せていた。

 

「大丈夫か、稲森」

 

「ウェ」

 

 関わりの深い灰崎に言われるならまだしも、豪炎寺にまで見抜かれていたらしい。

 頓狂な声を出してしまったが、豪炎寺は何も言わなかった。

 

 灰崎はため息と共に呆れかえっている。

 

「豪炎寺の目からも変だったのか」

 

「そうだな」

 

 日本代表になるまで、まるで話す機会のなかった相手にすら、自分の空回りは察しとられていた。

 申し訳なく思う一方、流石に自分の感情が表面に出過ぎではないかと思わされる。

 

「何か、言われたか?」

 

「……!!」

 

 豪炎寺は視線を目の前の光景からまるで動かさずに稲森の悩みの元を見抜いた。

 

「……はい。別に悪口じゃあないですけど」

 

「悪口とか気づかなそうだもんな」

 

「灰崎はいじわる言いたいだけだろ」

 

 口をはさんだ灰崎もまた、視線をまるで動かさずに稲森からのツッコミを聞いていた。

 

 キョロキョロと視線の方向を変えながら、二人の反応を見る。

 イナズマジャパンのストライカー2人は、随分と自信に満ちた態度で堂々とその場にいる。

 

「……副キャプテンってどうするものなんでしょうか」

 

「どうもしなくていいだろ」

「ああ」

 

「えっ」

 

 しれっと返す灰崎に、豪炎寺が同意する。

 

「でも、堂の見えないところには俺がって」

 

「円堂の見えていないところに現状、問題は見つかったか?」

 

「あ……」

 

「円堂は前を見る。鬼道は全体を見る。なら、稲森が無理に同じことをする必要はない」

 

「……でも、その二人で見えないところは……」

 

「それを見つけるのは確かに稲森の仕事なんだろう。だが、それを見つけられるときは、もっと先の話なんだ。……監督が、わざわざ副キャプテンなんて用意したのは、きっと」

 

 豪炎寺は、視線を空に上げた。

 

「お前が『稲森明日人』だからなんじゃないか」

 

「えっ……?」

 

 何を言われているのかわからず、稲森は豪炎寺と同じように空を見上げた。

 視線を下ろすと、灰崎が此方を見ている。

 

「あの時のお前は、ずっと俺にくっついて、誰よりも走ってるくせに――ピッチの誰よりも、怖かった」

 

 随分と柄じゃないことを言うな、と稲森は思う。

 星章戦。あの時というのは、灰崎のマンマークをとにかく続け、灰崎の機能を封じたあの試合のことだろう。

 

「俺は、お前の一番の弱点を知ってる」

 

「え?」

 

「100パーセントで全力を出せてるとき以外の稲森明日人は全部、雑魚だ」

 

「ええ?」

 

「お前は、全力で『稲森明日人』のプレイをするしかないんだよ。百パーで走ってる時のお前は、本当に鬱陶しいんだよ。止まんねぇし、折れねぇし、周りまで巻き込みやがる」

 

 自覚したことのない。

 知らない稲森明日人の話だった。

 

「お前は円堂守じゃねえし。主役になることを望んでも、なれやしねえ」

 

「選考試合で見せた稲森の走りは、確かに他の選手を動かした」

 

 ならば、稲森明日人のすべきことは――

 

「灰崎、豪炎寺さん。10分だけ、付き合ってもらえますか」

 

 灰崎と持ってきたボールを足元に転がして、立ち上がる。

 何か、明確な目的ができたわけではないが、その夜の星は明るく輝いて見えた。

 





 全章の試合内容だけは出来ているので、戒めとしてオリジナル技の個数だけ先に言っときます!

・オリジナル技・オリジナルタクティクス→計12個

 プロット外れていくことの防止策です。抑えるなら0にしなよ、とかはご容赦ください。
 あとは独自解釈・独自設定のタグの通りです。

地の文での稲森明日人について。(投票期限:2026/8/22)

  • 明日人
  • 稲森
  • 俺(一人称化・票数反映は恐らく不可)
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