雷陽と黒龍   作:四ツ鼓的な

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 同名タイトルの二次創作作品から付き合っていただいている方にとっては何回やんねんはあるでしょうが、レッドバイソン戦です。
 初動こそ割と気にいっている流れなので似たものになりますが、結果・内容は別物です。お楽しみにしていただければと思います。



開戦の狼煙(vsRB①)

 半世紀もの年月の間、天下へ向かう少年たちの栄光と涙を見届けて来たこの聖地――FF(フットボールフロンティア)スタジアムは、この日、例年とは異なる姿を見せていた。

 

 競技エリアには国旗や独特なエンブレムの描かれた旗の数々が並び、外周のスタンドには年代も人種も国籍すらも多様な超満員の大観衆が埋めている。

 上空には国際色あふれる他のものとは違い『FFI』と大きく主張するエンブレムを張り付けた飛行船が悠然と空を泳いでいるのだが、彼らの中に空に興味を持つものは1人としていない。

 

 観客たちは“その瞬間”、同じ熱を胸に競技エリアへ現れる者たちを見つめていた。

 

『さあ、各国代表チームが続々と入場してきています! 全予選地区の中でも選りすぐりの強豪が集うこのFFIアジア地区!! 中には当然、本日の初戦に参加するチームの姿も確認できます――おっとッ!?』

 

 フットボールフロンティア・インターナショナルアジア地区予選。

 その開会式を、会場となるFFスタジアムは行っているのだった。

 

 

『――やって来ました! 日本代表【イナズマジャパン】の入場ですッッ!!』

 

 

 燦々と降り注ぐ陽光と祝祭めいた熱気に迎えられた少年たちが、静かな緊張と共にピッチへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

「だ、だだだだッ大丈夫かっ……みん――おわぁ!?」

 

「お前だバカ……」

 

 ――踏み入れた途端に身体を硬直させて、稲森明日人はすっころんだ。

 

 灰崎凌兵が額を手で抑えながらため息をつくと、その手をへ差し出してやる。

 稲森は顔を真っ赤にしながら立ち上がった。

 

「明日人が先やらなきゃあぶなかった……」

 

「再放送しかけたでゴス……」

 

「だな……」

 

 デジャブを感じて緊張どころではないというくらいに顔を青ざめさせる氷浦、岩戸、万作は低く腰を構えながらジャングルの枝葉をかき分けるかの如く大げさな歩調で進んでいく。

 

「……その歩き方は映されて良いのか……?」

 

「あれくらいの方が緊張も和らぐ人もいるんです」

 

「流石、一星さん。もしかして前例が?」

 

「いるわけないでしょ……」

 

 その前で岩垣、坂野上と共に行く一星が、自分で述べた冗談を訂正する。

 

 すると、一列前方へと黄色い声援が飛んだ。

 その客の声が向く先を歩くのは、吹雪士郎、基山タツヤ、亜風炉照美の3人。

 

「ははは……こういうのは間に合ってるんだけどなぁ……」

 

「応援してくれているんだから、有難い限りだよ」

 

「そうだね。オレたちが代表である以上、応えられるようにしなきゃ」

 

 

「…………場慣れが凄いやこの人たち……」

 

 声援をあげるファンと思しき客席へと手を振る3人の数歩前を歩く真都路は、感心と呆れの混じった苦笑いをしながら、隣を行くヒロトへと視線を向ける。

 

「ね、吉良はああいうの良いの?」

 

「あ? あんなもん余裕で……」 

 

 ――手を上げた吉良ヒロトの視線の先で、観客の女性が「ヒッ」と声を上げた。

 

「……ア?」

 

 ヒロトはジャージの袖を捲り上げて拳を握る――!

 

「待て待て待て。風介の真似だよな! 最近よくやる……かもしれないし――とにかくイラついてるわけじゃないもんな!」

「……ごめん、基山くん」

 

 衝動的に進路を逸らしかけたヒロトの肩をタツヤが固め、真都路はヒロトではなくタツヤに申し訳なさそうにしながら前進しようとする胸板と拳を止めた。

 豪炎寺修也はそんな喧騒を耳で聞き捕らえながらも、穏やかな調子を保っていた。

 

「……お前は流石に動じないな。豪炎寺」

 

「ああ。佐久間こそ、覚悟は出来ているようじゃないか」

 

「まあな。……お前が日本の最前線を行くと言うのなら、俺は帝国の最前線を任されているってところだ」

 

「頼もしいな」

 

「ふっ、そのまま返してやる」

 

 木戸川と帝国、雷門と帝国。

 因縁が少なくないチームの主砲同士は、既にその弾丸を向ける先を決めている。

 

 西蔭政也は主不在の状況で挑む舞台の大きさに震えながら笑みを浮かべている。

 並ぶ鬼道有人はゴーグル越しに笑みを浮かべながら、西蔭の大柄な背中をやわらかく叩いた。

 

「これほどまでとは、緊張するな」

 

「……鬼道さんでも、ですか?」

 

「フッ……誰だって、未知へ挑むときは不安と緊張があるものだろう。大事なのは、それらをどう推進力にしてやるか。違うか?」

 

「……はい。全くもってその通りです」

 

 鬼道は、他よりひとつ多く――主不在の試合という未知へと挑む西蔭の感情を力に変える補助をする。

 

 イナズマジャパンの最前で、最後の門を守る役目を担う風神と雷神は並び歩いていた。

 

「ソレ、重くないか?」

 

「全然へっちゃらさ! ……強いて言うなら――」

 

 左肘を上げてみせる円堂に、風丸はキョトンと首を傾げた。

 だが、すぐに円堂の意図を理解する。

 

「ははッ! 上手いこと言うようになったじゃないか」

 

「まあな!」

 

 円堂は少し得意げに笑う。

 

「じゃあ……」

 

 風丸はフラッグを持つ円堂の腕を自分の手で支えて見せる。

 

()()()()、俺たちが支えてやるよ」

 

「へへっ! ……ああ、頼んだ!」 

 

 こうしてイナズマジャパンが入場し終えたことで、アジア予選出場チームたちが整列した。

 そして、開会式は予定された以上の熱狂の中、予定通りのプログラムと共に進められていき――

 

 

『──それぞれの国の威信を懸けた熱く燃える試合を期待します』

 

 

 サッカーを愛しているという日本の総理大臣の開会宣言と共に、前章であり、決戦でもある……アジアの頂点を競う一度限りの劇場が、その幕を上げるのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 FFスタジアム――

 

 イナズマジャパンは大観衆の待つ中、趙金雲監督中心でミーティングを行っていた。

 開会式を終えた直後に執り行われる正真正銘のアジア地区第一試合は、日本代表(イナズマジャパン)VS韓国代表(レッドバイソン)

 稲森たちの世界への道が、もう目前に迫っている。

 

「……と、いう具合で、今回のスターティングメンバーは以上となりまぁす」

 

 趙金雲から試合のスタメンが発表され、ベンチ入り前の最終ミーティングは終了する。

 

 直に、試合開始の瞬間はやってくる。

 

 胸の鼓動が鳴るたびに、実感がどんどん高まりながら押し寄せてくる。

 稲森明日人は、静かに深呼吸を繰り返していた。

 

 ――円堂守は、そんな姿に気が付いたのかもしれない。

 

「やっと、ここに来られたって感じだな」

 

 円堂は感慨に浸るようなことを言いながら靴紐を結びきると、軽々と立ち上がった。

 

 現場にいざ到着したとなれば、過剰に力が入ってしまうことも仕方がない。日本代表という立場と、今まで感じることのなかったほどの責任と緊張に、身体は鈍くなりかねない。

 稲森明日人に限らず、円堂を含めた他の面々も、同じだ。

 

 個人間での差は多少あれど、世界の舞台はそれほどに大きく、頂点は聳える高嶺の遥かな高み。

 

 だからこそ、忘れてはいけないことが、ひとつ。

 

 

「なあ、みんな。……サッカー、楽しいか?」 

 

 

 純粋な問いを、円堂はチームに投げかけた。

 晴れやかな表情とは真逆のある種哲学的とすら思われる問。

 

 らしくないやり方だ、と思う者も多い。

 驚かされた佐久間次郎が目を見開きながら円堂を見上げている。

 

 呆気に取られたイナズマジャパンに、円堂は続けた。

 

「俺は、楽しい。ボールを止めたときも、ボールを蹴るときも、ただ追っているだけのときだって……胸の奥が熱くなって仕方ない」

 

 稲森明日人は、自らの道を振り返る。

 特訓は辛く、目指す先が見えなくなることも多い日々。

 

 だが、足元にあった球体への想いが偽りだったことは一度だってない。

 

 稲森自身だけではない。

 

 このチーム……もとい、フットボールフロンティアにおいてぶつかり合った仲間たちの中には、サッカーを心の底から嫌った者は1人としていない。

 

「あ……」

 

 仲間がいる。チームがある。

 

 ――サッカーが、そこにいる。

 

 道の断片から自分の立つ今へと辿っていき、稲森は気づいた。

 熾った火を見つけた円堂が、ニッと口角を上げる。

 

「作戦とか、技術とかさ。俺たちが見ているものは、皆違う……きっと、本当の意味でこのチームがひとつになるのは、ずっと先のことかもしれない。――けど……」

 

 一瞬、円堂は言葉を探す様に目を伏せる。

 顔を上げた円堂と視線を合わせた炎のストライカーは、目を伏せながら微笑んだ。

 

 円堂は視界を一周させて、イナズマジャパン全員と目を合わせると、自分の胸をドンと叩く。

 

「……サッカーやろうぜ!!」

 

 ――チーム全員、各々の心が見る先は、ひとつ。

 

 自分を偽っていようと、未だ実感がなく気が付けていなかろうと。

 円堂守はそう信じており――

 

「「「「おうッッ!!!!」」」」

 

 ――チームが確信へと変えた。

 

 ボールを追い、ボールを繋げ、ボールを蹴る。

 それだけのことで良い。

 

 勝利を目指すことができる。

 

 試練の連続するこの道は、稲森明日人だけでは進めない。

 サッカーが見えなくなってしまいかねない。

 

 だからこそ、円堂は最後方でチームの最前を行く。

 誰も、サッカーを見逃さないように。

 

 準備は、道を行く中で済ませていた。

 進化は、未知へ行く中で始まっていた。

 

「さあ! 俺たちのサッカーを思い知らせてやろうぜ!!」

 

「「「「オオッッ!!!!」」」」

 

 組まれた円陣と掛け声とともに、イナズマジャパンは開戦の舞台への扉を出た。

 

 

 ◇

 

 

 イナズマジャパンと、レッドバイソン。

 両チームが初めて顔を合わせたのは、観客の目の届かない選手入場口から続く回廊だった。

 

 そこにいたのは、チームの監督と話し合っている虎柄のヘアバンドを額に着けた赤髪の選手が一人。どうやらちょうど話を終えたところのようで、後から来た2人と合流した。

『赤い突撃獣』の異名の通り、真っ赤なユニフォームカラーがよく目立つ3人は、その派手な色合いに伴ってなのか自信に満ちた笑みを浮かべている。

 

 ふと、ヘアバンドの選手がこちらに指をさした。

 

「お、日本代表の皆サンが来たみたいだぜ」

 

 イナズマジャパンに近づいてきた虎柄のヘアバンドを額に着けた赤髪の少年が、あざけるような笑みと共に近づいてくる。

 

「――フォワードのペク・シウだな」

 

 余裕の滲む声に対して、鬼道は警戒を隠さなかった。

 一方で、名を呼ばれたペク・シウは鬼道の態度が気に入ったとばかりに目を細め、口角を釣り上げた。

 

「よくご存じで。そう、オレが韓国代表の点取り屋、ペク・シウ。よろしく頼むぜ、お相手サン?」

 

 あくまでも紳士らしい振る舞いをとったペクだが、こちらの腹の虫を煽り立てるような笑みだけはそのままだった。

 イナズマジャパンの警戒をどこか愉快そうに無視しながらペクは続ける。

 

「いやぁ、聞いてるぜ? ()()()の裏切り者がいるって」

 

「え……」 

「…………!」

 

 声を漏らした一星の隣で、亜風炉照美がわずかに身を引いた。

 ただ、ペクの視線は間違いなく亜風炉へと向けている。

 

 日本代表の面々にとって、聞かされていなかった話ではない。

 抱えた自責の念と感謝を自らの出生と天秤に掛けた時、日本代表としての自分を選んだだけのこと。

 恩を返す機会がこの大会以外にあり、自分が誇りに生きることを許せていたなら――円堂守達との再戦を望み、相対していた可能性は当然ある。

 

 他ならぬ今に立つ亜風炉照美の選択を、何も知らない人間に“裏切り”の一言で嗤われるのは、無遠慮にもほどがある。

 稲森は小さく息を吐く。

 

 亜風炉は、イナズマジャパン全体を巻き込んだ侮辱に異を唱えうと歩み出る。

 

「気にするな。よくある挑発だ」

 

 鬼道がそれを止めた。

 

「『よくある』? 随分修羅場をくぐってらっしゃるんだか。気を使わせてンだか……」

 

 ペクは頭を抱えるような仕草と共に煽りを重ねている。

 

 亜風炉はペクへ向く瞳を揺らさない。

 逆に、亜風炉が気に入らないのか、ペクの眉が額の内へ寄った。

 

 鬼道が腕を開き亜風炉をかばう。

 亜風炉は動じずに、ペクから目をそらさなかった。

 

 試合が始まれば、この程度の番外戦術は関係なくなる。

 ……とはいえ、仲間の傷に素手で触れるペクは認めがたい。

 

「お前、何のつもりだ」

 

 怒気をにじませる円堂守が、ペクへの不満を突き付けた。

 円堂の気迫に押されたペクは、待て、と掌で静止を掛けた。

 

「オイオイ、オレはただ――

 

「何をしているんだ。シウ」

 

 …………あーあ」

 

 狭く長い空間に聞こえたのは、十何人もの足音。

 その先頭に立つ男が、影からいち早く姿を出す。

 

「……!!」

 

 昨日、伝えられた対韓国における要注意人物。

 

 ――ソク・ミンウ

 

 チ―ムカラーやペク・シウの赤とは逆の青髪。

 まるで考えの読み解けない深い色をした藍色の瞳。

 覚悟と誇りを立ち姿から一目で感じさせる韓国代表のキャプテンが、【レッドバイソン】の選手陣を引き連れて現れた。

 

 ソクの姿を視界にとらえたペクは、呆れ混じりにため息を吐いた。

 

「……ハイハイ、お真面目キャプテンサンに従ってやるよ」

 

「ああ、ありがとう」

 

 ペクを退けながら礼を言って、ソク・ミンウはイナズマジャパンの近くへと歩み寄った。

 

「初めまして、イナズマジャパンの皆さん。韓国代表のキャプテン、ソク・ミンウです。……たった今、俺のチームメイトが皆さんに不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません」

 

 そして、丁寧な言葉遣いと共に、頭を下げた。

 

「うぇえっ!?」

 

 怒りを映していた円堂の瞳の色が驚きと共に激しく揺れた。

 亜風炉もまた、円堂の後ろで呆気に取られている。

 

「我々【レッドバイソン】は、貴方たちとの試合を心待ちにしていました。どうか、互いの国の誇りを懸けて、全力で戦いたい」

 

 ソクの言葉を聞いた円堂は、一度亜風炉へ視線をやる。

 亜風炉はひとつ小さくうなずいた。

 

 円堂はソクに手を差し出した。

 

「ああ、当然だ……!」

 

「ありがとう。貴方たちに最大限の敬意を」

 

 ソクが円堂との握手に応じ、入場に向けて各チームが動き出す。

 

 ◇◇◇

 

 客席の一角。 

 

「一体どうなっちゃうんですかね……」

 

 青みがかった短髪と赤縁の眼鏡の似合う彼女――音無春奈。

 雷門サッカー部から派遣されたサッカー強化委員で、【星章】の唯一のマネージャーの彼女は、胸を押さえて緊張を体中に巡らせていた。

 

 彼女は隣に座る少年と共に、イナズマジャパンの試合を観戦しに明日人たちと同じくFFスタジアムに訪れていた。

 

「……今日はただの観戦だ。気楽にしていい」

 

 音無の隣には、同行者が一人いる。

 

『帝国学園』の“孤高の反逆児”――不動明王。

 

 厳格さを感じさせる字面から掛け離れた大胆なモヒカンを下ろした髪型。観戦という立場にしては大仰なほどに満ち溢れる自信――言葉を選ばなければ、見下すような態度を映し出した余裕の表情。

 だというのに、他者の癖や行動の機微だけは見逃さない。

 

 名は体を表さないが、体のそれぞれが名を表している。それが音無がその隣を行くと決めた不動明王の性質だった。

 

「でも私、一応“強化委員側”ですよ!? ここで負けちゃったらどうしよう……。それにお兄ちゃんも代表として出ていますし……」

 

「……負けるならその程度だった、ってことだ」

 

「何を考えてその発言してるんですかぁ!?」

 

 音無の言葉に返答せず、周囲の観客たちが騒いでいるのを気に留めようともせず、不動は頬杖をつくと開始の近づく試合に意識を集中する。

 

 

「さて、お手並み拝見といこうか……鬼道クン?」

 

 嫌というほど聞かされた名を呼び、不敵に笑う。

 

 ただ、興味を示し、敵意を示す彼の言葉は歓声によって押し流されて、誰にも不動明王の言葉は届かなかった。

 

 一方、無視を決め込まれた音無は、拗ねる代わりに頬を膨れさせると、同じように視線を入場の始まったピッチへと向けた。

 

 

 ◇

 

 

 不動と音無たちから離れた別の客席。

 当然のように隣に座る少女を受け入れながら、紀村陽介はカメラと手帳を構えていた。

 

「──『イナズマジャパン』の勝敗の行方。初戦に関しては『彼』に頼ってしまうことになるでしょうね」

 

 隣の幼女が言った。

 その物知りな幼女の言葉を咀嚼しながら、カメラを試合開始直前のコートへ向け直す。

 

「見せてもらおうか。日本は革命の旗になりうるのか……」

「……なんで無視するの?」

「えっ?」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 スペイン。とある空港――――

 

 無事に帰国を果たしたクラリオは日本での一泊に持ち出した荷物を肩に提げて歩いていた。

 

「おい、クラリオ」

 

 後を追って歩いていたベルガモがこちらを呼び止めた。

 振り返ったクラリオは顔面の寸前に飛んでいた携帯端末を片手で受け止める。

 

「日本からの中継だってよ」

 

 まるで興味なさそうに言いながら、ベルガモはクラリオの手にある携帯電話の指差した。

 

 

 ◇◇◇

 

 

『さぁ、日本VS韓国。ある意味因縁とも呼べる戦いに身を投じる選手たちが、コートの中で今か今かとその時を待っています!』

 

 

【イナズマジャパン】

 

 4-4-2『F-ベーシック』

 

[FW]豪炎寺 吉良

 

[MF]稲森 鬼道 氷浦 亜風炉

 

[DF]風丸 岩戸 吹雪 万作

 

[GK]円堂

 

 

【レッドバイソン】

 

 4-4-1-1

 

[FW]シウ

 

   ドンヒョク

 

[MF]ジウォン ミンウ スンジン ジフン

 

[DF]ユファン ソア ヨンウ ドユン

 

[GK]レウォン

 

 

 

 両チームが向き合った。

 稲森は右サイドで自分のポジションからコート全体を一望する。

 

「ペクも出て来ましたね」

 

「ああ、アフロディが奴の挑発を真に受けていなければいいが……」

 

 鬼道は隣に並び立つ美少年を気に掛けていたが、審判が試合開始に向けて動き始めていることを認識すると即座に試合展開の構想に戻っていく。

 

 1分と待たず、試合はその幕を開ける。

 明日人は息を整える。

 

 ――発揮するのは、稲森明日人の100パーセント

 

「行くぞ……!」

 

 そして、緊張を意志へと変えると同時に、 

 

 

 ピィ────ッ!!

 

 

 試合開始の笛を聞き届けた。 

 

「行くぞ」

 

「ああ」

 

 吉良から豪炎寺へとボールが転がされ、選手たちがコート内を駆け出した。

 豪炎寺から鬼道にパスが回る。

 

「稲森!」

 

「――鬼道さん!」

 

 ペクのアプローチを、稲森は鬼道とのワンツーでかわしていく。

 直後、鬼道がアフロディにパスを上げると、亜風炉照美は早々にソク・ミンウと対峙した。

 

「行くよ……!」

 

「来いッ!」

 

 亜風炉はフェイントを重ねてソクを抜き去った。

 

「速いか……」

 

 だが出し抜かれたはずのソクは動揺を見せなかった。

 

「こっちだ!」

 

 ボールが再び明日人の元へ届く。

 

 

「ナイスパス――鬼道さん!」

「任せ――」

 

「──今だ!」

 

 稲森から鬼道にパスが上がった瞬間、ソクが号令を上げた。

 

 

「「ドレッドホーン!!」」

 

 

 同時に、相手のCBの二人が鬼道に突進。パスを止めたばかりの鬼道には避けられない。

 十字に猛進する二人を止めることもできず、鬼道の身体が宙に弾かれた。

 

「……ッッ!! この威力……攻撃的なチームではなかったのか!?」

 

オーバーライド、知っているでしょう」

 

 鬼道が着地すると同時に、ソクにパスが回る。

 稲森はソクと対峙する形で守備に切り替えた。

 

(どうする……? 右か左か……!)

 

 そんな考えを浮かべながら、加速するソクのボールタッチを目に収めながらステップを踏む。

 ソクは稲森に臆することもなく、突っ走ってくる。

 

「まさか──!」

 

 瞬間、数日ぶりの既視感が稲森の脳を駆け巡る。

 

 逡巡の中で、視界は眼前の闘牛士を猛進する巨神の姿に見紛った。

 “カタルーニャの巨神”クラリオ・オーヴァン。

 

 身体が震えた。まるで通用しなかった。

 

 ソク・ミンウの個人技がその域にあるというのなら、今度こそ──

 

 

「──イナビカリダッシュッ!!」

 

 

 即決、速攻。瞬足の奪取で守とる。

 気が付いた時には、結論に達していた。

 

 隙を見せたなら、弾かれる。 

 

 少なくともクラリオはそうだった。

 ならば、フィジカル戦に入る間もなくボールを奪い去って仕舞えば良い。

 

「──なるほど」

 

 ソクが迫る光点を睨む。

 

 韓国代表『レッドバイソン』は、数日前のマネージャー陣から受けた発言の通り、圧倒的なスピード・フィジカルによる展開を得意とする超攻撃型チーム。

 

 ソク・ミンウも、例外でない。

 

 フィジカル戦は身体関係なしにボールを取られて仕舞えば、そこで終わり。

 スピード戦は相手に速度で下回れば、そこで終わり。

 

 稲森は駆ける。

 

 だが――

 

 

 

 稲森がボールをかすめ取る瞬間、ソク・ミンウは何を確信したのか、不敵に笑みを浮かべて見せた。

 

 

「この試合、俺たちは止められない――!」

 

「──避け……ッ!?」

 

 ディフェンスにおける“イナビカリ・ダッシュ”の雷速に反応できた選手は存在しない。

 彼自身の代名詞であり、雷門自体から明日人たちを支えてきた必殺技だというのに。

 

「──くっ、そッッ!!」

 

 たったワンタッチで無力化された。 

 

 ソクは速度調整が狂ったまま地面へ滑り転げた明日人に視線も向けず、ペクともう一人のFWを自分の元へ呼び込んだ。

 

「来るぞ──!」

 

 不安な声を掻き消して鬼道の叫び声が遠く届く。

 ソクたちは眼前のDF陣へ加速してくる。

 

 センターバック、岩戸の前だ。

 

「止めろゴーレムッッ!」

 

「行くぞ――ッ!!」

「「おうッ!!」」

 

 レッドバイソンが有する世界最強の突撃が、ピッチに衝撃を叩き鳴らす。

 まさに闘牛。紅く猛るのは、四足二角の突撃獣の姿。

 

 3人の加速が作り出した赤き突撃獣は、対峙した巨兵を逃がさない。

 

 

「──特攻!バッファロートレイン!!!!」

 

「ゴス!? ゴス!? ──がぁああッッ!!」

 

 超速の突撃が、岩戸の巨体を空中に弾き飛ばした。

 

「ゴーレムっ!」

 

 岩戸がフィジカルで負けるというあまりにも理解し難い光景に明日人が呆然とした瞬間の内に、ソクからペクへボールが回ってしまう。

 

 ペクが岩戸のいなくなった隙をついて、凄まじい加速力で日本の守備へ攻め込んでくる。

 

「まずい……!」

 

 明日人は、遥か先で日本のゴールを射程に入れようというところまで進撃したペクの背中を追い走りながら、焦りを零した。

 ペクの正面でゴールを守護する円堂はペクのドリブルを見つめ続けていた。

 

「行くぜ……!!」

 

 円堂の反応よりも遥かに早く、ペクが足を振りかぶった。

 レッドバイソンを代表するエースストライカー最初のシュートモーション。

 

 円堂が反応をおくらせながら、腰を一段落として抗する構えを取った。

 ――遅い。

 

「もらったッ!」

 

 右足を振りかぶったペクの一瞬を横やりをするかのようなそよ風が、ペクの髪を揺らした。

 

 

スピニングフェンス!!

 

 

「……ッ! ──ぐッ!!」

 

 直後、五本の竜巻がペクを襲う。叫ぶペクの声が竜巻にかき消される。数瞬後、竜巻の中心から五人の蒼い影が飛び出し、一つに収束した。

 

 竜巻に吹き飛ばされたペクが着地した。

 こうして、【イナズマジャパン】VS【レッドバイソン】一度目の攻防が終わる。

 

 “蒼き疾風”――風丸一郎太が、竜巻の通り過ぎたピッチに着地をした。

 

 

「……『もらった』? 悪いが、まだまだ始まったばかりだぜ?」

 

 

 つまり――風丸一朗太の足元には、確かにボールが収められていた。





オリジナル技①
『ドレッドホーン』(=ホーントレイン×ホーントレイン)
→オーバーライド2人ブロック技。クロニクルで初手『ホーントレイン』だったの普通にビビりました。ドラマ・アニメ考察の楽しさとかってこういう所なんだろうなって。モーションイメージは『デュアルストーム』です。ジャンプの代わりにクソ走ってる感じ。

 次回『赤い突撃獣』
 投稿予定日・来週土曜日

 改めていた『来たる②』が上がらなかったので、投稿が遅れました。
 ギリギリセーフということで、今後注意していきます

地の文での稲森明日人について。(投票期限:2026/8/22)

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  • 稲森
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